咎と裁き 第一章 【胎動編】 File.04 《神宮防衛戦》
File.04 神宮防衛戦

 森田が林に飛び込んでからおよそ10秒、機人達は弾幕を張りながら徐々に近づいてくる。牽制射撃が多すぎて森田は反撃できずにおり、機人の接近を許していた。このままでは、いずれ近距離で包囲、殲滅されてしまうだろう。頬を伝わる嫌な汗を左手で拭いながら思考を巡らす。手元にはP-90が2丁、霊子刀が1本、45口径が1丁、他のオプションはない。

「これまでか……」

 石田達が到着するまでにはもう数十秒かかるだろう。しかし、その時間があれば機人は自分を包囲し殲滅する事ができてしまう。森田の脳裏に諦めがよぎる。しかしその瞬間、遠くで聞き覚えのある爆音が轟いたかと思うと、森田の横を何かが高速で通り過ぎる。そして、その謎の物体は機人の集団の中へと飛び込むと派手な炎を上げて爆散した。

「無事か、少年!」

 森田は自分の後方に目を向ける。先程正門を防衛していた白銀の隊員とその増援の隊員がこちらに向かってきていた。そして、1人の隊員の手には先程まで機人が使っていたRPG-7が握られていた。どうやらあの後機人のトレーラーを調査していたようだ。森田は親指を立てて無事である事を知らせる。彼らは頷き、止んだ銃撃の間隙を縫って各個に攻撃する。今度はこちらが機人を牽制し、徐々に近づく形となった。

 黒いコートに身をまとった人間まがいの獣たちを、それを狩るために組織された部隊の隊員が追い詰める。白銀の隊員達による牽制射撃によって、機人達は有効な反撃を行えずに居た。森田は手近な1体に素早く近づくと、右を向いていたそれの背後を取るように左側から飛び出し、背中に向けてP-90を乱射する。突然の攻撃に反応できなかった機人は、P-90の射撃をもろに受けてそのまま前に倒れ伏す。

「クリア!」

 森田は後ろに付いている白銀の隊員に向けて叫ぶ。それを聞いた隊員達は足を速めて進軍してくる。自棄になって飛び出してくる機人を、彼らは冷静に射殺してゆく。流石は「対機人」と銘打つだけはある、これならアメリカのSWATにも対抗できるだろう。今もまた1体の機人が木の陰から銃撃を伴って現れるが、白銀の隊員は巨木の陰に身を潜めてそれをやり過ごし、銃撃が止んだと見るや体を翻して機人の頭部を銃撃する。その機人が地面に倒れるが早いか、重々しいエンジン音が聞こえてきた。その方向に目を向ければ、ライトを点灯して疾走する重装甲の車両が見える。フクスである、つまり迎えが来たということだろう。

「援護する! その間に乗り込め!」

 白銀部隊の一人が言う。森田は礼を言うと林から飛び出す。それと同時に一斉射撃が始まる、機人に反撃の余地はない。今までのような牽制射撃ではなく、相手を打ち倒す事でこちらを援護しようとするかのような砲火である。森田は一直線に盾の落ちている場所へと走り抜ける、そして盾を拾うとまだ作動するかを確かめる。幸い破損は無いようで、表面に多少の傷があるものの全機能に影響は無かった。それを確認した所で、フクスが森田の目の前で止まる。

「パトリオット、乗れ!」

 竹藤が短く言う、その言葉と共に後部ハッチが開く音がする。森田は盾を拾って担ぐと、フクスの後部ハッチから乗り込む。それを確認した竹藤は誰かに行くよう命じる、そしてその言葉を受けフクスの後部ハッチがゆっくりと閉じる。閉じるのを確認する前にフクスは轟音を立てて動き出した。

