学園魂 三年生を送る会編 戦いはいつやって来るか分からない |
ただいま神乃学園、三年D組は教室で数学の授業中である。数学の先生は教壇に立って数学の授業を行っている、はずなのだが……。 「ねえ、みなさーん?」 頭が禿げて来ている白髪混じりの中年の彼は四角い黒斑メガネをかけている。そんな外見をしている数学の先生はD組の生徒達に向ってそう言ったのだが、そんなことには誰も耳を貸さない。何故なら、だ。 「いや、送る会の演劇の練習するのは良いんだけど、それをわざわざ数学の授業中にやらないでくれないかな……? 先生そろそろ怒っちゃうぞ?」 その通りだった。現在D組の生徒は数学の授業中にも関わらず、委員長である滝本の指導の下、なんやかんやで送る会でする演劇の練習をしている真っ最中だ。それには数学の先生も呆然としているらしく、さっきまで手に持っていたはずのチョークが床にポトンと落ちていた。 「はは……先生こんな仕打ちを受けたのは初めてだよ……ん? 二回目か……、でももうそんなことどうでもいいや……。あは……はは……アハハハ! アヒャヒャヒャヒャ!──」 数学の先生は虚しくも自分で自分を追い込んでしまったらしく、精神もろとも崩壊寸前まで陥ってついに挫折してしまい、まるで人生を後悔してしまったかのような雰囲気を香持ち出しまくりながら跪いてしまった。 しかしD組一同はそんなことには気にも留めず、熱いソウルのこもった演劇の練習中である。 学園魂 三年生を送る会編 戦いはいつやって来るか分からない 少し昔の話をしよう、と言っても、昔の話とはほんの一週間前の話だ。 このワタクシ、古林啓示を含む三年D組は、送る会での出し物がなかなか決まらずにいた。前に、異常気象が発生してその時にたくさんの猶予があったのだが、結局決まらずにいたのだ。しかしその時間は無駄でもなかった。上野が演劇という案を出してきたおかげで、D組は演劇の内容を中心に斉藤先生担当の国語の授業時間を使って教室で会議を開いたのだ。そして会議は案外盛り上がった。やはり演劇の内容を討論する方が活気が溢れるのだろうか。色々な意見が飛び交ったのだ。目的があるってのはいいなーと思いつつ、会議ではなんと最終的に何をするか決まったのだった。それが何だったと思う? 「会議の結果。D組は演劇で桃太郎をします!」 委員長である滝本はそう言ったのだ。もちろん、桃太郎と言うのは童話で有名な作り話で、主人公の桃太郎が鬼ヶ島に行って鬼退治をするアレだ。まあ、実際D組のみんなで決めたんだから、桃太郎をせざるを得ない。ここまでは百歩譲って良しとしようじゃないか。 その後、役割分担に関しては、クジで決めた。クジのやり方は簡単。四角いダンボールの箱の中に「桃太郎」とか「サル」など、一枚一枚に役割を書いた紙を全て入れ、その後よくかき混ぜて、後は一人一人ダンボール箱の中に入っている紙を一枚引くだけだ。ちなみに、おばあさん役が男子になることを阻止するため、クジは男子用と女子用に分けて引いた。そして今回に限ってこれらは全てD組の担任である斉藤先生がやった。役割分担をクジで決めるなど、あまりにも適当すぎるのだが、しかし斉藤先生とはそう言う適当な先生なのだ。まあクジで決めるのは仕方ないだろう。 そして、僕が紙の入った箱を持っている斉藤先生の前まで行き、クジを引いた時のことだ。もう一度言って置こう。桃太郎の演劇をやることについては百歩……いや、千歩譲ってでも良しとしようじゃないか。それを強調して言った事を前提に箱から引いた紙には何て書いてあったと思う? 『木(大木)』 「ふざけんなぁぁぁぁッ!! 『木』ってなんだよ『木』ってさ! ただでさえ存在感のない僕が『木』というのはかなり残酷じゃないですかッ! しかもなんだよ(大木)って!」 斉藤は僕の葛藤ぶりに少し引き気味な表情を浮かべる。 「まあ落ち着けって古林……。別に悪気があってそうしたんじゃないんだから。やっぱりそこんところはリアリティを出した方がいいだろう? 風で揺れたりさ。それにほら、大木じゃないか。大木は多分、全部の場面においても総出演だろうし、結構目立つと思うぞ?」 斉藤はそう言う。待てよ? 待て待て。落ち着け自分。もしかして『(大木)』と書いてあるからには他にも犠牲者が!? 「……木(ごく普通の)ですか」 はっ、とした僕は声のする方へ振り向く。そこにいたのは。 「おいおい。おれなんか『雑草』って書いてあるぞ……」 上野と鈴木であった。今の会話からすると、犠牲者なのだろう。 (うわー……。