死神は嗤わない【01】




 2011年、日本は二度目の被爆国となった。
 ただし、規模は最小限に食い止める事に成功し、ある“島”を除いては、被爆する事を逃れた。
 日本政府は合議の結果、この惨事を、事実上隠蔽する事に決定し、その権限を持って、『彼岸島』という存在は抹消された。


 主人公、桐原 修也(赤鬼)は、『彼岸島』の生き残りで、特殊能力に目覚めた彼は、同じく何処かで生き残っている筈の妹と会うために、国から末梢された身である彼を利用するために救った特殊境遇者保全局と呼ばれる政府機関と共に戦う事を決意する。






【プロローグ 01】


 三日月が、浮かんでいた――。

 数時間前まで降っていた雨の名残の雲に遮られ、朧に、怪しく輝く月の下、一人の少年が駆けていた。

 漆黒のロングコートを身にまとい、薄暗い路地を駆ける彼の姿は、まるで影のようであり、影の中に出来た黒点のような闇があった。

 と、不意に少年は立ち止まった。その視線は眼前の高層ビルに向けられている。

 ポツリ、と近くの街灯の下に人影が生まれた。辺りからも、次々と同じ影が生まれる。

「あんたは…一体何のために人を殺すの? “赤鬼”」

 低く、押し殺したような声が聞こえた。“赤鬼”と呼ばれたロングコートの少年は、視線を下に落とす。

 水溜まりの水面に、少年の顔が映っていた。しかしその顔は、いつもの自分――桐原 修也とは、まるで別人のようだ。自分ですらそう感じるのだから、他人なら尚更だろう。

「時間が、無いんだ。“螺旋”。俺はお前程、暇じゃないんだよ」

 先ほどの声の主が、唇を噛んだのが気配で分かった。辺りの無数の気配が、殺気立つ。

「だが――」

 少年が、機械的に笑んだ。その左目に、紅蓮の輝きが宿る。

「俺は“人”を殺した事は、一度も無いぜ?」

 漆黒の悪魔が、暗闇に浮かび上がった。



 *



 十二月の寒々しい空気が、東華市を覆っていた。

 天候は、晴れてはいないが曇りでもないといった微妙な感じで、何となく、車窓から見える景色は殺風景だった。

 空気の抜ける音が響き、八両編成の満員電車の扉が開き、修也は押し出されるようにホームへ躍り出た。

「ふぅ…毎日こうじゃ、たまらないよなぁ」

 思わず口を衝いて出た愚痴に、自分で苦笑する。もう二年も同じような朝を繰り返しているのに、何を今更。といったところだ。

 まぁ確かに、四年前までは電車など見た事は無かったし、あれから随分と、自分も周りも変わったと思う。

 学校も変わったし、環境も変わった。故郷と呼べる場所が無くなった。

 色々あったが、とりあえず、一番の変化は――家族がいなくなった。という事だろうか。

 修也は、高校生にしては無個性な黒髪を片手でかき上げると、瞳を悲しげに細め、ちょうど人の空いたプラットホームのベンチに座り込む。肩に掛けていた大きめのエナメルバッグは地面に下ろした。

 やっぱり、独りぼっちになったっていうのが、一番大きな変化かな――。

 何となく、修也が上を仰ぐと、電車の到着時刻を示す電光掲示板が目に入った。

 目的の電車は、後五分は待たなければいけないようだ。

 視線をずらすと、登校途中なのだろう、制服姿の女子三人が目に入った。その内二人を、修也は知らなかったが、一人だけ、妙に目立つハイトーンの声をした少女の事だけは知っていた。

 ――阿刀田 悠。同じ学校のクラスメイトで、彼女は……。

 と、噂をすれば、丁度、彼女と目が合ってしまった。咄嗟に目をそらしたが、意味は無かったらしい。悠は笑顔で友達二人に手を振り、こちらへと歩いて来る。途端にわざとらしい笑顔になった後ろの二人が、彼女の背中に何事か冷やかしていた。

