フロンティア・ストーリー 七話 |
目を覚ました竜一に飛び込んできたのは真っ白な空間だった。周りには何も無く、本当に白い空間。 「ここは……おい真由! 皆!!」 竜一は混乱しながらも隣に倒れていた真由を揺り起こし、叫ぶ。と真由は少しずつ目を開けて身体を起こし、それからようやく呟いた。 「ここは?……確か私たちってあいつらに……」 「じゃあここは、天国か?」 「少なくとも地獄には見えないし……」 「どうなっているんだ……ここはどこだ?」 「くそっ、案内人! いないのか!?」 真由の言葉に明秀、真次、直人も口々に言い、我慢できなくなったのか竜一が案内人を呼ぶ、が案内人の声はどこにもなく、代わりに突然どこからか声が聞こえてきた。 [人間たちよ……] 「誰だ?」 その声に竜一は油断無く辺りを見回しながら返すが、辺りにはどこまで続いているかも分からない真っ白な空間が広がっているのみ。するとまたどこからか声が聞こえた。 [あなた達は、この世界を救えますか?] 「……は?」 そのどこと無く儚げで、優しさを感じる声の言葉に竜一は思わずそう素っ頓狂な声で返す。 [世界を、救ってくれますか?] 「どういう意味だ?」 どこから聞こえるか分からない声に竜一はそう問い返す。突然世界を救えるかと聞かれてもどうとも言えない。説明されないと答えられるわけが無い。 [救ってくれますか?] しかしその声はどこからともなく尋ね続け、辺りはしばらく沈黙に包まれる。と真由が口を開いた。 「救うよ」 「真由?」 「僕も」 「真次?」 真由の言葉に竜一が、真次の言葉に明秀が思わず言う。と直人も不敵な笑みを浮かべて言った。 「面白い、やってやろうじゃないか」 直人までもがその声に対して了承の意を示し、竜一と明秀は顔を見合わせるとふっと笑いあい、言った。 「ああ、救ってやろうじゃねえか」 「やってやるよ」 最後の二人の言葉に呼応するかのように空間が輝きだし、それと共に竜一達の中に不思議な感覚が広がっていった。 [その力はあなた達の助けとなるでしょう。あなた達の力を信じます。どうかこの世界を……] [皆さん! 皆さん!!] 突然案内人の呼ぶ声が聞こえてくる。その声に引っ張られるかのように竜一達の意識が戻っていった。 光が消え去った時、竜一達はさっきの噴水広場に立っており、ブーボウを初めとするモンスターは驚きの表情で竜一達を見る。が状況を理解するとブーボウの一体が棍棒片手に殴りかかってきた。 「ふぅっ、らぁっ!!!」 それを一瞥した竜一はブーボウの棍棒を防ぎ、斬り返す。と剣から烈火のごとく炎が噴出し、ブーボウを焼き尽くす。 「ガアアァァァ!!!」 それに驚いたか三又の槍を持った人狼が槍を突き出すが、明秀がその槍を受け止め、弾き返すと共に一気に自分の槍を地面に突き刺す。すると辺りに氷が波のように現れ、周りのモンスターの動きを止めていく。そして明秀は姿勢を低くし、それと共に直人の弓から放たれた矢がモンスター目掛けて突き進む。 「「「「「グギャアアァァァ!!!」」」」」 なんとモンスターの一体に着弾した矢から電撃が発され、そのモンスターの周りにいたモンスターまでも電撃の巻き添えにした。今までと違う、そうモンスターは考えたのかまた一斉に竜一達に向かっていくが、そこに真由が目を瞑って精神を集中し、カッと目を見開くと刀を振り下ろした。 ビュォンと風がそこを始点に衝撃波のように空気を振動させて衝撃波を作り出す。とその衝撃波をくらったモンスターはあっけなく吹き飛び、彼らの前に一筋の道ができた。 「今だ!!」 直人がいち早く叫んで走り出し、その後に明秀、真次、そして真由の手を引いて竜一が続いた。しかし流石に逃げ切れるような体力は無く、このままでは追いつかれる。そう全員が考えていた時、真次が急ブレーキをかけて振り返った。 「真次! 何してるんだ!?」 「真次君! 早く!!」 思わず竜一と真由は真次を通り越した後振り返って叫ぶ、が真次は呼びかけに反応せず、呼吸を整えていた。そして身体全体で斧を振り上げながら呟く。 「最後は僕に任せて……でりゃああぁぁぁ!!!」 真次は雄叫びと共に斧を力いっぱい地面に叩きつける。 ドオオォォォン!! と音が響き、大きな岩の槍が次々にモンスターを貫いていく。