学園魂 中間テスト編Final 下 委員長ってノリでする人と真剣にする人の二つに別れるよね? |
──ガヤガヤ この日、ここ神乃学園は現在テスト中にも関わらず、ほとんどの生徒が体育館へ向かっていた。もちろんメガネ君の自分も含めて。 理由は簡単である。この学園の長、阿児学園長がいきなり今回のテストを早押しクイズですると言い出したのだ。先生なのにテストを早押しクイズでするなど、どう考えてもおかしいのだが、実の所、前々から計画されていたことなのではなく、本当にいきなり学園長が言い出したのだ。つまりほとんどの先生は納得していないようでかなり機嫌を悪そうにしているのが大半だった。せっかく先生達はテストを作り上げたというのに全くをもって台無しである。とD組の担任である斉藤はそんな風に言っていたのだが、斉藤自体はそんなにも気にしている様子は見せていなかった。 そんなことを誰もが思いつつもD組を含めた三年生達は全員体育館内へ移動し終えた。この学園の体育館はよくあるかまぼこの形をした体育館で一階、二階と鉄格子のついた窓が何個もついているのだが今回は緑色のカーテンが閉められている。しかし、体育館は天井についているたくさんの水銀灯で全体が明るくなっていた。生徒達が体育館に並び終えるのを見計らって、学園長はマイクを右手に舞台上へ出てきた。 「やあ。三年生の諸君! 今回はA組とD組の早押しクイズの観覧へようこそ!」 舞台上に出てきた学園長は妙に張り切っている。 「今回、ここに集まってもらったのは他でもない。君達にも一応審査員になってもらおうと思ってね。大丈夫。今回の早押しクイズのルールは簡単だ。まず、A組とD組から早押しクイズに参加するもの、ようするにクラスから代表者を五名選抜する。で、代表として選ばれた者は私から出題する問題に答えてクラスの点数をどんどん稼いでいく。一番多く稼いだクラスが勝ちで、今回の成績は大幅にアップさせる。負けたほうはそれ相応に成績は低くなるから注意だ。まあ、クラス対抗だから五人で協力するんだな。あぁ、ちなみに問題数は全部で二五問なんでよろしく。さぁ! 代表者は前に出てきなさい」 学園長はそう言って指示した。そしてA組、D組から五人が立ち上がるとその生徒は前に出て行った。残りの生徒はやけに仕方なそうな目で見送っていた。しかし、A組と言えば、ほぼ特別学級と言っていいくらい頭のキレる生徒ばかりだと誰もが知っている。もちろんD組が馬鹿集団だと言うことも……。もうすでに決着はついているものだと誰もが確信していたのだ。といってもソレはD組のことを何も理解していない者だけなのだが……。 両方向き合った状態の長机はA組とD組が対立しあうように十人は座った。長机には赤いボタンが置いていて見るからにもそれを押した瞬間どこからともなく「ピンポン!」という効果音が流れ出てきそうである。 ……妙に静かだ。なんだろうか? この張り詰めた雰囲気は。 と、その時、代表に選ばれ、前の席に座っていた滝本が突然。 「……俺達は、D組のためにも負けられない。すまないがA組よ。今回はこのD組所属、この俺、滝本が率いるチーム・パティスタが勝たせてもらう!」 なんと委員長らしい言葉だろうか、とつくづく思う。古林だけではなくD組の全員誰もが滝本を学級委員長にして良かったと思っていることだろう。しかしその時A組も少し口をはさむ。 「フン。噂には聞いてはいたが……。お前らが……チーム・パティスタか。馬鹿集団のクラスも捨てたもんじゃねェな?」 「んだとぉコノヤロー!!」 A組の挑発に早くも反応したのは上野だった。挑発したそのA組の生徒は、いかにもリーダー的雰囲気を香持ち出している。髪の毛の色は赤髪で、目は大きいがかなり鋭い顔つきをしている。特長的で一度会ったら忘れられない印象を持っている。 「まあまあ落ち着いてください上野さん。こんな奴ら僕達が一ひねりですよ。だからあんたは黙っときな?」 D組代表に選ばれた鈴木はなだめているのか挑発しているのか分からない(恐らくなだめているのだろう)がとりあえず、喧嘩事にはならずに上野も引いた。 「おぉコワ。馬鹿集団にはあんなヤツがいるのか?」 自嘲気味でさっきから挑発しまくっているA組のリーダーらしき生徒がさらに続けて言った。 「んん? おおそうだ、自己紹介ってェヤツを忘れてたな? 一応これが礼儀ってモンだろォよ滝本さんよ?」 全員が学園長の顔に目をやるが学園長もどうぞと言っているかのように目を配る。そう言ってA組は続ける。 「俺の名前は 五十嵐 凍也。A組で学級委員長を務めてンだがお前もそうだろォ?」 いうまでも無いと滝本は言って彼も自己紹介を始める。 