Criminal
―――まだ俺じゃなくて僕だった



前振りも何も無かった。
情け、容赦も無かった。
ただ「彼」は目の前の生物を「敵」と認め、生理的に気に食わず自分の夢を阻む物だったから殺した。

とにかくもうそれは恐ろしいほど一瞬で・・・いや、一瞬は一瞬か。

「敵」としても、自分がしてきた事から考えて何時かこんな目にあう事は予想できていたのではないか、と思う。
だが予想していても突如訪れた「死」を招く者には抗えず、腰に装備している武器を取り出すまもなく絶命した。

世界が世界ならルールもルール。
初めてこんな場面に遭遇した時は震えと吐き気が止まらなかった。

だって連中を見てると「人の感情が無いんじゃないか」って、そんな気分になってくるから。

「敵」は決して弱くなかった、決して弱くなかった。
だが胸を張って「強かった」とは言い切れない。だが決して弱くなかった。
周囲の人間より圧倒的に強く、信頼されていた。

だが連中と比べると、それでも気休めに過ぎない程度の力に過ぎない
俺は生まれてから「常軌を逸脱している」という言葉を連中の表現以外に使った事が無い。

―――使いたくても、奴等がいる限り奴等以外に使われる事が無いだろう

常軌を逸脱しているというのは何も戦闘能力だけの事では無い。
無論戦闘能力も桁違いだが・・・任務の時にはとことん冷酷、残酷になり、敵を仕留める。

例えそれが、今まで信頼関係を築いてきた相手だとしても例外では無かった。

その証拠がこれ。
今俺の前で息絶えている「敵」

俺がなまじ連中の耳に届くところで「将来はオヤジさんみたいになりたい」等と言わなければ、きっと俺が死ぬだけで済んだのに―――

「あ・・・ぁ・・・」

俺を身を挺して守り守られようとも結果的に犠牲者が増えるのみだ。
なにしろ連中には感情が無い。

「自分の命を犠牲にしてまで俺を守ってくれた」
連中にとっては「だから何?」に過ぎないのだ。

いや、きっと「だから何?」とすら思わないのだろう、なにしろ感情がないのだから。
連中と機械はなんら変わり無い、もしかすると連中も機械で出来ているのかもしれない。

連中は気づかぬ内に人々の生活に紛れ込み、任務を確実に果たし、それになんの疑問も感じない。
なんの命令も下されていない時のあの笑顔や、俺達と彼が築いてきた関係など・・・連中の大切なものの基準で並び替えればそこらの雑草にすら劣るだろう。

規律を破った者は殺すのだ。
殺すのだから規律を破った者を収容する場所も必要ないし、弁護の余地など無いので裁判という制度も無い。

とはいえ、規律と言ってもそれほど厳しい物では――俺は厳しいと思うが――無い。

簡単な話、「夢や希望」を持ってはいけない、ただそれだけ。
そしてもう一つ簡単な話、俺は夢を持ってしまったから殺される、ただそれだけ。
そしてそんなふざけた規律は何百年も昔から決まっている事だった。

何故かは知らないし、「知りたいなぁ」と希望するだけで殺されてしまう。
だから俺は、連中以外の人類は夢や希望を持たないように生活し、その子供にはそもそも「夢」や「希望」という言葉すら教えないし、「夢」や「希望」を持たせるような事は絶対にさせない。

俺もそうやって教育される立場の子供だったし、そう教育された。
しかし俺を育て教育してくれたのは実の親ではなく、孤児だった俺を「引き取らされ」、今俺の目の前で倒れている連中の「敵」だ。

とにかく立派な人物だったと言える。
先程も述べたように身体能力もさることながら、人格も素晴らしく、皆の憧れも的だった。

こんな人物に引き取られたのは、幸運だったし不幸だったとも言える、

幸運だったのは今までの生活。
不幸なのは彼が立派過ぎるあまり「彼のようになりたい」を願ってしまった事
彼がここまで立派でなければ、と今になってはもう遅いけれど、後悔しないわけじゃない。

だけど彼を否定するわけでもない、というか「あんたが立派過ぎるから悪いんだ」等という馬鹿が何処にいるか。

そうだ、全部俺が悪いんだ。
周囲の人間は彼に憧れこそしたものの「彼のようになりたい」とは思わなかったし、思おうとも思わない。
そこで「オヤジさんみたいになりたい」と思ってしまった俺が全ての元凶。

「―――――――」

どうやら心臓を一撃で、完全につぶされたようだ。
もし助かっていたとしても出血多量や痛みによる脳死など他にも死ねる理由ははたくさん考えられる。

まぁどの道、俺の前の前のオヤジさんはとっくに死んでる
いくら考えようと無駄だ、失ったものは取り戻せないんだし・・・「取り戻せない」だろう。

なぜなら、俺もここで殺されるから。

4歳の時に引き取られ、10年間面倒を見てもらったけど・・・意外と最後は呆気なかった。

だから俺も呆気なく死ぬんだろうなぁと思った。

でも運命ってのは不思議なもんで、俺よりずっと立派な人物がこんなに呆気なく死んでしまったのに――俺が死ねば良かったのに――




俺は死ななかった



それどころか俺を殺そうと襲い掛かってきた奴を返り討ちにしてやった。
そしてそれが原因で俺は今まで住んでいた町を追われるハメになった。

「その能力を持つお前がここにとどまる限り、我等に安息は無いだろう。出て行け」との事だそうだ。
俺としても特に反論は無かったし、全く以ってその通りだと思った。

常軌を逸脱する者を、一撃で葬りさったこの能力。
全く武芸の心得が無かったわけじゃないけど、俺よりずっと強いオヤジさんを一撃で葬った者を一撃で葬ったのだ。

連中がほうっておくはずがないだろうと自分で理解していた。

俺はその日のうちにオヤジさんが残した金やらなにやらももてるだけもって村を後にし、その日から改めて心に誓った。

「オヤジさんのようになりたい」と。
mlk
2008年03月17日(月) 17時04分12秒 公開
■この作品の著作権はmlkさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
な・・・なんだこれ・・・
自分が書いたものとは思えないほどの作風の違いにビックリ仰天

オリジナル掲示板の方が賑わってなくて良かったwwwww

いや、読みきりじゃないっす


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騎乗位だけで月100万(*´ω`)♪ http://ktjg.net/ 10 素人です ■2011-12-11 12:19 ID : SwIINZiyXj6
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いい話ですね 40 三代目L ■2008-03-21 20:58 ID : RC7OcmiRpKM
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え? どんな能力だって? 
失礼かも知んないけど、普段のmlkの作品とは全く違う雰囲気の作品ですよね。
40 ケルベロス ■2008-03-18 20:52 ID : If3qiekeSNg
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嫌な規律……、どんな世界なんでしょう?どんな力なのか、気になるところです。いい雰囲気の作品だと思いました。
ところで、これ読みきりですか?
40  凰雅沙雀 ■2008-03-17 16:05 ID : FZ8c8JjDD8U
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