 しかし、森田には一つ気になることがあった。竹藤は一体誰に命令したのだろう、後部のシートには得物のM14を調整する石田と、様々な計器に色とりどりのランプが点灯する機械の前でキーボードに指を滑らせる藤原がいる。竹藤はと言うと助手席でラップトップを相手に内宮方面の戦況を確認している。不審に思った森田は運転席を覗く、するとそこには誰も座っていなかった。

「えぇっ! 先輩、これは誰が運転してるんですか!」

 竹藤は、今思い出したと言う風にポンと手を打つと、こちらを振り返って言う。

「紹介がまだだったな。俺の組み上げた万能AI《Captain U》、通称Capだ。データの送受信から保管、射撃管制、操縦までこなす事ができる。人手不足のSSSにとっちゃあ、まさにキャプテンだよ」

 AIを組んだ? 森田は竹藤の言っている事に理解が追いつかないでいた。つまり、この擬似人格プログラムがこのフクスを運転しているのだろうか? 元々そう言う方面に明るい竹藤だが、それが本当なら彼は卒業してからの1年で更にその能力を昇華させたようだ。竹藤の話を黙って聞いていると、その「彼」が語りかけてくる。

「始めまして、パトリオット、私はキャプテン・ツヴァイ、SSSの作戦行動を補助するために生み出されたAIプログラムです。どうぞよろしく」
「ああ、よろしくCap」

 森田は一瞬面食らったが、すぐに気を持ち直して挨拶を返すと、運転席に腰を下ろした。すると、竹藤が現状を説明する。一同は手を置いてのその話に耳を傾ける、無論森田もである。

「現在内宮正面の駐車場を機人に占拠されている。内宮は河に囲まれているため周囲の防衛は容易だが、内宮領内に通じる橋が現在激戦区になっている。ここを突破されると武装した機人が一気に内宮領内になだれ込む事になる、それは何としても避けたい」
「白銀の別働隊は何人ほど残っている?」

 石田が話しに割って入る。竹藤はキーボードを数回叩き、低いうなり声を上げてから答える。

「衛星レーダーの反応からは12名の生存が確認されています。元々20人そこらの部隊ですから、多勢に無勢……逆にこれまでよく保ったと言うべきですね。現在このルートを通って内宮に向かっています、このまま行けば連中の背後を取る事ができるでしょう」

 竹藤はそう言って説明を終わる。森田は運転席を離れ後部に移る、そして弾薬類の満載された箱を開く。中には竹藤の使うMP7用の弾薬から、石田の持っているM14の弾、藤原が一応の武装として持っているP230用の銃弾もあるが、森田の目的はそのいずれでもない。殆どを撃ち尽くしてしまったP-90用の弾薬である。箱の奥にマガジンとして収納されているそれを2セット引きずり出すと、腰のホルスターからP-90を2丁抜いてマガジンを取り替える。古いマガジンを箱に戻し別のマガジンを取り出すと、タクティカルベストのポケットに押し込む。

「皆さん、もう140秒で皇大神宮へ到着します、戦闘配置についてください」

 Capが言う。それを聞いた石田は後部エリアの天井にあるハッチを開くと上半身を乗り出す。森田もP-90の装弾を確認し左手に防盾を構え、いつでも飛び出せるように準備する。藤原はレーダー席に着き衛星からの電波で機人の配置や数を割り出し始める。竹藤も相変わらずラップトップになにやら打ち込み続けている。

「会敵まで後40秒です」

 Capがせかすように言う、その時である。竹藤が突然叫ぶ。

「正体不明の飛行物体が接近中」藤原がそれに応じて言う。
「衛星レーダーも感知しています、これは……ヘリコプター?」

 衛星レーダーとは、衛星から地上の一定区域へ向けて短いスパンで連続発信された電波の反射データから、動いている物体の位置を割り出すものである。一定区域内であれば、その数も算出する事ができる。しかし、まだ発展途上の技術であり電波撹乱を受ければ直ちに使用不可となり、電波が乱反射しやすい地下や洞窟の中では上手く機能しない。また有効区域もまだ直径100mと言った所である。
 竹藤と藤原の言を受け、森田も天井のハッチを開いて身を乗り出す。すると、高速で何かが通り過ぎる。しかし、音と形状からしてヘリであろうと言うことは分かる。竹藤がCapに怒鳴る。

