サモナーズストーリー 15章
 ここはリンブロム家の別荘の中でも広く、まるでコロシアムのような造りになっている部屋、ここでリムスはただ一人戦っていたが、その形勢は絶体絶命としか言い様がなかった。
 リムスの目の前では巨大な三つ首の猛犬、形容するならケルベロスがリムス目掛けて前足を振り下ろした。リムスは恐怖で足がすくみ、動けない。
 いや、今から動こうとしても無駄だろう。それは正に獣の巣くう世界にある、一瞬を超える刹那の世界。もはや普通の人間では感じることすらも出来ないものだ。しかし

[グオオォォォン!!!]
「おらああぁぁぁ!!!!!」

[グゥッ!? ガアアァァァ!!!]

 その刹那すら見逃さない獣、いや、猛獣がここにいた。
 ケルベロスの足とリムスの間に金色に光る鎧の着いた狼が立ちはだかると、それは簡単にケルベロスの足を食い止め、その瞬間もう一体の猛獣がケルベロスの巨体を殴り飛ばしたのだ。

「テメェ、誰のツレに手ェ出してんのか、分かってんのかこら!!!」

 その黒い髪に漆黒の光を見せるナックルとレガース。そしてこの声、若干というかかなり怒りによってか荒くなっているが、それは間違いなくリムスの知り合いのものだった。

「セ、セント? ……何で?」

 リムスがへたりと座り込みながら聞くとその猛獣――セントは目の前の犬コロを睨みつけながら言った。

「てめぇが誘拐されたってんで助けに来ただけだ。ロイやレン先輩、皆さん勢ぞろいで一緒だぜ」

「……これは? ……ワルフ?」

 リムスはセントと共にケルベロスを威嚇している狼を指差しながら尋ねた。その見た目はワルフだが、分からないのは彼の精霊の一つ――ガーディを思わせる鎧が着いていることだ。するとセントは「あぁ」と呟きながら言った。

「俺の能力の一つだ。二つの精霊を融合して新たな存在を生み出す、言わば精霊合体能力だ。潰されそうになってるてめぇを見つけて、ワルフじゃ防ぎきれない、かといってガーディじゃ間に合わない。どうしようかと考えてたらこの力が出たって訳だ」

 セントはそこまで言うと拳をゴキリと鳴らす、だが、リムスにはそれは何故か獣の舌なめずりのように聞こえてしまった。そしてセントはリムスに背を向けたまま言う。

「てめぇは下がってろ。犬コロ一匹ごとき、俺とこいつで片付ける」

 セントはそこまで言うとケルベロスにワルフとガーディの融合体――仮にガルフと呼ぶとしよう。と共に飛び掛った。

「ラアアァァァ!!!」

 セントの怒号が響き、ケルベロスの真ん中の頭の脳天に一撃の拳が沈んだ。メキリという鈍く重い音が響いてケルベロスはふらつく。そしてそこにガルフの前足にある鋭い爪が同じくケルベロスの脳天を襲った。その一撃はワルフの状態以上。確実にパワーアップしているとリムスは感じ取っていた。が

[グゥ、オオォォォン!!!]

 ケルベロスは体勢を整えると威嚇するように大きく吼える。がセントは怯むどころかにやぁっと猟奇的にも見える笑みを浮かべてガルフに言った。

「ガルフ、手加減無用だ。全力で、徹底的に喰らうぜ」
 
[……了解]

 その言葉にガルフはため息をつきそうになりながら頷いた。やはり元は彼をよく知るワルフだからだろうか。こういう時は落ち着かせようとしても無駄だとよく分かっている。
 そして二体の獣が地獄の番犬目掛けて駆け出した。ケルベロスは三つの首から同時に地獄の炎を吐き出すがセントは飛び上がって、ガルフはさらにスピードを上げて炎の下に潜り込んでかわす。

[ハアッ!!]
「うおらぁっ!!!」

 そしてガルフがケルベロスの首を全身でかましたアッパーのごとく、抉るように打ち上げ、それと同時にセントの猛獣の牙を思わせる回転踵落としが沈む。ケルベロスはまるで万力にでも潰されたような錯覚を覚えるが、それだけでは終わらない。ケルベロスが体勢を立て直す暇も与えずに、ガルフの爪とセントの拳が撃ち込まれ続けた。
 ガルフの爪は一撃の破壊力はセントに劣るもののその手数はセントの数倍上、一方のセントは手数こそガルフに劣るがその一撃はガルフを圧倒していた。例えるならばガルフの爪による攻撃はマシンガン、セントの拳はバズーカだろう。

「おらおらおらぁっ!!!」
「ハアアァァァッ!!!」

 がケルベロスにはまだ致命傷を与えていない。と奴は二体両方の拳による衝撃が消えた一瞬の隙をついた。

[ガァァッ!!!]

「なっ!?」
[つっ?]

