Criminal
「くはっ・・・もう食えない動けないリバースしそう・・・」

ベッドの上にドカッと座り込む。

夕飯は地獄だった。
もう腹がパンパンで動けない、彼女の母親と来たら俺に何回おかわりさせれば気が済むんだ・・・

覚えてられない程おかわりさせられて、断るに断れずひたすら食わされる。
「おかわりどう?」「おかわりどう?」「おかわりどう?」って、いい加減しつこい事に気づけよ。

そしてそれを止めないで横からニコニコして俺を見つめる彼女、「食べ盛りですねー」とかつぶやいてたけど決してそういうわけじゃない。

「凄くたくさん食べましたね、そんなにお腹空いてたんですか?」
「腹が減ってた事は否定しないがあんなに食うつもりは無かった、お前の母さんは人の顔色とか読めないのか?」

食事中ずっとそうだった。
とにかく喋る事喋る事・・・食事は静かに取るって親に教わらなかったのか?
口の中に物が入ってる時に喋るなと親に教わらなかったのか?
あ、いや、親もあんなだから教わってないのか、シチューは美味しかったけど。

「そろそろ落ち着きました?話の続きがしたいんですけど」
「全然落ち着かん、むしろエマージェンシーだ。俺の胃袋はそんなに頑丈じゃないんだ」

うっぷ・・・ちょっと喋っただけでテイルズオブリバースしそうだ・・・

「そうなのですか?でも時間が無いので続けさせてもらいますね」

なんだこいつ

「えと・・・どこまで話ましたっけ?」

なんだこいつ

「ああ、思い出しました、ここが何処で貴方がここに来たまでの経緯ですね。それじゃ次は・・・何か聞きたいことあります?私に答えられる事なら何でも答えますよ、あ、でもわからない事もありますから答えられなくても怒らないでくださいね。占い師と言っても限界があるんですよ、私なんかまだまだ未熟です、母と比べれば月とスッポンですよ。」

「・・・」

え、えーと?
喋りすぎて全部聞き取れなかった。
俺に何を伝えたかったのだろう・・・

「どうしました?まだ具合が悪いのですか?」

別にそういう訳・・・でもあるけど、このリアクションは少なくとも体調不良の所為ではないよ。

「と、とりあえず自己紹介してくれないか?占い師がどーのこーの言ってたけど」
「自己紹介・・・ですか?」

さっきとは一変して、「ふぅ・・・」とため息をする彼女。
感情の起伏が激しいというかなんというか。

「3度目の自己紹介になります。私の名前はアリシア、アリシア・ヤーです。つい今言ったとおり占い師をしています。貴方は?」

アリシア、ね
あーなんかそういわれれば何処かで聞いたことがある気がする、何処なのかは忘れたけど。

「俺は・・・イッヒ・ゼルプスト、職業は無い」
「イッヒさん、ですか。よく「発音しにくい名前だね」って言われません?」

どうだっていいだろそんな事・・・まぁ確かによく言われるが。

「ゼルプストさん・・・あぁ、パ行が邪魔です。なんと呼べばいいのでしょう?」
「知らんよ・・・」
「あ、そうだ、ゼルプストから取ってゼルというのは?」
「知らん・・・」

お喋りな奴に付き合うのは凄く疲れる。
いつ奴等が来るかわからないんだ、なるべくコンディションは最高にしておきたいしイメージも崩したくない。

「じゃあゼルさんです、ゼルさん、私に協力して貰えないでしょうか?」

あーそういえばさっき協力がどーのこーの言ってたな、何故見ず知らずの奴に協力せにゃならんのかと。
まぁ・・・シチューとご馳走になったし、聞くだけ聞いてみよう。

「何を?」
「・・・貴方は今まで、一人で、貴方の言う「奴等」と戦って来ましたよね?」

なんでそんな事知ってるんだ?
占い師って過去とかも見れるのか?

「奴等は、私たちは「ETI」と呼んでいます。勿論ETIが自ら宣言したわけでもなければETIに正式名称など無いので私たちが勝手にそう呼んでいるだけなのですが」

ETIか。
そういえば俺、今まで奴等の名前なんて知らなかったな。

「どういう意味でETIと呼んでいるのか教えてくれ」
「夢、希望を奪う・・・という所から由来しています」

なるほど。
ETIが何処の国の言葉なのかは知らないけど、夢を奪う所から由来しているのならこれ以上奴等にふさわしい呼び名は無いだろう。

「話を戻しますね。貴方は一人で戦ってきたみたいですけど、ETIと戦っているのは貴方だけではないんです。」

「ん、それって?」

「貴方や私のような能力は持っていないのですが、狂った世界を元に戻す為同じ志を持った人々が集まってレジスタンスとして活動しているのです」


・・・そんなの全然知らなかった・・・
二年間あちこち転々としてたけれどそんな噂は一度も聞いたことが無い。
まぁレジスタンスだから噂が漏れてしまっては元も子も無いのだが。


って、え?
「私のような」?


「ちょっと待て、お前もイメージが使えるのか?」

「はい、私の一族の秘伝です。貴方のような戦闘向きのイメージは得意ではないので前線に立つ事はあまり無いのですが・・・傷を治療したり未来を予知したり、そういったイメージが使えます、出来ます」

イメージに「戦闘向き」なんてあるのか?