「Cap、機種を特定しろ! カメラで追い続けろ、可能な限り見失うな!」
「了解、CCTV起動……データバンク照合、機種特定Mi-24、機種特定Mi-24です」
「ハインドか! 連中ロシアのガンシップまで持ち出したか!」

 森田は叫ぶ。Mi-24は旧ソ連で開発された戦闘用ヘリである。優れた性能を持ち、自国だけでなく海外にも輸出された傑作機である。北太平洋条約機構(NATO)は、この機体に《ハインド》と言うコードを与えた。優れたスペックを持つこの機体は、多くバリエーションを持ち多くの戦場で活躍する強力な兵器である。

「内部スキャン、機人に寄生されています……他に数名の機人を確認」

 車内の全員が言葉を失う。現在駐車場を防衛しているのは凡そ10名、更に陸専用の装備しか持っていない。加えてハインドはロシア製の戦闘ヘリコプターの中でも傑作の部類に入るものである。とても、あの人数で抗し得る相手ではない。Capに到着を急がせると共に機銃の制御を任せる。石田は狙撃姿勢に入り、竹藤も陸戦の用意をしている。現場の状況は逐一藤原が教えてくれる。

「封鎖線があります」

 Capが言う、見れば木製の車止めがささやかなバリケードを作り上げている。

「突破しろ」

 竹藤が言う、Capは「了解」と短く答えると、速度を上げる。そしてそのまま木製のバリケードへと突っ込む。フクスは装甲兵員輸送車である、その表面は銃弾すら通さぬ堅牢な装甲で包まれている。木製の陳腐なバリケードは一撃で粉砕され、単なる木片に成り果てた。竹藤が助手席の天井のハッチを開けると上半身を乗り出し、今度は盾を持たず使い慣れたステアーAUGを構えると、前方に乱射する。

「敵の数は思ったより多いです、十二時方向に5、十時方向に7、三時方向大型トレーラー付近に8、一時方向4、全方位に1、2の反応が多数!」

 藤原の絶叫がフクス内に響く、本当に機人はこの皇大神宮の制圧に相当数の戦力を投入してきている。竹藤が牽制射撃でフクスの突入ルートを切り開く、石田もM14を構えると手近な機人を次々と打ち倒していく。《M14》はアメリカが第二次世界大戦後、大戦で活躍したM1ガーランドをベースに改修した長身のアサルトライフルで、ベトナム戦争期アメリカ軍の主兵装として運用された。後に《M16》にその座を取って代わられるが、攻撃力の高さから一部の兵士の間では使われ続けた名銃であり、民間で使用するには十分すぎるアサルトライフルである。長身であるため狙撃銃としての使用される場合もある。実際石田はスナイパーとして作戦に参加することが多い。

「Cap! 橋の入り口を塞ぐ形で付けろ!」

 石田が叫ぶ、キャップは「了解」と短く返答すると、全速力で橋の入り口に接近すると、思い切りハンドルを切る。慣性の力で転倒するのではないかと言う勢いだったが、自重もあってそれをこらえるとフクスは停まった。丁度、石田の注文通り橋の入り口を塞ぐ形でである。

「パトリオット、橋に侵入している機人を掃討しろ、俺とソーテックが援護する。掃討後は奥の白銀と合流しその作戦行動を援護するんだ」

 石田が寄る機人を迎撃しながら森田に言う、銃撃音が皇大神宮の駐車場に響き渡る。森田は短く返事をすると後部ハッチが開くのを待った。重々しい音を立てて後部ハッチが開く、森田は防盾を見ると一瞬脚を止める、そしてそれを持たずに外に飛び出す。石田と竹藤の援護射撃があるため機人も森田を狙撃する事ができない。すぐに森田は橋を渡ってその中央まで駆ける。そこには3体の機人がおり、奥の白銀と交戦していた。見れば4体分程の機人の死体もあり、善戦しているのが伺える。森田は通信機のスイッチを入れて藤原に話しかける。

