咎と裁き 第一章 【胎動編】 File.02 《初仕事》 |
File.2 初仕事 「森田、前だ! 怯むな!」 竹藤は入り口方面へ向けて銃撃しながら森田に叫ぶ。 トンネル内は先刻までの静寂とはうって変わって、銃撃と金属生物の飛び跳ねる音に包まれる。 「ぬぉぉぉぉぉ!」 齋藤はトンネルの奥に向かって走りながら銃を乱射する。 飛び掛ってくる金属生物《機人》の攻撃をかわしながら、その胴体に弾丸を撃ち込む。 今また一体齋藤のFAMASに撃たれ仰向けに地面に倒れた。 「森田! このトンネルを抜けたところに、恐らくこいつらを指揮している奴が居る筈だ」 齋藤は銃撃しながらも森田に語りかける。 森田もP-90を乱射しながらそれに応じる。 「指揮ですって? こいつら社会性を持ってるんですか!?」 天井から飛び掛ってくる機人の攻撃をギリギリの所で回避しながら頭部に銃弾を撃ち込む。 近距離で数発の5.7mm弾を受けた頭部は甲高い音と共に吹き飛ぶ。 残った胴体部分が重たい音を立ててその場に倒れる。 「そうだよ! だからそいつを倒すのが今回の仕事だ!」 齋藤はそう叫びながら尚もトンネルの奥へ向けて銃撃を繰り返す。 その時、齋藤のFAMASが乾いた音を立てる、見れば排莢もされていない。 「畜生……弾切れだ、森田、援護してく……うわぁっ!」 齋藤が森田の方を振り返ったときである、それを待っていたかのように一体の機人が齋藤に飛び掛る。 齋藤は咄嗟に向き直り、FAMASを盾にして強靭な腕の一撃を防ぐ。 しかし、もともと繊細な機械であるアサルトライフルは、その衝撃を受けて木っ端微塵に吹き飛ぶ。 齋藤の武装は解除され、その機人は体制を整え再び齋藤にめがけて腕を振り上げる。 「先輩ッ!」 森田が援護に入ろうとするが間に合わない、「殺られる……」森田に絶望がよぎった時。 突如銃声が6発分トンネルに轟く。 その音が止んだ時、齋藤を襲っていた機人は力なく倒れた。 「え……えっ?」 事態を把握出来ずに森田は辺りを見渡す、後ろで入り口を警戒している竹藤以外援護できる人間は居ない。 しかし、森田も竹藤も齋藤を援護したりはしていない。 「ちぃっ! 気に入ってたんだがなぁ……」 齋藤に覆いかぶさるように倒れていた機人が、その齋藤に蹴り飛ばされて後ろへ吹っ飛ぶ。 齋藤はスーツに着いた土を払い落としながら立ち上がると右手を肩の高さまで持ち上げる。 ギリッと何か金属のギアの様な物が回転する音がしたかと思うと、小さな鉄の塊が幾つか落ちる。 「先輩、無事ですか!」 森田は齋藤の隣に駆け寄って無事を確かめる。 齋藤は頷いて肯定の意を表す。 そして、齋藤の右手を見ると、拳銃が握られているのが分かる。 齋藤はそれに弾を込めている所だった。 「SAAですか……?」 森田は前方への警戒を怠らずに尋ねる。 齋藤は装弾を終えると、SAAをクルクルと三回転ほどさせて構え直して言う。 「そうだ……世界で最も高貴な銃、コルト・シングル・アクション・アーミーだ」 コルト・シングル・アクション・アーミーは西部開拓時代に使用されていたリボルバー式拳銃であり、一時はアメリカ軍でも正式採用されていた、現在でも生産は行われているがその目的はもっぱら鑑賞用となっている。 齋藤はどうやらその骨董品のような銃を今の時代でも愛用しているようだ。 彼はそれだけ言うと森田に着いて来るよう手で合図し、そのままトンネルの奥へ走って行った。 「どうしてまた……このご時勢にSAAなんだ、あの人は?」 半ば呆れながら呟くと、竹藤がやってきた。 「しかしまぁ、あれはあれで良い銃だよ……後ろは片付いた、行くぞ森田」 竹藤は森田の肩をポンと叩くと、同じくトンネルの奥へ走って行った。 森田もその後についてトンネルの奥へと走る。 流石に鉄道のトンネルだけあって出口まではかなりの距離がある。 