 一瞬の隙をついて繰り出した頭突きは偶然か意図か、二体の獣を吹き飛ばすことに成功した。

「[ガアァッ!!]」

 その上そのまま振り下ろした右前足が二体を地面に叩き落す。二体の獣はがはっ、と息を吐き、恐らく気を失っただろう。とケルベロスは勝利の雄叫びをあげ、もう一人の獲物に向かおうとする。

[グゥッ!?]

 すると突然ケルベロスの動きが止まった。いや、止められたと言うべきだろうか?ケルベロスは前に進もうと足を動かすがその体が動いていかない。すると

「いい加減にしろよテメェ、さっきから誰にたてついてんのか分かってんのか?」

 セントが頭から血を流した状態でケルベロスの尻尾を掴んでその動きを止めていた。そいつからは猛獣、いや、鬼や悪魔すら怯え逃げ出しそうなオーラが発され、ケルベロスも例に漏れずそのオーラに押されている。

「誰の前で好き勝手してんのか!!! 分かってんのかコラァ!!!!」

 その咆哮と同時にセントは両腕でケルベロスの尻尾を引っ張る、とケルベロスの巨体がそれに従って引きずられ、地面に倒れ伏す、がケルベロスも負けていない。その相手の方向けて首の一本が炎を噴くが、もう遅い。

「オラアアァァァ!!!!!」

 セントはあの一瞬の後ケルベロスの頭上目掛けて跳躍し、ケルベロスの頭目掛けてその右腕に重力と己に力全てを集中し、叩き込んだ。メキメキメキとケルベロスの頭が悲鳴を上げる。がそれだけで終わるわけが無かった。

「全身全霊の一撃、見舞ってやるよ」

 セントはそう呟くと右手を、手が悲鳴を上げるほどに握り締めた。

「オラオラオラァ!!!!!」

 それはもうパンチという生易しいものではなかった。そこから響く音から考えるとハンマーのような一種の鈍器、それを連続して頭に叩き込んでいるという表現の方が正しいだろう。そして止めと言わんばかりに拳を振りかぶり

「ウオラァッ!!!!!」

 ドゴォンという重々しい打撃音を起こす拳をケルベロスの脳天に見舞う。とついにケルベロスは重い音を立てて倒れ、その姿を徐々に無に変化させていった。そしてそこからセントは立ち上がり、ケルベロスのマスターであるセラを睨みつけた。

「うっ、くっ……くそぉっ!!」

 セラは悔しそうに顔を歪ませて後ずさりし、逃げていった、するとと隣に座っていたリムスの祖母が叫ぶ。

「貴様、貴様もなのか!?私の血をひく者をさらい、この家を乗っ取ろうと言うのか!?」

「あぁ? なんだそりゃ?」

 老婆の言葉にセントはそう言うと続けて言った。

「俺はこの家がどうだろうが興味はねぇ。だがな、こいつは大切な奴なんだ。こいつに手を出すなら、俺はてめえらをぜってえに許さねぇ」

「貴様――」
「あんたも俺と同じなんだろ?」

 セントの言葉に老婆は憤慨の表情をしていくが、セントがふと言うと老婆は黙り込み、セントは続けた。

「あんたもリムスは大事に思ってるはずだ。ただこいつの母親、つまりあんたの娘が亡くなってしまい、それを誰かのせいにしないと治まりがつかなかった。違うか?」

 セントの言葉はさっきまでの獣の感覚は一切無く、優しいものだった。すると老婆は泣きそうな言葉を出して呟いていった。

「ああ、誰が娘の選んだ相手との結婚を望まないものか。だが最愛の娘を失ってしまい、それを誰かのせいにしなければ私はどうにかなってしまいそうだったんだ……」

「それなら、あんたはもうリムスに対してどうしたらいいか、分かるんだろ?」

 セントの言葉を聞くと祖母は黙って頷き、リムス向けて言った。

「すまない、すまないリムス。もうこんな真似はしない。お前の生きたいように生きてくれ」

「お婆様」

 祖母がそう言うとリムスはふわっと優しい口調で話しかけ、続けた。

「私からもお願いがあります。お父さんをここに住まわせて、私もたまに、遊びに来ていいですか?」

 その言葉を聞くと祖母は嬉しそうに静かに頷き、それから二人はリンブロムの別荘から出て行った。あの後祖母が連絡したのか、全員怪我の手当ても応急処置ながらしっかりとされている。それから全員揃って寮から帰る途中、リムスがふとセントに尋ねた。

