サモナーズストーリー 16章
「……ったく、どう言う事なんだっつの」

 セントは暗い部屋の中でそう悪態をつく。いや、暗い部屋ではない。そこは暗いのではなく、元々闇に覆われたような空間なのだ。

「本当に君は厄介事に巻き込まれるね。尊敬に値するよ」

 するとセントの目の前に座っていた男――セントの心の番人が言う。その表情はどことなく楽しんでいるようだったが、その後真剣な表情になって口を開いた。

「それで、あの三つ首の猛犬のことだけどさ」

「ああ、分ぁってる。あいつの気配は、あのチンピラのイソギンチャクにそっくりだった」

 セントは番人の言葉に頷いて返す。ケルベロスを見た時から感じていた気配、その妙な感覚にセントが気付いたのはリムスの祖母の家から出た後だった。それは以前、セリアがチンピラに誘拐された時、その中のリーダーが使役していた巨大イソギンチャクのような精霊の気配にそっくりだったのだ。

「……ちっ、偶然たぁ思えねえな……」

「ああ。何だか嫌な予感がする……」

 セントと番人は腕組みしながら考える。全く同じ顔の者がそうしているんだ。傍から見たら面白い絵だろう。もっとも、この空間には二人以外は誰も人はいないが。
 そして少し時間が過ぎてから、セントは立ち上がりながら言う。

「まあいい、そん時ゃそん時だ。こんな所で考えてても意味ねぇだろ」

「……確かにね。でも、用心だけはしといた方がいいよ。我の悪い勘はそうそう外れないから」

 その言葉にセントはくくっと笑いながら「確かに」と呟き、その空間から出て行った。




「くわぁ」

 セントは少し欠伸をし、伸びをしながら時計を見た。時計の示している時間は11時半。疲れてたため10時に寝たんだからまだ1時間半。そう考えているとセントは小腹がすいたなとふと思い、一階に降りていく。すると

「あ、セント」

 そこには水色の髪をした、先日お嬢様だと判明したついでに付き合い始めた彼女の姿があった。

「よう」

 セントは軽くそう返事すると台所の方に向かう。とリムスが言った。

「何か食べるの? 私の作った料理で良ければ分けるけど」

「……頼む」

 セントは少し考えた後そう言う、今から作るのも面倒だというのが理由だ。決してリムスの料理が食いたいわけじゃないぞ。そうどことも知れずに心の中で言うとセントはリムスの隣に座り、料理を食べ始める。そして数分で食べ終えるとセントは隣にいるはずのリムス向けて言った。

「結構美味かったぜ……ってあれ?リムス」

「すぅ〜、すぅ〜」

 いつの間にかリムスは背をソファに預けて眠り込んでいた。最近なんだかんだで忙しかったからな、しょうがないか。セントはそう考えるとリムスを横抱き(お姫様抱っこ)してリムスの部屋を目指していった。
 彼女の部屋は三階だがセントはこれほどまでにこの距離を恨めしく思った事はなかった。いや、運ぶこと自体は苦にならない。彼の腕力ならこれぐらいは軽いだろう。が

「……ちょっと、やべえかな……」

 正直違う意味で色々辛い。リムスの案外華奢で柔らかい身体とか普段の勝気な性格からは想像もできない無防備で可愛い寝顔とか、何と言うか、ヤバイ。

「……クソがっ……」

 セントは首を振って思考を中断し、歩き出そうとしたら目の前にドアがあった。いつの間にやらリムスの部屋に着いたらしい。何故エレナとかシグルス先輩とかセリアは全く気付かないんだろう。まあ気付かれたら気付かれたでまた先輩の小言くらう事だけは避けたい。セントはそう考えると見つからないように辺りを見回してリムスの部屋に入っていった。
 リムスを起こさないように気をつけてベッドに運び、寝かせつけた。リムスは無防備にすやすや寝息をたてており、セントは邪念を振り切って立ち上がろうとするが左の脇腹に違和感を感じた。

「……勘弁してくれ……」

 いつの間にか寝巻きの左脇腹の部分をリムスががっしり掴んでいた。流石に寝巻きを脱ぐわけにもいかないためセントは離してくれるまで待つことに決め、ベッドに座り込む。
 するとリムスがコロリと転がり、座っているセントの背中に引っ付く。リムスの体温を背中ごしにだがしっかりと感じ、セントの鼓動が少し早まってしまう。

「クソがっ……」

 誰にでもなく、恐らく自分に向けて吐き捨てる。ここまで心臓が早く鼓動したことなんて無い。早くこの部屋から出ないとおかしくなってしまいそうだ。セントがそう考えていると。

[クスクス]

「リムス?」

 てっきりリムスが起きたのかと思って振り向くが、リムスは相変わらず夢の世界。すると

[クスクス、ここよ]

「誰だ? どこにいる?」

 セントは辺りを見回し、最後に上を向くとその目を見開いた。そこに居たのは金髪を背中まで伸ばして水着のような黒い服を身に纏い、そして黒いブーツと同色の肘までの手袋をした女悪魔。

「サキュバス!?」

 セントはつい大声を上げるがリムスは目を覚まさないし隣の部屋からも妙な気配は感じない。というかそもそも気配自体を感じないことから見て居ないのか?セントはそう考えつつもサキュバスから目を離さなかった。

[こんばんは。我が主、セント]

「てめぇ、何でここにいる?俺は召喚してねえぞ」

[あなたも知ってるでしょ? 私はまだ不完全な存在。その力が封じられてるのは?]

