ガラス色の空 プロローグ |
――西暦XX75年、春 日本。 ……。 …………。 …………きみ……の……。 (!?) 男は目を覚ます。 清潔そうな白い天井が見えた。飾り気の無い、質素な天井だ。 男は首を動かし、周囲を見渡す。これまた質素な壁、床、窓、ドア。自分が寝ているベッドも、やはり質素でシンプルなものだった。 しかし、そんな事は男にとってどうでもよかった。 重要なのは、なぜ自分の……。 「あっ、お目覚めになりましたか?」 部屋のドアが開き、一人の女性看護師が入ってきた。ちょうど良かった。誰でもいいから確認したい事があったのだ。 看護師がベッドのわきに来るのを待って、男は口を開く。 「あの」 「お体の具合は大丈夫ですか? 緊急搬送されたので、どこの誰だかわかっていません。身元の確認をしたいのですが……」 そう。身元だ。 出来ることなら協力してやりたいのだが、今の自分では――出来ない。 「すい……ません。……は、だれ……です、か?」 舌がもつれて上手く喋れない。しかし男は続けた。 「おも……い……出せ……ない…………。なにも……」 看護師は驚愕と困惑が入り混じった表情を浮かべていたが、構わず続けた。 「いっ……たい、だれ……な。……ホン……トに……なに……も…………」 白い部屋には、男の呟きだけがこだましていた。 いつまでも――。 いつまでも――――。 *** ――西暦XX78年、冬 イギリス、ベルファスト。 「あなたが、エリザベス・D=シュヴァン様ですね?」 黒いスーツを纏った、いかにも特命を受けてきたような男を前に、リサ(エリザベス)はため息をついた。 G.F.G.M.からの依頼は、何度も断ってきたはずだ。それともついに世界連邦政府が直々に動き出したか……。 どちらにせよ、彼女はあまり他人と関わりたくなかった。 「いや、それにしてもお綺麗ですね。その黒い髪はおじいさんに似ているからでしょうな。それに、さすがは我震流古武道の後継者候補だ。どことなく不思議なオーラを感じる」 こいつ馬鹿だ。 リサは確信した。実際、リサはオーラなど出していない。しているのは威嚇である。 確かに彼女の祖父はアジア系の血が混じっており、我震流という世界規模の武術を極めている。いや、武術というよりも精神、学問、哲学等のさまざまな分野に広がっている、ほとんど宗教のような存在、それが我震流だった。 そして世界連邦政府は、その強大な力を我が物にしようと、「最強」と謳われるリサの元にやってくるのだ。 とにかくこの場をどうにか切り抜けないと……。と、リサが思った直後。 「さっそく本題ですが、今回はAAAの件で伺いに来ました」 (すりーえー?) 話を聞き終えた後、彼女はすぐに出発の準備に取り掛かった。 目的地はAAA本部・日本、長野盆地。 なにが彼女を動かしたのか。彼女自身、それを確かめるための旅立ちでもあった。 イギリス生まれの「最強」は今、祖国を飛び立つ――――。 *** ――西暦XX79年、冬 ドイツ、スラム街。 青年は走った。 走らねば追い付かれる。 追い付かれれば、それで終わりだ。正当な裁きも受けられず、「大人たち」に全身を痛めつけられるだけ。殺された仲間もいた。 「今日も元気な連中だな。四十を超えてるとは思えねえ」 青年は素早く路地裏に滑り込み、身をひそめた。同時に逆立った髪の毛を押さえつける。 大人たちの気配が消えたところを見計らい。スラム孤児の溜まり場へと向かう。もちろん、両手には大人たちから盗んだ大量の食べものを抱えて。 「ホラ、食え。チビども」 青年の差し出した食べものに小さな孤児たちが群がる。もう見慣れた光景だった。 「毎日毎日、ご苦労さんだなウィル。そろそろ本気で働こうとは思わないのか?」 ウィルと同じ位の歳をした孤児のリーダー格が聞く。しかしウィルは首を左右に振り、否定。そしてどこか遠い場所を見るような目になった。 「どちらにせよ、親父はもうオレに興味ねぇよ。捨てられたんだからな。 そう言いながら、ウィルは八重歯を覗かせて笑った。 「じゃあ……コレを見てどう思う?」 リーダー格の男は、ウィルにポスターのようなものを見せた。 現在、この地球を統治する巨大な国家連合、世界連邦政府が発行しているものらしい。 ―――――――――――――――――― 全地球生存者諸君! ちょうど八年前、我々人類は太陽系外から来た侵略軍どもに対し、屈辱的な大敗を喫した。 奴らの第一次総攻撃によって、トウキョウをはじめとする世界の重要都市は、地上からほとんど消え去った。 しかし諸君! 悲観することは無い。 AAAには人類の持ちうる科学力、技術力のすべてを集結させる。 ひいては、そのAAAに無限の可能性を見出すため、ただいま一般枠からの志願兵を募集中である。 X-DAYは近い。 いまこそ第二次総攻撃を退け、人類に一筋の光明をもたらすのだ! 世界連邦政府 ―――――――――――――――――― 「……だとよ。ハッ、なにが『無限の可能性』だ。ただの人手不足だろうが。G.F.G.M.も終わりだなこりゃ。なあウィ……ル?」 そこにウィルの姿は無かった。 ウィルはポスターの隅に付いていた、志願兵受付の詳細を持って、すでに走り出していた。 彼の水色の瞳の奥には、復讐の炎が燃え上がっていた――――。 *** 記憶を失った男、心を閉ざした「最強」、スラム街の青年。 決して交わることの無い三人の運命が、今……。 To be continued... |
森内まさる
2009年09月06日(日) 13時12分17秒 公開 ■この作品の著作権は森内まさるさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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はじめまして、だと思います 下の掲示板の方では名前を見かけてましたけどね SFモノ、もしくはファンタジーモノですかね プロローグということでこれからどんな風に話が広がるか期待です 全体的に、おかしなところはなかったですね。説明のはさみ方も、不自然ではありませんでした。 ただところどころ描写が足りていない、急に物語が転がったような印象を受けるところがあるので、そこを補填すれば完璧かと 文量は読みやすくてちょうどいいですね。もうちょっと多くてもいいかも それでは |
30点 | Eine Gurke | ■2009-08-06 23:04 | ID : Q6t35440O1Q | |
合計 | 30点 |