「こちらパトリオット、これより機人3体と交戦状態に入ります」
「了解、御武運を」

 二言で通信は切れた。森田は体が震えるのを感じた、恐怖からではない、どちらかと言えば高揚感である、昔ながらの言い方をすれば「武者震い」と言う奴だろうか。森田は両の手にP-90を構えると、機人に向かって突進した。「うぉぉぉぉ!」咆哮と共に全力で走る。その声を聞きつけた機人の内、2体が振り返る、その2体は完全に人型をしており、外宮で交戦した連中の様に黒いコートを身にまとってはいるが、その他の部分は鈍い銀色の地肌である。

「敵の増援か!」

 人語を解するのだろう、左側の機人が叫びながら銃を構える。持っているのは恐らくAK-47であろう。またロシア製品かと森田は気が重くなるのを感じた。ロシア製のアサルトライフルであるAK-47はパーツ間に若干余裕を持たせてあり、多少埃や砂が入ったり、冷温下での金属の変化が起こっても動作不良を起こしにくいと言う、信頼性のある銃である。またコストパフォーマンスにも優れているため、各国のゲリラやテロリストの間でも使用されている。そのため余り良いイメージはない。森田自身、それは偏見だと思っていたのだが、いざ敵に使用されるとそのイメージは正解のような気がしてきた。AK-47はその生産性にも関わらず森田を死体に変えてしまう攻撃力を十分に備えているのだ。。

「やらせるかぁッ!」

 森田は両手のP-90を2体の機人に同時に向け、トリガーを躊躇うことなく引く。P-90は轟音と共に、今日何発目か分からない銃弾を吐き出す。P-90専用に製造された5.7mm弾は正確に両機人の胴体を捉える。怯む機人に追い討ちをかけるように森田はトリガーを引いたままその銃口を機人の頭に向ける。ミシンが服を縫うように銃弾が規則正しく機人の体に風穴を穿つ。そして最後には機人の頭部に弾痕を残す。それを受けた機人はAKを空に向かって連射しながら仰向けに橋の上に倒れ、やがてAKの発射音も止んだ。

 仲間がやられたことを察知した最後の機人は森田の方を振り向く。その手に握られているのはやはりAK-47であった。森田は右手に持ったP-90を少し前方に高く放り投げる。そして、右足で地面を蹴って一気に機人への距離をつめる。更に腰にマウントされている霊子刀を握りスイッチを押して光刃を形成すると、機人に向けて振りぬく。原子結合を解除する光刃は機人の首と胴体を永遠に離れ離れにする。しかし森田は気を許さず、更にAKを保持している右腕、そして両足を切断する。左手を残してダルマにされた機人はなすすべも無く地面に落ちる。森田は素早く霊子刀のスイッチを切り腰のホルスターに戻す。そして、落ちてくるP-90を空いた右腕で受け止めた。

「こちらパトリオット。エヴァ、聞こえますか?」
「良好ですパトリオット」
「現在、橋の上で白銀と交戦していた機人3体を始末しました。これより白銀の残存と合流します」

 森田がそう言って橋の向こうへ行こうとすると、藤原は「了解です」と短く言って通信を切った。味気ないなと思いつつも、戦闘中だということを自分に言い聞かせ、森田は橋の向こう側へ急いだ。そこには先程の外宮の正門のようにポリカーボネート製の防盾を用いた簡素なバリケードが形成されている。迂闊に近づくと機人と間違えて攻撃されそうなので両手を挙げて接近する。こちらに気付いた隊員が声をかけてくる。

