サモナーズストーリー 24章
「それっ!」

 男性は腕輪をつけた右手を振って妖精のような精霊を呼び出し、辺りを舞うように飛ばせる。と黒い髪をした小さな男の子は笑いながら言った。

「すごいすごい! とーさんはせかいいちのしょうかんしだね」

「まあな、だが一つ大切な事を教えておこう」

 その言葉に男性はふふっと微笑みながら言う。と少年は首を傾げながら聞いた。

「たいせつなこと?」

「そう。俺が召喚士としての仕事を行う際に常に心がけていることだ。それはな……」

 そこでその情景は消え去っていき、その少年は夢から目を覚ました。





「……」

 まだ外も暗い、がセントは目を覚ますと誰も目を覚まさないようにそっと部屋から出て玄関へと向かう、とそこの電気が突然点いた。

「院長……気付いてたんすか?……」

 セントはその正体を感づき、呟く、とその正体――院長はくすくすと笑いながら言った。

「血は繋がってなくてもあなたの親ですからね。話はあの方から聞きました、行くのでしょう?」

「ええ。あの人は森の入り口で待ってます、俺は行かなけりゃいけない」

「……あなたがこれからやろうとしている事は誰も知らないままと思っているでしょう? でも違う。少なくとも私は覚えていますよ」

 院長が穏やかにそう言うと、セントは「はっ」と笑いながらそれに返した。

「止めてください院長。俺はここでの今までの生活のようにただ喧嘩に出かけていくだけですよ。んじゃ、行って来ます」

「ええ、行ってらっしゃい」

 セントと院長はいつものように挨拶を交わして別れていった。そう、これは大半の人にとっていつもの日常、そうであるべきなんだ。セントはそう考えながらあの人のいる場所、森の入り口へと行く。

「お待ちしておりました。セント・プレアス、我が孫よ」

「久しぶり、じっちゃん。馬鹿の方のじっちゃんは?」

 老人にセントはにこっと微笑んで返し、その直後表情を一変する。と老人はこくりと頷いて返した。

「ええ、あなたの祖父、タルロス・サンディはこの森の中に研究所を構えております。セントの住むところの近くと言うのは偶然でしょうかね?」

「さあな、まあどうだっていい。ようやく思い出せたんだ。もう一人の自分とも言える精霊、それを道具にする計画……何としても潰さないとな」

「本来ならば私が命に変えても計画を頓挫させるべき……それを孫にお願いするとは……私も老いたものです……」

 老人は悲しむようにうつむく、がセントはまた笑いながら言った。

「じっちゃんは悪くないよ、悪いのは馬鹿の方のじっちゃんだ。んじゃ行ってくる。情報、感謝するよ。あ、それと、ついて来ないでよ。俺はもうあんたの娘、母さんの後について歩くようなガキじゃないんだから」

 セントはそう言って念を押し、森の奥へ向けて歩いていく。すると老人はふふっと笑ってその場に立った。
 それからしばらくセントは森の中をただただ歩いていた。熊や狼といった生物も何も襲撃を仕掛けてこない。がセントはずっと何かの気配を感じ取っていた。その後彼はここの風景に不似合いなひときわ大きな研究所らしき建物の前に立つと歩みを止めた。
 そしてセントは右の手首に着けている父の形見である腕輪を見つめながら呟く。

「ケリ、つけてくるぜ。父さん、母さん」

 それからセントは歩きだそうとする、がその前に背後の気配を感じ取るとふっとそれに気付かれぬよう笑い、また口を開く。

「ああそうそう、こんな俺にもいい女ってのが出来たからよ。いつか分かんねえけど近いうちに紹介するよ」

「え、ええぇっ!!?」

 背後からのその言葉と共に出てきたのは彼の仲間であり彼女――リムス・ルメウス。その表情は真っ赤で、口もパクパクと動かしている。それからリムスは何とか言葉を発した。

「い、いつから気付いてたの?」

「森に入って少しだな。ロイ達だっているんだろ? もう少し気配を消して邪魔になるもん潰すってのはできないのか?」

 リムスの言葉にセントはさらりと返す。と図星だったのかリムスは黙り込み、それから呟いた。

「だってセントの様子がおかしかったから、気になって……」

 リムスはぶつぶつと呟いているが、セントはそれを見てふっと笑い、その後真剣な表情になって口を開いた。

「まあ何でもいいが一つだけ、他の奴にも伝えろ。ついて来んな、こっからは俺一人の領域だ」

「っ……」

 その言葉にリムスが黙り込み、少しして何かを言い返そうとする、がそれは突如辺りに響いた音でかき消された。その音、セントの拳が握り締められた力で鳴った音は彼女の耳にはひどく強く響き、それからセントは彼女に背中を向けつつ口を開く。

