フロンティア・ストーリー プロローグ
「……くそっ、まさか……」

 暗い部屋の中でその人物はコンピュータを見ながら頭を抱えていた。そのコンピュータには難しそうな文字等の羅列があり、何かのプログラムだろうと言う事しか素人には分からないだろう。
 それからその人物は観念したように息を吐く、が何かを思いつくとすぐにまたキーボードを操作し始めた。

「一か八かだ……」

 その男はキーボードを操作し、コンピュータに表示された茶色い髪の少年をじっと見つめた。





「こーらー、いい加減起きなさい! 竜一」
 
「ん……なんだよ、真由……」
 
 どこかの学校の一教室、綺麗な緑色の髪をポニーテールに結った可愛らしい顔の少女は、赤い髪がボサボサの短髪になっている少年を揺らして起こし、その少年はボヤーとした目つきでそう返す。と彼女とは別の、少し色素の濃い青色の髪を、こちらはそれなりに整えているらしい少年が言う。
 
「何だじゃない。もうホームルームは終わったぞ」
 
「あ、そうなのか? 悪い。ありがとな」
 
 その青年が言うと赤髪の青年――竜一は少し笑いながら礼を言って立ち上がった。それからさっさと荷物を入れたカバンを背負う。
 
「それじゃ俺は急ぐからさ。明秀と真由は部活頑張れよ」
 
「ああ」
「うん。竜一も剣道、続けたら良かったのに」
 
「爺ちゃんと婆ちゃんの手伝いが忙しいんでな。それじゃ」
 
 竜一の言葉に青髪の少年――明秀は少し笑いながら、緑色の髪の少女――真由は残念そうに言い、竜一はそう返しながら教室を出て、さっさと家へと帰っていった。すると白い板前の着ているような服を着てお爺さんが出迎えてくる。

「おや竜一、おかえり」

「ただいま。さてと、手伝いは?」

 お爺さんの言葉に竜一がそう聞くと、お爺さんは少しためらいながら言った。

「いつも言っているが、別に竜一まで手伝う必要はないんだが……」

「単なる恩返しだよ、父さんも母さんも亡くした小さい俺を引き取ってくれたせめてものね。さてと、皿洗いと料理運び、注文を聞く、どれやりゃいい?」

「まったく……皿洗いを頼む。客足は一段楽しているからな」

 お爺さんは少し呆れたようにため息を吐き、それからそう言うと竜一は「あいよ!」と元気良く答えて店内に入っていった。
 彼の名は伊達竜一、幼い頃に親を事故で亡くしており、今は祖父母に引き取ってもらっている。とはいえ生活は少々厳しく、その負担に自分の学費が入っていることから彼は中学からやっていた部活を高校入学と同時に止め、その時間を祖父母の営む定食屋の労働に使っているのだ。
そして仕事も一段落して竜一は自分の部屋に戻る、とそこには一枚の手紙があった。

「何だこれ?……何かの懸賞か?……こんなの出したっけ?……」

 まあ読めば分かるだろう。竜一はそう完結するとその封を破って中をさっと眺め、復唱しようと口を開こうとする、と突然自分とは別の声がした。

「ん〜っと、おめでとうございます。あなたは新作ゲーム[ユグドラシル]の体験メンバーに選ばれました、ね〜」

「うおっ!? ま、真由!? お前何でここにいるんだよ!?」

 そこにいたのは彼の幼馴染の少女――前田真由。が真由は悪びれた様子も無く返した。

「ここでちょっと間食して、ついでに遊ぼうかな〜っと思ってね。最近竜一と剣交えてないからつまんないしさ〜。それよりこれ、後の方に[ご友人をお誘いの上、地図の場所に来てください]ってあるしさ、一緒にいかせてよ」

「でも俺は店の手伝いが――」
「構わないさ、行って来い」

 竜一が困ったように返しているとすぐにいつの間にかその場にいたお爺さんが返し、それに竜一がまた驚いていると一緒にそこにいたお婆さんが返す。

「あなたは頑張ってます。たまに休みをとっても罰は当たりませんよ」

「爺ちゃん、婆ちゃん……ありがとう」

 その言葉に竜一はこくりと頷き、丁寧に礼を言う。とお婆さんはにこりと微笑んで言った。

「ええ、それじゃあ真由ちゃん、ごゆっくりね」

「はーい」

 その言葉に真由はにこにこと笑いながら返し、お爺さんとお婆さんがいなくなるとよっしと言うように部屋に座り込んだ。

「さってと、誰連れてく?」

「連れて行くこと前提かよ……そうだな、新作ゲームって聞けば明秀は飛びつくだろうし、あ、ナオ兄ちゃんにも聞いてみようか」

「りょーかい、ナオ兄にはアタシが聞いとくから明秀にはそっちがメールしてね」

 真由はそう言いながら携帯を操作し、竜一は「はいはい」と言って明秀宛にメールを送った。すると割と早くメールは帰ってくる、その内容は予想通りのものだった。

「明秀は来るってよ、あと真次も連れてっていいかって聞いてきたけどいいよな?」

「いいんじゃないの? ナオ兄も喜んで同行させてもらうってさ」

 それから二人はその細部を分かりやすくメールを送り、立ち上がって二人一緒に部屋を出て、ここの近くで人気のいないところに向かった。
 そして真由がその端正な顔を少し微笑ませながら口を開く。