「おい、お前は機人じゃないな?」

 それを肯定し、機人ではないことを伝えると、隊員はこちらに来るよう促す。森田は大人しくそれに従ってバリケードを越える。そこには既に3人になった白銀の隊員の生き残りがいた。2人は男性だが、もう1人は女性である。目鼻立ちは整っており、世間的に言う美人である。そんな人間も白銀にいるのかと森田は思ったが、今は戦闘中なのでその思いは心の奥へしまい込む。

「現在、内宮周辺には5人程の戦力しか配置できていない……もし、増援に来られたら我々は敗走、いや全滅するだろう。どうなのだ?」

 森田は楽観視していた。現在はフクスが橋を塞ぐ形で立ちふさがり、石田以下SSSのメンバーが全力で防衛に当たっている。数は最高に不利だが、それをものともしない実力が彼らにはある。通信機のスイッチが入ったままなので、彼らの会話が時折聞こえてくる。その内容は時にはまじめな内容だが大抵、「新しい型のパソコンが出た」だの「ドラマの結末が気に入らない」だの「今日の夜食は何が食べたい」だのふざけた内容であることが多い。今も通信が飛び込んでくるが、それはまじめな話であった。

「パトリオット、一体抜けた! 仕留めてくれ」

 森田は一言「了解」と返答するとバリケードから上半身を乗り出して、両手のP-90を構えると走りこんでくる機人に向けてトリガーを引く。銃の先端から火花が噴出す、そして空になった薬莢が乾いた音を立てて地面に転がる。機人は両腕を縮め何かを抱くように体の正面と頭を防御する。体や頭といった致命的な点に当てる事ができれば通常兵器でも機人を倒すことは出来る。しかし、鋼のような皮膚をもった機人に対して、腕や脚といった末端への攻撃がどんな脅威になろうか。彼は構わずこちらに向かって突進してくる。

「どいて!」

 森田は思わず横っ飛びに転がる。すぐに体勢を整えて立ち上がると、先程まで自分のいた所を見る。そこには白銀の生き残りの1人、女性の隊員が立っていた。なにやら銃を構えているそれも拳銃を。Mk.23ソーコムピストルである。ドイツの銃器メーカーH&K(ヘッケラー&コッホ)社がアメリカ軍の要望を受けて製作した拳銃で、大振りで重いが命中精度が高く、特殊な改造なしでもサプレッサー(消音装置)やレーザー照準機などの装備品が装着できる。なるほど白銀も特殊部隊である、このソーコムピストルが映える。彼女はどけろと言った割には発砲する気配が無い。森田は彼女に向かって叫ぶ。

「おい! 何をしている! 撃て、撃つんだ!」

 彼女はこちらを一瞥すると、生真面目な顔で前を見据える。機人は既に射程距離に入っている。彼女は銃口をそのまま機人に向けじっと見据える。機人は体の正面を腕で覆ったまま右足で地面を蹴って跳躍する。高い、8mはゆうに跳んでいる。しかし、彼女は慌てた様子も無く、機人の動きに合わせて後ろへ跳ぶ。そして、初めてトリガーを引く。銃声が一発だけ轟く。彼女を地面に手をついて体勢を整えようとするが、バランスを崩してそのままみっともなく地面に転がる。

「あぅぅ……」

 彼女は腰を抑えながらその場に座り込む、やや遅れて機人が降りてくる。いや、正確には落ちて来ると言った方が良い。証拠に機人は地面に頭から落ちると動かなくなった。

「大丈夫か?」

 森田は駆け寄って手を差し伸べる、彼女は素直に森田の手を取ると立ち上がった。

「ありがとう」
「どういたしまして、怪我は無い?」
「ええ、大丈夫」
「それにしても良い腕だ、あ……ゴメン。こちらパトリオット、突破した機人を白銀の隊員が仕留めました」

