サモナーズストーリー 14章
 もう日も暮れ始めた頃、セント達はこの辺では大きな家の前にやってきていた。とはいえ正々堂々門の前に立っているわけではなく、近くに隠れているようにだが。そしてレンが話し始めた。

「ここがリンブロムの人達が現在使っている家、まあ別荘みたいなものだ。」

「うん、それじゃ早く入って……」

 レンの言葉にギィが言うが、それをシグルスが止めて言った。

「それは駄目だ。これは恐らくだが、プロの召喚士を雇っている可能性だってゼロではない――」
「いや、間違いないと思うぜ」

 シグルスの言葉を遮ってセントが言い、それに皆の顔がそっちを向くとセントは続けた。

「なんて言えばいいか分かりませんが、何か首筋がチリチリするっつうか嫌な感じがするんすよ、まるで正面はヤベェって言うように」

「まるで獣だな」

 セントの言葉にシグルスが半ば感心したように言うとセントは笑って返した。

「まあ、過去の事もあるんでね。悪ぃ勘は外れた事ほとんどねえんすよ」

 セントの笑みはまるで獲物を見つけた獣のごとく不敵で、全員がそれに身震いするがレンがそれから口を開いた。

「それじゃ、その動物的勘に頼って正面突破の組と別働隊の組に分かれるとしよう。正面突破はできる限り囮の役目をお願いしたい」

「それでは囮の組には私が入ろう。別働隊は任せていいか?」

 レンの言葉にシグルスが言うとレンも頷く。そもそもシグルスの戦い方は空を飛ぶ天馬に乗ってのもの。狭い建物内より広い外でこそ真価を発揮するものだ。シグルス自身それは理解しているしレンもそう言ってくれると思ったと言うように頷き、それから指示をしていく。

「囮役はシグルスにギィ、エレナ、セリアでお願いできるか?突入は俺にセント、ロイで行く」

「分かりました」
「ああ」

 レンの言葉にロイとセントは頷いて答え、残りも頷く。そして突入前にセントが言った。

「っとそうだ、ちょっと待っててください」

 セントは別働隊の二人にそう言うと門向けて右手を突き出し、詠唱する。

「夢の世界への渡し人、今ここに出でん……サキュバス」

 夜であることもふまえて静かにそう言うとこの前手に入れたと言うか吸収した精霊――サキュバスが姿を現す。そしてセントはサキュバスに指示した。

「悪いけど、門の前にいるやつらを――」
[分かってるわよ、任せときなさい]

 サキュバスはそう言うと門の前に飛んでいき、少し何かやってから戻って来た。

[眠らせといたわよ。感謝しなさい]

「あぁへいへい、あんがとよ」

 サキュバスの言葉をセントはさらっと受け流してサキュバスの召喚を解除し、それから言った。

「よし、んじゃ行きますか」

「「ああ」」

 セントの言葉に二人は頷き裏口の方に回る。幸い裏口に警備はなく、まああってもさっきと同じ方法で眠らせるまでだ。そして正門の方で叫び声が聞こえると三人は頷きあって精霊を召喚し、リンブロム家に突っ込んだ。


 一方こちらはリムス。リムスは召喚腕輪を取られ、手も足も出ない状況に陥っていた。そしてその前に一人の杖をついた老婆が立ち、言った。

「お久しぶりね。我が孫、リムス」

「ふん、本当は孫だなんて思いたくもないくせに」

 リムスの祖母の言葉にリムスは吐き捨てるように言う。が祖母はくすりと笑うと返した。

「ええ、あの泥棒と同じ髪の色、瞳の色でさえも私たちとは似つかない……あの泥棒と同じ」

「父さんを悪く言わないで。父さんと母さんのことを何も知らないくせに」

 リムスがまるで殺気を出してるかのように祖母を睨むと、祖母は杖をリムスに突きつけて言った。

「知らないのはお前の方だ!!お前の父はどうせリンブロムの遺産目当て、それに目が眩んでいたというのが分からないのか!!」

「な、んですってぇ!!!」

 もはや我慢の限界、リムスは拳を振り上げて祖母に向かっていくが突然横から何かが飛んでくるのに気付いて素早くかわした。そしてそれを見た祖母は慌てた様子で言った。

「これはお坊ちゃま。お早いご到着です……」

「婆さんのとこの御令嬢との結婚と言われたらモタモタしていられないよ。」

 そう言って現れたのは紫色の髪をした少年、パッと見たらイケメンの部類に入るがどこか嫌な感じさえ伺わせ、リムスは妙に好きになれなかった。それからその少年がリムスを見て言う。

