サモナーズストーリー 22章 |
自分の目の前には二人の倒れた男女がいた。一人は己と同じ漆黒の髪を持った女性、そしてもう一人は自分が今使用している腕輪をつけた男性。そしてそこから少し顔を上げると…… 「つっ……な、んだぁ?……」 セントは目を開けると弱々しく呟いた。孤児院に入る前、引き取ってくれていた爺さんから話は聞いたことがある。確か自分の父と母は交通事故で死んだと言う。があの光景は交通事故には見えなかった。あれはまるで…… 「……思い、だせねぇ……」 セントは頭を抱えながらそう呟いた。 それからセントは着替えてから一階の居間に降りる。今日から一週間、休日が重なって学校は休みだ。やることも特にないしこの違和感を払いのけるために飯を食ったら散歩でもしていようか、そう階段を降りながら考えていると突然嬉しそうな声が聞こえてきた。 「セント! やっと起きたの!?」 「何だ? リムス」 その言葉にセントは若干不機嫌そうに言う。あの変な夢のせいで何だか気分が悪い、がリムスはそんな声の調子なんて聞いていないように続けた。 「この休日を使って皆で旅行に行くことになったのよ!」 「ああはいはいよかったな」 セントはその言葉に棒読みであることを自分自身感じながらも返し、買い置きしていたオレンジジュースをコップに移さずにそのまま飲む。するとエレナも楽しそうに言った。 「最近色々大変だったからと、リムスさんのお婆さんが手配してくださったんです」 「事件を知ってる人がいたらゆっくりできないからってわざわざ遠いところまで旅費を負担してくれるんだぜ」 エレナの言葉にロイも言う。それにセントは一旦オレンジジュースのボトルを口から放して言った。 「んで、行く場所はどこだって?」 そう言ってからまたボトルを口につける、とリムスが言った。 「アニムスってとこだよ」 「ぶっ!?」 その言葉を聞いた瞬間セントはジュースを噴出しかけるが、何とか少量に止め、落ち着いて口の中のジュースを飲み干す。それに驚いたようにギィが尋ねた。 「あ、あの、どうしたんですか? セント先輩……」 「皆、当然だけど俺が転校生だってことは知ってるよな?……」 「あ、ああ……まさか」 セントの言葉にシグルスは合点が言ったようにどこか苦笑いのように言う、とセントはこくりと頷いて答えた。 「はい。アニムスには、俺が育った……孤児院があるんです」 その言葉を言うセントの顔は妙にひきつっていた。まあ意図せずとも里帰りになってしまったので流石に驚いているのだろう。それからその日は旅行の準備にあてられ次の日、ラパートの送り迎えでアニムスへと向かう。 「それではお嬢様、どうかお気をつけてお過ごしください」 「ええ、ありがとねラパート。お婆様によろしく伝えておいて」 現在はリムスの父親の住んでいる屋敷の執事となっている老人――ラパートにそうリムスが言うとラパートは一礼して馬車に乗り込み、去っていく。それからリムスがセントの方を振り返って言った。 「さてと、折角なんだからセントが育ったって言う孤児院でも見ようか。どこ?」 「……案内する、ついて来てくれ」 流石に断れそうもない、セントはそれを持ち前の勘で感じ取ると踵を返し、歩き出した。それから彼らが訪れたのは一つの建物、所々ボロボロに見えるがそれが逆にこの建物の年季を感じさせる。そしてその庭に入りながらセントは口を開いた。 「ちーっす、ただいま戻りやしたぁ」 その言葉を聞くと庭にいた子供は驚いたようにセントを見る、そして次の瞬間。 「セントにいちゃん!」 「おかえりぃ!」 「なんではやいのぉ?」 「たいがくぅ?」 「ひでぇなあ、傷つくぞこら」 寄ってきた子供たちにセントは笑いながらいつもの口調で言う。だがその言葉はどこか柔らかく、優しさに溢れていた。それから子供達が庭の入り口に立っているリムスたちに気付くと、今度はそっちを見ながら言った。 「だれ〜?」 「俺の学校の友達だよ。休みになったから遊びに来たんだ」 「ていがくだ〜、セントにいちゃんのせいでれんたいせきにんだぁ〜」 「怒るぞてめえ、どこでンな言葉覚えやがった。つかどういう意味だ」 一人の男の子がそう言うとセントは拳でぐりぐりとその男の子の頭を押す。それに男の子は「ぎゃー」と言っているがそれはふざけて言っているように見え、セントも勿論冗談でやっている。