世界の唄 封龍と砲術師(1)





 それが忽然と現れた日。温かい空間を漂っていた俺には、最も胸糞悪く、それでいて至極腹の立った事だったろう。

村にはさっきまでの賑わいはなく、今は焦燥と恐怖で満ちた声が耳を通り抜けるばかり。俺はカウンターで酒を煽っていたが、眼付はとんでもなく悪かったに違いない。

酒場はマスターと俺、二人だけがいつも一度か二度の会話を交わすだけの場所だった。無言で酒を飲んで飲まれると、そう言った感じ。少なくとも、俺にとってはとても居心地の良い場所だ。

マスターはどうか知らねぇけども。

人が走り回る所為で、振動が尻にまで響いてくる。酒場特融の足の長いイスは、痙攣しているように震えて音立てていた。

俺がそのままグラスに入った酒を飲み干すと、いつもは全く喋らない男が、まるで唸るような声をあげる。怒りとも、諦めとも取れる声を、俺は淡々と聞いている。

「カイゼル、そろそろ出て行ってくれんかね?」

 渋面を作ったマスターは、口もとに皺を寄せて俺に詰め寄った。

「なんでだ?」

 自分の鼻の下にあるチョビ髭が、ダンディーと自画自賛するおっさん。俺の問いに答える様に、洗いたてのグラスを丁寧に拭きながら顎で前を指した。マスターにつられて後ろに目をやると、窓の向こう側には鬼が一人いた。

いや、鬼の形相をした人間が、一人。

さっきから、どこぞの太鼓が打ち鳴っているな、とも思っていたが。それは太鼓でもなく、また、楽しくたたいている様にも聞こえていなかった。

「なんでってよ、これ以上ここにお前を置いておくと、またドアがぶっ壊されてしまうだろう?」

 至って冷静なのは相変わらず。だが、言葉の節々に微量の怒りを織り交ぜている。ミシリと、重厚な木の壁に亀裂が走る音を耳にした後、悠然とカウンターの内側に立つマスターを見上げた。


「はっはっは、悪いな。修理代はツケで頼むわ」

 そう言い切る前に、酒場のドアと言わずに壁自体、異常な音を立てて崩壊。木屑が散らばる音共に、外を支配していた人のざわめきが一瞬でここに流れ込む。

そして、不意に聞こえてくる激しい息遣いと深いため息が、止めと言わんばかりに酒場の雰囲気をぶち壊した。俺は決まって後ろを向きたくはないと、マスターに目線を送る。

蓄えた髭を悠々と撫でながら、おっさんは自然と眼を逸らしやがった。

「はっはっは……。悪いな、ほんと……」

 ポツリと嘆いた一言をかき消すように、聞きなれた怒声が響き渡る。
アルマ
2008年03月21日(金) 20時52分35秒 公開
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■作者からのメッセージ
 どうも。こんばんは。
全くもってリアルが忙しく小説が書けない;
そんなこんなで、昔書いた小説を携帯から引っ張り出してきたので、それを投下してみます。
早くモンスターハンターの方も更新したいこの頃。
こちらの方は不定期に更新してみようと思います。

この作品の感想をお寄せください。
み、短くないかなぁ。最初だから?それともこの長さで行きますか?後者だった場合は二話分で一話、かな。
まだ全然分からないな……、なんか怖い人が居るって事くらいしか。
30  凰雅沙雀 ■2008-03-21 22:56 ID : FZ8c8JjDD8U
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ここから始まっていくんですね
とりあえずプロローグと、これからの話に期待してこの点数をつけさせてもらいます。
一緒にがんばりませうww
30 mlk ■2008-03-21 22:24 ID : VCYg4qBnRYU
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いい話だと僕は思います。
僕はここ以外のところでアク禁止になったものです
40 三代目L ■2008-03-21 21:02 ID : RC7OcmiRpKM
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