生態調査報告 狗竜NO1
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 先日ギルドの調査員とご一緒させていただく機会があったので報告させていただく。調査員・・・・・・もといその方の名はルナ女史という。彼女は非常にユニークな女性だった。

 順を追ってかのルナ女史がいかにユニークなのか語っていこう。

 まず私の仕事は狩猟業・・・ハンターともいう。交流の栄えた町でも、周囲には生態系豊かな自然が広がっている。当然害獣や災害など、あらゆる不測の事態が日常的に起こっている。それに対応する実働チームのことを俗称でハンターというのだ。

 ハンターとは個人業であり、それを統括するのがギルド。元締めだ。仕事の紹介はこのギルドを通して適材適所振り分けられることになる。

 それで、つい先日、私のところにも仕事の紹介がきた。

 

 ○○地区西方で(名称は控える)狗害発生。ギルド専門ハンターである貴君に依頼したし。

 

 との内容だった。狗害とは狗竜による人的損害のこと。今回は死傷者がでているため、具体的な地名は避けることにする。鄙びた村、とだけいっておく。

 私は討伐専門、通称討専だ。危険度が高い代わりに報酬レートが高い。狩猟一本でやる場合討専でなくては食っていけない場合が多い。ちょくちょく狩に出るとなると体が持たないからだ。大きく稼いでゆっくりやすむ。これが鉄則。

 ここで腑に落ちないことがあった。私が前回の依頼を完了したのが一週間前、報告がその翌日・・・・・・あまりに短すぎるスパンだった。これは、いわくつきだな、とうっすら感じながら契約内容をざっと読み出すとやはりおかしな箇所がある。抜粋しよう。

 

 ではあるが、以下の者の安全を確保しつつ、狩猟に同行させること。

 ルナ=ゴルドー

 以下のものは非戦闘員であり、任務中は一般人と同じカテゴリとして扱う。



 堂々とそう書いてあった。一般人を狩猟に連れて行かないというのがギルドの大原則で、これを犯した場合には最悪廃業も考えられる。それが・・・・・・、杞憂しても仕方ないのでここで考えるのをやめ、ギルド本部に出向き、事情を直に聞く事にしたのだがそれがそもそもの間違いだった。

 まずギルドについた私は受付を済ませるべくカウンターへ向かったのだが、すぐにこのルナ女史にお会いすることになった。彼女こそが受付嬢・・・・・・臨時ではあったそうなのだが・・・・・・だったのだ。

 「あの・・・・・・討専の者ですが、依頼について聞きたいことが・・・・・・」

 「お名前よろしいですか」

 「あ、はい・・・サンです。レイ=サン」

 「正式な登録名称ですか?」

 「いや、レイ=ソル=サンです」

 ここで女子の顔がにやりと笑う。気味が悪い。不敵な笑みをたたえた顔が受付嬢のそれにそぐわなかったのだ。

 「あの・・・・・・なにか?」

 「いいえ、いいえ。結構です。よくってよ」

 依頼書を手に取り、なにかいいたげにこちらを見やる。

 「どこの、どれですか?」

 「依頼書に一般人を同行させろと書いてあるのですが」

 「よろしいじゃありませんか。何か問題が?」

 「いやだって。教習生でも知ってますよ、一般人は狩りに同行させてはいけないと。それはギルドの根幹にかかわる問題だから。それを推奨するような依頼、誰だっておかしいとおもいますよ」

 彼女は一瞬口元を隠した。いや、正しくは表情を隠した。次に何を言おうか考えるように。

 「その分レートが高いじゃありませんか。正規であれば報酬金はこの半分以下ですよ?」

 彼女は書類を机に置き、指でトントン、と叩いてみせた。

 誰がサインするんだ。

 明らかに怪しいんだぞ!