「あなたがリンブロム家の御令嬢ですか。セラと申します。今後ともよろしく」

「さて、早速結婚式をとりおこなうとしましょうか、リムス・リンブロム」

「……ふざけないで」

 その少年――セラの言葉に祖母が言うと、リムスは肩を震わせて叫んだ。

「私は道具でもなければリンブロムでもない!!私の名はリムス・ルメウスよ!!!」

 その言葉を聞くとセラはやれやれと言わんばかりに首を横に振り、それからリムスの祖母向けて言った。

「婆さん、彼女に召喚腕輪を返してあげて。リムス嬢、俺と勝負しないか?あんたが勝てば俺は手を引く、が負けたらあんたは大人しくリンブロム家の養子に入り俺に嫁ぐ。どうだい?」

「……分かったわ。後悔しないでね」

「ああ」

 リムスの言葉にセラは笑いながらそう言って歩いて行き、リムスも道中で自分の召喚腕輪を受け取りながらついていった。


 そしてその頃、こちらはセント達、と言っても敵の攻撃は予想よりも早くまた激しく、三人は既にバラバラになってしまっていた。そしてセントは一つの部屋の中に飛び込み、そこに人の気配が無いことを確認すると一息ついた。

「危ねぇ危ねぇ……」

 セントは少し息をつくと持ってきておいた水を少し飲む。のんきとしか言い様がないだろうが疲れていては勝てるものも勝てないという彼のやり方だ。それにこれでも昔はこの役がタバコだったので進化していると言えるものだ。
 そして一息つくとまた精神を練り、部屋から飛び出した。その目は少し殺気立っており、また口元の笑みは獰猛な猛獣の雰囲気を否応無くかもし出している。
 そう、彼にとって警備の奴らは猛獣の獲物でしかない。そしてその獲物は徹底的に狩る必要がある。

「おらおらぁ!!邪魔なんだよテメェらぁ!!!」

 セントは獣の咆哮のごとく声を上げながら警備員とその精霊に殴りかかる。殴り飛ばした相手はそのまま意識を手放す。がセントはそれを確認することなく走り続ける。
 ただただ駆け抜け、リムスと仲間を探す。と不意に自分の精霊の一体であるワルフの声が聞こえた。

[匂いによると、この階にはいねえみたいだぜ]

「……ここじゃねぇってことだな……」

 セントは静かに呟くと階段を探し、駆け上る。とそれと同時に数個の火の玉が自分目掛けて飛んできた。がセントは慌てることも無くそれをかわしてその火の玉を撃った精霊を殴り飛ばす。とそれで開けた視界には警備員が道を塞ぐように立って武器を構えており、精霊も戦闘態勢を整えていた。そこでセントはさっき飛び出してきて初めて足を止める。が諦めたわけではなかった。

「……どけ」

 セントは静かにそう呟くが警備員も精霊も全く動かない。とそれが獣の本能に触れた。

「どけって言うのが聞こえねえのかごらぁ!!!!雑魚は雑魚らしく道開けろっつってんだよ!!!!!」

 それは正に猛獣の咆哮、それが一番正しい例えだ。セントの背後では多くの猛獣が今正に襲いかかろうとする幻影を表し、警備員たちはそれに固まってしまった、が精霊は違う。これらはある意味人間より獣に近い存在。その本能が警告していた、この者の道を塞いではいけないと叫んでいた。

【ギッ、ギャアアァァァ!!!】

 精霊は一目散に逃げ出し、警備員たちも目の前の存在に恐怖し、腰を抜かした。誰も戦おうとは思わない。それを一瞥するとその獣はまた走り出した。すると丁度三つに道の分かれている部分に指し当たると突然その中の右から二人の人間が現れた。それを見るより前に感じ取るとセントはまた睨みをきかせるが、その相手は違った。その二人ははぐれていたロイにレンだった。

「ようやく見つけたぜ」
「無事のようだな」

「ああ。つかよく居るとこ分かりましたね」

「ああ。どでかい聞き覚えのある声が聞こえてきたんでね」

 その言葉にセントは黙り込む。しかしそれはまた別の違和感を感じさせたためだ。

「(確かに、あんな大声出してりゃどこにいるかはすぐ分かる。だが警備のヤロウは誰もこねぇ……まさか!)サラマンドラ!!!」

 セントは何かに気付くと己の中で一番の力と攻撃範囲を誇る悪魔を呼び出し、四つの道全てに炎を撃たせる。とそこの内ロイとレンがやって来た方向とその向かい、左から警備員が現れた。それはパッと見ただけ片方十人は越えてるだろう。それを確認するとセントは笑いながら言った。

