ガラス色の空 第一話「リメイク」
「司令。予定通り、彼らをAAA実戦航空部隊に配属させるべきでは?」

 目の前のシートに座っている少年に、若い士官は尋ねた。明らかに自分よりも幼い少年の役職は司令官、階級はなんと少将。若い士官はそのまま続けた。

「解析の結果、予測では侵略者の第二派……近いうちに」

「あのさぁ」

 司令官は、シートから降りてつかつかと前進を始めた。そして若い士官を通り過ぎた所で、口を開いた。

「君……本当に宇宙人なんていると思ってるの?」

 面食らった。
 自分たちは、その宇宙からの侵略者に対抗するために組織された存在。そのトップである司令官が、そんな事を言っていいのだろうか?
 色々と思うところはあったが、若い士官は自分の立場をもう一度確認しながら言った。

「はっ! 私はそのためにここへ来たのです。もし相手が宇宙人でなくとも、地球の平和を脅かそうとする存在は全力で排除します!」

 若い士官は敬礼したまま答えた。

「ふぅ……ん。ま、せいぜい頑張ってね。ボクはそんなもの、いないと思うけど」

 そう言って、少年の姿をした司令官は再び歩き出し、部屋から出て行った。
 若い士官はしばらく敬礼の姿勢を保っていたが、同じく部屋を後にした。



――ガラス色の空 第一話「リメイク」――



 作戦開始から三十二分。
 二番機、及び三番機の反応消滅。支援砲台の稼働率ダウン。自機装甲限界。これ以上の戦闘続行は九割の確率で不可能。自爆推奨――自爆推奨――。

 ディスプレイに表示される警告を無視しながら、シンはアフターバーナーを目いっぱい吹かせる。
 第一、二番機も三番機も目視で確認できている。おかしくなっているのは機体のコンピュータのほうだった。まぁ絶望的な状況には変わりないが……。

《やべぇぞぉ、シン。鴇田ときたばっかり狙われてやがるぜぇ》

ヘルメットに内蔵された通信機から、二番機パイロット・鷺沢さぎさわの声が聞こえる。
いつものような、のらりくらりとした口調だが少しばかり焦っているようだ。彼の機体にも敵の援軍が接近してきているのがレーダーで分かる。
 新米の鴇田の駆る三番機は、すでに大量の敵機に囲まれていた。なんとか回避しているようだが、危惧すべきは地上の敵戦車部隊だ。

「鴇田、聞こえるか! 早くその空域から抜けるんだ! 撃ち落とされるぞ!」

 回線をつなぎ、怒鳴る。
 すると、すぐに怯えたような声が返ってきた。

《た、隊長! 無理ッス! ヘタに動けば、それこそ狙い撃ちされるッスよ〜!》

(ぐっ……)

 ダメか……。しかしこのままでは……。
 シンは一度かぶりを振る。隊長の自分まで焦ってどうする。頭を冷やさなければ、見えるものも見えない。

《どうするよぉ、シン。白旗でも揚げるかぁ?》

 どうやら鷺沢はジョークを言える余裕はあるらしい。
 オープンにしている通信機からの音を聞きながら、ゆっくりと……シンは思考の奥深くに入っていく。入っていきながらも、神経は常に敵の攻撃に集中させ、回避し続ける。

 考えろ。考えるんだ。可能性が無いなら作り出せばいい。道が無いなら自分で拓けばいい。答えの出ない問題など、そんなものは認めない。

(…………もう、少し……だ)

 脳内に散らばった糸が姿を見せ、集まり、列をなし、そして――つながる!

