サモナーズストーリー 18章
 ロイがヤクザの組に入り、それに何か弱みが握られてるんじゃないかと睨んだセント達は、エレナの言っていた人物――ソウシ・セルニアがいるかもしれない場所へ来ていた。
 その場所とは以前セリアが誘拐された時、手がかりを探すために来た街の裏、つまり不良達の溜まり場だ。
 そこにセント達は以前のようにずかずかと入り込み、また以前のように不良の一人が近づいて口を開く。

「おいてめえら、一体誰の許可……!!?」

 その男はセントの姿を見た瞬間驚いて口を閉じる。まあ少し前に幻影の狂戦士という肩書きのついた程の男と一緒にやってきてここの不良を全滅に追い込んだ男が来たらその反応は普通だろう。それからその後ろに居たエレナが前に出て来て口を開く。

「あの、ここにソウシ・セルニアと言う方はいらっしゃらないでしょうか?」

「ソ、ソソソソウシさんっすか! た、確かいたと思います!! い、い今連れてきます!!!」

 男はどもりながらそう言って奥の方に走っていき、数分するとあの時にロイが話していた、茶髪を目がかかるギリギリまで伸ばした男がやって来た。

「……てめぇらは確かロイの仲間とか言う奴らだな……何の用だ?」

「ソウシさん」

 ソウシはセント達を見て思い出すようにそう言っていたが、が突然エレナが口を開くと今その存在に気付いたようにソウシは驚き、それから呆れたように言う。

「ロイに続いててめえもかエレナ。てめえがここに来るってことはロイ繋がりだな?」

「はい。その、ロイのあの事についてなんですが……」

 あの事、それで全てを悟ったようにソウシは重い表情になって頷き、セント達に背中を向けながら言った。

「ついて来い……流石にこんなとこで話すにはな……」

 ソウシがそう言うと全員頷いてその後について行き、人気の無いところに来るとソウシは小さな段差の上の段に座り込みながら言った。

「立ち話もなんだ、適当なとこに座ってろ」

 ソウシがそう言うとセント達はそこらの段差や地べたに座り込み、それからソウシが口を開いた。

「あの事か……正直思い出したくもねぇな……」

 そう言うとソウシは煙草に火をつけようとするが、エレナが少し不機嫌そうな表情をすると「う」と唸って火を消し、それからまた口を開いた。

「ありゃぁ今日で丁度4年前だったか……その前にお前ら、精霊暴走って現象を知ってるか?」

 ソウシが確かめるようにそう言うとギィがその言葉に返した。

「確か精神が不安定な状態で精霊の力に目覚めた時、その不安定な心で精霊までも不安定になり、暴走を起こすって現象でしたっけ? 滅多に無いことですが」

「ええ。また幼い子供が稀に起こす事故と聞いたことがあります」

 ギィの言葉にセリアも言い、それにソウシは頷いて返した。

「ああ、精霊ってのは心の存在。心が不安定だと精霊は暴走を起こしちまう……普通幼いガキが誤って召喚腕輪を着けちまって起きる事故のことだ……だが例外がある」

「……召喚腕輪は単なる道具、理論上では腕輪無しでも精霊の召喚は可能。という訳ね」

 ソウシが言うと今度はリムスが言う。ちなみにセントは授業中に寝てたため、話に全くついていけてなかった。それからソウシが話し始めた。

「ロイはその三つ目に当たるんだ。召喚腕輪も無しに精霊が目覚め、無意識に召喚しちまった。召喚腕輪ってのは精霊の召喚力を上げ、また事故を防ぐための言わば制御装置。それが無い状態で身体の内からもの凄い力が湧き出てきちまったらどうなる?」

「……よっぽど精神力の強い者でも無い限り、動揺を起こす」

 その言葉にセントが呟くとソウシは頷き、また話す。

「精霊暴走には続きがあってな。稀にその精霊の暴走に巻き込まれて召喚士自身が暴走を起こす、まあ猛獣みてえに近づく者全てぶっ壊すと考えたら近いか。そんな状態に幻影の狂戦士なんて肩書きのついた人間がなっちまったら……簡単だな?」

