サモナーズストーリー 21章 |
目の前で咆哮を上げているのは目に狂気を宿し、竜の翼と刺々しい尻尾を持つライオン――マンティコア。その咆哮にセントはにやーっと笑いながら紅き悪魔――サラマンドラの召喚を解除して詠唱を始める。 「紅き力を得し獣よ、今我が前にその力を示せ……来い!! フレア・ワルフ!!!」 セントの言葉に従うように、さっきまでサラマンドラのいた所には炎に包まれたような紅い毛をしたワルフが獣化してマンティコアに牙を向けていた。 そしてセントの戦う準備ができたとソウシが悟るとすぐに叫んだ。 「俺とミノタウロスで一気に打ち崩すからてめえらで止めを刺せ!!」 「ああ!!!」 ソウシの言葉にセントが吼え返す。そしてミノタウロスの放った右ストレートとソウシのハンマーによる一撃がマンティコアの顔に沈み、そこにセントが右に、ワルフが左に回りこんで鋭い飛び蹴りと爪による一撃を放つ。 「げっ!?」 [くっ!] がマンティコアは竜の羽を羽ばたかせると素早く空中へと浮かび、セントを睨みつけて急降下し、セントに突進をし始める。さっきの羽ばたきの風圧のためセントは完全に体勢を崩し、避ける事は不可能だ。と突然セントの前に二本の炎の剣を持った剣士が現れ、マンティコアの攻撃を防ぐ。 「……ヘルレア?……」 その精霊に驚いてセントが呟く、とマンティコアの脇腹に突如氷と鮮血が飛び散り、さらに巨大なブーメランまでも飛ぶ。それにセントがさらに驚いてその方向を見ると、そこにはリムスとギィがそれぞれ武器である精霊――セルスと戻って来たブーメランを受け止めながら構えて立っていた。 「二人だけじゃ無理でしょ? 助けるよ」 「こっからは僕達に任せて! 思いっきり行くよ!」 リムスとギィはそれぞれの武器を構えてやる気満々と言うように立っている。とセントは「ったく」と悪態をつくと立ち上がり、ワルフを一旦召喚解除し、別の精霊を召喚した。 「来な、サキュバス。飛ばれたらお前らは離れろ! サキュバスは打ち落とせよ!!」 その指示に二人は頷き、サキュバスも「はいはい」と言いながら空に浮かんで黒い矢を放ち始める。とマンティコアは咆哮をあげながら姿勢を下げ、尻尾の針をセント達目掛けて放つ。がリムスとギィはそれぞれ見事なフットワークとブーメランを盾にして避け、さらにセントに至っては針をかわしながらマンティコアの懐に潜り込んだ。 「らあっ! くたばれぇっ!!!」」 まず一撃、マンティコアの顎を蹴り上げ、さらに殴る。がそれだけでは終わらずに一歩下がって力を溜めると、地面を蹴って加速し、その加速をプラスしてマンティコアの額目掛けてその拳を叩き込んだ。がマンティコアの瞳から生気は消えず、そのまま目の前の獣に牙を剥こうとするが、突如自分の横から何かがぶつかってくる、とセントはそれを見ずとも叫んだ。 「でかしたギィ、サキュバス! リムス、ヘルレア! 思いっきり斬り刻んでやれ!!」 そう、さっきの衝撃はギィの投げたブーメランとサキュバスの放った黒い闇の矢だ。 そして続いてのセントの指示にリムスはまるで居合いを行うかのように構え、ヘルレアも腕と化している剣を重ねるように構える。そしてセントが地を蹴って跳躍し、マンティコアの額目掛けてそれを踏み砕くかのごとく蹴りをかます。そしてその反動を利用してセントが宙を舞った瞬間、その刃は敵に牙を剥いた。 「せいやぁっ!!!」 [はぁっ!!!] リムスの刃からは氷撃の弾丸が現れてマンティコアを貫き、さらにヘルレアの刃から発された炎がそれを焼き尽くす。そしてその衝撃に耐え切れず、マンティコアがふらついた瞬間、セントはまたその牙を剥いた。 「らぁっ!!!」 もはや加減は少しもない、全身全霊のアッパーはマンティコアを僅かながら宙に浮かばせ、さらに全身のバネを利用し、敵を抉る爪を思わせる後ろ回し蹴りがマンティコアを吹き飛ばした。その先にはもう一対の獣と獣人が舌なめずりをして待っている。 「チェック、メイトだ……くたばれぇ!!!」 彼のその怒号と共に振り下ろされた鈍器とミノタウロスの打ち抜いた拳は辺りに轟音を響かせてマンティコアの額を砕いた。マンティコアはもはや立つ気力も無くやがてその姿を無に返してゆく。その場に一瞬静寂が走った、がセントとソウシは忘れてはいないと言わんばかりにこの路地の入り口を睨みつける。とその表情が乱れた。 「ぐ、はぁっ、はぁっ……」 そこにいた男――バルスは胸を押さえて苦しそうに呻いているのだ。それに驚いた様子でソウシが近寄り、叫ぶ。 「てめっ、どうしたんだ!?」 「ぐ、がはっ……ああぁぁぁ!!!」 しかしソウシの言葉に答えず、バルスは胸を押さえてその息を引き取った。それはまるで心臓麻痺の患者を見ているかのようで、ソウシ達は何が何だか分からない様子だった。いや、その中に一人、目の前の光景にデジャヴを覚えている人間がいるが、誰もそれに気付いてはいない。すると後ろから不意に声が響く。 「あの、皆さん……」 「あ、エレナ?……」 その言葉にソウシが聞き返すとエレナはロイをちらちら見ながら言った。 「そんな場合では無いでしょうけど、ロイの意識が戻らないんです。一回寮に帰ってちゃんと手当てした方がいいと思うんです。