 人ごみをかき分け、目の前に立った悠に、修也は今初めて彼女の存在に気付いたかのような振る舞いで、話しかける。

「おはよう。阿刀田さん。今日も寒いですねぇ」

 まずは、お世辞を言ってみる。すると、割と端正な顔を般若のように歪めていた少女は引きつった笑みを浮かべ、答える。

「おはよう…じゃないでしょう? 何であんたって人は! ――」

「おい、ここは駅だぞ?」

 怒声を上げようとした少女を、修也は自分の唇に人差し指を添え、遮る。

「うっ」と漏らし、しかし少女は不満気に少年を睨みつけると、そっぽを向いた。まるで拗ねた子供のようだ。などとはさすがに言えない。

 少年と少女の間に、微妙な空気が流れた。寒風が、修也の眼前に立つ少女のチェックのスカートをはためかせる。

 全く……何がしたいんだか…。

 数分経っても態度を改めない彼女に、少年はやれやれと溜息をついた。

「…まぁまぁ。でも、昨日は助かったよ。阿刀田さんが肩代わりしてくれなかったら、オレがやる事になっていたわけだし」

 内心とは裏腹に、修也は笑顔で謝辞をのたまう。

 『助かったよ』の部分を強調したお陰か、少しだけ、少女の真一文字に結ばれた唇が緩んでいた。――単純なヤツだ。

「……べ、別にあのくらいなら良いけどね。――でも、今回だけだからね! 金輪際、あんたの後始末なんてしてやんないからね?」

 ベンチに座っている少年に合わせて、腰を折ってまで念を押す少女に、修也は思わず苦笑し、両手で彼女を遮るようにして言う。

「はいはい。分かりましたよ」

 内心で舌を出しているのは内緒だ。

 と、そうこうしているうちに、プラットホームに電車の到着を知らせるアナウンスが響く。視線の先に、二つのライトが見えた。

「あら、電車、来たわね」

「見りゃわかる。……ってお前、友達の所に行かなくていいのか?」

「――あ、忘れてた!」

 修也が言うのとほぼ同時に、そう叫んで背後を振り返り、セミロングの長髪をはためかせ、走りだす彼女の後ろ姿は何となく、愉快だった。


 ――阿刀田 悠。彼女は、オレ、桐原 修也の同僚だ。戦友、といってもいい。

 四年前、日本が二度目の被爆国となった事を、政府は公表していない。

 そして、そのせいで地図から消えた島がある事もまた、公になってはいない。どこかからの侵略を受けた事を、現在はまだ、殆どの国民が知る由も無かった。

 桐原 修也と阿刀田 悠は、その島――『彼岸島』の生き残りである。特殊能力に目覚めた彼らを、政府はある機関に取り入れた。

 “特殊境遇者保全局”と呼ばれるその政府機関は、表向きは災害などにあった孤児達を保護するための機関であるが、実際は彼らのような特殊能力者を育て、国の治安を維持させる事に役立てようとしている機関だ。

 二人は、その機関に所属しているエージェントである。

 少し遠くに、頬を掻いて謝る少女の苦笑いと、早速今の修也との会話を詮索しているらしい少女二人のニヤニヤ顔が見えた。しかし、それも轟音を響かせ、ホームに入ってくる電車に合わせて動きだした人の波によって、すぐにかき消されていった。
L5トミー
2008年01月23日(水) 22時05分26秒 公開
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■作者からのメッセージ
こんにちわ。トミーです。

モンハン小説も未完ながら、こちらにも手を出してしまいました;; サーセン(死

色々忙しいですが、暇を見つけて更新していきたいと思いますので、どうかこの駄文を読んでやってください。
アドバイス、批判、もろもろ随時受け付けております。ではでは。

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「女性用風俗」男性アルバイト様、募集中!!女性会員様をもてなすお仕事しませんか?(〃▽〃)★ http://org.mbtu.net 10 彩乃 ■2012-10-11 05:50 ID : 1XzUNmc2Y6.
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よしっ、オリジナルを活性化させよう!
面白いです。楽しみに待ってますよ。
いくつか読めない字が、
『嗤わない』『阿刀田 悠』です。漢字弱くて……

さて、「俺は“人”を殺した事は、一度も無いぜ?」
予想するに、修也は殺した者の事を“人”と思っていない。ということか?
40  凰雅沙雀 ■2008-01-25 22:42 ID : FZ8c8JjDD8U
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オリジナル小説の新作久々に見ました。
楽しみにしてますね。
30 カイナ ■2008-01-25 19:48 ID : w9eT4U6tOE2
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最近オリジナルに来る人少ないよね・・・
面白いですよ僕には
30 ゴンザレス ■2008-01-25 11:55 ID : aMXdDh9LSeo
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合計 110
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