フロンティア・ストーリー 九話 |
「「ありがとうございました」」 土地勘もないまま歩いていた竜一と真由を親切に町まで送ってくれたおじさんに二人は丁寧にお礼を言う。とそのおじさんは「はっはっは」と笑いながら返した。 「別に構わないさ、それじゃ末永く仲良くな」 「だ、だから違いますって!!」 おじさんの言葉に竜一は顔を少し赤くしながら叫んで否定する。がはっきり言って相手からしてみては否定どころか照れてそう言っているようにしか見えず、おじさんはまた笑いながら馬車を走らせた。 それを見届けると竜一は息を吐いて真由の方を見る。真由も少々顔を赤くしていたが動揺のためか気づいてないまま竜一は口を開いた。 「さてと、町に入るぞ。まず宿を探さないと」 「あ、う、うん。そうだね、は、早く行こう」 竜一の言葉を聞くやいなや真由はすたすたと町の中に歩き出し、竜一は少し首を傾げながらその後に続く。そして追いつくと共に気づいたようにまた尋ねた。 「そう言えばさ、宿を取るはいいけど部屋はどうする? 別々にするか?」 「え、いや、その……同じでいいよ、お金もったいないし。小さい頃は一緒に昼寝してたじゃない!」 竜一の言葉を聞くと真由はぶんぶんと首を横に振ってそう言い、竜一はその勢いに思わず「ああ」と呟いて宿屋に歩いていく、もちろん真由も一緒に。 「すいません」 「いらっしゃい」 小さなフロントにいる受付のおばさんがにっこりと笑顔を向けた。 「一泊いくらでしょうか? あ、一部屋でお願いします」 「それなら一ジルバになります」 おばさんがそう言うと竜一は金袋の中から銀貨を一枚出し、渡す。とおばさんはまた微笑む、がその笑い方には見覚えがあった。 「恋人なのかい?」 「え、い、いや! 違います!」 あの笑い方はここに連れてきてくれたおじさんと同じ笑いだった。その言葉に竜一はまた顔を赤くして否定するが、おばさんは「ふふ」と微笑みながら続ける。 「照れなくてもいいんだよ。心配しなくてもこの宿にはそういうのを邪魔する趣味の人はいないからごゆっくりね」 「うぅ……」 もはや否定するのもめんどくさい。おばさんの言葉に竜一がそう唸ると、おばさんはくすくすと笑いながら部屋番号の入った札付きの鍵を竜一に手渡し、竜一は一つ息を吐くとまた顔を少し赤くしている真由を連れて部屋に入っていった。 「ほい、次はこいつだ。少し重いぞ」 「うっす!」 「はい!」 明秀と真次は元気よく返事して木箱を受け取る。倉庫に保管されていた木箱を荷車に乗せて近くの工場に運ぶのだ。荷車を引いていくバイトの先輩を見て二人はしばし休憩。二人はふぅと言って額の汗を拭った。 [……何いい汗かいてんですか] 「おう、案内人」 「ここの工場が丁度バイト募集しててね。一日限定で雇ってもらってるんだ」 まるでどこぞのスポーツドリンクのCMのように爽やかな笑みを浮かべている二人に思わず案内人が突っ込むと明秀が笑顔のまま返し、真次が説明した。 [……なんだか、似合ってますね] 似合ってるというかはまってるというか。案内人は苦笑を隠しきれずに言い、明秀も笑って言った。 「まあな、それにこいつは筋力のトレーニングにもなる」 [それはいいですが、何か情報を掴めましたか?] 「もちろんだよ」 案内人の言葉に真次がそう言い返し、明秀が説明を始める。 「一緒に働いてた町の人が噂してたんだ。この町って防壁に囲まれてるだろ? あれはモンスターに襲われないためだろうって考えてたんだが、実はモンスターがこの辺に出現しだしたのって結構最近、一ヶ月くらい前らしい。その防壁を作ろうと言ったのは丁度就任した現町長、そして防壁が完成した直後なんだよ。モンスターが現れだしたのは」 偶然にしちゃ出来すぎだろ? とでも言うように明秀は笑い、真次が言葉を引き取ったように言う。 「ついでにモンスターが出るのは西方面。この町の西門から出たいものは町長の許可がいるらしいんだよ。どう思う?」 [モンスターとの関わりがある可能性がありますね。それは同時にタナトスとの繋がりがある可能性もあるいは……] 「んじゃ、まずは町長を調べるので決定だな。どっちにしろ許可をもらえないとこっから先に動けない。ゲームで言う強制イベントみたいなもんだ」 案内人の言葉に明秀は不敵な笑みを浮かべながらそう言い、バイトを終えて給料を貰うと町人に聞き「悪い事は言わないから止めな」という言葉を無視して町長の自宅を突き止め、やってきた。 [気をつけてくださいね] 「な〜に、いくらなんでもいきなり武器構えられる事はないだろ。俺達は許可をもらいにいくだけなんだからな。おじゃましまーす」 案内人の言葉に明秀はそう返すと真次と共に町長の家のドアを開け、入っていった。 それと同時に数人の警備員らしき人物に剣を構えられる二人……。 明秀と真次は瞬時に降参の意を示すため両手を上に上げた。 ここはフラスコや薬品が棚に収められ、床には様々な植物と鉱石が乱雑に置かれている、どこかの研究室という表現が正しいだろう部屋。そこで一人の男が机に向かい、一心不乱にノートの上でペンを走らせていた。 そのノートは簡単なモンスターのイラストの他、複雑そうな計算式と文章で埋め尽くされている。 「この研究を完成させなければ……」 男が不気味な笑みと共にそう呟くと突然コンコンとドアがノックされ、妙にかしこまった声が聞こえてくる。警備員だ。 「町長様、たった今侵入者が」 「どのような方デースカ?」 「青い髪をした青年と茶色の髪の少年です。