 確かに粗放者が多い家業ではあるが、そればっかりじゃないんだぞ。

 「でしたら、依頼者から直接お話いただきましょうか。それで納得できれば受注、できなければ破棄ということでどうでしょう」

 「・・・・・・いや、僕は・・・アー今回は・・・」

 「いえいえ、いえいえ」

 すぅっと鼻から息を吸い込んだ。

 「狗害があって、あなたしか、受けられるものがいないというのに、破棄なさるんですね」

 「住民の方に、被害が出ているのに、破棄なさると」

 私ことレイは慌てて彼女の口をふさいだ。

 「ちょっと・・・!困りますよ・・・!」

 身を乗り出して口をふさぐ私に、彼女は静かに笑った。掌に熱い吐息がかかる。

 「受けるしかないんじゃないですか」

 「だから・・・ッ、説明もなく・・・」

 「依頼者は私です、レイさん。あなたに依頼した理由は先ほど述べました。いま常駐している討専はあなただけ。ついでに私の休暇は本日の午後から月をまたいで一月ですわ」

 女史はユニークである。

 「私、ギルド専門の研究員なんですよね。いいですか? ギルド専門の、です。その気になれば・・・・・・わかりますね?つまり?」

 非常に、ユニーク・・・。

 「書類はこちらで済ませておきました。すぐに出立できますわ」

 「済ませたって、きみ、僕はなにも・・・」

 机内から身を翻して書類があらわれた。

 「いきましょう」

 そう、はじめからなにもかも仕組まれていたのだ。

 この、ルナ=ゴルドーに。



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 移動中、終始ルナは上機嫌だった。

 ハンターとは言え移動中は一般人と変わりない。丸鳥に引かせたホロ馬車は決していい乗り心地ではないのに、彼女はどこか浮かれた顔をしていた。

 そういえば、随分と若い。まだ二十歳そこそこだろう。はっきりいって胡散臭い。

 まじまじ見ていたのが早々にバレた。「なにか?」と一人ごちた声にレイはぎくりとした。

 「あ・・・・・・いや、別に。いや、誰だって不満がるよ。あんな・・・」

 「理不尽な?」

 「そう。理不尽」

 「理不尽ではないわ。あなたが今後の利益不利益を考慮したうえで受注なされたんだから。よくって?」

 「よくない。準備もろくにせず出発させて・・・・・・なにがしたいんだ。ハンターだって失敗すれば死ぬし、君だって危ないんだぞ」

 「準備なら私がしておきましたわ。よくって?」

 「そういうことじゃない!剣も薬も、食料だってないんだぞ!」

 「あら、お怖い」

 ルナは口をきゅうっと歪めた。彼女がこういう笑い方をすると少しだけ上唇がめくれ、白い歯が見えるのだと気づく。

 「品物は目的の村に届けてありますわ。武器も薬も・・・食料は現地調達ね。村の利益にもなるし、第一新鮮、いいことづくめですわ。ご不満?こちらがそのリストですわ」

 届け荷のリストはレイの好みにドンピシャ(というより個人的な偏向さえ把握していて気味が悪い)、まさに文句のつけようのないものだった。

 例えば狗竜を発見した際に追跡するためのマーキング。ペイントするタイプと強烈な臭いを放つタイプがある。レイ個人としては臭いを追跡する自信がないためペイントを重視しており、もっといえば長時間滴下するドロップボール方式が好みだった。色は・・・いや、どうせピンクなのだろう。聞くだけ無駄だ。

 この女、狩猟に関しても相当博学なのだろう。

 シビレ罠(ポッカ社製。注射設置方式。針、極小型)などと書かれているところをみるとレイに関しても相当調べてきていることがわかった。

 「もういい・・・・・・探るのは不毛だ」

 「あらあら・・・まあ、そうですね、人間同士狩りあってもね」

 「何をしにきた。研究員は部屋から出ないと思ってたが?」

 「偏見ですわ、それ。K2委員会がおかしなだけよ。古文書を読み漁ってなにがわかるのかしら。今、現存してる生き物を観察してこそなのよ。おわかり?」

 「つまり仕事の一環ってわけ? 長期休暇をとって仕事? おかしいんじゃない」

 「おかしくないわ」

 「いやいや・・・・・・」レイは思わず鼻で笑ってしまう。

 「いいか、世の中には休みたくても休めないやつばっかりなんだ。積極的に働こうとしてる君は、まるで繁殖期の角竜・・・アーそれくらいおかしいってこと」

 角竜?とルナの顔がぱっと明るくなった。

 「角竜っていったわね?飛竜網角竜目、モノブロス科でマカク属、学術名はディアブロスで場所によってはディブロッサ、ディーブロスなんて呼ぶの。主に旧ドンドルマ砂漠に分布していて、モノブロスとの違いはわかる?あきらかに近縁にもかかわらず、体内構造がかなり違うの。つまり繁殖時期の差異がそれを物語っていて・・・・・・」

