世界の唄 封龍と砲術師(2)
 


 数年前、この大陸には「魔砲国家」とまで呼ばれた、最も「砲術」が盛んに研究されていた都市があった。辺境の技術など、その国に比べれば鼻糞以下だったろう。魔法の馬車が空を飛ぶのは当たり前、戦争に出兵しようものなら、「火の弾」があちらこちらで飛び回る。

 随分と物騒な国があった。 「剣と魔法のおとぎ話」。そのファンタジーが、そこにはあったのだ。

 
 次いで。レグルナ暦1998年。収穫祭と言う、一年に何度かある野菜や果物を一斉にもぎ取ると言う妙な祭りで、「クエントン村」は大いに盛り上がっていた。爺様やガキ、御婦人などもふるってその手腕をうならせていた。村人全員で、作物を一日が続く限り収穫しては、そこに色々な料理が当てもなく振舞わる。

貴族や王族もそれを見に、或いは食べにきたり。北フレア地方では、ちょっとした観光名所となっていた。

皆が忙しく動き回り、めまぐるしい一日になるのは目に見えている。当然辺りは、いつも以上に騒がしくなる訳だ。祭りは嫌いじゃないが、いつもの雰囲気ではない。そう、訳の分からない思考が働いて、俺は収穫祭に加わらず、酒場に引き篭もった。

マスターには、入口に鍵までかけてもらったんだからな。祭りの真っ最中に、こんな陰気臭い酒場に来る連中もいないだろう。朝から晩まで、酒を飲み続けるのも悪くはないと思っていた。

そう考えていたはずだったのだが、結局、「収穫祭」よりも面倒な出来事がその場で起きるとは、流石に俺も予想が出来なかったぞ。

辺りに響いた咆哮を聞いたのは、何時間前の事だろうか。話は、全てここから始まった。











 酒場の壁を粉々に粉砕した、一人の少女がいた。手に持っているのは、巨大な大斧。柄の長さは己が身長を越えていて、先端についた鉛の塊のような刃は、その紛れもない斬れ味を見せつける様に光っている。

 少女はそれを、まるで羽の様に軽々と振り回して見せた。

「ちょっと…カイゼル!!聞いてなかったの!?」

 顔を真っ赤に染めて、息咳している彼女は相当ご立腹のようだ。肩で呼吸をしながら、少女は床の木をぶち破りそうなほどその場で地団駄を数回踏み込む。

「まぁまぁお嬢さん。ここはグッと堪えて、さっさと目的をかたずけるのが一番よろしいですよ。そうですよね、カイゼルさん?」

 少女の後ろから満面の笑みを浮かべて現れたのは、長身の優男だった。顔立ちが良く、繋ぎ目のない全身服は、ヒーラーと呼ばれる「砲術」使いの服装。

青色の生地に、周りを白い線で囲ってているなんとも質素な神官服である。回復術を使う辺り卑しい心を持ってはいけないのだと、このような設計にしてあるらしい。

そんな男の言葉を切っ掛けに、カイゼルは酒場のイスからようやくその身を立たせた。短い黒髪をクシャリと掴むと、プレートアーマーの中に手を突っ込む。

「そんな訳だ、マスター。酒代は払っとく。ただ……」

 カウンターに銀貨を数枚落とすと後ろめたそうに、ポッカリ空いた壁にちらりと目を向ける。酒場の壁は見るも無残に崩壊していて、外の空気と一体化しているのではないか。

マスターもその現状に少し頭を悩ませるが、仕方なさげにカイゼルの広い背中を思いきり叩いた。親指を立てるその姿に、カイゼルは後光を見たという。

「はっ……なぁに、一度や二度じゃないからな。ツケといてやる。気をつけていくんだな」 

「ふっ。流石マスターだ。最高だぜ」 

 そんなマスターに、カイゼルも少し笑みを浮かべて親指を立てた。二人がカウンター越しで熱い抱擁をする様を、大斧を担いだ少女はその小さな口を開けて見つめていた。


「……カイ…、アンタとマスターって、まさか「コレ?」」

カイゼルがポッカリと壁に穴の開いた酒場から出ていくと、少女が小指を立てて、少し軽蔑の眼差しを向けていた。有りもしない事柄を急に押し付けられるのは、今の抱擁で確定と言っても仕方がなかったのだが。

