サモナーズストーリー 12章 |
ここは魔法学園レイツェンの学生寮。日曜のもう朝も若干過ぎた頃、ここの寮生の一人、リムスは珍しく寝過ごすと一階の台所に少し遅めの朝食を食べようと向かう。パンでも焼けばいいや。そう考えながら台所に行くため無人の広間を通り抜けようとすると、テーブルの上にあった今日の朝刊と思しき新聞が目に止まった。 「そういえば、何かニュースやってたかな……」 リムスはそう考えながら新聞に目を通す。が特に真新しい出来事はなく、リムスがパラリとページをめくるとその目が見開かれた。 [魔法財閥会長 ヴァス・リンブロム死去]、その見出しを見ただけでリムスの表情はきついものになり、しばらく動かずにそのニュースを睨みつけていた。 「ん?よおリムス」 「!!」 すると突然後ろから声をかけられ、リムスは慌てて新聞を閉じて若干乱暴に元のテーブルの上に戻し、振り向く。とたった今起きたとでも言うような寝癖姿のセントが階段から降りてきた。 「なんだ?お前も寝坊なのか?珍しいな。朝飯食ったか?」 「なっ、あっ、当たり前よ!もう食べ終えたわよ。そ、それじゃ、私部屋戻るから」 リムスは慌てて階段を上っていきセントは首を傾げながら若干ぐちゃぐちゃになっている新聞をちゃんと折りたたむと朝飯を食べに台所に向かった。 その頃リムスは部屋に戻ってベッドに寝転がっていた。その頭に浮かぶのはさっきのニュース。 「……ふん、ざまみろだわ」 リムスはそう吐き捨てるように言うとごろりと寝返りを打つ。とグ〜とお腹が音を立て、リムスは少し考えるとまた部屋から出て階段を降りていった。 その次の日、学校から学生寮へリムスはセントと共に帰っていた。先輩や後輩とは帰る時間も合わないしロイとエレナは別の用があるらしい。 「……」 「……おい」 リムスが黙っているとセントが不意に声をかけ、リムスが「何?」と言うようにセントの方を向くとセントは首を傾げながら返した。 「お前昨日から変だぞ。ずっと黙ったままだし話も上の空だし、何かあったのか」 「……別に」 リムスがそう言うとほぼ同時に、セントは何かに気付いたように召喚腕輪を右手首に着け、詠唱を始める。とそれと同時に辺りから黒服の男が数人、現れた。そしてセントがワルフを召喚した後尋ねる。 「さっきから何だ?つけてきたりして、ストーカーとかいう奴かい?」 「答える義理はない。そちらのお嬢さんを渡してくれればあなたに危害は加えん」 セントの言葉に黒服の男の中の一人が答え、セントはそれを聞くと笑うように言った。 「おいおい、今度は真昼間に誘拐宣言かい?いい度胸してるねあんたら。それを受ける事はできないね」 「ならば、実力行使と行かせてもらおう。かかれっ!!!」 その男が言うと同時に男たちは一斉に飛び掛り、セントはナックルを着けながら言った。 「ワルフ、獣化してリムスについてろ。いいな、あいつらをリムスに指一本触れさせるな」 [ああ。面白そうなことになってきたな] ワルフがそう言いながら獣化していくのを見届けると、セントは目の前の黒服の男に殴りかかり、また別の男の鳩尾を蹴る。加減しているとはいえその実力は半端ない。男たちはセントに殴られ、蹴られたところを押さえながら逃げていき、セントはフッと短く息を吐くとまた別の方にある草むらを見ながら言った。 「そこのおっさん、俺が気付いてないとでもお思いかい?力ずくで引っ張り出されたくなきゃ、大人しく出てきな」 セントの言葉を聞くと草むらの陰から初老を過ぎた辺りだろう眼鏡をかけたお爺さんが現れ、セントは「何者だ?」と聞こうとするが、その前にリムスが叫ぶ。 「ラパート!?」 「……お久しぶりでございます。お嬢様」 「おっ、お嬢様ぁ!?」 その老人――ラパートの言葉にセントが叫び、それから寮に戻って夜、先輩後輩、ロイ達が広間に集合してから先輩の一人――レンが口を開いた。 「それで、ラパートさんと言いましたか?一体どう言う事でしょうか?」 「……お話の前に、最近ヴァス・リンブロムという方がお亡くなりになった事を御存知でしょうか?」 