夢を見る事が許されないこの世界ならではの表現なんだろうか、少なくとも俺は常に武器のことばかり考えてるいるわけではない。

俺は自由なんだ、「明日晴れるといいなぁ」とか「美味しいもの食べたいなぁ」とか、そういう事だって望める。
実際に叶う叶わないは関係無しで、ね。


「えーっと・・・上手く説明できないんですけど、貴方は双剣の構造を頭の中で映像にしてくださいといわれれば、出来ますか?」

「・・・あぁ、できる。いつも使ってる相棒だからな」

「では体の中身を細かく映像にしてくださいといわれれば出来ますか?腕時計の構造を映像に出来ますか?「未来」を映像に出来るでしょうか?」

そう言われると答えに詰まる。
腕時計なら5秒くらい維持できるが・・・体の構造なんて、心臓があって脳みそがあって肺があって胃があって、と漠然としかわからない。

未来?そんなの映像に出来るわけがない。

「つまりそういう事なのです。私は自分が争いごとに向いていない事を幼い頃からわかっていたから、傷ついた物を癒そうと体の構造について勉強した。貴方は生き延びていく為の知識を自分で身に付けた。その結果がこうなったわけです」

俺は武器について勉強した覚えは無い、が、「生きていく為」に必要なイメージをしている事は否定できない。
幼い日の俺は奴等を滅ぼす事よりまず「死なない事」を考えていたのだと思う。

死なない為にはどうすればいいか?
奴等より強くなればいい

死なない為にはどうすればいいか?
凄くタフになればいい

死なない為にはどうすればいいか?
戦わなくちゃいけない

戦う為には何が必要だ?
―――武器だ


「あぁ・・・わかったような気がする、でも未来予知ってのはわからないな」

「それは先程も言ったとおり一族の秘伝なのです、一子相伝のイメージです。私の一族以外に自力でイメージに目覚めた者がいる事も、その者がこの村に立ち寄る事もこの能力のお陰なのです」

「ふーん・・・」

その者ってのが俺の事なんだな。
不思議なもんだ。

「世界は広い。だから俺以外にも同じ能力を持ってる奴がいるんじゃないかとは思ってたが・・・判明してるだけで俺とお前だけってのはキツいな、今までよく生き延びてこれたもんだ」

「少なくとも今は、です。私はまだ占い師として完成していないので・・・もしかしたらまだイメージを使える者が何処かにいるのかもしれませんね」

そうだったらいいな。
考える事が「出来る」と表現しなくちゃいけない世界なんていらないんだ。
普通じゃない、おかしい。

今まで出会ってきた人間は「それの何処がおかしいんだ?」と俺を馬鹿にした
物だが、おかしいのはお前らだ。

夢や希望を持てず、それを知らないなんて・・・何の為に生まれて何をして生きて、何を想い死ぬんだ?

皆きっと今この世界に不自由なんてしてないだろう、だってそれを知らないんだから。
一応「夢や希望を持ってはいけない」というルールは知っているようだが、人はそれをルールとは思わず「それは何?」と思う。

俺はそんな世界が許せないし、理不尽に殺されたオヤジさんの為にも・・・



世界の歯車を、再び噛み合わせよう。



「わかった、協力させてもらう。いや協力させてくれ」

「ゼルさん・・・」

「おかしいんだこんな世界。何で夢を見る事が許されないんだ・・・人ってのは食って寝て子供作って死ぬだけの単純な生物じゃない、やりたい事があってなりたい物があるから人生楽しいんだ」

「こんな狂った世界、俺は絶対に認めない・・・!」

「ありがとうございます、そういって頂けると信じていました」

アリシアは目を瞑り、深々と俺に頭を下げた。

「礼なんていらない、俺の意思だ」

「はい・・・これからよろしくお願いします」

「随分話込んだな、もう遅いし今日はそろそろ寝るか?」

部屋の掛け時計を見ると、夕飯を食べ終わってから3時間程経ち時刻は0時を指そうとしていた。

「そうですね、家は宿屋も兼ねていますので部屋がたくさんあります。好きな部屋をお使いください、でもあまりこの部屋から離れないでくださいね」

「ん、寂しくて眠れないとか?」

「そんなんじゃないです、占い師として嫌な予感がするんです・・・できれば眠らずにいた方がいいのですが・・・」

「ふーん?なんだかよくわからんけど・・・そういうなら俺も気をつけるよ、それじゃあな」

俺はアリシアの部屋のすぐ隣の空き部屋で眠る事にした。

mlk
2008年04月27日(日) 15時20分31秒 公開
■この作品の著作権はmlkさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
オリジナル掲示板って「廃れてるな」とか思ってたんですけど、観覧数見る限り案外そうでもないかもですね。
これでコメントがもっといっぱい来ればいいんだけどなw

この作品の感想をお寄せください。
なんだかんだでコメント遅れたケルベロスです。

読んでて、なんとなくFateを思い出した・・・。
30 ケルベロス ■2008-05-04 20:30 ID : If3qiekeSNg
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狂った世界を元に。
さて、仲間が出来て……、『嫌な予感』………なんだろうね?楽しみですよ。
30  凰雅沙雀 ■2008-04-28 10:11 ID : FZ8c8JjDD8U
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