それから手を止め、セントは振り返ってリムス達に言った。 「リムス、皆。そんなとこでぼーっとせずに庭に入ってきていいんだぞ」 「え? ああ、うん」 正直驚いたと言うのが近い。彼ははっきり言ってメンバー内ではトップ独走で気が短い不良タイプ、だがここではどうだろう? 相変わらず多少口調は荒いもののそれは良い兄貴と言う方が近く感じられる。 それからリムスがセントの隣に立つと子供たちは「あ〜」と言ってにこにこ笑いながら言った。 「セントにいちゃんかのじょつれてきたんだ〜」 「おかあさんにしらせないと〜」 「てめえら、マジで殴られたいみたいだな」 『にげろ〜』 子供達がそう言い、リムスが軽く顔を赤くしているとセントはほんの少し本気の笑みを浮かべて拳を軽く鳴らす、そしてその音を合図に子供達は逃げ始め、セントもその後を追い始めた。もっとも彼の身体能力なら普通の子供数人くらい一分経たずに捕まえられる。当然ながらちゃんと手加減はやっていた。 それから約五分、セントが鬼の鬼ごっこが続き、全員捕まえ終えてようやくセントは本題に入った。 「さてと、院長はどうしてる?」 「かあさんならなかでおはなししてる」 セントの言葉に女の子が返し、セントはそれを聞くとまた返した。 「話? 誰と?」 「しらないおじいさん」 その言葉にさっきの女の子がまた返し、セントは「そうか」と返すと孤児院に入る。とそこには優しそうな雰囲気を見せる女性とどこか妙な雰囲気をかもし出す老人がいた。 「おや、誰かお帰りですかな?」 セントに気付いてその老人がふっと笑いながら言う、とその女性はセントを見ながら言った。 「セント、お帰りなさい。そちらの方々は?」 「友達、ここには様子を見に来ただけっすよ。院長」 女性――ここの院長にセントはそう返す、と老人は立ち上がりながら言った。 「ふむ、それでは私はそろそろおいとま致しますかな」 「よろしいんですか?」 老人の言葉に院長がそう返すと、老人は「ええ」と人の良さそうな笑みを浮かべて言う、がその後出て行くときにセントと僅かながらその雰囲気を一変させて何か言いあったのは本人以外誰も気付いていなかった。 それから老人が去っていくと院長は改めてにこっと柔和な微笑みを見せながら言った。 「お帰りなさいセント。元気そうで何よりだわ」 「毎週電話かけて来といて元気も何もないでしょう?」 院長の言葉にセントは苦笑気味に返す、それからセントは続けた。 「さっき言った通りですがここには様子見に来ただけですし、そろそろ――」 「何言ってるの? 折角来たんだから泊まっていったらどう?」 やばい、セントは本能でそう感じ取っていた。彼女は確かに優しいがこう言う事に関しては頑固なことこの上ない。そのオーラからは断ると言う選択肢は即刻却下と言うのが感じ取れている。セントはやれやれとため息をつくとリムス達を見て言った。 「聞いた通りだ、いいか?」 その言葉に全員特に構わないと答え、リムス達は男女に分けてそれぞれ大きな空き部屋を、セントは編入前に使っていた自室に戻った。 そこはほとんどの物は寮に運んだとはいえ机やベッド、そして趣味で買った木刀などは残っており、セントはどこか懐かしい気持ちになっていた、がその心中では別の事を考えていた。 「あいつがここにいるとはな……俺の嫌な予感が外れりゃいいが……」 そんな事あるわけねえか、とセントは今までの経験から自嘲し、荷物を置くとこの気持ちを紛らわすためまた子供達と遊ぼうと思って部屋から出て行き、外に出た。 |
カイナ
2008年11月01日(土) 21時30分12秒 公開 ■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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最終章突入ですね。がんばってください。 それで、老人……ですか、何者なのかとても気になるところですね。 セントは、いい兄貴って感じですか、子供達といい感じになっている和やかな感じでしたね^^ |
30点 | ケルベロス | ■2008-11-03 20:46 | ID : 8u0JUU1wUZY | |
合計 | 30点 |