ラパートの言葉にセントと後輩の一人――ギィを除く全員が首を縦に振り、二人はもう一人の後輩であるセリアにどう言う事か教えてもらっていた。 そしてその事を把握するとラパートが再度口を開く。 「実は、ここにいるリムス様は――」 「言わなくてもいいわよ、私が言う。さっき出たヴァス・リンブロムは、私のお爺ちゃんなのよ」 『なっ!?』 その言葉に全員絶句し、それからリムスが言う。 「私の親はリンブロムの祖父母から結婚を反対されててね。逃げ出したみたいなものらしいわ」 「……そちらの、ラパートさんは?」 先輩の一人――シグルスが尋ねると、リムスはにこっと笑って言った。 「彼は大丈夫、彼はリンブロム家の親、つまり母親の家に仕えてる執事だけど、悪い人じゃないわ。結婚にも賛成してたらしいし。で、話を元に戻すけど、どう言う事なの?」 リムスが尋ねるとラパートは一礼してから話し出した。 「実は、リンブロム家の何者かが、お嬢様を養子にしてどこかの御曹司と結婚させようということになってるらしいのです。恐らくお婆様だと思うのですが」 「……政略結婚の材料ってわけか……馬鹿げた話だな」 セントはつい口が出てしまい、リムスもため息をついて言う。 「ほんと、今更虫のいい話よ。あんなに私を責めたてといて……あんな家、消えちゃっていいのよ」 「全くです。それをお嬢様にお伝えし、用心していただこうと思いまして来た次第なのでございます。もっとも、少し遅かったようですが」 ラパートは少し笑いながらそう言って一礼し、リムスはラパート向けて微笑むと言った。 「ありがと、なるべく用心しておくわ」 「そうだな、セントにロイ、エレナ。しばらく行動を共にしておいてくれないか?その方が安心だ」 シグルスがそう言うと三人とも頷き、リムスも了承する。そしてラパートはもう遅いので今日は泊まってもらうことにし、皆も自室に戻っていった。ただリムスとセントを除いて。 「……クソが」 「え?……」 ただ不機嫌な表情で座ったままだったセントがそう呟き、リムスが聞き返すと、セントは不機嫌そうな表情のまま続けた。 「政略結婚だか何だか知らねえが、自分と血の繋がった家族を道具みたいに使うなんてな、許せねえと思っただけだ」 「……そっか、セントは――」 セントの言葉にリムスが言おうとするが、それを遮ってセントが続けた。 「ああ。だが孤児だからこそ本当の親の暖かみが分かるなんて真似は言わねえ。ただ家族を道具みたいに使うふざけた真似は許せねえだけだ」 そうだけ言うとセントは立ち上がり、言った。 「話聞いただけで腸煮えくり返ってきた、一風呂浴びて落ち着いてから寝るようにする。んじゃな」 セントはそう言って着替えを取りに自室に戻っていき、リムスも自室へと戻っていった。 |
カイナ
2008年09月09日(火) 22時07分36秒 公開 ■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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政略結婚……。縁の無い話なので、実際どうなのか分かりませんが、本人の意思を無視するってのがやっぱ嫌ですね。意思って言うものは、絶対なのです。作られたり作ったりすることは出来ないのです。 さてさて、これは戦いの予感です。うん、黒服の一団VS仲間たちになるのかな。ではでは。 |
30点 | 風斬疾風 | ■2008-09-17 22:36 | ID : FZ8c8JjDD8U | |
覚えていましたよ。楽しみにしてました。えぇ、とても。 新たな展開、というか新章突入――とでも考えていいでしょうかね? 現在進行形で闇の中って、そんなこと言わないでがんばってくださいね。続き、楽しみに指定ます。 セントの性格というかなんと言うか、好きですね。自分が読み取ったのは不良じみているけど芯がしっかりしていて根がとてもいい奴。って感じで捉えていますが、違ったらすいませんm(__)m |
