フロンティア・ストーリー 四話
 竜一達がユグドラシルの世界に送られてから初めての朝、直人は利隆達から買出しを頼まれていた。直人一人で行かせるのはどうかと思うが利隆が俺達は行けないんだ、と難しい表情で言われ、直人は何も言い返せなかったのだ。
 
「ま、一宿一飯の恩義もあるからな……あいつらは大丈夫なのか?……」
 
 一緒にこの世界に来ているはずの仲間、直人はその者達の顔を思い浮かべながら雑貨店へと足を運ぶ。
 
「いらっしゃい」
 
「5ジルバで肉を買えるだけ」
 
「はいよ」
 
 事前に利隆から教えてもらっている。ジルバというのはこの世界のお金の単位で1ジルバが銀貨1枚。つまり5ジルバなら銀貨5枚という分かりやすいものだ。ちなみに他にも金貨がゴルド、銅貨がブロズ、青銅貨はブラウという単位になっており、日本円に換算すると5ジルバは大体5000円くらいに換算される。

「ありがとうございましたー」

 直人は両手で肉を入れた袋を提げて[シルバー・ウイング]のアジトへと向かっていく、と突然聞き慣れた声が聞こえてきた。

「ナオ兄さん!」

「真由……無事だったのか」

 直人が向いた先にいたのは緑色の髪をした少女――真由。直人が笑みを浮かべながらそう言うと真由もこくりと頷いて返した。

「私だけじゃなくって竜一達もいるよ。ナオ兄さんはどうしたの? 買い物?」

「まあな。この世界に来て今はシルバー・ウイングってとこに世話になってる。案内しようか? 皆良い人だ」

「シルバー・ウイング!?」

 直人の言葉に真由は絶句したような表情で叫び返す、それに直人が首を傾げると真由は慌てたように言った。

「危ないよナオ兄さん! シルバー・ウイングは最近この町で傷害事件を起こしてるんだよ!! ほら」

 真由はそう言ってあの手配書を見せ、直人はそれを一瞥すると少し考えた後返した。

「シルバー・ウイングは皆良い人だ……そんな事をするなんて考えられない……」

「ナオ兄!」

「すまない、これを皆に届けなきゃいけないからまた後で。俺は俺の目で真実を見極める」

 直人はそう言うと真由に背を向けて歩いていき、真由はそれを眺めると急いで宿屋へと戻っていった。

「よう直人、遅かったな」

 直人が戻ってくると利隆は酔いが覚めている爽やかな顔で笑い、直人を出迎える。それから直人は適当な人に肉を渡すと利隆の前に座り込み、口を開く。

「一つ、聞いてよろしいでしょうか?」

「あ、ああ」

 その目はどこか真剣なものがあり、利隆は一瞬驚くがすぐに返す、と直人が尋ねた。

「さっき俺の知り合いにあったんです。その知り合いから聞きましたが、最近町で暴れまわる連中がいて、それがシルバー・ウイングだと」

 それを聞き、直人の見せた手配書を見ると利隆は見るからに苦虫を噛み潰したような表情をし、少し迷った後口を開いた。

「お前を俺達の仲間と見込んで話す」

「はい」

 利隆の言葉に直人はこくりと頷き、利隆は真剣な表情で続けるように言った。

「犯人は俺達じゃない。別の団体、ブラッド・ファングという奴らの仕業だろう」