「やられたな。あいつらは来なかったんじゃねえ、わざと俺たちを集合させて囲むつもりだったって訳だ。」

 セントはそう呟きながら己の迂闊さを呪う。今までは自分一人だったからこれは逆に相手をビビらせることもできたからいい、が今は仲間まで危機に晒していた。がロイとレンはセントを残った一つの道に押し込むと二人で精霊を呼び出し、セントに言った。

「セント、お前は先に行け」

「あ!?」

 その言葉にセントは驚いて叫び返すがレンが冷静な声を崩さずに言う。

「この中ではお前が一番戦闘力と順応力がある。この先何があっても行ける可能性はお前が一番高いんだ。」

「「行け!!」」

「……ああ!!!」

 二人が叫ぶと同時にセントはサラマンドラの召喚を解除して走り出す。そしてそれと同時に二人に警備員と精霊が襲いかかってきた。
セントの進む道に敵はおらず、その獣はまた目を覚まして、足を止めずに走り続けた。



 一方こちらはリムスとセラ。この戦いは賭けにおいて負けるわけにはいかないものだ。そして

「やぁっ!」

[グルゥッ]

 形勢はリムスが有利だった。セラも当然精霊使い、その姿はまるで真っ黒な巨大な犬だがリムスはそいつを上手く退けていた。

「どう!これが私の力!!!」

「……ちっ……止むを得ないか……」

 セラはそう呟くと一枚の真っ黒なカードを懐から取り出し、その精霊向けてかざす。とそのカードから黒い光が発され、その犬は黒い光に包まれて[ギャアァァ]と悲鳴を上げる。

[グゥ、オオォォォン!!!]

 そしてその光が止むとその犬はさらに巨大になり、目付きも鋭く三つの頭を持つ、正に地獄の番犬――ケルベロスのようになっていた。そしてセラは「あっははは」と笑い出すと言った。

「すごい、精霊からの力が溢れ出て感じるようだ。さあ、そいつを倒してしまえ!!」

[グオオォォォン!!!]

 ケルベロスは咆哮するとリムスに牙をむける。がリムスは己の精霊であり武器であるセルスで受け止める。そして一瞬の隙をついてケルベロスの牙を左に転がってかわす。がケルベロスの三つの首の内左の首がリムスの方を向くと

「ブオオォォォ!!」

 何とその首は炎を吐いた。リムスは驚きながらも何とかかわすがその攻撃で動揺してしまう。そしてその動揺はまた大きな隙を生んだ。

[リムス!上っ!!]

 セルスの声で我に返り上を向くと、そこではケルベロスが巨大な前足とそこについている鋭利な爪を振り上げていた。

「……あ」

 リムスはかわそうと足に力を込める、が上手い具合に足が動いてくれない。目の前では圧倒的な巨体が自分を潰そうとしている。その恐怖がリムスの行動を止めてしまったのだ。

「っ……」

 もはや彼女にできることはただ一つ。リムスを自分と前足の間に構え、受け止めて攻撃を耐え切るということしか。だがそんなこと、出来る訳が無い。
 そしてケルベロスの前足が、リムス目掛けて振り下ろされた。
カイナ
2008年09月19日(金) 15時01分16秒 公開
■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
次回でリムス編は終了です。
セントのキャラが何か猛獣っぽくなってしまいましたがまあ気にしないでってことでお願いします。

アダムスカさん
あ、ついつい忘れちゃうんですよというかやったらやったで違和感出てしまうと言うか……。
あ、そうそう危害危害!いや、こういう場合なんて言うのか忘れちゃって……申し訳ないです。
ラパートさんは自分にできる事を分かってるだけですよ。できないことで悪あがきするより他の信頼できる方にお願いした方がリムスに迷惑をかけずにすむと言うわけです。
いや、正直あってるんですがなんて言えばいいのか分からなかったもんで、申し訳ないっす。
一応セントは単なる暴走野郎ではないし、レン達が治めるので大丈夫ってことです。それでは。

生徒会長7さん
庶民らしい喫茶店ってことですよ。
カキフライは嫌です……なんとなく。美味しくないので……。
直接とは凄いですね、頭の中で考えて、流れとかを覚えてやるんですから……ですよね?
そちらも頑張ってくださいね、それでは。