「!!」

 それはもう「糸」ではない。勝利への「一本道」は完成した。
 もう一度、エンジン全開でアフターバーナーをふかし、三番機に近づく。

「確認する。対地用のボムは残ってるか?」

《え? あ、えと……もう残ってないッスよ。二本とも使い切ったッス。けど、ええ!?》 

 全速力で接近する隊長機・フォルツァンドが視界に入り、ひどく混乱した様子の鴇田が、シンの目に浮かんだ。
 まずはその鴇田をどうするかだ。
 速度を保ったまま、機体底部のボムを切り離す。直後、ブースターに着火し、ボムは敵戦車部隊に突っ込んでいった。もし外れても攪乱出来ればそれでいい。

「一気に高空まで昇れ! 後ろは気にするな」

 敵の戦闘機相手に接近戦で派手に暴れ回り、ひとまず鴇田を逃がす。
 通信を二番機につなぎ、鷺沢へ。

「そっちはまだミサイルが残っていたな」

《あ、ああ。しかしよぉ……今度は何考えてるんだぁ?》

 深く、大きく息を吸ってから、シンは答えた。

「俺に向かって、撃てぇッ!」

《は?》

 鋭い眼光で睨みつける。向こうには見えている訳ないのだが。
 ……。
 …………。
 …………信じてる。

 二番機はほんの一秒ほど旋回した後。

《チッ、しょうがねぇ! どうなっても知らねぇからなぁ!》

 シンの瞳の奥に電光が走る。
 飛んでくる三発の大型ミサイル。そのすべてを、機銃でさばく!

 迫りくる爆炎と降ってくる航空機の残骸を、卓越した旋回能力ですべて避けきる。こんなことが出来るのは天才と呼ばれるシンと、抜群の安定性能を持った彼の愛機「FA-19C-Fz FORZANDO」しかいない……!

「まだ終わってないぞ、鷺沢。次はお前の番だ」

 そうもちろん、容赦なくシンはミサイルを撃った。

《待て待てぇーー! 出来るかよぉー!》

 そういいながらも鷺沢は、シンの考えを理解しているようだった。
 機銃ではなく二番機に残っている大型の、それこそ戦艦に使うようなミサイルで迎撃する。
 大型ミサイルならではの大規模な爆発。それを全身に浴びても墜ちない二号機は、やはりタフなのだろう。パイロット同様に。まぁ実際には装甲が通常より厚いとかそんなところか。