「なんだと……エルナ、俺がマスターと穴兄弟とでも言うのか!?」

「いや、鍵閉めて二人きりだったし、何よさっきの」

 又も軽蔑の眼差しが突き刺さり、カイゼルは大きく一歩を下がる。

「ふむ。まぁ何も無かったとは言い切れないでしょうねぇ。酒が入ると、人間はケダモノになるものですよ」

 少女の他に、透きとおった声の持ち主がその疑惑を助長させるような物言いをするものだから。大斧の柄を地面に突き刺して、エルナと呼ばれた少女が目を細めた。

「レイグ……貴様、殴るぞ」

「いえいえ、冗談ですよ。カイゼルさん」

 神官服の男。レイグナートは、「クックック」と、厭らしい笑みを浮かべながら方に口元に手を当てる。この男の趣味は人をいじって楽しむ事らしく、争いが起きればそれを黙って見つめながらニコニコするような…そう言う野次馬的な事を好むらしい。

一層優男の笑いが強まった事で、カイゼルはその目に限りなく殺意を込めてみた。

無論、結果は分かっている。笑いは次第に大きくなるばかりだ。

 そうしている内に、村の入口の方から大慌てで走って来る青年が一人。片方の足の靴が無いのは、相当慌てて走ってきた証拠だろう。

エルナが自分の身を越える大斧を地面から引き抜くと、その男に顔を向けた。

「エルナさん、何とか全員の避難は進んでるぜ……!今「王都」に向かってみんな急いでる」

「えぇ。とりあえず、フェリネをよろしくね。あたし達もなるべく早く追いつくから」

 そう言うと、エルナはクスリと笑みを浮かべた。状況は一刻も争うと言うが、少女のこの余裕は幾分か青年の心に余裕を作っていた。その言葉に頷いた後、青年は元来た道をまた走り抜けていく。

彼が走り去った後、カイゼルは丸太のような両椀を前に組み、目を閉じて口を開けた。

「フェリネは、避難させたのか」

 その言葉に、エルナの微笑が途切れる。

「だって危ないでしょ?」

「まぁな」

 相槌を打って眉をひそめたカイゼルを、エルナはジッと見つめていた。

「まぁ、この辺でいいでしょう。カイゼルさん、お嬢さん、そろそろ行きましょう。私は「ドラゴン」に喰われるなんて真っぴら御免ですからね」

 ふとレイグナートの言葉に頷くと、カイゼルも目を開けて上を。正確には、巨大な山の頂上へと目をやった。

空は暗雲が立ち込めており、今にも一雨がくるかも知れない。昼間なのに、まるでここら一帯だけがすっぽりと闇に覆われた様な、そんな不可思議な現象が起きていた。

エルナが肩まで掛る髪を掻き上げると、その大斧を肩にかけて言う。

「ドラゴンの咆哮って言うのも、初めて聞いたわ」

 そう言うものの、その口調には恐怖や焦りが感じられない。むしろ、まだ見ぬ得体の知らない生物に向けての好奇心だ。

「そうだな……神話や、伝説では何度か耳にしたな。まぁ、口から火を吐く生物だか知らんが……俺は麒麟の方が恐ろしい」

「キリン?」

 エルナの疑問に、カイゼルは澄ました笑いを浮かべる。



「あぁ。これこそ、想像上の生物だがな」







 カイゼルが大きくそびえ立った山に目をやると、深く轟く豪音が、辺りに木々を一層震えさせた。
アルマ
2008年03月24日(月) 14時19分48秒 公開
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■作者からのメッセージ
どうも。設定だけ書きなぐったこの話。
とりあえず一章と言う形の「世界の唄 封龍と砲術師」 だけは完結させようと思っております。

1話が短いのは一応仕様のつもりです。
でも確かに2000もいってなかったですね;

追記:三代目Lさん。
まず最初に言っておきますが、モンハンではありません。
ドラゴン、麒麟等で連想されたのかと思いますが、全く別物です。

この作品の感想をお寄せください。
これってモンハン?
いや、モンハンなら他所でやるでしょw

魔砲って黒姫・・・!?

麒麟は普通に伝承としてあるでしょう・・・?
ドラゴンなんかファンタジーではつきものですし。
でもまあ、モンハンもドラゴンスレイヤーも似たようなもんですし、
混同してもしょうがないか。
30 生徒会長7 ■2008-04-07 20:15 ID : SRGaKim4DWg
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途中吹いたwwww 大体のところは分かる・・けど難しいような・・・俺の気のせいかな? 30 ケルベロス ■2008-03-25 22:26 ID : If3qiekeSNg
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難しい!なんか、ぐちゃぐちゃする………。誰がどうなった、だとか。色々と。
先が全く読めないストーリー。気になるかな。
30  凰雅沙雀 ■2008-03-25 08:13 ID : FZ8c8JjDD8U
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これってモンハン? 30 三代目L ■2008-03-24 14:12 ID : RC7OcmiRpKM
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穴兄弟wwwwww 30 mlk ■2008-03-24 13:45 ID : VCYg4qBnRYU
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