「何故?」

「大方この辺を制圧したいというふざけた願望ってとこだろ、あいつらは俺達の敵だ」

 利隆は吐き捨てるようにそう言うとまた真剣な表情を浮かべながら続ける。

「俺達は確かに俗に言う不良やチンピラだろう、だが俺達は自分の魂や信念に背く真似だけはしねえ。俺達が戦うのは仲間を守るため、意味のない暴力は嫌いなんだ」

 利隆はそう言うと立ち上がり、辺りを見回しながら呟いた。

「くだらねえ長話だったな……腹も減ったしそろそろ飯だ、バーベキューをするぞ!」

「ひ、筆頭!」

 利隆がそう叫んだ直後、突然リーゼントの不良――ヨシが利隆に向かって走りより、その後ろからは別の不良が怪我をしている状態で抱えられながら現れる。

「どうしたんだ!?」

「ブラッド・ファングっす! 詳しいことはあいつらから!」

 それを聞くと同時に利隆は怪我をしている不良の方に走る、とその不良は絶え絶えながら口を開いた。

「ブラッド・ファングが……攻めてきやした……西の川原……まだ、仲間が……」

 そこまで言うと不良は気を失い、利隆は歯をギリと噛むとその不良を運んで手当てするよう指示し、立ち上がった。それからシルバー・ウイング全員に向かって叫ぶ。

「みんな、行くぞ!!」

『うっす!!!』

 言い終えると同時にその場を去っていく利隆、そしてその後に続く不良たち。だがその背には野蛮さは微塵も感じ取れず、どちらかというと頼もしいと言う感覚の方が近い、それを直人は眺めながらただ座っていた。
 しかし直人はため息をついて立ち上がるとさっきの手配書をくしゃっと丸めてバーベキューのために起こした火の中に放り捨て、歩き出した。

 

「ナオ兄が、シルバー・ウイングに?……」

 一方こちらは竜一達。真由がそう伝えると竜一は信じられないというような表情でそう返し、真由も頷いた後返した。

「シルバー・ウイングは良い人ぞろいだって……どう言う事かな?……」

「騙されてるか、あるいは……」

 明秀が冷静にそう言うと竜一は立ち上がってベッドの上に置いておいた二本の刀を取り、腰に挿す。それから真由に言った。

「ナオ兄ちゃんが嘘をついてるとも騙されてるとも考えたくはない。探そう」

「うん」

 その言葉を聞くと真由は立ち上がって腰の長刀を確認し、明秀と真次もそれぞれ槍と斧を肩に担ぐ。四人は互いに頷くと宿を出て直人を探し始めた。



 西の川原、そこには二つの団体が睨みあっていた。そしてその内の一つの団体――シルバー・ウイング筆頭――直江利隆が口を開く。

「何の用だ? ブラッド・ファング大将、斉藤修司」

「何の用だと? 分かりきったことを。やっちまえ!!」

 修司の言葉を聞くとブラッド・ファングは武器を構えてシルバー・ウイングに向かっていく、と同時にシルバー・ウイングも武器を構えてブラッド・ファングに突っ込む。
 利隆もまるで爪のような刃がついてあるナックルを構えて敵将である修司に照準を向ける、と修司はついて来いとでも言うようにその場を離れ、利隆はその挑発にあえて乗って後を追いかけた。