皆さんも治療が必要ですし、勿論ソウシさんも」 確かにマンティコアの攻撃を全員全くの無傷で切り抜けたわけではない。するとソウシはふんと鼻を鳴らしてその場から去ろうとする、がエレナはそれを察したか素早くソウシの腕をつかみながら言った。 「駄目です、幼馴染として放ってはおけません! 大人しくついて来てください!!」 「……ったく、分かったよ……」 エレナの言葉にソウシは髪を掻きながら言い、それからロイはセントが背負って寮へと戻って行った。ちなみに今は亡きバルスもどう言うことか調べるなりするためソウシが担いでいる。 そして寮で今まで待っていたレンとシグルスはその話を聞くと表情を歪めて言った。 「精霊がやられた瞬間マスターまで亡くなった?」 「そんな話、今まで聞いたことないが……少し調べてみよう」 レンがそう呟き、シグルスもそう返すとこの寮の読書部屋、資料室に走っていった。それから一階の居間でエレナの精霊――ユニスの力で外傷を癒していく。ちなみにロイはただ意識が戻ってないだけのため彼の部屋に運び、治療を終えたリムスがついている。 「だが、一体どう言うことだ?」 ソウシがバルスを見ながら呟いた。外傷は全く無い、精霊がやられた瞬間マスターまで命を落とすなどと言う事件は今まで聞いた事がない。そもそも精霊がやられたら確かに精神的にダメージが来るものの死ぬほどではないはすだ。精霊使いの間では常識である。 ギィやエレナ、セリアも首を捻って考えていた。しかしセントだけはそれを考えていない、否、別の事を考えるので精一杯だと言った方が正しいだろうか? すると突然寮の外から怒号が聞こえてきた。 「オラァ! 俺たちの幹部をボコったってのはここのヤロウかぁ!!」 「この黒き牙を敵に回すたぁいい度胸だな!! 出て来いやぁ!!!」 あぁ、ヤクザの人間か。セントはそう考えながらちっと舌打ちすると立ち上がり、バルスの死体を引っ掴むとぶんと外に放り捨てながら言った。 「てめえらの幹部ってのはこいつの事か?」 「バッ、バルスさん! てめえ!!」 ヤクザの一人はバルスを見ると驚いたように叫び、その後セントを睨む。がセントはその視線からの殺気を気にせずに続けた。 「言っとくが俺達は殺してねえぞ、勝手に倒れてくたばったんだ。調べりゃ外傷がないくらいすぐに分かるだろ? って聞きもしねえか……」 セントは最後に残念そうに呟いた。既に奴らは頭に血がのぼっているのか全く聞いてない様子だ。するとセントの横にソウシが出てきながら言う。 「馬鹿かてめえ、この行為でこの寮そのものが危険になったってのが分からねえのか?」 「ああ、そうっすね。ただこいつを連れてとっとと帰ってくれればありがたいと思ったんですが、そう甘くもないですか」 ソウシの言葉にセントはそう呟きながら迫ってきたヤクザの一人を殴り飛ばし、相手を見据える。軽く三十はいるだろう、そう考えながらセントは手加減用の皮のナックルをはめ、ソウシもリムスが練習用に振ってるのであろう木刀を構えた。 そしてヤクザがナイフやら剣やらを振りかぶって突進してくるのと同時にセントとソウシもそいつらに牙を剥く。 ヤクザは人海戦術、質より量と言わんばかりに二人に向かう、がそれはたった二人で押しとめられていた。いや、流石に数が多すぎる。 セントは隙を見てワルフを召喚しようかと考えるが、突然ヤクザが倒れ、その後ろから見覚えのある顔が両手剣を持って現れる。さっきまで倒れていた彼の仲間の一人――ロイ・スウェンが。そしてその目はいつもとは違う、するとソウシがふっと笑いながら言う。 「久々に見るな、[幻影の狂戦士]の目。いや、少し違うか?」 「はい、もう俺は狂戦士にはなりません。そこまでの無様はやらない、大切な奴を守る、そのためにこいつを振るいます」 「そいつぁ上等!! 行くぜ!!!」 「「おう!!!」」 ロイの言葉を聞くとセントは不敵に笑って吼え、二人も叫び返してヤクザの中に突っ込んだ。 「来な、サキュバス! こいつら全員眠らせろ!!」 「ティーグル! 寮に近づく奴をふっ飛ばせ!!」 「ミノタウロス! てめえも付き合ってやれ!!」 セントが叫ぶと金髪の悪魔が姿を現し、不思議な光を発してヤクザを眠らせていく。そして二人の精霊もマスターの指示に頷いて寮に近づくヤクザを素早く片付けていた。 そしてしばらくしていつの間にかエレナやセリアが呼んだ警察が到着し、ついでにセント達は長ったらしい事情聴取も受けていた。が警察もやはりバルスに起きた事態については首を傾げて医者や専門家に見せると彼の死体を引き取って行った。 それからソウシもここに泊まることに決まった後、セントは自分の部屋に戻るとようやく思い出したように呟く。 「なんなんだよありゃぁ……だが、俺ぁ、あれを知っている?……」 セントはそう呟きながらベッドに倒れこむ、と色々あって肉体的にも精神的にも疲れたかすぐに彼は眠りについた。 |
カイナ
2008年10月28日(火) 21時07分46秒 公開 ■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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