「完璧にブチ切れてんだよ。全部纏めてぶっ壊すくらいにな」

 今彼は宣言した。今までのように仲間を守る、仲間のために牙を剥く、誇り高き獣の魂を一時的に捨て、昔のように全てを噛み砕く猛獣へと戻る事を。そしてまた彼は口を開く。

「てめえらまで巻き込みたくはない。頼む、一人で行かせてくれ」

 その言葉にリムスは何も返さず、セントは彼女に背を向けたまま振り返らず建物の中に入っていった。



「全く。父といい、貴様といい、どうして分からずやばかりなのだろうな?」

「知るか。俺はただ好きなように、自分の信じる道を進んでるだけだ。誰にも文句は言わせねぇ。だからてめえの腐った計画とやらもぶっ壊す、それだけだ」

 そこにいた老人――タルロス・サンディは見下したようにセントを見る、とセントははっとその言葉を一蹴する。と老人はあのカードを取り出した、がそのカードはただの黒ではなく、完全なる闇のような漆黒を表していた。それを見るとセントは半ば予想できていたと言うように言う。

「やっぱてめえか、その黒いカードを生み出した主は」

「あぁ。召喚士の精神力をあげ、精霊の戦闘力をも同時に上げる、これはその完成品だ。これがないとこいつは操れないのでな。精霊の力を濃縮した存在、精霊王は」

 そのカードを使った彼の背後からは今まで感じたこともないオーラが漂っている、とセントは彼を睨みつけた。すると老人はそれを感じ取ったかのように笑いながら言う。

「憎いか? そうだろう、貴様の父と母を殺したこいつが!! さあ、その憎しみを抱いたまま――」
「――あん? 何勘違いしてんだ? じじい」

 老人の言葉にセントは割り込み、そのまま続けて口を開く。

「俺がてめえを喰らうのは言わば気にいらねえからだ、親父とお袋の敵討ちなんざどうだっていい。てめえを喰らいきってそのついでに敵も討っておく。そんだけだ」

 その言葉に老人も唖然とする、がその後高笑いをして口を開いた。

「愚かな奴よ! ならばその思いごと粉々にし、吸収してくれよう! 精霊王よ!! 奴を潰せ!!!」

 その言葉と共に漆黒の球体となって現れた精霊はまるで雄叫びのような衝撃波を発する。がセントはそれに動じず好戦的に見える笑みを浮かべながら叫び返した。

「ヌカせよもうろくジジイが!! 喰らい尽くしてやるよ!!!」
カイナ
2008年11月21日(金) 20時15分57秒 公開
■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
カイナ:ついに戦闘スタート! その相手は数多くの精霊の力が濃縮された存在、精霊王と両親の敵とも言える彼の祖父。
セント:誰だろうが興味はねぇ、今回は完膚無きにまで喰らい尽くしてやるよ。
カイナ:やれやれ、恐ろしいことだ。
セント:まあな、でも今回ばかりはこれで行かせてもらう。
カイナ:えっと、まあそれでは。

ケルベロスさん:別にコメント遅れは構いませんよ。さて? これは予想できてたでしょうか?……えっと……言うことが思いつかない……
コメント……分かりました、少しは善処してみます。確かにまあやる気に少々違いは出るでしょうね。それでは。

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ちょっと予想外でしたね。 てっきり、セントに声をかけたあの老人が敵だと思ってましたから(苦笑

王って……王ですよね……、大丈夫なんですかね。セントは。
30 ケルベロス ■2008-11-24 22:42 ID : 8u0JUU1wUZY
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