 森田は指揮車の藤原に報告する。

「了解、そちらが大丈夫なようなら戻ってください、あの2人でも流石に戦況が悪いようです」

 藤原の声は緊張していた、状況はかなり切迫しているようだ。

「了解、すぐに行きます」

 とりあえず陣地を敷いて守っていればここも大丈夫なはずだ、白銀の隊員は既に憔悴しきっており、これ以上の戦闘を強制するのは酷と言うものである。森田はとりあえずここに居るよう伝える。男の隊員の内1人は既に幾らかの弾を貰っており、苦しそうにうめきながら。礼を述べる。もう一人の隊員が付いて守ると言う。

「私も行かせて」

 女性の隊員が言う、森田は一瞬逡巡したが戦力は少しでも欲しいのでそれを認める。彼女は頷くとソーコムを太もものホルスターに収め、MP5のマガジンを確認してから付いてきた。森田はバリケードを飛び越え、端の上をフクスに向かって走る。銃声がひっきりなしに轟き、未だ激しい戦闘が繰り広げられている事を物語る。森田と女性隊員がフクスに到着した時、上空から強風と耳障りなプロペラ音が降りてくる。森田は先程の事を思い出す、ハインドがこちらに向かっていたことを。

「こちらパトリオット!」
「分かっている! まずい事になった、この上ハインドが……」

 石田たちにも聞こえているようだ、ハインドのローター音はまるで人々の命を刈り取る死神が鎌を擦り合わせるようにも聞こえてくる。ハインドはゆっくりと橋の低空まで降りてきて、バリケードの方に顔を向ける。

「伏せろ!」

 森田は言うが早いか、白銀の女性隊員を掴むと地面に引きずり倒す。その直後、推進剤が放射される音と共に爆薬の満載された筒がハインドの翼から射出される。それはまっすぐに飛ぶと、先程まで森田達の居たバリケードに飛び込む。そして、激しい炎と共にそれを爆散させた。

「いやぁぁぁぁ! 板垣さん! 大石さん!」

 それは白銀の生き残りの2人の命を奪うには十分すぎる一撃であった。

「くそっ!」

 森田は両腕に持ったP-90を構えると、低空を飛行するハインドに向けてトリガーを引く。もう何度聞いたか分からない銃声が内宮の駐車場に轟き、銃弾がハインドの装甲にぶつかって甲高い音を響かせる。低空とはいえそれなりの距離はある、弾をばら撒く事が目的であるアサルトライフルでは有効な打撃とはなりえていない。

「……さない」
「何か言ったか?」
「いいえ、何でも。狙撃銃は置いてない?」

 狙撃銃とは連射性はアサルトライフルのそれには比べるまでも無いが、超射程と高威力を誇る長身の銃である。確かに、先程拳銃で8mの上を跳躍する機人の頭部を正確に撃ち抜いた彼女の腕前なら何とかなるかもしれない。森田はその可能性に賭けてみることにした。確かフクスの中にはM14で何とかならない時のためにPSG-1が積んであるはずであった。

「こちらパトリオット。エヴァ、PSG-1は持ってきてありませんか?」
「待ってください……あります、それが何か?」
「一丁よこしてください、ハインドを仕留めます」

 そう言うと、石田が一端フクスの中に引っ込む。そして長身の銃を持ち出すとこちらに投げてよこす。森田はそれを受け取ると白銀の女性隊員に手渡す。彼女はそれを受け取ると膝を突いて狙撃姿勢を取る。陣地を吹き飛ばしたハインドは今度はお前たちだと言わんばかりにこちらを向く。白銀の女性隊員はハインドがミサイルの照準を合わせるよりも早くPSG-1のトリガーを引く。後ろで機人と交戦を続けるSSS社員の銃撃の音に混じって、一発だけ銃声が轟く。放たれた細長の銃弾は今発射されようとするミサイルを直撃する。