しかし、最初の戦闘で大体の機人は倒しており、残りの機人も先頭を行く齋藤に撃破されていた。 そして、しばらく走り続けていると、微妙に暗さの違うところが見えてきた。 「出口か……この先に一体何が」 森田は既に機人の存在を認めている、いや……認めざるを得ないと言ったほうが正しい。 既に目が合うほどの近距離で交錯し何体か仕留めた。 獣でも幽霊でも、ましてや人間ではない謎の生命体。 「機人か……恐ろしい相手だ」 森田は歩きながらP-90の残弾を確認する、残りは5発しかない。 そのマガジンを抜き取るとホルダーに収め、別のホルダーから新しいマガジンを取り出して装填する。 そうこうしている内に出口へとたどり着く。 すると齋藤がこちらを振り向いて銃を向ける。 「せ、先輩! 何のつもりですか!?」 齋藤は厳しい目つきのまま微動だにせず銃を構えたままでいる。 決して冗談で銃を向けているわけではなさそうだった。 「森田……動くな」 そう言うと齋藤はトリガーを引く。 銃声がトンネル内に轟く、森田は反射的に目を閉じる。 激痛が全身に走……らない。 「え……?」 森田がゆっくりと目を開けると齋藤は既に銃を下ろしていた。 「迂闊だぞ森田……」 齋藤は発射した一発分を再装填しながら言う。 森田が後ろを振り返ると一体の機人がこちらを襲おうと身構えていた。 しかし、それは森田を襲う事はせず仰向けに地面に倒れる。 齋藤の放った銃弾に穿たれたのだろう。 そこで初めて森田は齋藤が自分を狙っていたのではないと気付く。 「すいませんでした……」 森田は迂闊にも後ろを取られていた事を詫びる。 しかし、一方で自分は今日始めてこんな事件に関わったのだと言う思いもある。 「まぁ……お前は今日が初仕事だ、余り気にするな」 齋藤はそう言うと、出口の更に向こうを指差す。 「恐らく向こうが連中のテリトリーだ、森田……これを渡しておく」 齋藤はそう言ってポケットから長方形の小さな機械を取り出した。 角ばった部分は丸く加工されているが、どこか懐中電灯にも見えなくない。そして、その先端には直径2cm程の穴が開いている。 「これは、何ですか?」 「あぁ、これか……ちょっと貸してみろ」 森田はその機械を齋藤に手渡す、齋藤は森田と竹藤から少し距離をとると、機械のスイッチを押した。 ブゥンと言う起動音と共に光の柱が形成される、その機械からである。 「これは……」 齋藤が再びスイッチを押すと光の柱は微細粒子を残して立ち消えた。 そして、齋藤はそれをこちらに投げて寄越す。 「霊子刀だ、総務省の白銀が使っているレーザーとは違う、霊力を物理エネルギーに変換するデバイスだ」 森田はこの機械に覚えがあった、聖火寮時代に齋藤が見せてくれた機械に似ている。 「これは霊斬刀とは違うんですか?」 霊斬刀とは、聖火寮時代の齋藤の発明品の事である。 人の霊力をエネルギーの刃に変換し、霊子結合を切断する事ができる機械である。 寮に巣食う悪霊の一部は、その霊斬刀によって打ち倒された。 「言ってみれば霊斬刀の強化バージョンだな……これは霊子結合だけでなく原子結合も分断する事ができる」 なるほど、つまりは頑強な肉体を誇る機人も物質界に存在すると言う事はその組成は原子結合である。 それをこの刀で分断できれば、彼らに対して有効な攻撃手段になる。 「でも、どうしてトンネルの中では使わなかったのですか?」 齋藤は唇を尖らせると、まるで子供の様に反論する。 「相手は獣以上の身体能力を持っているんだぞ? それに柄の重さしかないそれは扱いが難しいんだ」 確かに、下手に振り回せば自分の体を切ってしまうかもしれない。扱いには注意が必要である。 すると、竹藤が横から口を挟む。 「それに、人間の霊力とは体力以上に消耗が激しい、やたらと使用すると命に関わるぞ」 彼ら2人は社家の人間ではない、しかしある程度の術式には精通している。 