『黒き角竜と黒き龍の血を継ぐ狩人』第一章 〜プロローグ〜
 分からない。

 自分という存在が。

 唯々、其処そこに在るだけ。

 唯々、己の欲望のまま、在るだけ。

 唯々、己の欲望のまま、力を振るうだけ。





 私には、分からない。

 何故、私という存在はあるのか。

 何故、私以外の存在があるのか。

 そして、何故私はこんなにも悩んでいるのか。

 何故、こんなにも考えているのか。

 私には、分からない。





『グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』

 私の前で、私と同じ種族のものが息絶える。

 ああ、また分からないことが増えた。

 どうして、あなたは私と同じ種族なのに、こうも弱い。

 同じ種なら、力は同等のはずなのに。

 分からない。

 どうして、あなたと同じ種なのに私の方が強い。

 どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。





 また、同じ夢を見た。

「(最近多いな。あの時の夢を見るのは)」

 そう、私はあの時から深く考えないことにした。

 なぜならどんなに考え込んでも、結局、答えは出てこないからだ。

 答えが出ないならば、考えても無駄なことだと分かったからだ。

 …………まぁ、「考えても無駄なことだから」と言うのも、考え込んだ末に出たからだが。

 とりあえず、私はあの時から、深く考えたりなどせず、唯々本能のままに生きていている。

 お腹がすいたから、他の者(生き物)を殺し、その肉を食らう。

 眠たくなったから、眠りにつく。

 目が覚めたから、起きる。

 そして、動きたいから、動く。

 そう、全て本能のままにする。

 だから、私の縄張りに入った者は、なんだろうと殺す。

 それは、自分が持っているものを他人(生き物)に奪われたくないからだ。

 それ以前に、他のどんな者にでも、負けたくないからだ。

 私は感覚を研ぎ澄ませる。

「(やはり、『何か』私の縄張りに足を踏み入れた者がいる)」

 私はそれだけを確かめると、直ぐに、地中(厳密に言えば、砂の中だが)に体を潜り込ませる。

 そして、両足と両腕(翼だが)、また二本の角を動かし、地中を抉って目標へ向かう。

 何故「『何か』私の縄張りに足を踏み入れた者がいる」だけを確認して直ぐに向かったのは、たとえどんな者が居ようと私には勝つ自信があったからだ。

 だがこの後、あんな出鱈目な奴に会うとは私は考えもしなかった。










「……?」

 全てが砂色(現に、ほとんどが砂なのだが)で、橙色の陽が射している、この雄大な砂漠で一人、立ち竦む青年がいる。

 彼の名は『キーリス・デュランダル』。今は若干十四歳のハンターである。

 だが彼は、ハンターというのに防具ひとつ着けずにこの砂漠を、のうのうと歩いている。

 そして、この砂漠(ハンター達は、旧砂漠というのだが)を歩き始めて丁度、『エリア七』と呼ばれる場所に着いた時だった。

「(何だ?)」

 キーリスは異変を察知した。

 何処からとも無く、砂を抉るような、地震のような感覚が足元を伝って感じた。

「(……!!)」

 その瞬間、目先の砂山から砂柱が立ち昇って、そのままキーリスに向かって
『何か』が物凄い勢いで近づいてきた。

 いや、『近づく』より『襲って来た』と、言った方がいい。

 だが、キーリスは『何か』が自分の足元に来る一歩寸前に後ろへ向かって飛び込んだ。

 その瞬間、キーリスの目の前で砂が勢い良く立ち昇った。そして、その砂の中から『何か』の正体が浮かび上がった。

 それは、とてつもなく大きい、黒いディアブロス亜種だった。大きさはキングサイズをゆうに達しているだろう。

 しかも、大きさだけではなく、その天をも突き砕くような立派な双角。

 あらゆる武器でさえ傷を付ける事を躊躇わせる甲殻。

 大地を踏み、軋みさせる足。

 どれを取っても確実にこのディアブロス亜種が上位ランクであるかは一目瞭然だった。

 いや、上位ランクなど遥かに超して、G級ランクであろう。

 しかも、この状況は明らかにキーリスの方が不利だった。

 このディアブロス亜種がG級ランクであるとか、キーリスが防具をひとつも着けて無いだとか、そういう事ではなく。

 キーリスは………………





 武器さえも所持していなかったのである。

 だが、こんな危機的状況であるのに対してキーリスは、慌てふためく素振りも、ましてや逃げ出す素振りもしていなかった。





「(何だ? こいつは)」

 それが私の最初の疑問だった。

 私の縄張りに入り込んだ奴が居るからどんな奴かと思えば、とてもちっぽけな人間だった。

 人間なのは、まだいい。理解できる。

 今まで何度か人間が私に、喧嘩を吹っ掛けて来ていたから。

 …………まあ、全て私が勝ったが。

 だが、こいつは人間なのに、いつもの人間が付けているゴツゴツした物や、陽の光を映し、いつも人間が私に向かって振り下ろしたり、突いてきたり、私に向かって飛んできたりする物など、ひとつも持っていない。

