Criminal
朝、というにはやや早い時間、外が徐々に明るくなりつつある時間に目が覚めた。
久しぶりに安全な寝床だというのにこんなに早く目が覚めてしまうとは・・・これは最早癖なのだろう。

夜は遅くまで起きていて、朝は日が昇る少し前に起きる。
そんな生活を繰り返しているうちに癖になってしまったらしい。
大体4〜5時間程しか寝ていないが、こんな生活を繰り返しているうちに睡眠時間が短くても平気な体質になってしまったようだ。

むしろ眠りすぎると駄目なような気がしてきた。

「ふあああああ・・・」

大きな欠伸と背伸びを一つ。

さて、暇だ。
これからアリシアが起きてくるまで何をして過ごそう?
いつもは連中・・・ETIだっけ?がお約束みたいに襲ってきて、それを退けると丁度良い時間になってたもんだが・・・

まぁとりあえず、トイレに行って顔洗って歯磨きしよう。
歯磨きブラシぐらいならイメージで作れるし。

俺は体を起こしてベッドから降り、立ち上がってもう一度背伸びした後部屋から出た。




アリシアの部屋の前を横切り、階段を下りる。
床の冷たさに、自分が裸足であった事を思い出す。

いつから裸足だったっけ?
少なくとも昨日は脱いでないから・・・きっと旅をしているうちにどっかにやったんだろうな。

「あればいいな」的な物に過ぎないから、別にいらない。
服と靴と食い物と武器があれば大抵何とかなる。

でもそれは俺にとっての「最低限必要な物」であって・・・
最低限必要な物しかない生活なんてつまらないのである。

人間は、ご飯を食べて睡眠を取って排泄さえすれば生きていく事は可能だ。
しかしそれは生きる事が可能なだけで、ただそうやって人生80年を終える人間など何処にもいないだろう。

皆人と話したり、趣味に興じたり、やりたい事を見つけて自分の人生を豊かにしていく。
その事を考えると、今の俺やこの世界に住む人間って・・・何なんだろう?

これを疑問に感じる俺がおかしいんだろうか。
俺は違うと思うが。

「う〜、やっぱ朝は寒ぃ・・・」

寒いのは洞窟の中や砂漠の朝だけだと思っていたが、案外そうでもないらしい。
家の中だというのにこの冷え込み方、いろんな意味で鳥肌が立ちそうだ。

今って夏じゃなかったっけ?
夏はもっとこう・・・外に出たり動いたりするのがダルいぐらい暑かったと思うんだが。

そりゃまぁ朝だから寒いかもしれないけど、冬の朝と夏の朝どっちが寒い?と聞かれたら冬の朝だろう。

なんなんだもう・・・

「えと、洗面所洗面所・・・ここか」

昨日大量にシチューを食わされた場所がリビングだと思ってた。
今俺がいる場所は、ファミレスのような空間だった。

受付があって、テーブルがたくさんあって、店の奥の方にトイレがある・・・こんな感じ。

本当に受付がある所を見ると、本当にファミレスを経営していたりするのかもしれない。
このご時世、占いで食っていけるはずないんだからこういう事をやってても全然おかしくはないと思う。

ただ、テーブルや椅子には深く埃がかぶっており、しばらく使われた形跡はない。
受付カウンターのテーブルも埃がかぶっている。

テーブルの上に宿帳のような物が置いてある。
ちと拝借して読んでみると、ページの最初の方はチマチマとお客さんが泊まっていて・・・後になるつれその数が段々と減っていき、最後に大きく離れて一人宿泊した後から誰も宿泊していない。

「・・・よくこんなんで食っていけるな」

あまりにもさびしいノートなので、今日の日付の場所に

「イッヒ・ゼルプスト アリシアの隣の部屋」

と書き足しておいた。




洗面所、というか店のトイレのドアを開ける。
中に入ると女性のマークと男性のマークが書いたトビラがあった。

一応こんな店でも別けてあるんだな、と当たり前か。

女子トイレのドアノブは綺麗なのだが、男子トイレのドアノブは汚かった。
この家にはアリシアと母親しか住んでいない事を考えると、トイレはここにしかなくて二人ともここを利用しているのだろう。

でも男は居ないから男子トイレは汚いと、そういうわけか。

男子トイレの中に入ると、予想通り・・・予想以上に汚かった。
蛇口周りはカビが生えているし、天井には大きいクモの巣、床にはなんとコケが生えていた。

野原で用を足すより気分が悪いのは何故だろう。
カビとコケは我慢するけどクモの巣はどうしても好きになれない。

昔から多脚類は嫌いで嫌いでしょうがない、でもゴキブリとかは素手で潰せる。

と、そんな事を考えながら用を足し、手洗い蛇口に向かう。

(・・・さて、コップと歯ブラシ・・・)

目を瞑って、俺が昔使ってた歯ブラシの記憶を辿る。

一ヶ月前、半年前、一年前、二年前・・・見つけた。
それを思い出せる限り忠実に思い出し、イメージを作る。

本当はこんなくだらない事にイメージ使ってる場合じゃないんだが、まあいいや。


「―出来た」

恐らく1分と持たないので、速攻で歯を磨く。
予想通り磨いてる途中で歯ブラシのイメージは消え去ってしまった。

「あ、コップ忘れた」

仕方ないので手で水を掬い、口に含む。

―――その水を口に含んだ瞬間

「ぶッ!?なんだこの水!?」


口に含んだ水を勢いよく噴出す。
水の、味がやばかった、ソレと臭いも。

「なんだこの水・・・全然冷たくないし鉄みたいな味するし、それに生臭い・・・」

あー、なんかどっかで味わったような・・・




血か?