神宮館の暗部、古の術式……彼らはその真相に近づいた男達である。 霊斬刀も古代の技術を現代のテクノロジーで再現した物に過ぎない。 「喋り過ぎたな……お客さんだ」 齋藤はそう言うと出口から正面に向かって構える。 森田は反射的にP-90を構えると周囲を警戒する、すると辺りには赤い点が満ちていた。 赤い点……それはつまり、機人の目である。 「ざっと見積もっても20は居るな」 竹藤から絶望的な分析結果がもたらされる。 森田はホルダーから予備にと持ってきたもう一丁のP-90を取り出す。 両手にP-90を構えながら、いつ襲い掛かられてもいいように身構える。 しかし、連中は闇からこちらを伺っているだけで一向に向かってくる気配がない。 「これはこれは、SSSの皆さん……ようこそ我が家へ」 突然茂みの奥から人間の声がする、男の声の様だ。 その声の方向に銃を向ける、茂みを割って誰かが歩み来る。 白いロングコートを着ている、背は高い……この中では最も長身の竹藤よりも更に大きい。 「頭領のお出ましかい……」 齋藤がこれまで誰にも現したことのないような敵意をコートの男に向ける。 気のせいか齋藤の体から発せられる殺気が増したように感じる。 それほどまでに目の前の男は強敵なのだろうか。 「そちらの方は新入りですか? ふむ……しかし、それにしては随分と良い目をしていらっしゃる」 ロングコートの男は芝居がかった口調で言う、新入りとは自分のことを言っているのだろう。 それにしてもこの男の口ぶり、2人と知り合いのような風である。 「竹藤先輩……あいつは、一体」 竹藤もまた苦虫を噛み潰したような顔で男を睨む、そして森田の方は向かずに応える。 「奴は……シモン=ペトロ、進化した機人だ」 進化した機人とは一体なんであろう。それよりも、彼もまた機人なのだろうか、人語を解し自分たち人間と同じような振る舞いをするあの男もまた機人だというのだろうか。 この2人には仕事が終わったらまだまだ聞かなければならない事が多いようだ。 そのためにも、自分はここで死ぬわけには行かない。 「竹藤! 森田! 奴は俺が仕留める、お前らは雑魚の掃除を頼む……」 齋藤はそう言うとホルスターからSAAを抜くと、シモン=ペトロと呼ばれた機人に向かって走って行く。 それに呼応したかのように辺りの赤い点が一斉にざわめく。 茂みから機人達が次々に飛び出してくる、森田は一番近くに飛び出してきた機人に向けてP-90を乱射する。 頭部に8発程撃ち込むと、その機人は動かなくなる。 竹藤は流石に手練であり、森田が一体の機人を倒す間に彼は二体の機人を始末していた。 しかし、いかに竹藤が手練の戦士であっても多勢に無勢である、3体の機人を始末する間に、こちらは19体の機人に周りを囲まれてしまった。 「先輩……こいつはちょいとマズイんじゃないですかね」 森田は思わず竹藤に尋ねる。しかし、竹藤は少しも怯まずに森田に言う。 「森田、このくらいでビビッてちゃあこの稼業は続けられんぜ、行くぞ!」 竹藤は手近な機人に駆け寄ると、大きく振りかぶった右腕の一撃を姿勢を低くして交わすと、ステアーの銃口を機人の顎に当てトリガーを引いた。 タタタンッと言う短い銃声の後、その機人は崩れる様に地面に倒れた。 「うぉぉぉぉ!」 竹藤はそのまま飛び掛ってきた機人の胴体に銃弾を奢る、胴体に致命傷を受けた機人は飛び込んだ姿勢のまま着地に失敗して転がる、すかさず竹藤は起き上がり、とどめの一撃を機人の頭部に撃ち込む、機人は全身を痙攣させた後動かなくなった。 森田よりも一歩前に飛び出し、瞬く間に2体の機人を打ち倒した竹藤は、機人の標的となっていた。次々と機人は彼に立ち向かうが、1体、また1体と胴体を、頭部を撃ち抜かれて地面に倒れ伏す。 