 …………そういえば、結局あれはなんだったんだろう。当たっても、なんともなかったが。

 前に、アプトノスに変な物や、食べ物を入れた(後で食べたから分かった)物を引っ張らせていた人間のように、大きな物を持っている様ではない。

 それに、大抵の奴は私の姿を見たら、直ぐに飛んで逃げていた。もしくは、私の目の前で変なことをしていた。

 面白そうだったから見たが、つまらなかったので、すぐに吹き飛ばしてやったが。

 だが、こいつはと言うと何もせず、唯、私を見ているだけで、何もして来ない。

 こいつが何もして来ないので、私は放って置こうとしたが、さすがに自分の縄張りなので、放っておくことも出来ず、だがこいつも何もして来ないので

「(お前が何もせず、この場所から出て行く気が無いなら…………こちらから行かせてもらうぞ!!)」

 私は地面(正確には、砂面)を思い切り蹴って突進をした。今まで、この突進でほとんどの者を地にひれ伏してきた。それを感じ取ったのか、こいつは、私の角が当たる寸前のところで右に避けた。

「(チッ……!! 思ったより身軽だな……。ならこれで……!!)」

 私は角を使って地面を掘って、そのまま両腕も使って地中へ潜る。そして、あいつ(縄張りに入り込んだ人間の、今私が『こいつ』と、呼んでいた奴のこと)の足元へ身体を進める。そう、地中からあいつの足元へ行き、角で上空に突き上げ、落ちて来た所を食ってやろうと思ったのだ。

 そして私は、地中を掘り進めながら良く聞こえる耳を頼りに、あいつの足元に着いた。

 私はまず、両腕を上げ地上に向かって掘り、両足を曲げ突進するときと同じ様に地中を蹴りあがった。

 そして、勢いを無くさぬまま、地上に飛び上がった。

 だが、私の岩をも砕く双角に手ごたえは無い。あいつはまた、私の双角が当たる寸前で右に避けた。

「(くそッ!! …………またか!)」

 それから、突進を始め、私の攻撃は全て寸前のところで尽くことごとく避けられる。

 それを十回程度繰り返した所で

「(……ブチン)」

 私の理性の糸が切れた。

 理由は二つある。

 一つ目は、今までほとんど瞬殺して来たのにも拘らずかかわらず、こいつは私の攻撃をいとも容易く避けきっているから。

 二つ目は、何故だかは、分からないが、こいつが私の攻撃を避ける度に馬鹿にされている気がするからだ。

 …………簡単に言えば、私の攻撃が当たらないからだ。

 この二つによって私の理性は切れた。

 そして私は今まで以上の殺意を持ってあいつに攻撃を仕掛けた。

 おそらく、この時に、もっと冷静になればこんなことには、ならなかっただろう。










 橙色をした太陽が容赦なく照りつけるこの旧砂漠に一人の銀色の長髪をなびかせるハンターと、一匹の黒い角竜が命の取り合いをしていた。

 いや、命の取り合いというより、『一人の銀色の長髪をなびかせるハンターが、一匹の黒い角竜を相手に遊んでいた』というほうが正しいかもしれない。

 それほど、この二つの固体の様はおかしいのである。

 角竜が突進をする度、ハンターは軽々と避ける。

 角竜が地を掘り、足元から突き上げても、またハンターは、軽々と避ける。

 しかも、角竜が隙だらけの時もハンターは、一つとして攻撃しようとしない。

 そして、そうこうしている間に角竜が、間違えたのか、はたまた、ハンターを狙って外したのかは分からないが、この旧砂漠の『エリア七』にある岩盤に突進してしまって、動けなくなった。