「我が名は滝本 賢。言うまでも無かったようだがD組の委員長だ。D組のチーム・パティスタのリーダーも務めている」 その時古林は気付いた。滝本のしゃべり方がいつもと全く違うのだ。やはり滝本は二重人格でも持っているのだろうか? そんな事を考えている間にも五十嵐は切り出していた。 「んじゃ自己紹介は互いのリーダーだけでいいよなァ? 学園長! あとは任せた」 少し出番の数が減っていた阿児学園長はやっと自分が話しの中心になったと我に返り 「それではそろそろ早押しクイズに入っていきたいのだが、両者とも準備はいいな?」 両方の委員長はうなずく。 「それではただいまより早押しクイズを開始する!」 _________________________________ 学園魂 中間テスト編Final 下 委員長ってノリでする人と真剣にする人の二つに別れるよね? 妙に静まり返っている。なぜなら今まさに学園長が問題文を読もうとしているからである。つまり、今からここでA組とD組のバトルが始まろうとしているのだが、あの人はどうやらここには来ていないようだ……。らしいと言えばらしいのだが、少しばかりがっかりさせられる。いくら適当なあの先生でも……いくら冬休み無しとか残酷なことを言ったあの先生でもここにはいて欲しかった。 学園長はそんな事は気にも止めずに問題文を読み始めるのだった。 ……… 「っつぁぁ……だり……」 いたるところに書類や本などの山がその机にはたくさん置いてあった。ここ「職員室」といわれる場所には辺りにも同じような机はあるのだが、ここまで整理整頓が出来ていない机と言えば……斉藤先生の机。その机に座っている本人はD組の担任である。今、そのD組は、特別学級とまで言われているエリートクラスのA組と冬休みを賭けて戦っているのだ。冬休みを賭けることになったのはこの先生の責任なのだが、当の本人は今回のクイズバトルに関してはあまり興味を持っていないらしい。辺りには誰もおらず(恐らく全ての先生は体育館にいるのだろう)斉藤一人だけが椅子に座ってやる気のなさそうな表情を浮かべていた。 (なんつうか……。実は俺にはすでに臨時収入が入っていたりするんだなぁ……) そう思った瞬間だけやけに「にたり」と笑うこの先生。実はこの先生は二重で職業を持っていたりする。もちろん学園のほうは禁止しているのだが、この先生は違う職業をもう一つ持っていることには変わりないのだ。そこでその「もう一つの職業」のほうでたまたま給料日が早まったのだ。もちろんこの一ヶ月は生活できる程度の、である。 (なんだかんだであいつらにかなり残酷なこと言っちまったみたいだけど……。まあ今さら気にしても仕方ないか) そうして斉藤はふと何かに気づいたような顔をした後、席を立って「ピンポン!」という効果音が良く聞こえる、ある場所へと向かうのだった。 ……… ピンポン! その時ボタンを押したのだった。ボタンを押すということは今学園長が出題した問題に対して答えがわかったという意思表示をしているのだ。それと同時に辺りの雰囲気はより一層静まり返るのだ。そう……誰もが自分の組の勝利を願っているからだ。そして今ボタンを押したのは、 「はい! D組どうぞ!」 滝本だった。 「答えは……28,9%だ」 「……正解!」 「な、何ィ!?」 滝本の回答が正解だったことにA組代表チームのリーダー、五十嵐はつい、かなり驚き気味に言った。さらに五十嵐だけではない。A組の代表者五人その他の組の生徒達も唖然としているようで、特に驚いているのはD組自体もそうなのだが、それよりもやはりA組だったのだ。それもそのはずだった。滝本率いるチーム・パティスタのチームメイトは皆、問題を解く速さ、正解率が並大抵のものではなく、特別学級とまで言われているA組に対しても同等、もしくはそれをさらに上回った戦いを繰り広げている。 五十嵐はそのあとにかなり悔しそうな表情を浮かべ、 「つ、次だ! 次ィ!!」 そして明らかに動揺していた。恐らくだが、彼自体このような、この自分より上回った異常な実力を誇る者達を前にしてかなり焦っているのだろう。 「問題!」 学園長のその言葉によって『ジャジャン!』という効果音がどこからともなく聞こえてくる。どうやら辺りの雰囲気とともに、この早押しクイズバトルはかなり本格的になってきたようだ。現在の戦況は全二五問中、A組が六点、D組が十二点という、滝本率いるチーム・パティスタの活躍によってD組は大差をつけてA組を上回り、前代未聞のトップに立っているのである。そして校長が一九問目の問題文を読み始める。 「国語からの問題です。