「凄い……これが、プロ」 森田はただただ呑まれるだけであった、サバイバルゲームの経験があるとはいえ、数年前までただの学生だった人間がここまでの戦闘能力を手に入れられるのだろうか。 しかし、目の前で繰り広げられている光景は現実である、森田も信じざるを得ない。 竹藤は変わらぬ淡々とした調子で次々と襲い来る機人を始末して行く。 しかし、6体目の機人が竹藤に襲い掛かり、竹藤がそれを迎撃するためにトリガーを引くが数発弾を吐き出したところで乾いた音を立てて排莢が止まる、弾切れだ。 「先輩!」 森田は竹藤を援護するために飛び出すと、竹藤の背後に着く。 周囲に向けてP-90を撃ちまくる、大した攻撃にはならないが一瞬機人の攻撃の手を止めるのには十分な脅威になる。 竹藤はその間に手馴れた動作で、素早くマガジンを交換する。 「すまん、森田! 出来る様になったじゃないか!」 竹藤は森田と背中合わせになりながら礼を述べる。 そして、マシーンの様な正確な射撃で、遠巻きにこちらの動きを牽制していた機人を次々と射殺していく、味方であるはずの森田も背筋が凍る思いがしたほどだ。 気付けは19体に囲まれていたはずが、その数は10体程に減っていた。 森田も勢いに乗って飛び掛る機人の攻撃を縦横に飛び去ってかわし、通り過ぎ際に数十発の銃弾を見舞う、それを受けた機人はゴロゴロと地面を転がり動かなくなる。 「森田! 残段数に気をつけろよ!」 竹藤が森田の弾切れを予言したかのように、森田のP-90は弾を吐き出す事をやめる。 「南無三!」 弾切れの瞬間、それを見越したかのように一体の機人が飛び出す、森田は横っ飛びに転がって振り下ろされた右腕の一撃を回避する。 上手くかわしたと思ったが、次の瞬間その機人は脅威的な脚力で以って横っ飛びに森田に襲い掛かってきた。 森田は咄嗟に両手のP-90を手放すと、霊子刀のホルダーに手を掛ける。 齋藤に貰った霊子刀を握り締めると、スイッチを押して飛び掛る機人の腕を斬りつける。 「でやぁぁぁぁ!」 ブゥンと言う低い起動音の後、光の柱が形成される。それは刃となって機人に襲いかかる 一瞬の交錯の後、鈍い音を立てて機人の左腕が地面に落ちる。 「ギャアアアア」 初めて機人の声を聞いた、その叫び声はスピーカーがハウリングを起こしたときに様に、人間の可聴域を超えた音であり聞くに堪えない。 森田は歯を食いしばってその声に耐えながら、今度は下から上へ、機人の首元を狙って斬り上げる。機人の首が宙を舞う、この霊子刀は想像以上の切れ味である。 「無事か森田!」 竹藤が叫ぶ、無事であることをひとまず伝えると、彼はほっとしたようにまた機人に向き直る。 剣道は習った事はないが、神社の息子と言うのは望みもしないのになぜか武芸を仕込まれる事が多い、森田もその例に漏れず多少の武器の扱いは叩き込まれていた。 この場でのP-90の回収はあきらめ、このまま霊子刀で戦う事を決める。 覚悟を決めた森田は霊子刀を正面に構えると、目前の機人に突進する。 相手の機人も森田に向かって飛び掛ると鋭い爪状に変化した指先を突き出す、森田は姿勢を低くしてその致命となりえる一撃をかわすと、思い切り霊子刀を振り上げる。 機人の右腕は一刀の下に斬り飛ばされて宙を舞うが、機人はそれにもひるむことなく今度は左腕を振り上げて姿勢を低くしている森田に振り下ろす。 「ぬぅぉぉぉぉ!」 森田は体をひねってギリギリの所でその一撃を回避すると、体を立ち上げる勢いを利用して霊子刀を斬り上げる。 機人の左腕を肩から切り落とす事に成功する。それでもなお機人は戦う事をやめず、今度はその場で飛び上がると鋭利な尻尾を振り回して襲ってくる。 「尻尾!? そんな物あったのか!」 今までの連中には確かに尻尾は付いていなかった、それどころかもう少し人間的な体をしていた、この機人はどちらかと言うと刺々しいサルである。 背筋は曲がっており、手には鋭利な爪、そして尻尾。