『ガツンッッッ!!!』

「(…………しまった!!)」

 鈍い音がして、私は動けなくなった。

 だが、動けなくなったのは頭部だけで、そのほかは普通に動かすことが出来た。

 そう、私は我を忘れて、あいつに突進を続けていたが、今先ほどあいつに突進して、あいつの後ろ側にあった岩に角を捕られてしまったのだ。

「(だが、…………何故だ!? ここには突進して私の角が貫通せず埋まってしまうほど強固な岩盤は無かったはずだ!!)」

 私は一瞬その疑問を解くために思考を捕られた。

「(クソっっ!! そんなことより早く体勢を立て直さねば!!)」

 だが私は、すぐに思考を戻して一刻も早く岩から角を抜き出す事に専念した。





「…………あちゃー」

 目の前で挟まった角を取り出そうとしている一匹の黒い角竜を見て、僕は『やってしまった』という気持ちと『どうしよう』という気持ちから、こう呟いてしまった。

 僕の名前は『キーリス・デュランダル』。一応十四歳だけどハンターをしている。色々と、訳があって、今、面倒くさい事をしている。

 その訳と言うのが、昨年の初めに、僕が勤めていたハンターズギルドがなにやら、不祥事を起こして解散してしまった為、今では商人と、ベテランハンターしか寄り付かなくなった異境の村『ボルシャ村』に今年引っ越したのだが、ハンターズギルド解散地近くに少し用があって、引越し用の馬車に乗る時間を間違えてしまったのだ。

 僕が遅れて待ち合わせ場所に着いたら、『一時間も待ったのですが、いらっしゃらないので先にボルシャ村の方へ荷物を運ばせていただきます。料金は村長から頂くので、村長にお渡し下さい』という、手紙が置いてあった。それから、約一年半歩いてようやくボルシャ村に着くと思ったら、この砂漠で黒い角竜に遭遇してしまったのだ。

「後もうちょっとで着く所だったのですけどね……」

 半分呆れ口調で僕は乾いた声で笑う。

「それにしても…………あそこは、簡単には抜けないでしょうね」

 僕はもう一度、あの黒い角竜の方を見た。

 角竜が抜けなくなった角を必死に抜こうとして、悪戦苦闘している姿は少し、可愛さを覚えた。

「(だけど…………いくらあれだけ深く刺さっているとはいえ、あのディアブロスならば、もうとっくの内に抜けているはずなのですがね。どうしたのでしょうか?…………まさかとは思いますが……)」

 それから僕は数秒考え

「やはり襲われたとはいえ、困っているようですし、助けますか……」

 と、結論を出した。

 そして僕は、ゆっくりとした足取りで黒い角竜の方へ向かった。

 五・六歩ほど歩いた所で、何処からかともなく

『かっっっあぁぁぁ!!!! どうしてあんたはそう甘いのよ!?』

 と、何処か凛とした声が聞こえてきた。

「っっ!?」

 僕は、直ぐ後ろ振り返る。だけど…………誰も居ない。居るわけが無い。

 僕はまた、乾いた声で笑った。





「…………あちゃ〜」

 僕はこの日二度目の、台詞を言ってしまった。

 黒い角竜を助けようと近くまで来たのだが

「これはひどいですね・・・・」

 そう、この黒い角竜の角は相当深くまで刺さっていた。

 それに続き

「…………予感的中しちゃいましたね」

 先ほど、気になっていた事が当たってしまった。

 それは、この角が刺さっている岩の質からして、この旧砂漠一帯の管理がされていない事だった。

 やはり、異郷の地の近くなので仕方が無いのかもしれない。

「なら、流石にこのディアブロスでも自ら抜くことは出来ないでしょうね」

 と、角を抜くことが夢中で僕の存在に気づいていないディアブロスに目をやる。

「縄張りに入ったとは言え、助けてあげるのですからもう襲ってこないでくださいね……」

 そう呟いて、僕は黒い角竜の角に飛び乗った。





「(っっっっ!?)」

 一瞬の事だったので驚いた。

 さっきまで私の遠い後ろにいたと思っていたのに、いきなり私の抜けなくなった角の上にあいつが現れたからだ。

 それから、私は数秒動けなくなった。だが、その数秒間に必死に考え、ようやく、『私が角を抜き出すのに必死になっていて、こいつが近づいてくるのが感じ取れなかっただけ』と、分かり、先ほどの『角を抜く為』に暴れるのとは打って変わって、『今、こいつを振り落とす為』に暴れた。だが、暴れているのは、頭部以外の所だけだった。それでも、私は構わずに、暴れ続けた。





