フロンティア・ストーリー 一話 |
「……ん〜……」 赤髪の少年は静かにそうベッドの中で惰眠を貪っていた、が不意にまるで何かに呼ばれたかのように目を覚ます、とその少年の目は突然見開かれ、思考は完全にフリーズした。まあ自分の目の前で緑色の髪をした可愛い少女、早い話幼馴染が寝てたらそりゃそうだろう。 「うわああぁぁぁ!!?」 その少年――伊達竜一はその瞬間ベッドから飛び起き、勢い余ってベッドから落ちる。とそのズシーンとでも言うような音でその少女――前田真由も目を覚ました。それから目をこすりながら竜一に尋ねる。 「ほえ? どうしたの竜一?」 「い、い、いや、そ、その……あれ?……ここ、どこだ?」 竜一は赤く染まった頬を隠すように顔を逸らしながら言い訳を考えていたが、別方向を見ていると疑問を感じた。別に自分も真由もちゃんと服を着てるとかそういう意味ではない。今自分の見覚えの無い場所にいるのだ。 パッと見た感じではログハウスらしい木造建築、そしてさっきまで何故か真由と二人で眠っていたベッドとは別にもう一個のベッド。はっきり言って自分の部屋でも真由の部屋でもない。それに記憶が正しければ。 「俺達って確か、ユグドラシルの体験に……」 「あれ? そう言えばそうだね……ここどこ?」 それでようやく真由も気づいたのか辺りを見回す、とその時。 [あ、二人とも目が覚めました?] どこからか声が聞こえてきた、例えるなら天からと言うべきだろうか? と咄嗟に竜一が上に向かって叫ぶ。 「誰だてめえ! つかここどこだ!?」 [質問は一つずつお願いしたいですね。お答えしますと、私はこの世界でのあなた達の案内人と申しましょうか。そしてここはユグドラシルの、つまりゲームの中の世界です] 「「……はいぃ!?」」 それを聞くと二人は異口同音でそう叫ぶ、と案内人と名乗った声が説明した。 [あれ? 博士から聞きましたよね? あのゲームは簡単に言うと自分達がゲームの中に入るようなものだと] そう言えばそんな事を言っていたような言ってなかったような。正直に言ってあの時は新作ゲームができると言う嬉しさからかほとんど聞き流してしまっていたためさっぱり覚えていない。するととりあえず納得したように真由が言った。 「つまりここはもうゲームの世界ってことなのよね?」 [まあそう言う事です。もっとも、登場場所のプログラムを少々間違えていたようですけど] 「……てんめぇ……」 [人はミスをする生き物ですから] いけしゃあしゃあと言葉を紡ぐ案内人に竜一は行き場の無い怒りをとりあえず静める。と一つ疑問が浮かび、案内人に聞いた。 「一ついいか? んじゃ何であんたはここにいる? 最初っからあんたみたいなナビがいたらゲームの情報収集の楽しみが無くなっちまうんじゃないか?」 [あ、気づいてくださって何よりです。説明の手間が省けました……簡単に言うとちょっと面倒くさいことになってるんですよねこの世界、っとその前にお二人の名前は何でしょう? 何なら偽名で「ああああ」でも構いませんよ] 「伊達竜一だ」 「前田真由よ」 冗談を言う案内人の言葉には耳も貸さずに二人は正規の名前を名乗る。と案内人ははいと頷いて返した。 [竜一さんに真由さんですね、よろしくお願いします。えっと、話を元に戻しますが、この世界は現在、ゲームで言う魔王がいるよりも性質の悪い事になってるんですよ] 「簡単に説明してくれ。下手な比喩表現はいらないから」 案内人の言葉に竜一がそう言うと案内人は[はい]と律儀に返してから話し出す。 [この世界は博士が生み出したもの、しかしそれは厄介なものを意図せずに生み出してしまったんです] 「ウイルスか?」 [ある意味では似たようなものと考えてくれれば早いでしょうかね。説明を簡単にするために一回外を見てもらった方が早いでしょう。外に出てください] 案内人がそう言うと二人は顔を見合わせると一回頷き、意を決して外に出る。とそこに広がっているのは表情豊かに様々な会話をしている、小さくとも活気のある村の市場だった。