獣としての形をいくらか残している。 「気をつけろ森田! レベル5への過渡期の奴がいるぞ! 奴らには知能がない、その代わりに化け物みてえな身体能力を持ってる!」 竹藤が一体の機人を相手にしながら叫ぶ。 縦横に飛び回りながら振り回される尻尾を避けきれず、左肩を強く打ち据えられる。 「ぐぁぁぁ!」 激痛が全身を貫き、思わず霊子刀を取りこぼす。出血を抑えるために傷口を押さえ、機人の姿を探す。 見れば、もうその機人は次の攻撃行動を取り、大きな口を開くと森田を噛み砕かんと飛び掛ってくる。 殺られる……と思ったとき、銃撃の音がどこからともなく轟く。 その音はハンドガンの様な優しいものではない、圧倒的な破壊力アサルトライフルのものである。 森田を攻撃しようとしていた機人も何発もの銃弾に穿たれて、地面に倒れ伏し動かなくなっている。 「苦戦しているようだな、竹藤君! そして、ルーキー君……」 トンネルから2人のスーツ姿の男が現れ、次々と機人を始末してゆく。 手にはアサルトライフル、スーツ姿ということは、彼らもSSSの社員なのだろうか。 そう言えば2人のうち、体格の良い男のほうは「竹藤君」と言っていた、竹藤と彼は少なくとも知り合いなのだろう。 「シシオ! 援軍だ! 社長のお出ましだぜ……」 竹藤が大声で齋藤に呼びかける。 彼は社長と言っていた、と言う事はあの体格の良い男はSSSの社長なのだろうか。 社長自ら現場に赴くとは、よほど人員が不足しているらしい。 彼らの到着でその場の形勢は一気に変わった。 社長と呼ばれた男は、頭部への正確な射撃で次々と機人を仕留めてゆく。 もう一人の男は右手に霊子刀を持ち、左手にはMP5を持って機人に襲い掛かる。 MP5は特殊部隊用と言う位置付けの短機関銃で、部品が多いため整備や調整に手間がかかるが、その分精度が高い。彼が持っているのは片手でも持ちやすいMP5Kと呼ばれる型である。 「おらぁぁぁぁ!」 彼は右手の霊子刀で邪魔な四肢を斬り飛ばすと、ダルマ状態の無防備な機人の頭部に冷酷に銃弾を撃ち込む。 獣タイプの機人が両腕を振り上げて彼に襲い掛かるが、彼は全く怯むことなく霊子刀を振り上げると、正面から迎え撃つ。 彼は、自らに襲い来る機人を一刀の下に斬り捨てる。縦に真っ二つにされた機人は彼を避けるように分かれ地面に転がる。 実体剣でないため血のりが着く筈はないが、彼は霊子刀を一振りすると周囲の機人を威圧する。 「ギィギィ……」 残った機人は3体、彼らはもうほとんど人間の体をしている、多少の知能はあるのだろうか、目標を社長に切り替え3体同時に彼に襲い掛かる。 森田は全身が粟立つのを感じた、しかし痛みで上手く体が動かない。もう一人の男も何故だか動こうとしない、既にMP5と霊子刀をホルダーに収め、のんびりとタバコを蒸かしている。 全身から嫌な汗が出る、社長が、殺られる。 そう思った、しかし森田は次の瞬間もう何度目か分からない信じられない光景を目にする。 「不届き……」 社長は冷めた目つきで睥睨するように3体の機人を見据えると、手を一つ打った。 その瞬間、社長からまばゆい光がほとばしり、彼に向かって飛び掛っていた機人はその光に全身を貫かれて消滅する。 森田は一瞬何が起こったのか理解できなかった、魔法だろうか、これは。 「え……?」 唖然としてその光景を見ていると、竹藤が近づいてきて語り掛けてくる。 「森田、無事か? 怪我は大丈夫か?」 怪我は大した事はないはずだが、体力の消耗が激しく思うように体が動かない。 竹藤は、森田の怪我を応急的に手当てすると言う。 「こちらの方は片付いたな……後はシシオが上手くやるかどうかだ」 そう言えば先ほどから齋藤の姿が見えない、銃声だけが森の中に木霊している。 すると茂みから二つの影が飛び出してくる。 一方は白い影、奴だと分かる。と言う事はもう一方の影は齋藤だろうか。 