「さってと、覚悟はいい?」

「ブランクはあるけど、まだ負けないぜ」

 二人はそう言いあうと竹刀を構えた。この二人は両方とも剣道経験者、しかもその実力は平均を軽く超えるほどだ。真由は現役剣道部で女子主将候補。竜一も帰宅部ではあるがその実力は部活さえやっていれば間違いなく主将候補になれるほどの実力だ。現に体育の授業の内剣道では現役剣道部のほとんどを楽々撃破している。
 それから二人はほぼ同時に防具無しの状態で竹刀を振っていく。がそれは全てが竹刀同士でぶつかり、一発も互いの身体に当たっていなかった。が竜一は真由の一瞬の隙を見つけると素早くその空いている場所――胴に打ち込む。

「……俺の勝ちだな」

「……ちぇっ」

 だがその竹刀は真由の身体に当たる前に寸止めされ、竜一がそう言うと真由は少し頬を膨らませてそう返す。それから竜一と真由は竹刀をしまうと一回家に戻り、真由は荷物を持つと竜一の家から出た。

「それじゃ、日曜にね」

「ああ」

 真由の言葉に竜一はそう返し、真由は剣道の胴着をぶら下げて帰っていった。
 それから次の日曜。竜一と真由、明秀と後二人、彼らより少し背の低い、茶色の髪を少し伸ばした少年と逆に少し背の高い、金髪を背中まで長く伸ばした、もう青年と言った方が正しいだろう男性が地図を持った真由を先頭に歩いていた。

「えーっと、この先だってさ。ほら、急いで急いで!」
 
 「やれやれ、相変わらず元気だな」
 「でもさ〜、新作ゲームって言うんだから楽しみに決まってるよ。アキに聞いて驚いたもん」
 
 真由は楽しそうにそう言い、金髪の青年がそう言うと赤髪の少年が返す。とそれを見た真由が叫んだ。
 
「ほらほらナオ兄に真次! 早くしなさい!!」
 
 真由が叫ぶと金髪の青年――ナオ兄こと直人と茶髪の少年――真次は少しペースを速め、竜一達もその後についていった。するとそこにあったのは大きな何かの研究所のような建物だった。それから竜一がその建物の前に立っている黒服の男にその紙を見せながら口を開く。

「えっと、ユグドラシル体験会場って言うのはここですか?」

「……伊達竜一様ですね」

「あ、は、はいっ!」

 竜一が言うとその黒服の男は重々しい口調で尋ね、竜一は少し驚きながらも頷く。と黒服の男は真由達をさっと眺めると軽く会釈するように頭を下げながら言った。

「お待ちしておりました。どうぞ」

「ど、どうも……」

 竜一はそう頭を下げながら返し、真由達も中に入っていく。と白服のいかにも博士と言うような風貌の男性がそこで待っていた。

「あなたが伊達竜一さんですな?」

「はい。友達も連れてきていいって言ってたので……」

「ええ。さて、これがそのゲーム[ユグドラシル]です」

 博士がそう言って見せたのはまるで人一人は楽に入れるカプセルのような風貌の大きなものとそれに繋がっている巨大なコンピュータ。それを見ると直人が尋ねる。

「……質問ですが博士殿、これはどう言ったゲームなんでしょう? シナリオ等は」

「簡単に言うとあなた方は勇者のような存在となり、魔王を倒す筋書きになっていると言えばよろしいでしょうか?」

 直人の言葉に博士がそう返すと真次が口を開く。

「王道パターンだね。まあいいや、面白そうだから早くやろ」

「ああ。博士さん! 早くこいつをやらせてくれ!!」

 真次が言うと明秀も待ちきれないと言うように言い、博士は頷くと五つのカプセルを開いた。

「ここに座ってください。後の接続は我々が行います」

 その言葉に従って竜一達はそのカプセルの中の席に座る、と係員だろう人がボクシングのヘッドギアのような風貌のゲーム機の一部らしきものを頭に取り付けたり手や足を固定する。それからカプセルがしまった。

「いくぞ……プログラムスタート」

 博士は素早くキーボードを操作していく。すると彼らの意識が遠のいていき、まるで眠るときのような穏やかな何とも言えない気持ち良さに包まれる。が博士は妙に浮かない表情をしており、いつの間にか来ていた、入り口にいた黒服の男もボソリと博士に向けて呟く。

「こんな事を、しなければならないなんて……」

「うむ、こんな子達にあの世界の命運を託すことになるとは……」

 黒服の男の言葉に博士も己のふがいなさを噛み締めながら自分の生み出してしまった特殊なプログラムの世界[ユグドラシル]へ入った少年少女を見つめていた。
カイナ
2008年12月21日(日) 19時01分41秒 公開
■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
カイナ:と言うわけで、新しい小説[フロンティア・ストーリー]お願いします。
竜一:今回はゲームに入ったか。ファンタジー……か?
カイナ:まあギリギリそうかな。ゲームの中とは言え。
竜一:そうか……
カイナ:さてと、これからどうなるものか……
竜一:何となく嫌な予感がするんだけど……
カイナ:気にしない気にしない、それでは。

ケルベロスさん:ありがとうございます。そして指摘の方は参考にさせていただきます。
はねかえりはセントの不良の比喩表現みたいなものですが、やはり難しいか……(当然だってのこのボケ!!byセント)わっ、何でお前がここに!?
テーマの絆……正直あの時適当に言っただけなんですよね、まあ当たってはいますけど。
最後はいつもの日常を取り戻す、とそう言う事です。
これは新作ですね、上手い具合にセント達をゲスト出演させるかな……余裕さえあれば。それでは。

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