『恋』、『青春』、『海が干からびる』、の三つの語を使って男子なら女子を、女子なら男子を恋に落とさせてしまうくらいキュン! と来る文を五十文字以内で作文しなさい!」 (ちょっとここに来てこんなふざけた問題やめてくんない!? しかも最後のワードは何? 「海が干からびる」なんてどこで使うんだよ?) 学園長が出した問題に対して古林は心の中でだが、思わずツッコミを入れてしまった。五十嵐もかなりあきれた表情を浮かべながら、 「ちょっと学園長よォ? いくらなんでもこんなふざけた問題を無しにしようぜェ?」 「文句を言わんでくれ。余談だけど実はこの問題、ある学園の入試問題で出たんだなぁこれが」 (ちょ、マジですかそれは!? 全く……それが本当なら物好きな学校もあるもんだよ……) と、その時だった。不意にどこからともなく『ピンポン!』という効果音が発生したのだ。この音……、誰でも分かる。誰かがボタンを押したのだ。もちろんだが、ボタンを押すという行為は、答えが分かったという意思表示である。つまり、この短時間でこんな馬鹿げた問題に対し、文章を完成させた者がいるのだ。 そしてその回答者は……、 「は、はい! D組どうぞ!」 D組の……、 「こんな簡単な問題……、上野さんを見た瞬間と同じくらいヘドが出るよなぁ?」 この上野だけに挑発的なしゃべり方……あいつしかいない。 「んじゃ言いますよ? 耳かっぽじってよく聴いてて下さいね? 『恋なんて言う言葉は──」 そう、回答者は、一見、目の大きいかわいい系キャラだが、実はかなり腹黒い性格を持っている、鈴木だった。 「『そう思って──」 鈴木は続けてスラスラと短文を述べていく。 「『──さらに海が干からびるんだ』どうですかこれで?」 その瞬間辺りからドォッと歓声が上がった。どうやら三年全員が感動しているらしく、要するに男女関係なく物凄くキュン! となったのだ。残念ながらそれを聴くのを忘れていた古林は、その歓声の凄さに圧倒されていた。 「ああ凄い!! 素晴らしい! そして正解!」 学園長がそう言うと「失礼、ちょっと涙が」と言って、ポケットから青いハンカチを出して涙を拭き取っていた。残念ながら古林はついて行けなかったが、 (よくもまぁあんな語を使ってこんな歓声を上げさせたな……) とつくづく思うのだった。 ふと五十嵐を見ると、彼は感動しているのではなく完全に呆気に取られた表情をしていた。そして、 「あ、ああ……! ああ……! あああああああああああああああアアアアァァァァ!!!! 何故だ!? 何故そこまでの回答が出来る!? 何故そこまでする必要があるんだ!? 何故俺達A組に泥を塗るんだァ!!??」 五十嵐の叫びの中には驚きといった感情だけではない。怒り、迷い、悲しみ、憎しみ、ほとんどの感情を一気に体の中から吐き出したような、まるで断末魔のようだった。そして、 「何故だって?」 生徒達の背後からよく通った声が聞こえた。五十嵐は、 「何故だァ!? 答えは何だ!? 今すぐ教えろ!」 その異様ともいえる絶望的な顔をした五十嵐は回答を求めた。そこからは冷静な声が返ってきた。 「分からないか五十嵐? その答えは実は簡単だったりもするんだ。ようするに目標というものを立てたら必ずいつかはそれに手が届くようになる。お前にはそれが無かっただけの話だ」 「それじゃあ俺はこれからどうしたらいいんだァ!?」 「その答えも簡単さ……」 先生達と生徒達、ここにいる全員がその回答者の声の発信源に注目する。 「お前も目標を立てればいい。それは恐らく今のお前を救ってくれる」 その回答者、どこかで聞いたことのある声。そして、黒いフードについている帽子をを深く被って顔は薄暗く陰がかかって見えにくいが、あの人だ。やはりここに来てくれたのだ、あの先生は。 「なんだァその目標ってのはァ!? 答えを教えてくれェェェ!!」 その五十嵐の叫びにもその先生は冷静に、しかしほんの少しの笑顔で答えた。 「それはな? 今のお前に足りないものだ」 その先生が言った瞬間、五十嵐はハッ! とした何かに気付いたような、そんな表情をしていた。その時の一瞬の沈黙の静けさ。その静けさには『決断』と言った言葉が合っているのだろう。 「分かったよ……。今の俺に足りないもの……分かったよ先生……」 そう言って五十嵐はフラフラしながら体育館の出口へと歩き出し、 「ありがとう、答えを教えてくれて。斉藤先生。あんたは生徒をよく理解している……」 それだけを言い残し体育館から出て行った。残りの四人のA組の代表メンバーも五十嵐を追って体育館から出て行った。 ……… ある晴れたこの日は二学期の終業式だった。