「やってるな……」

 戦いが始まってから数分後、直人は川原の上までやって来ていた。
 武器を弾かれ、数に圧倒されているシルバー・ウイング。人数では明らかにブラッド・ファングが優勢だ。

「ぐあっ」

 一人のリーゼントの不良――ヨシがナイフを弾かれて倒される。

「くそっ……」

 うつ伏せの状態のヨシはもはや立ち上がる気力も無い、すると突然直人がナイフを拾い、相手の釘バットを受け止めた。それを見るとヨシがかすれた声で呟く。

「直人……駄目だ……」

「俺もシルバー・ウイングの仲間なんでしょ? 仲間は守らないとすっきりしないんですよ」

「無理だ……数が違いすぎる……てめえだけでも逃げろ……」

 ヨシがそう言うそばで直人はナイフを鞘に収め、峰でブラッド・ファングを気絶させていく、そしてその言葉を聞くと直人はくすっと笑いながらそれに返した。

「心配ないですよ。俺の仲間が助けに来てくれました」

「なっ」

 その言葉にヨシは驚いて辺りを見回す、と確かにそこには自分達の見覚えの無い奴らがブラッド・ファングと戦っていた。

「なるべく殺すなよ! 分かってても人殺しは抵抗がある!」
「分かってるっての。あんたは自分の心配だけしときなさい!」

 二刀を振るう青年――竜一と普通のものより少し長い刀――長刀を振り回す少女――真由は互いにそう言いあって峰打ちでブラッド・ファングを気絶させていく。

「とう! やあ!」
「刃で斬るなよ! こっちも棒で打ってんだからな!」

 斧の刃がついてない部分でぶん殴る少年――真次と槍を逆さまに持ち、棒の部分で的確に相手の首筋やらを狙っていく青年――明秀。たった四人のはずなのに形勢は少しずつひっくり返されていた。それを唖然として見ているヨシを一瞥し、直人はふっと口を開く。

「こいつは借ります。それじゃ」

 直人はそう言い終えると共に不良の中を抜けていく。逃げるというわけではない、この場にいない筆頭――利隆を追いかけたのだ。



「もう逃がさねえ」

 利隆は修司を睨みつけながらナックルを構え、そう言う。既に不良達の戦いの形勢がどうなっているかなんて分からない、が彼はシルバー・ウイングがブラッド・ファングに負けるはずが無いとだけ信じていた。

「逃がさないだと? わざわざ二人だけで戦えるところに連れてきてやったってのによ」

「へっ、そいつぁありがたいな」

 修司がにやりと笑いながら言うと利隆も不敵に笑い返しながら言った。直後修司が利隆目掛けて一気に突っ込み、素早く蹴りつける。
 一見すれば不意打ちになるその一撃、だが利隆はそれをまるで予測していたように平然とした表情でガードしており、直後顔目掛けて殴り返す、が修司は顔をそらしてそれを避けた。不良達とは格が違う、もっとハイレベルでの戦いだ。
 修司は足払いをするかのように素早く、鋭く低姿勢での回し蹴りを行う。だがそれにも利隆は反応し、素早くジャンプしてかわすと空中後ろ回し蹴りで反撃する。流石にそれに反応する事はできずに利隆の蹴りが修司の側頭部を襲う。がしかし修司は全く反応しておらず、その打った感覚に違和感を感じ取って利隆は素早く構え直して後方に下がった。

「どうしたぁ、利隆? 全然効いてねえぜ」

「てめえ、一体何しやがった?……」

 利隆は修司に蹴りを打った時の感覚に呆気に取られる。あれはまるで鉄を打ったような感覚。だがそれは修司にとって攻撃のチャンス、素早く間合いを詰めて上からパンチを振り下ろす。利隆はぎりぎりで反応し、上から迫るパンチをかわすが、その際にもまた違和感、まるでゾウが目の前で足を下ろしたような重い空気の動きを感じ取る。

「なっ!?」

 修司の拳の当たった地面が割れた。その一撃を利隆がくらっていたら間違いなく自分の頭なんて砕け、命は無かっただろう。さらに驚いたのはその腕。

「修司……どう言う事だ?……」

「無駄だっての。今の俺様達にはてめえんとこの奴らが束になっても敵わねえぜ」

「……達?」

 利隆が気づいたようにそう言うと修司はにやぁっと不気味な笑みを浮かべて言った。

「ああ、まあ見た方が早いか?……オオォォォ!!!」

 突然修司が吼え、それと共に修司の肉体が赤く変色し、筋肉が盛り上がっていく。さらに頭に角が生えていき、それはもう人間というより赤鬼と言った方が近そうだ。

「ちっ……ぐ、あっ!」

 利隆は様子見のために素早く距離を取って防御の体勢を取るが修司は利隆が反応できないほどの速さで素早く接近し、利隆を軽く持ち上げる。

「終わりだな」

「ちっ、くしょ……」

 明らかに力が違いすぎる。首を絞められている利隆の意識が少しずつ薄くなっていく、が薄れいく意識の中自分達とは別の気配を感じ取った。

「ぐああぁっ!!」

 その直後一瞬修司の腕の力が緩み、その一瞬で利隆は手を振り払い、げほっげほっと咳き込む、と共に最近聞き始めた声が聞こえてきた。

「大丈夫ですか!? トシさん!」

「直人……」

 その声の主は上杉直人。利隆は少し驚いたような表情で直人を見るが、直人は修司を見据えながらナイフを構えており、利隆もそれの意味する事を悟るとナックルを構え直して言った。