「当てた!」

 森田は思わず叫ぶ。ハインドは微妙にではあるが、左右に振れている。その状態で小さな目標であるミサイルを撃ち抜くとは、この女性相当な腕である。少なくとも、射撃の腕前に関してはであるが……。貫かれたミサイルはマウントされた状態のまま爆発し、その爆発を受けたハインドは燃料に引火したようで、誘爆する。変形しバラバラのパーツになったハインドは紅蓮の炎を上げながら川に転落する。しかし、最後の一瞬何かがハインドの残骸から飛び出した。

「板垣さん、大石さん……敵は討ちました」

 白銀の女性隊員は静かに呟く。しかし、安心したのもつかの間。ハインドの残骸から飛び出したものが森田の目の前、橋の真ん中に着地する。白いロングコートを着込み、暗い赤のスーツを身にまとい、白地のYシャツに黄色いネクタイを締めた男である。いや、男性型と言った方が正しい。

「これはこれは、SSSの新入りさんではないですか。お久しぶりですネェ」

 飄々とした態度、どこか人を小馬鹿にしたような口調。そして、イタリアのマフィアを髣髴とさせる容貌、銀色の鈍い輝きを湛える顔。忘れるはずも無い、森田が初仕事でいきなり戦う事になった進化した機人《シモン=ペトロ》。人間の敵として、下級の機人を率いて破壊活動を行う機人の現場指揮官的存在である。

「シモン!? お前は京都に居るんじゃあ……」シモンはクククと喉の奥で笑うと言う。
「ええまぁ……そう言う情報を流してはおきましたが。残念ですミストガンに会う事ができずネ」

 ミストガンとは齋藤の異名である。隠密行動が主である彼は、影から機人を襲う。例え集団が相手でも自身の位置を悟られず、一体ずつ始末して行く。同業者からも機人からも恐れられる存在としてその名を轟かせて行った。そして、恐れとそのスタイルからつけられた名が《霧の銃――ミストガン――》である。彼自身、その名は気に入っているようで。そう呼ばれる事に嫌悪感などは表していない。

「先輩が居なくても、俺がお前を冥土に送ってやるよ!」

 森田はP-90を腰のホルスターに2丁とも収めると、腰にマウントされている霊子刀を掴む。

「怖い怖い……しかし、貴方には荷が勝ちますよ」

 自信に満ちた口調でシモンは語りかけてくる。悔しいが、そのオーラは本物で、森田も気圧されそうになるのを堪えるので精一杯だった。シモンは不敵に笑うと、コートの腰のホルスターから銀色のワルサーP-38を抜く。スライドを引いて弾を装填すると、それを森田に向ける。森田も霊子刀を展開すると切っ先をシモンに向けて構える。

「まだ名前を聞いていませんでしたね、新入り君」
「森田……教嗣」
「そうですか、森田君……では、改めましてヨロシク、そしてさようなら」

 シモンは躊躇うことなくワルサーのトリガーを引く、一発の銃声がアサルトライフルの銃撃音を掻き分けて内宮に響き渡る。
アダムスカ
2008年09月10日(水) 00時25分08秒 公開
■この作品の著作権はアダムスカさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 早いものでもうFile.04となりました。

 戦闘が激化していますね、相手が機人ということは無いでしょうが、日本がテロ組織の目標となればこう言う事態にもなるんでしょうね……そうでなくとも、妙な犯罪が増えてきている世の中ですからね。

 お隣の国との関係が悪化しないとは言い切れませんからね……お隣の国の人々の大半は、こちらをまだ味方だとは思っていませんから。

 そうなれば、私も入れるものなら自衛隊に入りたいとは思っています。

 さて、現実に戻ってコメ返しです。

>生徒会長7様
 RPGは戦争を扱う「漫画」「映画」「小説」「ゲーム」に凡そ登場する、有名なロケット砲です。
 安い割に破壊力が桁違いなのが怖いですね……中東を初めとするゲリラや民兵、テロ組織に広く浸透してしまっています。
 ロシア製の武器は、安価なので上の組織に広く出回っています。