つまりこの日以降冬休みが始まるわけだ。そして今は終業式が終わり今年最後のHRが始まろうとしていたのだ。 「えーっと、それじゃあHRとっとと始めるから、滝本。号令頼んだ」 前の教壇にいかにもやる気のなさそうでしかも寝転がっているような先生。こんな先生学園に一人しかいない。斉藤先生だ。 「きりーつ!」 委員長の滝本が号令をかけ、全員が席から立つ。 「気をつけ!」 いつになっても変わらない風景。 「今からHRを始めます!」 いつになっても本当に変わらないこの風景……だが。 「着席!」 何故みんなつられるんだろう? っていっても自分もなぜかつられてるんだけどね……。 「礼!」 バコンバコンバコン! 時折グシャッ! という少し心配になる音が聞こえてくる。今の状況を言ってみれば、みんな委員長の号令につられて机に額を強打しているのだ。 D組にとって、これはいつもと変わらない、これが通常の号令となってしまったのだ。 「よーうD組! よくここまでがんばってきたなー」 額を強打したD組の生徒全員を眺めながら斉藤は言う。 「まぁ無事に冬休みはあるし、俺にも今月の給料あったし。俺もハッピーみんなハッピーっつーことで通信簿渡して今年はこれで終わりたいと思いまーす」 そう。あの時。あの早押しクイズバトルの時。D組は特別学級とまで言われているA組と戦って勝利した。正確にはあの後、A組は途中棄権をしたのだ。つまりD組は一九問目を最後に勝利したということになったのだ。ということで、冬休みというものはD組の中に存在していたのだった。 ところでだが。確か学園長は勝った組の今回の成績はアゲアゲとか言っていたような気がする。だから、今みんなに渡されている通信簿の成績は良いはずなのだが……。 「はーい。んじゃ次古林」 自分の番が来たので古林は通信簿を教壇にいる斉藤のところまで行って貰った。 (さてさて中身は……ってあれっ?) 通信簿の成績。それは、いつもと変わらない成績。学園長曰く今回の成績はアゲアゲのはずだったなのだが。 この学園の通信簿には、学園長が直々にコメントを書く欄があるのだ。古林はそこに目をやる。 世の中そんなに甘くはなかろう。通信簿とはその実力を数字にして記録するものなんだからイカサマはいかん! などと書かれていた。古林が気付いたころにはもうすでに辺りはため息の嵐だった。まあそうだろう。学園長の言葉に乗って動かされ、苦労し、そして蓋を開ければこの有様だ。 「まあ、落ち込むなってみんな? また次があるだろ?」 次、それは卒業式のはずだが……。 今回で何人がしばらく立ち直れなくなったのかは……言うまでもなさそうである。 学園魂 中間テスト編 Finish── |
N.H
2009年02月13日(金) 01時10分25秒 公開 ■この作品の著作権はN.Hさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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っちわ(:・ω・)ノシ とまぁ、軽いノリで挨拶も済んだところで本題。 とりあえず、アンケート? のようなものに対しては、『4』の『自分で決める』を……いや、まぁ、はい。ぶっちゃけこういうのは自分で決めたほうがいいですよ? 123から選ぶのであれば、私的には2ですね。理由を述べさせてもらえば、一度描き始めたら最後までやるべきだと思いますよ。えぇ。……私は何度か挫折してますが…………(汗 まぁ、頑張ってください。 チーム・パティスタは……そうですね。インパクトを受けたかどうかでは……あまり深い印象は受けませんでした。 凄いのはなんとなく分かりましたけど、もう少し『ドカン』とやってもよかったと思います。 派手に……といってもいいですね。私には具体的にとはいえないですが(技術が足りないため)インパクトを残そうと思うなら、それこそ派手にやってもいいと思います。しかし、派手すぎるのも良くないですが……。 投げやりな発言ですが、貴方の腕次第……と言うことになってしまいますかね、結論だけ言えば……申し訳ないです。 それから、このぐらいの長さなら長いとは私的には思いませんね。もう少し長い……私の小説の倍ほど(たまにというかNO17は20k越えてますが)……20kを超えれば長いと感じますが……私はそれほど苦にはなりませんでしたよ。 PS 学院長自由杉ww |
10点 | ケルベロス | ■2009-02-16 19:15 | ID : 8u0JUU1wUZY | |
合計 | 10点 |