その槍はほとんどのモンスターを巻き込んでいた。 「凄い威力……」 技を出した本人である真次でさえも驚いており、四人もその後ろで唖然としていた。 [あ、あなた達……一体何が?……] 案内人は思わずそう呟くが、竜一達は攻撃をまぬがれたり、くらってもダメージの少なかったモンスターを警戒する。が相手もこちらを警戒しているのか再び襲ってくる様子が無い。それを感じ取ると竜一達はじりじりと後ずさりし、距離を取るとまた一気に逃げるように走り出した。モンスター達の追ってくる様子はやはり無かった。 ようやくモンスターを振り切って町から逃れ、竜一達は偶然見つけた川原で休憩する事にした。 [それで、あの力は一体?] 全員手近な石に座り込んで息を整えたのを確認してから案内人が口を開く。と真次がうーん、と考え込みながら言った。 「一体って言われてもね……やっぱりあれかな?」 [どういうことですか?] 真次の言葉に全員頷き、案内人の問いに直人が説明をしてから全員でまた考え始める。 「この世界ってのはこのゲーム世界[ユグドラシル]って事でいいんだよな?」 「ちょっと待て、んじゃあの声の主は博士さんか?」 「ないと思うよ。そうだとしても、こんな危ない時じゃなくってユグドラシルに来る時に力を授けない? 私だったらそうするけど」 [どういう事でしょうね?] 案内人もお手上げらしく、そこで会話は一旦途切れた。 それから全員それぞれの宿った能力についておさらいを始めた。とは言えどうやら全員炎や風といったものをある程度扱えるらしいので簡単にまとめるが、竜一が炎、真由が風、明秀が氷、真次が大地、直人が雷と見てほぼ間違いないだろう。 今回は竜一と直人がそれぞれの力を武器に込めて戦い、真由は風を衝撃波のように、明秀と真次はそれを地面を伝わせて波や槍のように具現化させたのだろう。 「……さて、あいつを何とかしないとまた別の町が被害にあう。急ごう」 竜一が立ち上がりながら伸びをしつつ言うと案内人が突然口を開いた。 [ちょっと待ってください、その前にその者について話があります] 「あいつを知ってるのか!?」 案内人の言葉に明秀が思わず立ち上がりながら言うと案内人は説明を始める。 [あの者の名は確か……タナトスだったと思います] 「タナトス? ってか思うってなんだ?」 案内人の言葉に竜一がそう聞き返すと案内人はまた詳しい説明を始めた。 [タナトスは元々このゲームのラストボスとして作られたプログラムだったんですが、博士達が危険だと判断し、やむなく一から作り直すためタナトスのキャラクターは削除されたんです] 「なるほどな。その削除されたはずのプログラムがブレンに感染し、暴走を起こしたってとこか」 [恐らくは] 直人の言葉に案内人はそう返す、と竜一が頭をかきながら返した。 「とりあえず、話が終わったなら急ごう。あいつを何とかしないとやばい気がする」 「気じゃなくって実際やばいよね。ああいうタイプは大抵ろくなことしないし」 竜一の言葉に真由も肩をすくめながら返す。そして休憩も終わりにし、五人はまた歩き始めた。 |
カイナ
2009年03月10日(火) 10時32分42秒 公開 ■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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こんにちわ。 久し振りのケルベロスです。 内容としては、ちょっと展開が急すぎるかと感じました。 新たな力。これについては、もう少し何かあってからのほうがよかったと思います。 『修行』とまではいかなくても、もう少し何かあった方が個人的は楽しめたと思います。 力の発現を全員一気ではなくて、一人一人個別に発動して、能力の発現速度の前後をつけたほうが個人的には楽しめたと思います。 個人的な意見ばかりで申し訳ないです、ほんと。 タナトス……私が描いてた没小説にも出てくるキャラですね。どうでもいいことですが。 コメントが遅れて申し訳ないです。それでは。 |
10点 | ケルベロス | ■2009-03-05 13:22 | ID : If3qiekeSNg | |
合計 | 10点 |