「あのさ、セント」

「………」

「セント?」

「……ん? あ、悪い。何だ?」

 リムスが言いなおし、ようやく少し考え込んでいるような雰囲気を出していたセントが振り向くと、リムスは少し言いにくそうにしながらも意を決したように聞いた。

「あの時、大切な奴って言ってたけど、それってまさか……」

「あ……いや、その……」

 その言葉を聞くとセントの顔が軽く赤くなり、それから回りに気付かれてないと確認してから言った。

「そのままの意味で考えろ。少なくとも俺は本気だ」

 そうとだけ呟くとセントはフイと顔を背ける。その行動は不良や跳ね返りという表現がもっとも近い彼にしては妙に子供っぽく、リムスはくすくす笑いながらも小さく頷いた。
カイナ
2008年09月21日(日) 23時39分40秒 公開
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■作者からのメッセージ
 リムス編はこれにて終了。正直戦いの後の和解は自信ありません。そもそもこう言うシリアスっぽいの苦手なんだよな……。
 そしてセントの新たな能力、精霊融合。今回は一つだけでしたがこれからも出していきたいと思います。ついでに言うならばこれで多分セントの特殊な能力は終わりです、思いついたら分かりませんが。

ケルベロスさん
 えっと……大変申し訳ないですが、突っ込みが思いつきません……。
 いえ、別にいいですよ、まあくれた方がありがたいですが。
 セントは元不良なんでね、切れたら恐ろしいと分かってくださればいいです。もう恐ろしいの範疇余裕で超えてると思いますがね。

アダムスカさん
 まあそんなとこです。今回はセントとリムスの場面しか作れませんでしたが……実は予定ではシグルス達も描写するつもりだったんですが思いつくネタや流れ的に断念せざるを得ませんでした……。
 情景描写、正直マジで苦手なんですよね……どういう風にやったらいいか未だに分からない。まあ参考にさせていただきます。
 セラが単なる坊やではない。はてさて、そのカラクリはまた後々解明されていく予定なんですよね。なので今は大っぴらに言えません。
 さて!?サキュバスが一体何を搾り取るってんですか?つかそこ思いっきり描写したら多分ブーイング来るのでこれで勘弁してください!もうマジで!!……少々取り乱してしまいました。申し訳ありません。それでは……。

 これからはまた適当に話を進めて、また仲間の誰かを題材にしたっていうか何と言うか、まあエピソードが繰り広げられます。
 正直今これ残り一個とラストしかないんですよね……頑張らないと、それでは。

この作品の感想をお寄せください。
 『呼ぶとしよう。』この「。」は「――」のほうが良いかと。
 というか、まだリアルタイムに追いつかないのです。読んでくれてますかね? 
 なんか和解部分の展開が速すぎかな、と思いました。心変わりがちょっと。
 そして、最後のセントは良いですね。うん。少なくとも俺は本気だ、カッコイイですねぇ……。
 けど、戦闘中が怖いのです。ちょっと冷静になっても良いんじゃないかな? いや、どうなんだろう。そして負けた瞬間逃げたあいつ、また出てくるのかな。
30 風斬疾風 ■2008-09-26 16:49 ID : FZ8c8JjDD8U
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えぇ、スルーしてくれてもかまいません。むしろそうして下さい。

格好良いセント!! そして怖いよセント。

最後のセント、かなりいいですね。セントとリムス。気になりますねw(おい
30 ケルベロス ■2008-09-25 21:56 ID : 8u0JUU1wUZY
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 ヒューヒュー! セント格好良いよセント。
 もう、二転三転するかと思いましたが、案外早く終わりましたね;
 若干物足りない感がありますねぇ……どうせなら屋敷を吹っ飛ばすくらいの戦闘が見たかったものです。

 それにしても……セラの能力、坊やが負けた後すぐに逃げてしまいましたから、結局その謎は解けずじまいですねぇ。
 ドーピング的なものなのでしょうか……はたまた何らかの存在に。

 この数日、映画ハリーポッター5部作を連続で見ていたのですが。あれは凄いですね……似たような話「魔法先生ネギま」と比べてみて、戦闘に派手さがないものの、凄まじい迫力です。
 映画と漫画ですから比較するのもおかしな話なのですが、特に「ハリーポッターと不死鳥の騎士団」の終盤、《神秘部での戦い》から《ヴォルデモート対ダンブルドア》辺りの戦闘の迫力は半端無いです。
 小説版を読んでみると、何か参考になるかもしれませんね……。

 私のほうは『咎と裁き』の第一章は書き上げてしまったので、これから畑を休ませるために別のジャンルを書こうと思っています。その時の参考になればと思って、色々資料(映画、漫画)を漁っているのですが……この作品は「メガテン」とか、やっぱり「ハリポタ」が参考になるような気がしますb


 リムスもばっちゃと仲直りできてよぉござんした。やはり、家族が反目するなんて……良くないですからね。これで、リムスのお家騒動は終わったと言う感じですかね。
 セントは何やら思い切った事を言っています……ここらで、日常パートに戻ってセントとリムス、2人の動向を見てみたいような気がしますね。セントがサキュバスで「練習」する的な展開も個人的にはアリですよb


 まぁ、あれです……官能はスパイスです。
 「事後」しか映さなきゃあR指定は食らいませんよb 悪くてもR15で済みますから、ガンガンいきましょうb

30 アダムスカ ■2008-09-23 11:36 ID : MXRHzdRQNyI
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