大丈夫かあの二人で?) あの二人と言うのは上野と鈴木のことで、二人とも仲が悪いことは誰でも知っているし、実際にそのような光景を目の当たりにしたこともあるだろう。古林に至っては、鈴木と席が隣で、しかも前の席には上野がいるのだから、休憩時間であろうと授業中であろうと何かと二人の仲が悪い光景をよく見る。 例えばだ。授業中に鈴木が前にいる上野に向かって消しゴムの消しカスを投げつける。それに気付いた上野は、鈴木に向かって同じように消しゴムの消しカス(鈴木が投げたカスより一回り大きい)を思い切り投げつける。もちろん投げつけられた鈴木はまた上野に向かって消しカス(上野が投げたカスより一回り大きくなる)を思い切り投げたかと思うと、上野はついに消しゴム本体を投げつける。消しゴム本体を鈴木に投げつけたかと思うと鈴木は先のとがった鉛筆を投げつける。それが前の黒板に向かって何かを書いていく先生に気付かれないうちに規模がだんだん拡大していく。そして最終的には自分の勉強机をお互いに投げつけ、先生に気付かれ学園長室まで呼び出される(この間、わずか二分)。 そういったことが毎日のようにあるのだから、さすがに二人を同じような役に回すのはどうかと思う。 そうそう、ところで主役である桃太郎が誰だったかと言うと。 「僕が桃太郎か……。ん? (兼 おじいさん)って書いてるよ……」 その声の主は、滝本である。滝本はいつものように苦笑気味だったがついでに話し掛けてみた。 「滝本はどうだったの?」 一応言っておくが、僕と滝本は結構仲が良かったりする。僕が訊いたら滝本はこう言った。 「ん? ああ、啓示か。どうやら僕は主人公とおじいさん役をしなきゃいけないみたいなんだよ……」 主人公兼おじいさん、というのはかなりハードな役割ではないかと思う。桃太郎という童話は、おじいさんで始まり桃太郎で終わる。桃太郎とおじいさんは言わば、主役級のキャラである。となれば、どのようにしておじいさん役から桃太郎役に摩り替わるんだろうか? ……まあ、そこの所は委員長と斉藤先生に頼るしかないだろう。と言っても、本当に頼りにしているのは委員長であるが。 「じゃあ台本は今日中に作って明日渡すからな。覚悟しとけよお前ら」 覚悟しとけよ……の意味は分からなかったがまあ明日から練習開始なのだろう。 ……… そして翌日に渡された台本を見た瞬間僕は愕然としたよ。覚悟しとけよ……ああ、そういう意味だったのかってね。自分では分からないが、恐らくそれは表情にも表れているんだと思う。愕然とした理由は簡単である。その桃太郎の台本の内容は本物の桃太郎、ようするに原作、である。 本物の桃太郎で原作、というのは。ところで、桃太郎の童話の歴史を知っているだろうか? 今、誰もが知っている桃太郎の話は恐らく、 『おばあさんが川で洗濯していると川の向こうから大きな桃が流れてきました。それをおばあさんは家へ持って帰り、芝刈りから返ってきたおじいさんと一緒に食べようとした。その矢先、大きな桃がパカッと真っ二つに割れ、中から元気な赤ん坊が出てきて、おじいさんとおばあさんはたいそう喜び、その赤ん坊に「桃太郎」と命名しました』 といった感じで物語は始まるだろう。しかし、その桃太郎の話は少し童話向けに改善されていて、決して桃太郎の作者本人が書いた童話とは少し違っていたりする。そこでその作者本人が書いた桃太郎の原作の話を少ししようじゃないか。 『おばあさんが川で洗濯していると川の向こうから大きな桃が流れてきました。それをおばあさんは家へ持って帰り、芝刈りから返ってきたおじいさんと一緒に食べると、その瞬間おじいさんとおばあさんは若返りました。』 もう分かるだろう? そういうことだ。今回渡された台本はその原作であり、そのシーンもうまーく描写されている。しかもおばあさん役はもちろん女子である。忠実に再現するのは良いが度が過ぎるのは良くない。ところでおばあさん役は誰だったかと言えば……。 「り……、リーダー」 そこからは水晶のように透き通った声が聞こえてきのだった。風のようにサラっとしたショートの髪。他の女子と比べれば背が低く、滝本を見上げ、恥ずかしそうに見つめているその小柄な少女はまるで妖精のようにも見える。 「よ、よろしくお願いします」 少女は滝本にそう言った。 「……お前か。……よろしく頼む」 雰囲気の変わった滝本の傍にいるその少女は 「リーダーが大変そうに見えるのは私だけでは無かったように思われる。その役割は無謀と思われる」 無感動で静かな声が後ろから聞こえてきた。また女子のご登場かよ。しかもまた滝本の事を『リーダー』と呼んでいるようだ。