それを見るとつい頬が緩み、竜一はフッと笑いながら言う。 「何だよ、どこが悪い状態なんだ?」 [ここはゲームの世界です。おかしいと思わないんですか? たかがプログラムに表情があり、自立して行動するなんて] そう言われて初めて気がついた。彼らの会話内容をよく聞くと決まったものを繰り返しているわけでもなく、またその動きもプログラムとは到底思えない。例えるなら人間そのものとしか言えないのだ。すると案内人が突然話し出す。 [博士がこのゲームをプログラムしていた際、突然このようなまるで感情を持つプログラムがどこからか現れた。我々はそれをブレンと呼んでいます。そのプログラムはもはや生物、しかも分かったことがあるんです。ブレンは普通のプログラムをブレンに改造する力を持つ] 「「?」」 はっきり言って全く分からない、と案内人はため息をついて言った。 [結論をはっきり言いましょう。ブレンはとても性質の悪いウイルスです。それがもし外部に流出してしまったらどうなります?] 単純なプログラムが意思を持つ、単純に考えればすごいことだがもしそれが悪用されたら……考えただけでぞっとする。と案内人はまたため息をついて言った。 [ブレンにはまだまだ解明できない未知の部分があります、と言うか正直解明できてる方が少なく、言うならばどこからともなく現れた未知の生物。そして、それが今のこの世界] そう言われてもう一度辺りを見回す、とそこに広がるのは現実と全く変わりの無い光景、それを確認すると竜一が真剣な口調で尋ねた。 「案内人、質問だが……俺達の今のこの身体はいったい?」 [あなた方はある意味異質です。ブレンの感染プログラムでもない、またこの世界のプログラムでもない。言うなれば特殊なワクチンプログラムです] 「ワクチンプログラム?」 [そう、そしてこれは博士からの依頼です。この世界を破壊してください] 首を傾げながら言う真由の言葉に案内人はそう真剣な声で言う、と竜一はため息をつきながら言った。 「なるべくならお断りしたいな」 [タダとは言いません。依頼成功の暁にはそれなりの礼金をご用意させてもらってます] 「……」 その言葉を聞くと竜一は黙り込んだ。報酬さえ手に入れば爺ちゃん達に楽をさせてあげられる、それを考えると竜一は頷いて言った。 「分かった」 「しょうがないなぁ、私もやるよ」 二人の言葉を聞くと案内人は満足そうな声で言った。 [ありがとうございます。というか実を言うと……その、簡単に言うとこのゲームをクリアしないと元の世界に戻れないというか……] 「あ、つまりなんだ。半ば強制というわけか」 [え、ええ……まあ……] その言葉に歯切れ悪く案内人は返し、二人はやれやれと言うように息を吐いた。すると気を取り直して案内人が言う。 [さてと、あなた方のお友達もこの世界にいます。まずは彼らと合流しましょう。場所は私が案内します] 「ああ」 「お願いね」 案内人の言葉に二人はこくりと頷いて言い、歩き出した。 |
カイナ
2008年12月23日(火) 19時02分26秒 公開 ■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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こんばんは、カイナさん。 コメントありがとうございました^^こちらでもどうかよろしくお願いします! と、あっちでもでしたがこっちの方でも書いている小説多いですね・・・。 そして今回、フロンティアストーリー読ませてもらいましたがゲームの世界に入った、という設定が非常に大好きなのでこれからも読ませていただきます。 それでは、また^^ |
0点 | 菅原啓汰 | ■2008-12-25 18:51 | ID : RMQ9H6N.2G6 | |
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