 「アー、アー」

 レイはぶんぶんとかぶりをふった。

 「いいよ、そういうのは・・・・・・帰ってやってくれ」

 「ちがうわ、そういうことじゃないの、つまり」

 「つまり? なに? つまりが多すぎるんだよ君の話は」

 「違うわよ・・・」

 しりすぼみに呟いたっきり、彼女はうつむいてしまった。鬱憤がたまっていたとはいえ、一方的にせめてしまうのはよくない。狩りでも同じことが言える。

 「いや、悪い。僕もきちんと君の事を知っておかないといけない。狩りでは何が起こるかわからない。最悪遭難することだって十分あるんだ。そんなときに見ず知らずの君とじゃやっていけないんだ」

 そうはいってみたものの彼女の反応は薄い。ため息ひとつと時間を彼女に与えることにする。

 やや間があって、やがてぽつりと彼女はこう漏らした。

 「ディアブロスってどうやって砂にもぐるの?」

 全く、ユニークである。

 多少面食らったが、さっきの手前ここは話に乗っておく。

 「こう・・・・・・わっしゃわっしゃと頭の角で砂をかいて・・・」

 「そんなのおかしいわ。角でかいた砂なんてすぐ元通りになるはずよ。もぐれるわけないの。それに地中を移動するって聞いたわ」

 「アー・・・するね。一度遠くから見ただけだが、してた。あれってまるで・・・」

 「変よ、おかしいの。自分で掘った土に埋もれて動けなくなるはずなの」

 静かな調子でルナは続ける。

 「当たり前だって思われてることも、よくよく考えるとおかしなことばっかり・・・ねえ、教えてよ、どうやって、ディアブロスは、砂にもぐるの・・・何を食べるの・・・」

 「いや・・・アー・・・」

 「だから、これからの時代は私たち研究員も前線に出ないと、前へ出て体を張って研究しないと、被害なんて一向に減らない。ワカラナイじゃすまない」

 言葉が熱を帯びていく。

 「私は、モデリングの一号。ハンターには敵わなくても、私たち研究員は役に立てる。そうじゃなきゃ・・・意味ないじゃない。よくって?」

 あっけにとられるレイに、ルナは悪戯っぽくウィンクした。

 「わかった、悪かった・・・観光気分だったらやだなって、思っただけなんだ」

 「冷やかしじゃないわ」

 「わかった」

 「遊びじゃない、本気。つまり・・・よくって?」

 「わかったよ、君の事は。もし遭難しても仲良くやれそう」

 ルナはくすりと笑った。

 レイとは同世代の彼女だが、かたやレイは野山を駆け回り、同世代のそれと比べると輝きにかける顔立ちになっていた。そのことを年頃のレイは気にしている。

 コンプレックスもあいまって、彼女は魅力的だった。

 「・・・アー、いい? 今回の目的ってなに? 言っちゃ悪いけどたかが狗竜だろ」

 「狗竜は・・・学名ドスジャギィはね、年間の被害報告が全モンスターの中でぶっちぎり1位なのよ。獰猛な性格、俊敏な身体、高い適応性、なにより群れで獲物を追い込むの」

 「まあ、そうだね。・・・ちょっとまて、狗竜が年間被害1位なのか?」

 「頭よっつくらいぬけてね。ドスジャギィだけみても一般人には太刀打ちできない強さだし、彼らには高度な社会性が見られる」

 「どういう・・・アーわかった。頭いいってことね」

 ルナは苦笑した。

 「君くらいには、ね」

 むっとするレイはさておき、ルナが真顔になる。

 「取り急ぎ対処が必要なの」ややぎこちなくレイの目をみる。「言い方は・・・悪いけど・・・モデルケースとして最適なのは確かだし・・・協力して欲しい」

 変人ではあるが、根はいい子なのだとレイにはわかった。

 狩りに出ようなんて、まともな人間なら考えもつかない。被害にあった人間のなきがらを見た者なら誰でもそうだ。残忍さが色濃く現れ、無残さがそれに華を添える・・・。獣にとってそれは生きるためだとわかっていても、認めることはできないのが人のエゴ。そのエゴこそが人にとっての生きるため、なのだから。

 「わかった。そういうことなら協力する。僕らハンターはそう長くないからね・・・できる限りのことはしたい」

 「ありがとう・・・サン・・・」

 「いいえ、レイでいい。できれば、だけど」

 「いえ、いいえ、レイと呼ばせていただくわ。私のほうはルナとお呼びに」

 「ルナね、わかった」

 「我侭言うことも多いと思うけど、よろしくお願いします」

 「アー、可能な限り善処します」

 「はい。します、ね。わかりました。ではこれから村についての行動なのだけど、私の指示に従ってください。よくって?