チームパティスタか、と思いつつ僕は声のした方へ振り向いてみる。そこには十六夜に負けないくらいの美少女が立っていた訳で。見たところ十六夜とは対照的に髪が長く、女子の中では背が高い方であろう二重なのに目が少し細めのその少女は、月光をイメージさせる。名前は……何だ? 「 僕の心を読んだかのように静かに彼女は言った。 「私には人の心を読み取る能力があると言われる」 はは、何を変なことを。そう思った時にはすでに綾川は窓側にある自分の席へと戻っていた。いつの間にあんな所へ? そんなこんなで演劇という送る会への練習が本格的に始まったわけだ。以上回想終わり。 ……… そして今に至るわけだが。現在僕達は数学の授業を無視して演劇の練習をしている。こんな事してたら前の文化祭を思い出すが、それはさて置いて。何故僕達が数学の授業を無視して演劇の練習をしているかと言えば、割かしD組では数学の授業は重要視していないと言う非常識かつ差別的要素もあるのだが、真の理由は送る会が明後日に迫っているからである。だからこうしてみんな真剣に桃太郎の練習をしているのだが、 「で……何でお前ら全員匍匐前進してるんだよ!」 僕が大木として背景に立っているのだが、他のみんなは滝本を先頭にうつ伏せになって匍匐前進している。 「いや、やっぱり鬼ヶ島に行くためにはこれくらいの訓練をしておく必要があるんじゃ──」 「関係ねーよ! 何みんな本気で鬼ヶ島に行こうとしてんだ! これ演劇だからね!? みんなリアルな妄想の中に飛び込まないでよ!」 そんな会話(?)を滝本としている僕。これで大丈夫な訳が無い。明後日に迫っている送る会だと言うのにこんな事していたら間に合うはずが無い。神乃学園全生徒の前で恥をかくだけだ。特にA組なんかには。 「上野さん。これ食べてみて下さいよ」 横で、麻袋を持った木(ごく普通の)と雑草が会話をし始める。 「ん? なんだ鈴木。……これはッ!」 「はい、そうです。僕が前に仕入れた偽宇舞棒の改良版。名付けて、『宇舞棒DX』ですよ」 「いや、ダメだろ? それ確か前にそれで俺を殺そうとした殺人食物だろ? 何普通にまた俺を殺そうとしてんだお前?」 「そうですよ。正式には対上野性殺害食物兵器ですよ」 「……いや、言ってることは俺を殺そうとしていることに変わりないだろうが!」 「まあそうですけど。是非食べて死んでくださいよ。上野さん」 そう言って、鈴木は持っていた麻袋から、青い筒状の棒を出して上野の口に近づけようとしている。それを必死に避けて続けている上野。何だか横の方は横の方で危険な会話をしている。前の方も相変わらず匍匐前進を繰り返している。ああ、もうどっちもいい加減にしてくれ……。 ……… その頃、D組の生徒達が数学の授業を無視して演劇の練習をしていることを知らない斉藤先生はある部屋にいた。 「どうした学園長? 俺なんか呼び出して。何か用か?」 「うむ。その通りだ。何か用があるから呼んだんだ」 そこにいたのはここ、神乃学園の学園長である阿児学園長だった。阿児学園長はえらそうに足を組み、大きな椅子に座って斉藤を 「だからってなんでわざわざ寝転がるかな? 嫌がらせか? ぶっちゃけここ学園長室だからね? そんな態度は普通とらない所だからね?」 前には今、学園長が座っている大きな椅子と無駄に大きい木製の机があり、床は茶色いカーペットで、高級感溢れる茶色い木材で造られた壁には歴代の学園長の顔写真が掛けられている。そして斉藤は阿児学園長を見上げるように床であるカーペットに寝転がってあくびをして言う。 「だってさ、なんかお前を見ていると腹が立つんだよ。そもそも顎しゃくれ過ぎだから。そこんとこ弁えてくれねえか?」 「どう弁えろってんだよ!? 仕方ないだろ? 顎しゃくれてるの仕方ないじゃん!」 阿児学園長は明らかに四十五度以上はしゃくれているであろうその顎を突き出した。 「好きでしゃくれてるんじゃないからね! あんたもそこんとこ弁えてくれ!!」 斉藤は阿児学園長の変貌ぶりをみて、はぁ、と溜息をついてから言う。 「んで、結局なんの用なんだ? ただ単に顎討論の相手させるために俺を呼んだのか?」 「いいや、断じて違う。本題はここからだ」 「はぁ……そうかい」 ……… すでに日は暮れ、辺りが薄暗くなってきた頃、三坂は神乃学園の廊下を歩いていた。 「おい、滝本」 彼の傍には滝本と名乗る、丁度三坂と同じくらいの若い男性がいた。恐らくこいつも学生なんだろう、と三坂は適当に思う。滝本はなんだ? と訊き返す。 「お前の髪の毛は何故そういつも爆発しているんだ?」 