「よし、話は後、まずはこいつを叩き潰すぞ!」

「了解」

 利隆が言うと直人はナイフを構えて少し姿勢を低く取りながら返す、と修司が川原に響き渡るように叫んだ。

「全員力を解放しろ!! こいつら全員叩き潰せ!!!」


 
「おわっ! 何だ!?」

 竜一は目の前の状況を理解すると同時に驚きの声を上げる。目の前の人間――ブラッド・ファングの者達が突然雄叫びを上げたかと思うとまるでモンスターのような姿に変わっていったのだ、が理解すると竜一は案外冷静に案内人を呼ぶ。

「案内人、これって一体?」

[さあ?……ブレンの感染による副作用のようなものでしょうか?……正直全く分かりません]

「まあいいや、これで少しはやりやすい。真由、足引っ張んなよ」

 竜一はそう言いながら峰打ちから真打ちに刀を持ち変える、と真由も同じようにしながら竜一に言った。

「分かってるわよ。一刀竜、伊達竜一君、いや今は二刀竜かな?」

 真由の言葉はからかい口調そのままだった。一刀竜とは一刀流と彼の名の竜からとったあだ名で、しかも地元では結構有名な名前だ。すると竜一は「はっ」と笑い返しながら言った。

「どっちでもいい。いくぞ!」
「はいはい!」

 竜一はそう言うと同時に目の前で剣を振り上げていた、強いて言うなら二足歩行の豚みたいな姿と化した不良を斬り捨て、真由もゴーレムのような全身岩の姿になった不良を斬り捨てながら返す。



「ったく、何だよこれ……」
 
「でも、一応人を切る感覚はマシになるよね……姿的に……」

 明秀が頭を抱えながら言うと真次も苦笑いをしながら返す、と明秀はため息をつきながら返した。

「そう考えとくか。でも人を斬るって事を忘れるなよ」

「分かってるよ」

 明秀の言葉に真次は苦虫を噛み潰したような表情をして斧を構え、明秀も槍を構え直した。
カイナ
2009年03月10日(火) 10時33分36秒 公開
■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
カイナ:さて、今回は結構急展開風にしてみました。
竜一:確かにな……何だあれ?……。
カイナ:謎は後々明かされるってことで。
竜一:へいへい……。

ケルベロスさん:まあ、色々あるんです。ホントに。
直人は強さ的にも性格的にも彼らのまとめ役ってとこですから。
接触はしましたね、まあそれでも離別、敵対はせずに助けてますが。それじゃ。

N.Hさん:気にしなくてもよかったんですけどね、よろしくお願いします。
直人は結構強い設定ですよ、まあ竜一達の内数人はその上を行く設定ですけどね。それでは。

この作品の感想をお寄せください。
すんません、ちょっと現実世界にて色々ありましてコメントが遅れました。色々ありまして……ね。はい。
今後もこういうことがないように気をつけますんで、はい。

内容についてですが、なんか、敵が化物? モンスター? 変t(ry   おk

表現方法で『ゴーレムみたいな』という描写がありますが、これはもう少し細かく描写したほうがいいのではないでしょうか? ゴーレムと一括りにしても、姿は色々あるじゃないですか? 岩、巨人、機械、四速歩行、人形、世間一般にいうゴーレムは人それぞれ認識が違うものですしね。
『ゴーレムみたいな』の前に描写してある、『二足歩行の豚みたいな』のように、もう少し細かな描写をしてみてはどうでしょうか?

まぁ、あまり要点ついてる場所ではありませんけど、その他で似たような描写を使おうとしていたら、細かなものに代えてみたほうがいいでしょう。

では、また。
30 ケルベロス ■2009-01-25 20:59 ID : If3qiekeSNg
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