「……ちっ」

 セントはその答えを得て舌打ちする。彼女が封印されていたのはリムスの部屋にある、正確には彼女が借りている一冊の本。まだ返してなかったのか、とセントは呆れつつサキュバスを見据えた。

「それで、アレの近くなら俺から自由に出入りできるとして、何の用だ?」

[私の本業をお忘れかしら?――]
「断る」

 サキュバスの言葉を遮ってセントが言う、とサキュバスは面白そうに笑って言った。

[あら、何で? 好きなんでしょう? その子が。欲しいのではなくて?]

「確かにリムスは大切で、好きだ。だがこんな方法は気にいらねぇ。それだけだ」

[またお子様な主人だこと]

「言ってろ」

 サキュバスの呆れ声にセントは吐き捨てるように返す。と

「う、うん……あれ? セント?」

「あ、悪い。起こし――」

 リムスはこの口論で目を覚まし、セントをボーッとした目で見る。それにセントが振り返って言っていると

「っ、あっ!」

 突然その目が見開かれ、身体が大きく跳ねた。

「リムス!?」

 それにセントは慌ててリムスを抱き起こすが、リムスはポヤーッとした目でセントを見ると、いきなりセントを抱きしめ始めた。

「リッ、リムス!?」

「セントォ……」

 リムスの抱きしめる力はどんどん強くなる。それにセントが様子がおかしい、と考えるとそれと同時に合点がいった表情をし、サキュバスを見る。と彼女は悪戯が成功したように笑っていた。ただしその目を血のように紅く輝かせながら。

「サキュバス! てめえ!!」

[大丈夫よ、彼女を少し素直にさせただけだから]

 サキュバスはふふふと笑いながら言うが、セントは彼女を睨みつけながら声を荒げて叫ぶ。

「んなこたぁどうでもいい!! とっとと治せ!!!」

[残念ながら、私に治す事はできないわ]

「んじゃどうしろって!!――」
[それはご自分で考えなさい。もっとも]

 サキュバスはリムスに抱きしめられている状態のセントを見ながら笑い、続けた。

[その状態で考えられれば、ね]

「てめえ……」

[では親愛なる我が主、ご健闘をお祈りしてますわ。それでは御機嫌よう]

 サキュバスはわざとらしく丁寧にそう言い残すと消えていき、セントは後でボコると心に誓う。と次の瞬間強く後ろに引っ張られた。不意をつかれた為抗えずに柔らかいベッドの上に倒れる。
 そして自分の両肩にはそれぞれにリムスの手、見上げたそこには虚ろな目をし、頬が赤く染まっているリムスの顔。押し倒されたと気付くのに時間はかからなかった。

「セントォ……」

 リムスの顔がセントに近づいてくる。

「ちょ、ちょっと待て!」

 セントが慌てて叫ぶとリムスは泣きそうな顔をする。自分は別に悪いわけではないはずなのに何故か罪悪感がセントの胸に溜まる。

「私のこと、嫌いなの?」

「い、いや……」

「じゃあ好き?」

「(今言えってのか……)」

「ねえ……」

 セントが心の中で呟いてる間にもリムスは迫ってくる。どこまでが彼女の本心でそこからかがサキュバスの魔法なのか判断できない……魔法?

「(あぁ……そうだった……こいつぁ魔法なんだ)」

 サキュバスの魔法に対して治癒系の魔法で治療すればいいんだ、簡単なことだった。そうと分かれば召喚の準備。セントは器用に右手だけで腰に提げておいた腕輪を手首につけると詠唱を始める。その時

「セント……」

 セントの目に映ったのは至近距離のリムスの顔、そしてそれと同時に唇に柔らかい感触。

「っーーー!!?」

 駄目だ……抗うことができない……。セントの思考、理性がまるで霧に覆われたのように消えてゆく。
 セントは優しくリムスを抱きしめる。と華奢だと思った身体は案外しっかりしている、セントがそう考えていると、違和感を感じた。