滝本の髪形はまるで頭が爆発したかのようなボンボンアフロだった。 「ん? しょうがないだろう。何せオリジナルがそうするんだからさ。で、それがどうしたんだ?」 「ああ。正直言って邪魔なんだよそれ。俺の顔に被さる」 滝本は苦笑するが言う。 「……悪かったな。恨むならオリジナルを恨めよ。……所で、いつも俺に刃向かうお前が一体何の用だ?」 三坂はしばらく黙るが、 「……友好条約を結びに来た」 「嘘だろ?」 「嘘だ」 三坂は不気味に笑う。そして続けて言う。 「まあ、むしろその逆だけどな」 滝本は眉をピクリと動かすと、どういうことだ? と訊き返す。そして三坂から返ってきた言葉は、 「宣戦布告……とでも言っておこうか」 はっ? と滝本は思わず言ってしまった。誰でもそうだろう。いきなり宣戦布告と言われても意味がわからない。 「まあ。簡単に言うとだな──」 三坂は少し間をあける。そして、確かにこう言ったのだった。 「──チーム・パティスタを消滅させる」 to be continued―― |
N.H
2009年05月05日(火) 17時13分04秒 公開 ■この作品の著作権はN.Hさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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美少女キャラはさ、僕けっこうそれ系のアダルティーなアイテム持ってるから貸してやろうか、、、なんてなw てけとーに漫画読めば分かると思うよ。 修学旅行で秋葉行ってもいいし。 単純にキャラだけ見たいならコードギアスをオススメする。 つか桃太郎ってwwww もっとはっちゃけてギリギリまでの描写を楽しみにしている。 ps水泳部だぜ俺は |
30点 | バスケを諦めた元生徒会長7 | ■2009-05-15 18:16 | ID : 5/lNVff4/V6 | |
森内zzさんも言っていますが、『美少女』の描写などは周囲の反応を使うのが私的には一番有効かと思います。 これは、初めて見た瞬間の描写が一番効果があると思いますが。例えば『転校初日』といった感じの状況などでは『周囲の反応(主に男子の反応)』が有効かと……今後そのような作品を書くことがあれば試してみてはいかがでしょうか? 他にも、エr……ゲフンゲフン、ギャルゲなどでもプレイしてみたりして、その時の描写を参考にしてみてはいかがでしょうか? 小説でもいいと思います。 私が読んだところ、誤字は無かったと思われます。 桃太郎の話、あれって本当なんですか? 私、童話が全てだと持ってましたが……w 作品についてですが、なんかやばそうな雰囲気を出し始めましたね。続き、気になります。 PS 美少女キャラがいたのなら結構初めから出しておかないと、霞んでしまう程度の美しさ、と思ってしまい、少々描写が難しくなるかと思います。病弱で学校にはあまり来ない、などという設定があれば別ですが。 |
20点 | ケルベロス | ■2009-05-05 22:08 | ID : If3qiekeSNg | |
どうも、はじめましてですかね。森内です。 あの頃に比べればホントに良くなりましたね。 う〜ん、色々と謎が出てきましたねぇ。学園長の考え、パティスタの運命、そして……劇の行方。なかなか楽しみです。 さて、美少女の描き方に悩んでるようですが、少しばかり僕のテクニックを伝授します。僕なんかで良ければですけど。 まず第一に、比喩を使うことです。 花や妖精、天使といった美しいものを使って比喩するのです。 第二に、周りの人間の反応を利用するのです。 これなら下手な描写をするよりも、簡単に読者に美しさが伝わります。あ、別にN.Hさんの描写が下手というわけではないですよ。 でもやっぱり一番有効なのは、美少女描写のうまい作品を読むことです。良い技術は自然に吸収されますから。 長々と話したりしてすみません。では、僕はこれで。。。 |
30点 | 森内zz | ■2009-05-03 21:20 | ID : gGCCS9vJyC2 | |
あ、どうも GW、四日以外部活でこまっている無名の一般人です。 美人キャラっていたの!?(しつれいですいません) でもこのままいけばいいと思います、本当に。 三坂將能さんの挑戦?いいですね〜 次の展開が気になります。 勉強・部活ともに小説もがんばってください!! |
40点 | 無名の一般人 | ■2009-05-03 19:37 | ID : v.gyHCsHdfk | |
合計 | 120点 |