『……』

 その言葉に全員言葉を失い、ソウシは消えゆくような言葉で呟いていった。

「ロイはその暴走のせいで我を失い、自分の手で親を殺しちまったんだ……精霊暴走は事故、ロイ自身は罪に問われなかったがあいつはそれを悔いた。自分が強ければ、暴走なんてしなければ親は死ななかった。だからあいつは人を助けるのに一生懸命になるんだ」

 そう言えばセリアが誘拐された時一番行動していたのはロイだ。そして今回も叔父や叔母が人質になったと知った瞬間……。セント達がそう考えているとソウシがまた口を開く。

「あいつはそれからこの世界から足を洗い、自分がもっとも得意としてた武器を封印したんだ、あの事件を忘れないための自分への戒めにな……俺が知ってんのはここまでだ」

 ソウシはそう言うと立ち上がり、セント達も頷いて立ち上がるがそれと同時に溜まり場の入り口近くから悲鳴が上がる。

「何だ!?」

 その声を聞いた瞬間ソウシは自分の近くに置いていた大きなハンマーを持ち上げてそっちに走っていき、セント達もソウシが行った後顔を見合わせてその後についていった。
 そして入り口近くに来ると、ソウシとロイを連れて行ったあの白服の男が睨み合っていた。いや、正確に言うならば男はにやりと不敵な笑みを浮かべており、睨みつけているのはソウシだけだが。そしてソウシが怪我をして倒れている不良たちを見ながら男に言った。

「てめえ何者だ? いきなりやってきてこんな事をするたぁいい度胸だな」

「私は黒き牙幹部のバルスと申します。ここに入ったらこの者達が手を出したため、やり返しただけですが?」

「やりすぎだてめえ、一体何の用でここに来やがった」

 ソウシの言葉にバルスと名乗った男は相変わらず笑みを浮かべたまま返し、それにソウシが今度はハンマーを構えながら言うとバルスはまたふふっと笑いながら言った。

「簡単なことです。暇つぶしですよ」

「……殴り返す理由にゃ充分だな」

 バルスの言葉にソウシは青筋を立ててハンマーを構えなおす、とバルスはそこで初めて気付いたように言った。

「そのハンマー、あなたは破壊の狂王ではないですか?」

「そうだが、それがどうした?」

 バルスの言葉をソウシは肯定し、聞き返す。とバルスは相変わらずの笑みで返す。

「いえ。確かあなたはある事故で力が出なくなったと聞きましたが?」

「……ああ。正直今の力は現役の頃の半分程度だ。だがてめえの腐った脳天かち割るには充分だろ?」

 ソウシはもういつ殴りかかってもおかしくないほど気が立っていた。するとバルスはふっと笑い、そこから横に一歩よりながら言う。

「それは恐ろしい。では助っ人を頼みますかな? 幻影の狂戦士さんに」

「……ロイ」

 そこに立っていたのはロイ・スウェン。ロイは浮かない顔をしながらティーグルを召喚し、自身もナイフを構える。やる気だとセント達が気付くと同時にソウシも召喚腕輪を取り、己の精霊を召喚する。

「来やがれ、ミノタウロス!!」

 そう叫んだソウシの横に現れたのは頭こそ牛だが身体は筋肉質な人間のもの、獣人だった。ミノタウロスと呼ばれた精霊は鼻から息を吐くと目の前の人間を見据える、と驚いた様子でソウシ向けて呟いた。

[ソ、ソウシよ……ありゃぁ俺の見間違いで無けりゃあロイの旦那でねえかい? それとも最近戦ってないから俺の目がおかしくなっちまったのか?]

