フロンティア・ストーリー 三話
 ここはどこかのちょっとした広場と言うべきところだろうか? だがその雰囲気は明らかにほのぼのとしたようなものではなく、しかもそのど真ん中に突然見覚えの無い、金髪の男性が現れたとなってかなり騒ぎになっていた。
 その男性――直人は困ったと言わんばかりにその金髪をかいている、と突然鉄パイプのような棒を持ったリーゼントの不良が怒鳴るように尋ねてきた。
 
「だ、誰だてめえ!! 何者だ!?」
 
「上杉直人と言います」
 
「何者か知らねえが、ここに何も知らずに来たわけじゃねえだろ!?」
 
「正直言ってここがどこか分からないんですよね……」
 
 そのリーゼントの不良の声からの威圧感なんて気にもとめてないように直人は笑いながら言う。それにその不良はついに痺れを切らしたのか殴りかかろうとするが、その直前、突然それを何者かが制した。
 
「待て」
 
 その言葉一つでその不良の動きが止まり、後ろを向く。直人も「ん?」と言うようにその方向を見ると、そこには鮮やかな銀髪を短いながらもオールバックにしており、リーゼント不良より圧倒的な威圧感が発されている男性がいた。年は恐らく二十歳前後だろう。するとリーゼント不良が驚いたように叫ぶ。

「筆頭!?」

「お前はどけ、俺が相手してやる」

 その男はリーゼント不良にそう言って直人に歩きより、落ち着き払った表情の直人を一瞥するとニヤリと笑って口を開いた。

「いい面構えだな。名前は?」

「上杉直人と申します」

「歳は?」

「18です」

 質問に直人は丁寧に正直に答える、と男は「ほう」と呟き、言った。

「俺より二つ下か。俺の名は直江利隆だ、ここの頭をやっている」

 男――利隆は自分の名を名乗った後、直人を見据えるような目をしながら尋ねた。

「それで、何でてめえはここにいる?」

「……正直に言って、何が何だか分からないんです」

「へえ? 不思議なもんだな、まあそれは置いておこう。悪いがここを知られたからには簡単に返すわけにはいかない」

「申し訳ないですがお金は持ってませんよ。別に他言をする気もありません」

 利隆の言葉に直人は相変わらずの冷静な口調で返していく、と彼はふっと言うように笑ってそれに返した。

「金じゃねえ。あんたの他言しないという言葉はとりあえず信じる、が確信を得るためにあんたの度胸を試させてもらおう。ヨシ!!」

「うっす!!」

 利隆の言葉に返したのはさっきのリーゼント不良、直人が彼を確認すると利隆はにやりと笑いながら返した。

「今からあんたにはヨシと戦ってもらう。なに、怪我をしても治療ならしてやっから安心しな。ついて来い」

 そう言い終えると利隆は踵を返して歩き始め、直人もその後について歩き始める。その先にあったのはおおよそ五メートル四方で長い木を立てて四角形をつくり、それをロープで囲んだ即席のリングだ。それを直人が眺めていると利隆が説明を始めた。

「ルールは簡単だ。一対一でやりあう、だが武器は無し。素手と素手のやり合いだ。分かったな?」

「ボクシングみたいなものか……はい、おおよそ理解はしました」

 利隆の説明に直人はそう呟きながら頷き、利隆はそれを見るとふっと笑いながら指示を出した。

「ヨシはそっちから、直人はこっちからリングに入れ。始めるぞ」

「うっす!!」
「はい!」

 利隆が指示をするとヨシと直人は拳を守るためのグローブをつけてリングに入る。そしてレフェリーをかって出たのか利隆が両手を挙げて口を開く。

「ヨシ対直人、レディ――」

 次の合図が試合開始の合図。直人は構えを取りながら指示を待ち、ヨシも不敵な笑みを浮かべながら待った。

「ファイッ!!」

「らぁっ!!」

 利隆の合図と同時にヨシは一気に突っ込み、直人の左頬に拳を叩き込んだ。入った、とそれを見た観客全員がそう思うが、打ち込んだ本人であるヨシは驚いた表情をし、レフェリーの利隆はヒュゥと口笛を吹く。
 直人はあの速さのストレートに反応し、上手い具合に首を動かして衝撃を逃れていたのだ。そしてそのまま身体を回転させ、遠心力のおまけをつけた裏拳をヨシの脇腹に叩き込む。

「ぐっ」

 その一撃についヨシは声を上げるがすぐ反撃と言うように左の拳を叩き込む、その一撃は今度こそ直人の頬に入るがそれまで。直人は身軽なフットワークでさらに迫ってくるヨシの拳をかわし、一気に懐に潜り込んでジャブの要領で数発パンチを入れ、止めと言うように相手の腹目掛けて小アッパーのように右の拳を沈めた。

「がっ、こなくそ……」

「そこまでだ!!」

 ヨシはうずくまりながらも拳を構えようとするが、その前に利隆が叫ぶ。それから利隆がリングに入ってくるとヨシは納得できないと言うように口を開く。

「筆頭、何でですか? 勝負がつくまで終わらせないルールのはずじゃあ?」

「お前は気づいてなかっただろうが、直人はさらに左の拳を振り下ろしかけていた。それをくらっていてまだまともに戦える自信はあるか?」

「くっ……」

 その言葉を聞くとヨシは悔しそうにリングを降りる。それから利隆はふっと笑いながら直人に顔を向けた。

「お前の勝ちだ、中々やるじゃないか」

「ありがとうございます」

 その言葉を聞き、直人が頭を下げると観客から歓声が上がる。そして日が暮れ、直人は利隆に連れられてたくさんの人前に立っていた。

「[シルバー・ウイング]の新しい仲間、上杉直人だ!! よろしく頼むぜ!!」
「あ〜えっと、よろしくお願いします」

 利隆の言葉と共に歓声が上がり、直人は礼儀正しく頭を下げる。その後は盛大に盛り上がっていた。バーベキューを肴にして酒を飲み、シルバー・ウイングの面々はすっかり酔っ払っている。
 流石にこっちの法律は知らないが一応未成年である直人は酒を飲んでおらず、酔っ払った不良が騒ぐ中で直人は隣で少し難しい顔をしながら酒を飲んでいる利隆を眺め、ふと口を開いた。