でも水の色普通だし・・・

「って、蛇口錆びてるだけかよ、焦らせやがって」

こういう、なんか場所が場所なだけにイレギュラーなことがあると本当に焦る。
水が鉄の味なんてしたらまず血だと思うのが普通だと思う。

しかし、なんだ。
なんかまだ生臭いな。

鉄は生臭くない、生臭いってのは魚とか動物の死体とか、そういう奴だ。

何か腑に落ちないままトイレから出る。

「ん、まだ臭う。何処だ?」

店内のファミレスゾーンに出てもまだ何処からか生臭い臭いが漂ってくる。
アリシアの母さんが早起きして魚でも焼いているのだろうか?

気になるので臭いのする方を辿ってみる。

臭いにつられて歩いていくと、そこは昨日食事をしたリビングだった。
あぁ、やっぱしアリシアの母さんが魚焼いてるんだな。
ジュージュー美味しそうな音が聞こえてくる、腹減った。

俺はリビングのドアを開けて、「おはようございます」と言った。

しかし返事は返ってこない。

「おっかしいな、誰もいないのか?」

しかし確かに魚の焼ける音がジュージュー聞こえてくるし、生臭い臭いもある。

このリビングは台所と一体になっているいわゆるダイニングキッチンではなく、ドアを開けて中に入るとまずリビングがあり、その奥にレースにさえぎられて台所がある。

「ヤーさん?台所ですか?」

台所の方を向いてヤーさんを呼んでみる、が返事はない。

「??」

俺は台所とリビングをさえぎるレースまで近づいてみる。
やっぱり生臭いし何かが焼ける音も聞こえる。

この音がうるさくて俺の声が聞こえないとか?
いや、でもそこまで耳悪いはずないよな・・・昨日は普通に会話してたし。

「ヤーさん?」

レースを開け放つ。






―――そこに広がっていた光景に絶句した


焼けていたのは、魚じゃなくて

生臭かったのも、魚じゃなかった


「・・・・・・・・・嘘だろ」

俺が今まで見てきた人の死で、ここまで惨い物があっただろうか。
否、無い。

人を焼くなんて・・・

「っ!誰だ!?」

急に背後に人の気配を感じ、叫びながら振り返った
この家にいる人間はもう俺とアリシアのみだから、アリシアか?

いや、違った。

それは俺の知らない人で、見た感じ「一般人A」な人だった。
問題はそれが誰なのかであることより、何故ここに居るのか、であるわけだが。

そしてその手に握られている物が、あまりにもリビングには不釣合いな物なのだから驚きである。

―――そんなんじゃないです、占い師として嫌な予感がするんです・・・できれば眠らずにいた方がいいのですが―――

「ナイフ・・・!」

そこから次の行動まで早かった。

一瞬で双剣のイメージを完成させ具現化し、投げつけられてきたナイフを切り落とす。


―――そんなんじゃないです、占い師として嫌な予感がするんです・・・できれば眠らずにいた方がいいのですが―――

くそっ、そういう事かよ!
駄目だイメージ中に混ざってくるな・・・!

「ぐっ!!」

残るもう一本のナイフを構えて突進してきたETIを受け止め、弾き返す。

―――くそっ、アリシアは無事か!?―――
ああ邪魔だ邪魔だ!!

余計な思考に気を取られ、背後に迫るもう一人の敵に気づくのが遅れてしまった。
体を右に傾け、振り向き様に右手の双剣を思いっきり振りぬいてやった。

剣は綺麗に敵の首を撥ねた。

そして次は正面の敵。

―――この敵は何処から来た?二階か?アリシアは・・・―――
だああもう!

芸の一つ覚えのように、再度突進して俺の急所を狙ってくるETI。
そんな事はとっくにわかっているので、考えるより先に体が行動してくれた。

俺の喉元を狙って突き出されたナイフをまたまた右手の双剣で叩き落し、ひるんだ所を左手の双剣で、同じように喉元を狙い切り返してやる。

剣は綺麗に敵の首を撥ねた。

「・・・ヤーさんはETIに殺された、のか?」

深呼吸して落ち着いてみる。
一瞬でたくさんの事が起こりすぎた。

アリシアの言う嫌な予感とはこの事だったのだろう、占い師の占いは伊達ではなかったという事か・・・

なんて考えてる場合じゃない、まだ家の中にたくさんの人の気配―――否、機械の気配―――が感じられる。

アリシアの所に行かなければ。

俺がそう決めると同時に、行く手を阻むかの用に音も無く現れるETI、数は4人。

「多人数相手するのは得意じゃないんだけどな・・・俺が行くまで無事でいてくれよ、アリシア!」

再度双剣のイメージを強くして、俺はETI供と対峙した。
mlk
2008年05月05日(月) 00時44分00秒 公開
■この作品の著作権はmlkさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
眠いいいいいいいい
長いけど頑張って読んでください><

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なかなか……。
情景が上手く伝わってきました。前半と後半の内容のギャップが、良かったです。こう……急展開! 見たいな?

誰が焼けたのか、そこが分からなかったのですが。ここは謎であるべく謎ですか?
40  風斬疾風 ■2008-05-06 16:55 ID : FZ8c8JjDD8U
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