《はぁっ、はぁっ。馬鹿かシン! 殺す気か!?》

 わめき散らす鷺沢をなだめて。

「さぁ、これでほとんどの制空権は戻った。勝ちは目の前だ!」

 高空へ揚がった鴇田の三番機も無事。地上の敵戦車部隊のほうも、あの奇襲攻撃の後、こちらの支援砲台の一斉砲火を受け、壊滅状態だった。

《いよいよ決めるッスか? 隊長》

 さっきまでボロボロだったのも忘れ、鴇田が期待に満ちた声を出す。

《しっかし今回は難易度高かったなぁ。俺たちと支援だけで、なんてよぉ》

 ぶつくさ言う鷺沢を軽く流しつつ。
 敵の残存勢力を確認して、シンはただ一言。

「これで……チェックメイトだ」



***



「――以上が、今回の擬似空間投影型演習のテスト結果です」

 閑散とした部屋にシンの声が広がる。
上官は報告書に目を通しつつ、時折なにかに納得したようにフムフムと頷いている。

「すまないねぇ荒鷹あらたか少尉。小隊長就任直後にこんなつまらない任務を押しつけてしまって」

「いえ、自分の仕事をするまでです」

 では、と敬礼してシンは部屋を後にする。
ブリーフィングルームに戻ると、鷺沢と鴇田が何やら話をしていた。

「荒鷹隊長って戦闘時と普段でまるっきり性格が違うッスね。自分、別の人と喋ってる気分ッス」

「そうだなぁ……確かに、人の感情を持ってねぇような目ぇしてやがるな」

 二人はシンが入ってきたことに気付いていないようだった。
 シンもそういうことは気にしない性格なので、とりあえず喋るだけ喋らせておこうと思った。

「あンだけ若くて『天才』なんて上層部うえから呼ばれてるからよぉ、気にくわねぇって思ってるやつも結構いるみたいだぜぇ」

「鷺沢センパイは思ってないんスか?」

「俺かぁ? 俺はなぁ、この第七独立航空部隊に入る前からの付き合いだからなぁ。そんな恨むほどでもねぇってワケよぉ。まぁそン時からすでに目立ってたけどなぁ」

 目立つようなふるまいをした記憶は無い。と、シンは言いかけたが、もう少し黙ってることにした。

「……そんなこんなで、今では『氷のドッグファイター』なんて同期からは囁かれてるぜぇ。上手い事付けたもンだよなぁ」

「でも確かに航空機の操縦技術は若手ナンバーワンッスよね。自分ら後輩たちにとっては憧れの存在ッスよ。隊長はカッコ良くてクールなので、女子人気も高いッス」

 ここで鷺沢が声のトーンを落とす。

「鴇田よぉ、知ってっか? シンはあれで記憶喪失者らしいんだぜぇ……」

 鴇田の目が丸くなるのが、遠くからでも分かった。
 もう気付かせてもいいだろう。私語が過ぎた。シンは二人の背後に近づく。

「そ、そういえば。荒鷹隊長は過去の経歴が抹消されてる、って噂も聞」

「そうか……」

「「!?」」

 振り向いたまま、表情が固まってしまった二人。
 演習の反省をすると言って、シンはそのまま続けた。

「まずは鴇田。その慎重さは評価する。しかしあまり臆病になりすぎるな。結果、動けなくなったところを敵に囲まれる。さっきのようにな。それから……」

 鴇田の顔からだんだんと血の気が引いていくのが分かる。
 言われていること自体はそれほどキツくないのだが、シンの目が怖すぎる。まるで視線を交わすと心臓を氷漬けにされるような云々。

「おいおい鴇田。そんなに気負うこたねぇよ。シンもよぉ、もうちょっと新人に優しくしてもいいんじゃねぇかぁ?」

「じゃあ貴様には遠慮なく言ってもいい、と?」

 言いたいことは山ほどある、と瞳の中の狂気とも取れる輝きが物語っている。
 シンの口調は決して怒っているようには聞こえない。だが、それがまた対象の恐怖心を駆り立てる。むしろ普通に怒ってくれたらどんなにありがたいか。

「鷺沢……」

 無表情のまま口だけが動く。

「貴様はタダの馬鹿だ」

 そして一睨み。死んだ。
 第七独立航空部隊第二小隊所属の鷺沢軍曹、急性心不全により死亡。

 二十分後ぐらいに目を覚ましたが。



***



 一通り反省を終えた後、シンは再び上官の部屋へと向かった。呼びだされた。

「失礼します」

 部屋に入るとすぐ、上官が話しかけてきた。

「たった今、G.F.G.M.本部から通達があったよ」

「本部から……ですか?」

 うちは独立部隊という特性上、本部とはあまり関わり合いが無いのだが……。極端にいいことか、悪い事か。そのどちらかである確率は高い。

「それがおかしなものでね。荒鷹少尉に長野県のビッグウォール山岳要塞に来ていただきたい、と本部は言っている。詳しい事は現地で説明するらしい」 

 長野。ビッグ……ウォール。

「そこは、確か」

「ああ、AAAの本部だ――」



To be continued...
森内まさる
2009年09月06日(日) 13時27分37秒 公開
■この作品の著作権は森内まさるさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 どうも、ちょっと首都圏に出張ってました。森内です。

 
 >>EineGurkeさん
 コメントありがとうございます。
 SForファンタジーですか。いいところに目を付けましたね。しかし……。すべては冒頭の司令官のセリフをどう受け取るか、ですよ。フフ……。
 文量・描写はプロローグが最低ラインになると思います。でも描写はもう少し勉強しないと(汗


 さて、無事に第一話を世に出すことができました。
 誤字脱字、明らかにおかしいところがあればコメントでお教えください。
 今回は主役の登場ですね。荒鷹シン君、眼力で人を殺せるとは……今後の活躍に期待したいと思います。

 首都圏に出張ってると肺が悪くなりますね。僕は東北だか北関東だかよく分からないド田舎に住んでいるので、空気だけは綺麗です。

 最後に、前置きは気にしないでください。無性に書きたくなっただけですので。


 長々とすみません。では、僕はこれで。。。


***


2009/9/6
体壊しました。
 書けないことはないのですが……。
 書きためてたMH小説でもやりますよ。


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