空色 =4= 『影と影』


 巨木の中にある村――竜人の村。と、言ったところか。
 通された場所は質素な部屋で、何か儀式の為のものなのだろうか、モンスターの牙や骨などが飾られている。
 その部屋に、老人は居る。静かに座り、僕の瞳をじっと見つめている。老人の皺に埋もれた瞳は黒々として、生気を感じさせられた。
 竜人は、人間よりも寿命が長いが人間と体系が酷似している。見かけは青年に見えても既に50歳を超える竜人。
 そんな老いるのが人間に比べてゆっくりな竜人の老人。その深い皺や丸まってしまった背中は、どれだけの年月を経て在るものなのだろうか。
 どう話を切り出そうか、悩む。
 老人は唯僕を見つめ、黙って座っている。だいぶ長い時間こうしていたが、耐え切れずに声をかけた。

「あの、聞きたいことが――」
 
 だが、老人はそれを制するように皺だらけで、小さな手を上げる。そして、重々しく、しわがれた声で言葉を紡ぎ始めた。




 『影と影』




 コイツの体力は一体どうなっているんだ……
 照りつける太陽で飴色の髪を光らせながら、明るく疲れを全く見せずに俺を楽しそうに問い詰める。

「ねえ! 次はどんな鍛錬? 早くやろうよ!」

「…………はぁ……」

 ハンターを夢見る青年も逃げ出しそうな訓練をこなして置きながら次は何かと爛々と瞳を光らせるカレンを見て、俺は溜息を吐いた。
 今日は先ほどの鍛錬で動けなくした後にアイテムの扱いや武具の知識について教えるつもりだったが……。
 昨日の事もしっかりと覚えているようだ。飲み込みも早いが、体に染み付くまでやらせるのが基本だった。
 まだ若い頃の自分は――と考えると適当にしていたのを思い出すが……
 自分が甘いと解っていながらも、村から頼まれている見回りではモンスターの影は無いことが確認されている密林へと脚を向けることにする。
 あいつには、本当の狩場を体で覚えてもらうことにしよう。頼まれた特産のキノコも集めないとだから、ついでに教えておくか。

「じゃあ、コレから密林の狩場行くからポーチ開けとけよ。キノコやそこら辺に生えてる奴の区別ぐらいは今日中に覚えておけ」

 カレンはぱっと顔を輝かせると澄んだ鈴の音の様な声で俺を茶化すような言葉で返事をすると、よほど狩場に出られるのが嬉しいのか鍛錬で走った速度よりも速く走ってミリアの、カレンの"仮住まい"へと向かっていく。
 その背を眺めながら"仮住まい"と言う言葉にひっかかりを覚える。便宜上呼んでいるだけであの家は殆ど二人の家となっていた。"仮住まい"と言うより自宅と言った方が俺としてはしっくりするのに驚く。そこまで、二人はこの村に溶け込むのが早かったのか。
 ……まぁ、性格は対照的だが。
 呆れるように上を見上げると、濁った瞳に陽光が射し込み、目を眇めた。



 ジャンボ村から船を使い約半時。そんな近い場所に狩場があることに何の疑問も抱かず村を立てた村長を勇気があると見るべきか、只のアホと見るべきか。

 只のアホだ。

「大体危機感無さすぎだろ……村を起こして住民を誘致してからハンター募集なんて……それに……」

 日頃の村長の無謀さで苦労させられる為の怨恨を吐露している俺を尻目にカレンは一応師匠である俺の頭を飛び越えて砂浜に降り立つ。
 目の前には見上げてやっと天辺が見える断崖絶壁。その絶壁の手前に手ごろな砂浜がある。
 此処はモンスターが比較的現れにくい立地条件から良く俺が拠点として利用する場所だ。時折、俺以外の流れのハンターの足跡を見つけることもある。
 そんな拠点に船が自壊しない様に砂浜に引き揚げる。カレンが絶壁を見上げて口をあけている。
 そんな平和そうな顔つきをちらりと見た俺は、これからコイツを狩人に、ハンターに仕立て上げようとしていると思うと、もったいないと思えてしまう。
 身寄りが無いはずが無い様な豪奢な家に住んでいたそうだから、この村に居たとしても連絡をとって迎えを寄越してもらえば、また同じような生活に戻れただろうに。
 トラウマになっているであろうあの事からなるたけ離したほうがいいだろうが……。
  体に染み付いた動きはそんなことを考えていても鈍らずに動き、すぐに船を固定し、拠点となるように組み立てる。

「どうしたの? 変な物でも食べたような顔して……」

 意識をしていなかったせいか、これから先あいつがどうするのかを考えていたせいなのか、苦い顔をしていたようだった。
 心配そうにしている様子は無く、歳相応のはしゃぎぶりを言葉の端々に感じさせている。そんなカレンの様子をみてため息を吐く。