「どうしたんですか? そんな考え事をしてて」

「あ?……ちょっとな。知らない方が幸せってやつだ……」

 利隆はへへっと笑いながら静かにそう返すと酒を一気に飲み干し、立ち上がってまた酒を酌みながら直人に言った。

「おら、今日はお前の歓迎会みたいなもんだぞ。しっかり食え」

「あ、はい。お言葉に甘えて。利隆さん」

「トシで構わねえぜ。何なら筆頭にするか?」

 ひっひっひ、と酒を飲みながら意地の悪い笑みを浮かべている利隆の顔は赤く、酔っていると言う事を察すると直人はくすっと笑いながら返す。

「トシさんにしときます。一応年上なんで」

「遠慮はいられぇろによぉ」

「はいはい。水でも持ってくるんでそこで待っててください」

 どんどん利隆の呂律がおかしくなりかけており、直人はそう言って利隆を座らせ、水を探しに人ごみへと歩き出した。


 
 一方こちらは竜一達、彼らは案内人の案内で一番近い町――ツェンレイへと足を進めていた。そして竜一は辺りを見回しながら呟いた。

「すっごいなぁ、ここがゲームの中なんて信じられない……」

[ええ、ですがあなた方の使命はこの世界の破壊です。お忘れなきようお願いしますね]

 竜一の言葉に案内人が返す、と竜一は「はいはい」と軽くいなすように返した。すると真次が何かに気づいたように言う。

「あれ? 何か人通りが少なくないかな?」

 真次に言われて気づくが、確かに今はもう日が暮れ始めてはいるもののそれにしたって人通りが少ない。すると突然少し歳をとった女性が声をかけてきた。

「あら? 若いのに旅か何か?」

「え、あ、はい。まあそんなもんです」

 その言葉に真由はにこりと微笑みながら返す、とその女性は微笑みながら返した。

「若いのにえらいのねぇ。でもこの町にはあまり留まらないほうがいいわ、説明するよりこのチラシを見れば早いわね。はい」

 女性はそう言いながらビラ束の中から一枚を真由に見せ、全員がそれを覗き込んだ。するとそこには[お尋ね者]と言う大きな文字がある。恐らく指名手配書のようなものだろう。そしてその下には
[不良集団[シルバー・ウイング]によるものと思われる事件が続発しております。被害に注意すると共に情報も随時受け付けております。何か知っていることがあれば最寄の自警所までご一報を]
とあった。それから女性が口を開く。

「最近この町を荒らしまわってる不良集団でね、怪我人まで出る始末なのよ。銀の翼なんてかっこつけておいてねぇ。この町に留まるんなら宿を取ることをお勧めするわね。それじゃ」

 女性はそう言うと歩いていき、竜一達はとりあえず礼をしておく。それから竜一が口を開いた。

「しょうがない、宿を探そう」

「金は屋敷からちょろまかした分しかないから無駄遣いはしたくないのにな……」

 竜一が言うと明秀がそう返す、がしょうがないという結論に至って四人はなるべく安い宿を探し始めた。
カイナ
2009年03月10日(火) 10時37分40秒 公開
■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
カイナ:さてと、ここからどうなるかな?
直人:何故俺だけこんな事に?
カイナ:一人だけ個別行動ってのも面白そうだし。
直人:やれやれ。
カイナ:冷静だねぇ。
直人:持ち味なんでな。
カイナ:そうですかっと、それではこの辺で。

ケルベロスさん:いえいえ別に構いませんよ、わざわざありがとうございます。
あれは竜一にとってかなり驚いた事件でしょうね、ふふふ……。偽名の「ああああ」は完全に思いつきのネタですが。
ユグドラシルの世界は実際には平和でしょうが、竜一達の世界、現実世界では厄介かもしれないと言う事ですよ。まだまだあの世界には謎がありますけどね。
登場した先で馴染んでるのは執事達がそのようなプログラムなのと彼らの順応性故でしょう。竜一のあれは順応性の一言で片付けられたら凄いですが。
きょ、興味がいくですか……頑張って考えないとな……。
今回直人はこの通り、思いっきり不良集団に馴染んでしまいました。まあ彼ら自身悪い人達ではないので。それでは。

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どうもはじめまして! N.Hと申します! 自称 初心者ですww
前々からコメントしたいと思っていたのですが……。サモナーズストーリーは途中から読んだのでコメントし辛かったんです。

 で! ついに新作が始まったということで楽しく読ませてもらおうと思ってます。


 感想なんですが

 見たところ直人さん相当強そうに思えました。
例のシルバー・ウィングでは思いっきり活躍しちゃうんでしょうか?

 次回楽しみにしてます!
30 N.H ■2009-01-01 11:00 ID : 5/lNVff4/V6
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シルバー・ウィング……不良集団。利隆。直人。まぁ、色々あるンすねww

直人って色々な意味で凄いですねw 性格も、強さもww


直人と、竜一たち同じ町にいるようですねぇ。 次回辺りに接触? 離別?ww 敵対?ww
↑ あまり着にしないでくださいねww
30 ケルベロス ■2008-12-27 23:47 ID : If3qiekeSNg
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