 あなたに最初に出す指示は、狗竜を発見しろ、そして手をださずに私を呼びなさい、だわ」

 「は?」

 ほうけた顔で思わず聞き返してしまう。

 「私はそれまで村で待機してますからね。村の住人の心のケアも必要。よくって?」

 結果的に足手まといをつれて深い渓谷をかけずり回らなくてよくなったのだが、どうにも釈然としない。

 村に着くと、ルナがすでに手配してあった支給品がレイ宛に届いていた。大人しそうに荷物に収まっているのは愛用の一振り、デッドリィタバルジン・・・ではない。今回の狩猟の比重は護衛にある。最悪対象を巻き込む危険のある武器は避け、素朴な一振りを選ぶつもりであった・・・・・・のだがルナのチョイスは恐るべきことに、まさにそのとおりだった。コマンドダガーと呼ばれる軍御用達の業物。鞘から抜いてみると、必要以上にぎらつかず、しっくりと手になじむ感覚がある。

 随分とほしくなる一品だった。

 「支給品はお気に召しましたか。準備ができたら行ってください。なんせ一ヶ月しかないんですからね」

 「わかってるよ・・・」

 食料は味よりも日持ちを優先し、米を円盤状に干したものをチョイス。ついでにかさばらない塩。火をおこす携帯燃料、水筒・・・これ以上はかばんに収まらない。薬が随分なスペースをとってしまった。足りない分は現地調達にしよう。

 準備は順当に終わった。今夜出立の予定だ。

 仮眠を少しとり、日の出より先に村を出る。ここからはハンターといえど、完全に未知の領域だ。なぜなら常に死の危険がある狩猟域ではなにがあるかわからない。

 服をすべて脱ぐとレイは村の中心を流れる川へ身を沈めた。しばらくそうしていると、心持ではあるが人間の体臭は消される。川辺へ上がり、用意しておいた垂皮獣の皮で全身の水気をふき取る。随分と臭いタオルなのだが仕方がない。これで獣臭を体にまとうのだ。

 ここまでやっても人間の臭いは消えない。レイは知っている。自分のような経験が浅いハンターが命を落とすのは、いつだって敵を侮ったときだ。だからこそレイは徹底して敵を追い詰めることにしている。

 まず、村で用意してもらった家畜の血を体に刷り込む。気分が悪くなるほどに錆び臭いそれはこすればこするほど粘着質を増し、不快極まりなかった。それでも必要なことなのだ。時間とともにこの血液は乾いて、腐っていく。そうするとレイの体は狗竜の好むエサとしての臭いを振りまくことになるのだ。また狗竜以外の獰猛な飛竜と鉢合わせにくくなるこ効果もある。

 それが終わると今度は鎧を着けていく。ハンターにとっての命綱であると同時に、栄光の証でもあるこの防具は、汗、血、そのた諸々を含んでたいそう臭い。だが、これも狩りには必要なこと。敵に気取られてはいけないのだ。

 このあたりの行動が一般人に受け入れてはもらえず、ハンターは人知れず生きていくことが多い。ここまで徹底できない者の多くは命を落とすし、できたとしても好んで血を擦り付けるさまはまさに悪魔。その強さもあいまって、人の中では生きていけない。

 他人を信用できない。

 レイもまさにその坩堝にはまろうとしていた。

 そんな中での同行依頼である。なんとも面映いような、不思議な気持ちだった。

 村人に姿を見られる前に、ここをでる。

 それだけ決めると、レイは谷を下っていった。
名なしの筆者
2015年05月01日(金) 14時50分49秒 公開
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ありがとうございます。がんばります。 0点 名無しの筆者 ■2015-05-10 12:37 ID : NlJxc3VktWA
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