「あっ、人が折角心配してるのに!」

 騒ぎ立てる少女を見て肩から力が抜けた。出発前に見上げた空よりも高く、太陽は上がり陽光を降り注いでいる。
 これから先、どうなろうと同じ過ちをしないと誓っている。あいつも、俺ももう失いたくないからな。
 見えるものが、自分の気分しだいでどんな風にも見えると感じた俺は、底抜けの青空を見て眩しさに目を眇めた。


***************************


「"緋色の空"の話じゃろう?」

 僕の名前を知らないはずなのに、一度で長老に合わされて一度でその噂の、追い求めてきたモノの話の核心まで迫る事に、つい我を忘れかて身を乗り出してしまった。
 危険な香りもしていたはずだった。上手く行き過ぎている。だが、それよりも追い求めてきた話の真実を欲しがった。つまり、油断した。
 気配を察することも出来ずに、老人の次の言葉ばかりに気をとられていた。ガチリ、と言う金属の音が聞こえたときには遅い。
 首筋には冷たいボウガンの銃口が当てられていた。老人はその小さい、皺の間からかろうじで見える黒々と光る瞳を僕に向けて、再び言葉をつむぐ。

「その話をどこで知った」

 先ほどとは打って変わり、厳かさや威厳は同じまま。只、声の雰囲気だけが低くなっている。
 後ろに居る気配は二人、どちらも気をとられていたとはいえ気配を悟らせること無く後ろを取られたことから考えて、動いたら容赦なく首を打ち抜くだろう。
 僕は抵抗する意思を示さず、体の力を抜いて椅子に深く腰をかける。これで焦っては相手の思う壺だ。
 知っている情報を素直に表したとして、相手の反応を伺えるだろうか。これを教えてくれた人間はとうにこの世に居ない。
 関係者を殺すような相手でも居ないのではどうしようもないだろう。僕は正直に答えた。

 最低限の情報で相手を満足させるようにする。名前は――言わなかった。
 老人は黙ったまま僕を見つめると、手を上げて後ろで銃口を突きつけている"人間"を制する。
 人間――男二人は村長の両脇に音も無く移動する。人目で"強い"と解る。また、"ハンターの様な目つき"をしていた。
 今、少しでも動けば足を打ち抜かれるであろう。片方の男が持つ小柄なボウガンの銃口は未だこちらへと向いている。
 黙考していた老人は再びしわがれた声で僕に問いかけた。

「名は――ティダルだな?」

 答えない。どこまで相手が知っているのかを考えておくべきであった。"緋色の空"の。村を出た彼の情報の。
 強い日差しが差し込み、部屋を明るく照らし出し、浮き上がる影を濃くする。老人の皺で覆われた顔が陰りを帯びていた。
 その黒々とした瞳に、感情を感じさせない瞳に一抹の影が射したように感じた。老人の顔は渋面を作ると、私に言い放つ。

「ワシもアレを探しておる。お前には渡すわけには行かないんじゃよ」

 僕の目的を知っている。知っているからこその渋面なのか。だが、どう思われようと関係が無い。僕は探し続けるだけだ。
 老人の後ろに座っていた二人の男が静かに部屋を後にする。老人は深いため息を吐くと、再び言葉を続けた。

「お前は、何故望む。アレにはそんな力は無い。多くのものが群がり、朽ちるものだと言うのに」

 苦労が皺になって積もったように、老人の顔は皺だらけで、先ほどの威厳はなくただ小さい、くたびれた老人にしか見えなかった。
 静かに席を立つと、僕はその部屋を出る。
 老人の家を出ると、照りつける太陽を適度にさえぎっている村の中を歩き、出口へと立つ。

 一歩出れば、そこは太陽の照りつける外の世界だ。


***************************




「ふーん……これがアオキノコね……」

 カレンは、青みがかった小ぶりなキノコにしゃがんで顔を近づけ、物珍しそうに観察している。アオキノコは滋養強壮や、特定の素材の増強をする。
 一般的なアイテムで、狩人ではない人々の間でも取り扱われて街でも行くところへ行けば売られてるアイテムだ。初心者のハンターはキノコの採集から始めるのだ。
 しゃがんでキノコを眺めるカレンの姿は新米ハンターさながらだ。
 全身をレザーライト――只の皮の防具で身を包んでいる。腰には新米ハンターの象徴とも言えるハンターナイフ。これらは村長の家で埃を被っていたものを引っ張り出したものだ。もちろん、安全に動くかどうかは確認をした。
 長髪はヘルムから溢れて背中まで流れている。枝葉に引っかかるから結べと言ったが、そのままで出てきてしまった。

「そうだ、んでこっちがニトロダケだからな。下手な扱いをすると発火するから、気をつけろよ」

 エリア1(勝手に命名した)は拠点から密林へ入る入り口でもある。右は崖になっており、左側は枯れた滝の後が残る巨大な石壁となっている。
 カレンはアオキノコを腰に付けているアイテムポーチに無造作に入れると今度はニトロダケを観察している。形を覚えているのだろう。知らないで扱うと危険だからな。