「心配しなくてもお前の目は間違っちゃいねえよ……今のあいつは敵だ。潰すぞ」

[しょ、承知……]

 ミノタウロスはやや気が気でないながらもソウシの言葉に従って腕を前に突き出し、構える。
 それからソウシとロイは二体の精霊と共に睨み合いを始めた。
カイナ
2009年03月10日(火) 10時53分39秒 公開
■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
カイナ:と言うわけで今回は大半説明、次回は戦闘(の予定)です
セント:いや、ここまでやっといて次回戦闘無しは無理だろ? いざとなりゃあ俺が殴りこんで
カイナ:頼むから止めてくれ
セント:ちっ
カイナ:ま。それではこの辺で


ケルベロスさん
誤字です、報告ありがとうございます。
さて、どうなるでしょうかね? 正直大丈夫か心配なんですよね、まあそれでも頑張りますが。

風斬疾風さん
正直これ終わった後どうしようか滅茶苦茶困ってるんですよ、ネタ無いんで。
さぁて、何に対して怒ってたんでしょうね? まあそれは後々のお楽しみってやつですよ。
いや〜、その場面についてですが、事故にしろ自分の親を自分の手で殺した奴を偏見無く受け入れてくれた存在が人質になったら多分こう動くんじゃないかな? と考えた結果ですし……なんと言えばいいか分からないな……それでは。

アダムスカさん
いや、正直今回ここまで行きたいと思ったらそこまで行かないと落ち着かないような性分なもんで。それに展開の早さの加減もさっぱり分からないんですよ。今回はどうなんでしょうね?
今回はほぼ一話、大体半分くらいが説明でした、というか前に説明していたら半分そのために出したソウシさんの出番が無くなっちまうんですよ。何か急遽出番が増えちまったんですが……
誤字の報告ありがとうございます。それでは

この作品の感想をお寄せください。

 誤字についてはケルベロス様がご指摘なさっているので、割愛させて頂くとしまして、表現や言い回しについて幾らか……。

・1行目
 何か弱みが握られてるんじゃないかと
  ↓
 何か弱みを握られているんじゃないかと

・10行目
 茶髪を目がかかるギリギリまで伸ばした男
  ↓
 茶髪を目にかかるギリギリまで伸ばした男

・30行目(多分)
 幼いガキ
  ↓
 ガキ(彼の口調では「幼い」を頭につけると不自然に聞こえます)

・36行目(多分)
 動揺を起こす
  ↓
 動揺する

・38行目(多分)
 近づく者
  ↓
 近づく奴(30行目と同じ理由で「奴」のほうが自然に聞こえます)


 表現に正解はありませんが……逆に言えばその分カオスな領域です。一つ表現を間違えただけで、会話や文の持つ雰囲気が壊れたり損なわれたりしてしまいます。逆に、上手く使っていければ、臨場感やすっきりとした文章を作り出すことが出来るでしょう。

 それと、会話文において「ら」「い」抜き言葉を使用する分には、キャラクター性と言う事で看過出来る部分があるのですが、それが地の文となると正確な日本語を使ったほうが無難です。たとえ、投稿や出版目的ではないにしろ、それは一つの文学作品なのですから。


 今回いままで曖昧にしか触れられてこなかった「精霊の理論」が、少し具体的に説明されていますね。「精霊暴走」も新しい単語のような気がします、仮に出ていても具体的に触れられたのは初めてでしょう。

 そして、ロイの過去を知る者ソウシ……彼自身も色々と抱えていそうですが、もしかするとこの戦いで何か明かされるのでしょうかね。
 ロイがどこまで本気か、ある程度戦い慣れしていそうな彼なら、戦闘中に量り知ることが出来るような気がしますが、未熟なボウヤ達にはどう映るか……そしてそれがどう展開するか。見所は多いです。

 今回の流れならば、この展開の仕方でも良いように思います。
 引き方もなかなかです。

30 アダムスカ ■2008-10-14 16:14 ID : pwrTAXbZhaM
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えと、脱字だと思われる箇所です。下から十一行目・・かな。
『と驚いた様子でソウシ向けて呟いた』→ソウシ『に』向けて だと思うです。

精霊の暴走・・ですか。巨大な炎はその身をも焦がすとはよく言ったものですね。・・はい。
旧友? 同士のバトルですか。どうなるか手に汗にぎりながら次回作を読もうと思います。
30 ケルベロス ■2008-10-13 22:13 ID : If3qiekeSNg
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