 逆にPMCや民間警備会社なんかは、アメリカやスイス、ドイツなどの高価で高性能な武器を所持していますね。
 この前のイラク戦争でもPMCの暗躍があったのは有名な話です。

 BJ先生も、某少佐も中の人は同じなんですよね……そう考えると面白い一致です。

 アドバイスの方を役立てて頂けている様で幸いです。その真っ直ぐさがあれば、バスケと同じように、小説でも成功するでしょう。
 偽者の件については、失礼な話、中々面白いです。よくもまぁ、個人でそこまで調べましたよねぇ……いや、個人ではないのかも。CIA? KGB?(はもう無いのか……)MI6?怖いですねぇ。
 都市伝説にWikipediaに自分の記事があった(死に際まで)と言うものがありますが、くわばらくわばらと言わざるを得ません。


>幻の賢者様
 この小説は、色々な作品の影響を色濃く受けています。主人公はどことなく雷電の様な戦いぶりですし、彼を世界に引き込んだ齋藤は完全にマカロニ・ウェスタンの影響を受けています。
 かく言う私もマカロニ・ウェスタンは大好きでしてね。最近発売された『カシオペアシステム搭載のSAA』が欲しくて堪らない今日この頃です。

 PMC自体は水面下でイラク戦争くらいから騒がれていたのですが、有名になったのはMGS4が発売された最近ですね。
 軍産複合体と言う概念自体は、随分昔から存在していました。日本では伝統を重んじる傾向にあり、規範が人間社会を構成していると言う点で、いつ『愛国者達』を生み出すか分かったものではありません。

 機人達は賢いものも中にはいます……そう言う奴らがこれから増えてくるかもしれませんね。そして、彼らが次に考える事は……。

 次章ではもっと多くのPMCを登場させれたらと思います、それに伴って多彩な武器も登場するでしょう。


「注」
 今回人物的には、あまり名前が出ていませんね。消し炭になるだけの人もいますし。

 以下URL参照。
・Mi-24
 http://ja.wikipedia.org/wiki/Mi-24

・PSG-1
 http://ja.wikipedia.org/wiki/PSG-1

・AK-47
 http://ja.wikipedia.org/wiki/AK-47

この作品の感想をお寄せください。
 『黒いコートに身をまとった』コートを見にまとった、では無いでしょうか。
 中々リアルタイム(最新更新)に追いつかない今日この頃。忙しいのです。
 さて、前話からの続き。及びシモン登場で新たなる展開になるのでしょうか。剣で弾を弾……けるのかなぁ。
 頭の中で映像に出来る作品で、やっぱり読みやすいです。武器が色々と出てきますが、実際の銃器ってどんな感じなんでしょうね。質感とか。
 では、これで。
30  風斬疾風 ■2008-09-19 23:10 ID : FZ8c8JjDD8U
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前作にコメントをしなくて申し訳ありません。とりあえず、そこから入っておきますm(__)m

内容はやはり書き方が凄いですね。比喩って言うんですか? なんていうんでしょうね。普段は使わない言い回しでなにか特別な感じが出ているというか。そんな感じがしましたね。自分的にはですが。
こんな感じに自分も書いていきたいですね。参考にさせていただきたいです。
40 ケルベロス ■2008-09-11 22:57 ID : If3qiekeSNg
PASS
ハイテク…。といってしまえば安っぽいでしょうか。
こういうのはゲームでも好きなジャンルですね。
実際体験するのはまっぴらですが…。

バスケで成功すればいいんですが、僕のフォワードとしてのプレイが高校で通用するかどうか…。ポイントガード転向をもくろんでいたのですがね。

逆に偽者マジですごいですよね。うぬぬ…、生徒会撲滅を狙う謎の組織の陰謀か…?
40 生徒会長7 ■2008-09-10 23:49 ID : R1.SfAN2p..
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