2つの影はそれぞれ対面するように着地し、じっと相対する。 「いやいや……お仲間までいらっしゃるとは、私の部下達もやられてしまいましたしねぇ」 シモンは追い詰められた状況にもかかわらず、どこか余裕を持った態度を保つ。 それほどまでにこの男は強大な力を持つのだろうか。 「今回ばかりはお前も最後かな?」 齋藤もまた余裕のある口調でシモンに語りかける。 その間、SAAの空薬莢を抜き、新しい弾を装填する作業を行っている。 「どうですかね? 私は仲間内でも悪運の強いほうでしてねぇ」 そう言ってシモンは齋藤に銃を向ける、ワルサーP-38シルバータイプである。 某アニメの主人公も愛用する有名な銃であるが、そろそろ時代遅れの型である。 このシモンと言う機人も齋藤と同じく古い型の銃を好むらしい。 「それではミストガン、今日は失礼しますよ……楽しかった、またお相手願いますよ」 シモンはそう言い残すとワルサーの引き金をためらうことなく引いた。 銃声が夜の森林に轟く。齋藤は吐き出される弾丸を横っ飛びにかわすと、左手を地面に突いて側転しすぐに体制を整えると、SAAのトリガーを引きながら左手でハンマーを連続して叩く。 シングルアクションのリボルバーで連射を行うときの技能ファニングである、連射はできるが銃が腰元に来るため命中精度を上げるにはそれなりの修練が必要だ。 しかし、齋藤の放った銃弾は的確にシモンの立っていた場所を撃ち抜く。 「跳んだ!」 森田は叫ぶ。シモンは驚異的な跳躍力で齋藤の射撃をかわすと、そのまま森の中へと消えて行った。 一瞬追うかどうか逡巡したが、齋藤を始めSSSのメンバーは誰もその場を動かなかったので、森田もシモンを追撃する事はあきらめる。 「また、逃がしたか……」 齋藤は苦々しげに呟くと、手元でSAAを三回転、胸元に持ち上げて五回転させ、そのまま回転させながら腰のホルスターに突き刺すように収める。 そして、彼は振り返るとこちらを向いて語りかけてくる。 「森田、ようこそSSSへ」 森田は、膝から力が抜け、情けなくその場に座り込んだ。 その後、SSSは機人の残骸を全て回収し、事務所に撤収した。 驚いた事に、機人の体内は複雑な電気回路で満たされていた。しかし、どの器官も機械的な角ばったフォルムではなく、どちらかと言うと生物の臓器の様な生物的なフォルムをしていた。 森田は彼ら……機人が単純に機械でない事を思い知らされる事となった。 体格の良い社長と呼ばれた男はその名を石田晃大と言うらしい、とても人当たりが良く、憔悴しきった森田にも暖かい言葉をかけてくれた。 もう一人の男、少し線は細いが男前であり飄々とした男であった、戦闘時の鬼神の様な戦いぶりからは考えられないほどの人格者である。名は木村隆志と言うらしい。 こう見るとSSSの人間は誰しも善人然としていて面白みにかける。PMC――民間軍事会社――と言うくらいだから、粗野な傭兵のような人間ばかりかと思ったが、その真逆である。漫画のような正義の味方の集団である。しかし、森田もそういうのは嫌いではなかった。 帰りの途上、森田は機人に関する幾らかの知識を与えられた。 機人は《ヒヒイロガネ》と言う外宇宙から飛来した未知の金属に、人の思念が吸収される事で誕生する、その思念は生死を問わない、つまり死者の念、霊が乗り移る事もある。 思念とはすなわち情報である、霊も妖怪も神も、全ては人間が生み出した情報である。 機人はその受け皿であり《ハード》である。そこに《ソフト》、情報である思念が融合する事で、機人は一種の機械生命体としての命を得る。 それら機人は有機物を分解、再構築して肥大化する、そして自己構築をしながら成長し、獣や昆虫の形態を経て人間の形をとる。 機人の性質は吸収する思念の属性に影響される、人々の善意……「喜び」や「愛」、「勇気」を受ければ善なる性質の機人が生まれる。