「リムス?」

 さっきまであんなに迫ってきていたリムスがピクリとも動かない。不思議に思ったセントがリムスの顔を覗き込むと

「すぅ、すぅ……」

 リムスはまたぐっすり眠っていた。
 そのお約束とも言える展開にセントは苦笑しながらリムスをもう一度ベッドに寝かしつけ、今度こそ精霊を召喚する。

「来い、ガルフ」

 そいつはリンブロム家の戦いで活躍してくれた精霊融合体ガルフ。一応彼には光属の簡単な治癒魔法の使用能力がある。もっとも、元の二体で言うとガーディの微弱な癒しの光をワルフのおかげで強化される気功に乗せて使うと言う本当に簡単なものだが。
 それはさておき治癒を終えると、セントは疲れきった様子で自分の部屋に戻り、自分のベッドに寝転んだ。すると頭に思い浮かんだのはさっきの情景と柔らかさ。

「……ちょっと、惜しかったか?」

 セントはそう呟くと何を馬鹿な事をと自分を嘲笑い、眠りについた。
カイナ
2008年09月23日(火) 22時46分08秒 公開
■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
セント:……。(背後に猛獣のオーラ浮かばせ)
カイナ:正直、すいませんでした。(頭下げ)
セント:てめえなあ、俺に喧嘩売ってると解釈していいんだな?
カイナ:いやほら! アダムスカさんがこう言うの見たいって言ってたし
セント:人のせいに! 特にこの駄文にアドバイスくれている方のせいにすんなぁ!!!(胸倉掴み脅し)
カイナ:ごめんなさいごめんなさい!!!(マジ泣き)
セント:とりあえず一発殴る!!!(拳振り上げ)
カイナ:そいつはごめんだっと!!そいじゃ(セントの顔面目掛けて煙玉を打ち込み、その隙に逃げ)


さてと、逃げ切ったしいつものパターンに戻ったしコメント返しだ。

アダムスカさん……だけですね。わざわざこれに集中しなくとも15章にまだコメント出しても良いんで、よろしくお願いします。

セント格好いいですか、ありがとうございます。セントならこう動くと考えた結果です。というかいや、流石に家壊したらまずいでしょ。
一応最初の方に謎の一部的なのは出しました、まだまだ謎は多いですがね。
ハリポタは一応読んでますが、そこまで技術を盗むのは無理です、多分。少なくとも自信ありません。
ま、リムスのお家騒動も終わりです。ラパートさん最後全く出番なかったんですよね……どうしよ。
セントは一応こう言うことに関しては正直者なんで。二人の動向とはこんな感じで?やったらやったでセントにボコられかけましたが。えっとまあ、それでは。

この作品の感想をお寄せください。

 ちょっと惜しかったな……。
 据え膳食わねば男の恥、とは言うもののここには「官能」のカテゴリは無いですからね……。

 お久しいですな、私も大学のほうが再開し、寮にも戻ることとなり、晴れて寮の犬……班長としての政務に忙殺される日々です。
『咎と裁き』については、もう書きあがっているのですが、なかなかまとまった時間が取れませんで。

 コメントのほうも付ける事ができませんでした。


 今回は戦闘パート終わってインターバルのような日常パート……いえ、ラブコメパートでしょうかね。
 雰囲気自体は好ましく思います。まさかサキュバスがこんな形で活躍するとは思いませんでしたけど、彼女の言う通り……セントもまだまだ子供のようですねぇ。
 汚れきった私ならば、迷わず喰っているでしょうが……。
 実直で純粋なセントは眩しく見えますよ、ホント。

30 アダムスカ ■2008-10-06 13:17 ID : pwrTAXbZhaM
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 これが最新かな? 今までのにも感想は付いてる筈ですので。
 さて、もうちょっと心理描写とか動作の描写とか欲しかったかなぁ……。ん、けど難しいですよね。こういうの。
 なんかさり気無く『付き合い始めた彼女』とか出てきて、「あ、そうなんだ……」とか思ってましたwww こういうイベントはもっ(以下略)
 素直にさせただけって……、あのときのことリムスは覚えてるのかな? 覚えてたら次に出会ったとき楽しそうだね。
30 風斬疾風 ■2008-09-28 21:12 ID : FZ8c8JjDD8U
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ふっふっふ。ふあはははあはあああ。
僕の妄想がッ! 駆り立てられていくゥ〜〜〜〜!!!?
こんなシチュエーションになったら僕なら○×□※〜〜〜〜!!!???

すいませんねぇ〜。生徒会長がこんなんだったらお前の中学荒れてるなとか思わないでくださいww

キャラ対談、僕もやろっと。
30 生徒会長7 ■2008-09-28 05:10 ID : zsWxXgfeN0E
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おそらくミスだと思いますです。

真ん中らへんの「確かにセントは大切で、好きだ。だがこんな方法は気にいらねぇ。それだけだ」この行。
 セントではなくリムスでは?



さ、良い感じ?w  あ、ごめんなさいm(__)m
セント正直者。えぇ、そうかもですねww 最後の台詞とか特にww
30 ケルベロス ■2008-09-25 22:29 ID : If3qiekeSNg
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