30点 | ケルベロス | ■2008-09-11 22:48 | ID : If3qiekeSNg | |
お嬢様…かぁ。 華やかさには惹かれるけど、苦労はありますよね。 惚れるか? と聞かれれば、答えにくいなw 物語の熟成。 結局モンハン小説は最初から最後までそんなことしなかったなぁ。 ワードすら使わなかったし。 |
30点 | 生徒会長7 | ■2008-09-10 23:53 | ID : R1.SfAN2p.. | |
待ってましたよ、続きを。 トム・クランシーの『大戦勃発1』を読みきり『METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOT』をちょびちょびと読んでいる中、読むものに事欠いていた私です。 今回は新たな展開ですね、財閥の息女を中心に繰り広げられる物語。 その素材としての財閥代表の死、息女を狙う一団、息女側の人間の出現。 恐らくは政略結婚のために息女を連れ戻そうとする一団と、それを守るべく立ち上がる仲間との戦いになるのでしょうね。 それにしても、一般人が彼らに敵うとは思いませんが、あるいは……雇われた強力な召喚師が……。 続きが楽しみです。 熟成と言うのは、つまり何度も自分で読み直して。「ここは説明が足りないな」「ここは台詞が欲しいな」「ここは流れをスムーズにした方が良いな」と言うように、より良い物語に改良していく事ですね。 大まかな話のプロット。 ゲームで言うならばイベントツリーのような感じで、ポイントポイントに重要なイベントを用意しておいて、そのポイントを線で繋ぐと言った感じで。短期的な目標を設定する事で、真っ直ぐに物語を進める事ができますよ。 まぁ、その時「最高の出来だ!」と思えても、一週間放置してみると、改善の余地が見えてくるのですよ。そこを直し直しすると、本当に良いものが出来るのです。 現在、物語が良いだけに、もっと上を目指して欲しいですね。 個性を出さないと、読み手の中でキャラクターがキャラクターのままで、人間に昇華しないのです。個性のつけ方で言えば、設定の段階でそのキャラクターの履歴書を作ってみると良いですね。そう言う設定は、学園モノや戦争モノなんかでそのまま役に立ちますし。 何かの組織に所属する時は、そう言う書類が必要となりますからね。 臨場感については、経験地を積むしかありませんね……例えば、映画やドラマのワンシーンを文章で書き下ろしてみるとか。他の人の小説から盗むとかですね。私も細かい動きなんかは自分で動きながら書いていますが、意外に難しいのですよねぇ……頑張ってくださいb 私は、この物語好きですよ。 主人公のセントですが……一見粗野に見えて、内に不正を許さない純粋な心をたぎらせている男ですね。不良と言うよりもはねっかえりですね。こう言う物語は長いスパンで読みたいものですね。 セントみたいな少年は、ある程度落ち着いてくると本当に良い人間になるものですから。大人になった皆の姿も見てみたいですし。 私の言葉を重く受け止めていただいているようで何よりですが、余りお気になさらないように。私の悪い癖でしてね……市販の小説と比較して見てしまうのです。確かに、市販の小説とは比べられませんが。世に氾濫している一般に厨小説と呼ばれるものを基準に考えるなら(比べるのも失礼な話ですが)、これは作品として完成されていると言えます。 私の言葉は、現状に満足できず、もっと高みを目指したいと思った時に思い出していただければと思います。 もし、よろしければ私のアドレスにメールを送ってください。 今暖めている「スペースオペラ」の設定資料を、お送りいたします。 資料の作り方の参考にしていただければと思います。 これからも頑張ってください。 |
30点 | アダムスカ | ■2008-09-09 22:45 | ID : MXRHzdRQNyI | |
合計 | 120点 |