「うわ!! ちょ…………ちょっと待って!! 暴れないで下さい!!! 揺れて上手く狙いが……!!」

 僕が、角の上に飛び乗った時に少し落ち着いたと思ったら、いきなり暴れだし始めた。

「くっ!! 仕方が無いか……!!」

 このままじゃ、狙いが付かないので僕は黒い角竜が疲れるのを待つことにした。





 あれから、十五分後ようやく疲れてきたのか、角竜の動きが鈍くなってきた。

「…………そろそろ、いいか」

 そして、僕は再び狙いを定めて

「…………ハッ!!!」

 拳を振り下ろした。










 暫く、私は放心していたのだろう。少し前のことが思い出せない。覚えているのは、ありえない事だった。

 それは、あいつが私の角の上にいきなり現れ、それから暫く私があいつを振り下ろそうと暴れていて疲れてきた時だった。

 あいつはいきなり、腕を振り上げ、あろうことか私の角が刺さっている岩に向け、振り下ろした。

 すると、今まで私が暴れていてもビクともしなかった岩が、すんなり砕けたのだ。

 その時、私の頭の中に一つの疑問が生まれた。

「(なんだ…………こいつ……?)」

 たった一つの疑問。だが、それを理解することは出来ない。何故なら、この疑問の意味が分からないからだ。

「(目の前にいるのは、唯のちっぽけな人間。…………人間…………なんだ)」

 だが、それを頭が受け取らない。否定し続ける。

 こいつは、人間じゃない。こいつは、人間じゃない。こいつは、人間じゃな
い。こいつは、人間じゃない。こいつは、人間じゃない。こいつは、人間じゃない。こいつは、人間じゃない。こいつは、人間じゃない。こいつは、人間じゃない。こいつは、人間じゃない。

 ジャア、コイツハナンダ?

 今まで、私を相手にここまで生き延びた奴はいない。

 今まで、私を相手にここまで怯えなかった奴はいない。

 今まで、私を相手にここまで余裕を見せた奴はいない。

 今まで、私を相手にここまで……………………





 恐怖を植え付けた奴はいない。

 それを考えた途端、全身が強張ってこわばって動けなくなった。

『殺される』

 唯、それだけ浮かんできた。

 だがそいつは、私に向かってこようとはせず、そのまま、何処かへ行ってしまった。





 私はようやく動くことが出来た。

 だけど、とても不安定で、今にも転びそうだった。

 でも、私は立ち上がりたかった。あいつの後を追いかけたかった。殺されるかもしれないが、自然と足が動いていった。

 あいつともっと殺し合いたい。

 あいつともっと戦いたい。

 あいつともっと争いたい。

 あいつともっと競いたい。

 あいつと……………………





 あいつにもっと近づきたい。

 それだけを考えながら、私は何かを踏んづけて転んでしまった。

 そして、わたしは草色の煙の中で意識を失った。
S・S
2009年09月16日(水) 04時33分42秒 公開
■この作品の著作権はS・Sさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はいっ!どうも、S・Sと申します
今回が初投稿です
大半は、ライターズマニュアルを見ながら書いたのですが、自分では分からない所があると思いますので
悪いところは、悪い!
良いところは、良い!
と書いていただければ本望です
後、あつかましいかも知れませんが、悪いところは『こうした方がいい』とかそういうのも書いてくれたらうれしいです



修正:すみませんっ!!
タイトルに足らない所がありましたので、修正します


修正2:チャーリーさんからアドバイスを受けたので、修正しました


修正3:度々修正してすいません!!社長さんからアドバイスを受けたので、修正しました

修正4:すいません、修正しました

この作品の感想をお寄せください。
初回からものすごい書きましたね…(書くというよりうつ…)
すごいですね一日でやったんですか?
僕てきにはいいと思います。最後のほう面白いのでいいですよ!!!
これからも頑張って下さい!!!
30 彌津蔚嗣豫鵜蛇 ■2009-06-10 22:18 ID : THkz12zb5ew
PASS
初投稿なのにこれだけの長文を書けるのはすごいですね
ぼくも見習います…
よかったらぼくの作品も見てください
「この世はハンター」と言う題名です
30 天からの使者 ■2009-06-10 21:25 ID : 9MF3548XVAU
PASS
合計 60
お名前(必須) E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)  削除用パス 


<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD 編集 削除