逆に人間の悪意……「嫉妬」や「憎悪」、「憤怒」などを受けると悪なる性質の機人が誕生する。 しかし、残念ながらこの世に誕生する機人の多くは悪なる存在であると言う。 それは、人々の思念が「憎悪」や「欲望」に穢れているからだと彼らは説明してくれた。 森田はある程度の知識を聞いたところで、先刻から気になっていたことを切り出す。 「齋藤先輩……一ついいですか?」 齋藤はフクスの運転に付いているのでこちらは向かないが、前を向いたまま森田の問いかけに反応する。 「どうした、森田?」 そう、それはシモンが逃走し、機人の残骸を全て回収し、総谷トンネルから撤収する際から気になっていたことである。 SAAの事ではない、彼の射撃の腕を見れば銃など関係ないのかもしれない、或いはSAAを実戦で使用するために過酷な訓練を積んだのかも知れない。 とにかく、今は銃のことを問題にしているのではない。別件である。 「先輩……さっきから、肩の所に白い女性が憑いてますよ……」 すると齋藤はため息を一つつくと、たいそう疲れた声で竹藤に言う。 「はぁ……通りでさっきから体が重いわけだ、竹藤、何か悪さをされる前に浄解しておいてくれ」 すると、その発言を受けた竹藤は面倒くさそうにシートの下から拳銃のようなものを取り出す。 それを齋藤のほうに向けると、ためうことなくトリガーを引く。 眩い光が一瞬フクスの車内を照らす、その余りの光量に森田は思わず目を覆う。 次に森田が目を開いた時には齋藤に取り憑いていた白い女性は消えていた。 「何ですそりゃあ……?」 森田が問うと、竹藤はそれに答えて言う。 「これか? これは、物理空間中に漂う情報……つまり霊を回収する機材だ」 竹藤はそれに続いて、一定の空間をセルと言う最小の単位とし、霊が存在する領域をセルの集合体とする。そして、そのセル領域とマシンの中で形成される擬似領域のセルとを強制的に置換する事で霊をマシンのデータバンクに回収する事ができる、と言った。 正直何を言っているかは分からなかったのだが……。 |
アダムスカ
http://kabukirininryo.cocolog-nifty.com/ryodan_blog/ 2008年08月16日(土) 20時54分04秒 公開 ■この作品の著作権はアダムスカさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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なむさんって、初めて知りました……。驚きを意味するんですね。 む、難しい……。霊力って一体……。初めlight saberを思い浮かべたんですけど……、形状的にはあんな感じですかね? 武器に関しての解説は有難いです。これからもお願いしますm(_ _)m 輝く社長を想像して……、それが物凄く気になります。謎(?)が明かされるのを待つことにします。光って……。 此方は少なすぎな感じもしますが。 |
40点 | 風斬疾風 | ■2008-08-24 20:15 | ID : FZ8c8JjDD8U | |
ども、ケルベロスです。 ちょっとしたことですけど、漢字の読み方とか特殊だったら、ルビふったり、カッコで書いたりしたほうがその時によめて少し読みやすいともいます。 |
40点 | ケルベロス | ■2008-08-18 21:23 | ID : If3qiekeSNg | |
あのですね軍師殿、あれ僕の作品じゃないんですよ。 偽者ッス。僕が本物。 本物はバスケ青春ストーリーなるものを書きました。見ていただけたら幸いです。 |
40点 | 生徒会長7 | ■2008-08-17 15:27 | ID : R1.SfAN2p.. | |
合計 | 120点 |