この作品の感想をお寄せください。
 さぁて、なんか色々と進行中。黒いカードっていうのにズル? とか思っちゃったり。悲鳴上げてますし。
 本当にセントは獣ですね……、なんか怖い。いや、恐いです。
 結婚式始めようって言うの早いなー、とか。好きでもない相手と、なんて嫌でしょうね。賭は嫌いなのです。何故か? 運が悪いから。
 
30 風斬疾風 ■2008-09-23 22:45 ID : FZ8c8JjDD8U
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 お、場面を切り替えて多くの人物を動かす手法ですね。

 この場合は余りダイレクトに場面が変わったのを現さない方が言いように思います。言って見れば「フェードイ〜ン!」的な、場面の描写から入って、具体的な状況を映し出す……と言う様な。失礼を承知で一例を。
 どう言う状況下にあるのかは分かりませんから、勝手にシチュエーションを付け加えさせて頂きます。


 小奇麗に整った小部屋、その中で2つの人影が相対する。その2人の間にはお世辞にも友好的とは言えない雰囲気が漂っていた。2つの陰の一方、リムスは手足を椅子に拘束されて自由を封じられていた。召喚腕輪も取り上げられて、起死回生の一手も打てない有様だった。仲間の跳ねっ返り少年に見られたら何と言われるか。そんな思いを思考の片隅に同居させながらリムスはもう一方の人影を睨みつける。
 その人影は綺麗に磨かれた木製の床の上に広がる瀟洒な絨毯に、その人物を表わすかのような悪趣味な杖をついてリムスの前に立つと、穏やかだが何処か不愉快さを感じさせる口調で語りかけてくる。
「お久しぶりね、我が孫リムス……」
 もう一方の人影の正体は、リムスの仲間達が危険を侵してこの屋敷に乗り込む原因を作った……いや、むしろその現況とも言える人物、リムスの実の祖母その人であった。
「ふんっ、本当は孫だなんて思いたくも無いくせに」
 リムスは祖母の言葉から感じる不快感を隠そうともせず、本来慈しむべき対象であるその人に向けて鋭い棘のある言葉を吐き捨てるようにぶつける。しかし、祖母はそれに動じた様子も無く、ただ不気味に口元をゆがめてクスリと笑って言う。


 と言う様にです……。
 恐らく、自分の物語を勝手にカバーされるのは良い気分ではないと思います。ですが、正確に、確実に私の言葉を伝えようと思ったら、実際に書いてみるしかなかったため、このような強攻策に出させて頂きました。

 登場人物の数、展開、脚本から見てもっと情景が書き込まれていれば、もっと良くなるのになぁ……と思います。小説は漫画や映像作品と違って、ヴィジュアル的なイメージはありません。ここは挿絵システムもありませんし(私は絵が上手くありません、あっても使えないと思いますが;)、読者に情景だったり場面だったりを伝える方法は、ずばり文章しかありません。
 例えば、表わそうと思えば上に書きました状況下で、リムスが「どんな所」に「どんな格好」で「どんな相手」に「どんな方法」で囚われているのか、描き出す事が出来ます。テンポは大事ですが、テンポばかりを見て情景描写が疎かになってはいけません。カイナ様にそのつもりは無いでしょうがね。
 情景描写です! この一点が改善されれば、一段階も二段階もレベルアップしてしまうでしょうね。私もアマチュアですから、アテにはならないと思いますが。プラシーボ効果で多少でも助けになれば幸いです。


 さてさて……。
 ついに戦端が開かれてしまいましたね。
 とはいえ、私が気になっているのはリムスパート、
 セラと言う男……単なる坊やではなさそうですね。

 つい先ほどまで優勢だったリムスが一転圧倒される、
 その突然の変貌は、なんだかズルをしている予感がします、
 セラの後ろに誰かがいるような気がします。
 そして、その存在は今後主人公達の前に、
 大きな壁となって立ちはだかる気がしますね……。

 リムスの家の内情も気になりますし。

 そして、サキュバスが守衛を眠らせるだけだったのはちと残念です。
 せっかくだから、
 守衛達から一滴残らず搾り取ったと言う展開を想像しましたのに……。

 下品なアダムスカでしたm(__)m

30 アダムスカ ■2008-09-21 22:33 ID : MXRHzdRQNyI
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あ、俺がwwww なんて言って〜ww

まずは前作にコメントせずに申し訳ないですm(__)m

今回のセントがすごかったですね。ほんと獣っていうか、怒りの塊って言うか・・・。はい、リムスがどうなるのかセントは間に合うのか、続きを楽しみにしています。
30 ケルベロス ■2008-09-19 21:09 ID : If3qiekeSNg
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