町長に会わせてくれと」 ペンを走らせたまま男は陽気な声で聞き返すと警備員はそう答える。と町長は「ふむ」と唸り、そのノートを閉じて机の引き出しの中にしまい、言った。 「連れて来て下サーイ」 その数十秒後、侵入者こと明秀と真次は研究室に連れてこられた。 二人はいぶかしげな目で辺りを見回し、明秀は一つの明らかに浮いている一体の人形に目を止めた。見た感じ二メートルはあるだろう鉄の塊みたいな人形、頭の真ん中にある目が一瞬光ったような気もしたが、明秀は静かに首を振って思考をとめた。そして町長を見ると口を開く。 「あなたが町長ですね?」 「イエース、それで、ユーらは誰デースか?」 明秀の言葉に町長はそうどこぞの日本に旅行に来た外人みたいな口調で返す、と明秀は自分と真次を指して言った。 「俺は真田明秀。こっちは武田真次といいます」 「オウ! アキにシンデースね? よろしくお願いシマース」 妙にテンションの高い町長に明秀は呆気に取られるが、気を取り直したのか真次が言う。 「えーっとですね町長さん――」 「皆まで言わなくて構いまセーン! あなた方のお望みのものは分かってマース!」 真次の言葉を遮って町長はそう言う、と明秀は呆れたような呆気に取られたような表情で心の中で呟いた。 「(なんなんだこの人は……)」 正直に言って何となくこんなタイプを明秀は信用できない。しかし真次はにこにこと微笑みながら続けた。 「それなら早いです。サインを――」 「ミーのサインでしょう?」 「あ、そうそう。許可証にサインを」 意外に話が分かるようだ、明秀は町長への心証を改めてそう言う。しかし「ちょっと待ってくだサーイ」と言った後町長が明秀に渡したのはノートの切れ端に[ちょーチョウ]とかなり達筆に書かれたサインだった。それを見た瞬間、明秀の両腕に力がこもる。 「ア、アキ、騒ぎは起こしちゃ駄目だよ……」 「分かってる……」 明秀の怒りにいち早く気づいた真次がそう言うと明秀は深呼吸して気持ちを落ち着かせ、今できる最高の笑顔で言った。 「サインはありがたく頂戴しておきます。それはそうと別のサインを――」 「オーケーオーケー。やはりシンさんにも用意してほしいんデスネー?」 その瞬間ぐしゃりと音をたてて明秀の右手にあったサインが潰れ、明秀は思わず声を荒げて叫んだ。 「許可証だ、きょ・か・しょ・う!! 通行許可証にサインをしてくださいって頼んでんだよ俺達は!!!」 「オ〜……もしかして西門の通行許可が欲しいのデスカ〜?」 明秀の言葉に町長が顔色一つ変えずにそう聞き返すと明秀はこくりと頷いてようやく話が通じた、と脱力し、真次は後はもう簡単だと安心する。しかしその次に町長の言った言葉は彼らの予想を超えていた。 「あなた方にはテストを受けてもらいマース」 「テストぉ?」 町長の言葉に明秀は首を傾げてそう返すと町長は「イエース」と言い、続けた。 「西門の向こうはモンスターがいっぱいいて危険デース。ですかーら、あなた方にどれほどの実力があるのかを試させてもらいマース」 町長はそう言いながら部屋の隅に隠れているドアを開ける、とそこには大きな機械があり、町長が機械の電源を入れると機械の一部らしい白いプレートが発光を始めた。そして町長が説明を始める。 「これを使えば、あらかじめ設定した別の装置のトコロまで瞬時に移動できマース。俗に言うワープというものデースねー」 「へえ、そういう技術は発展してんのか」 今まで見たことは無いが明秀はそう感想を漏らす、と町長は「ノンノン」と言って指を振り、返す。 「コレハまだ一般人に知られてない秘密なのデース。なので試験から帰ってきても他言無用でお願いシマースね」 「あ、ああ。了解」 「分かりました」 自動車やテレビといった技術は発展してないのに現実世界よりも優れた技術に二人は驚くが、ここはゲームの世界だ、こっちの方がゲームらしいといえばらしいだろう。二人はそう結論付ける。 「覚悟ができたなら、プレートの上に乗ってクダサーイ。後の操作は私がやりマース」 「そんで試験部屋にワープってわけか」 「そんなところデース」 町長の言葉に明秀が納得したように言うと町長は頷いて言う。それから二人はそれぞれの武器を確認し、プレートの上に乗る。 「準備と覚悟はいいデスね?」 「ああ」 「いつでもどうぞ」 その言葉を聞いた町長はレバーを操作する。それと共にまるで床が抜け、宙に浮かぶような感覚を二人は感じ、直後二人は飛ばされた。 「まあ、せいぜいあがいて死ぬといい」 静けさの戻った部屋で町長の言葉だけが響き、町長はワープ装置の電源を切った。 |
カイナ
2009年04月03日(金) 14時23分28秒 公開 ■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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どうも、ケルベロスです。はい、知ってますよね。では本題。 『意外に話が分かるようだ、明秀は町長への心証を改めてそう言う』 ↑ これですが、『明秀は町長への心証を改める』だけでいいと思います。言葉に出したら悪口になりかねませんからね。 町長は悪者? なのでしょうね。おそらく、多分、絶対。…………。……はい。 竜一と真由、一線越えてほs……ゲフンゲフン。 |
20点 | ケルベロス | ■2009-04-07 23:27 | ID : If3qiekeSNg | |
合計 | 20点 |