 この近隣に分布しているキノコや薬草の類の分別を教えたところで、密林の地形を覚えさせる。
 海辺、洞窟、モンスターの住処となる場所。普段はモンスターの存在が確認できるが、珍しくランゴスタのような昆虫のモンスターしか姿を現さなかった。
 まぁ、カレンを考えるとまだモンスターと戦える状態ではないが。扱いたい武器も聞いてなかったしな。
 地下水が石灰を溶かしできた巨大な空洞。遠くにはそこから川が出来たと思われる巨大な裂け目がある。
 そこから見える密林の景色に見とれているカレンを呼び、その場所を後にしようとして、何かに脚を引っ掛ける。
 その"何か"が何なのかを理解して俺は目を眇める。巨大すぎて解らなかったが、これは――

「アイツか――――」

 俺は苦々しく呟く。呟きは緩やかな昼下がりの暖かい空気に不穏な響きを持たせていた。


                 ADY
ADY
2009年05月16日(土) 11時32分28秒 公開
■この作品の著作権はADYさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
超。と言う言葉がついてしまうほどお久しぶりです;

中々コチラにこれませんでしたが、これからは普通のペース(?)に戻れると思います。
さてさて…浦島状態な私ですが掲示板で何が起こったか……;
こちらと掲示板は連結してないようになっておりますが、問題はココにあるようですね。
軍師様(テミドールさん)が去ってしまったようで……

ゲドのように尻が寂s(殴

さてさて、私はどんなことになったかも、どうすればいいのかもわからないので傍観になってしまいますが、出来れば軍師様には此処に戻ってきて欲しいです。


人間を書くってどういうことなんでしょうね……
私は絵も描きます。ってか、絵のがよく描きます。
絵なら、皺のひとつで人間が変わり、髪型ひとつで判別の基準となります。
モンタージュもあるとおり、ひとつ違えば別の人間になるんです。
ただ、『その人らしくない』というのはどういうことなのか。
私たちがほかの人をどういう印象で受け止めているかによるんでしょうね。
本人がどう自分のことを考えていようと、周りからの評価で"相手の中の自分"が決まる。
それが自身が考えているものと一致するのは簡単なことじゃないんだなーと常日頃感じております。

風斬烈風さんへ

こんにちは、ADYです。
今回は二つの伏線となりました。最近自分の伝えたいことが中々うまく表現できなくて悩んで……っと
また、ぎこちないところなどあれば指摘お願いします!(蹴
視点を変えるところにはアスタリスクを挟んでみました(´・ω・)

では、風斬烈風さんも小説頑張って!


カテドラルさんへ

お久しぶりです、ADYですよ。
イリスにはも少し頑張ってもらいますよw
やっと大きく動けた…と内心ホッ(蹴
改行、了解しました!

カテドラルさんも小説頑張って!

この作品の感想をお寄せください。
 どうも、 風斬「疾」風です。あ、いや……新しい間違われ方だなーとw
 アスタリスクで分けられたのは分かりやすかったです。これの方が好きかな。なんというか、スクリーンで横書きだと色々工夫した方が分かりやすくなるんですよね。

 また少し物語が動いた……といった感じ。緋色の空について、竜人族の老人も探しているという……口調からして、うん。色々予想してみようかなーとw ま、まだ予想できる程出てきてませんがw
 カレンたちの方は長閑(?)な感じで、最後に何かが出てきて。うーん、先が気になるw 
 それでは〜☆
30 風斬疾風 ■2009-05-23 19:42 ID : FZ8c8JjDD8U
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 超、お久しぶりです。チャーリーです。

 カレンは見ていて初々しいですね〜。正に新米ハンターといった感じです。
 
 しばらく連絡を閉ざしていた間に、随分と腕が上がっておりますね。……私越されちゃったかも……。(汗)これからも頑張ってください。次回も期待しています!
30 チャーリー ■2009-05-18 19:23 ID : /au4C0FQ4gY
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 初めまして『狩魂』という小説を書いているメラルーツです。
 
 まず、読んでいてADY様の表現力の豊かさを感じました。私も見習いたいものです。
 
 さて、次回へ続く気になる文を読んでこの作品の続きをもっと読みたいと思いました。読者を引き込むのがとても上手ですね感心します。
 
 これからもよろしくお願いします。
 次回も楽しみです。
30 メラルーツ ■2009-05-18 17:46 ID : rlFbXT9xwgU
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はじめまして、天地無双です。以後お顔見知りを。

小説を拝見しました。最後、気になるような文章を見てしまったら、これは次回見るしかないですね。ADY さんも描写が上手いですね。私もそのような描写を書いてみたいものです。内容は良かったです。描写を上手く書くヒケツなどありましたら、教えてくださると光栄です。次回も楽しみにしております。

では、失礼いたします。
40 天地無双 ■2009-05-16 13:12 ID : ufm0KBGW/dM
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