Criminal
フッ

とうとう限界が来てしまったようだ。
必死に敵の攻撃を退けてくれていた俺のイメージは、本当に音も無く跡形も残さず消えていった。

そしてその瞬間、俺は弾かれたように振り返りアリシアの手を握って走り出した。
走るといっても店の中だからほんの僅かな距離に過ぎないが。

「あ、あのっ・・・ゼルさん?」

「悪い、聞きたい事があるなら後でな」

追撃を避けながら奥にすっこみ一気に階段を駆け上がる。
後ろからは奴等が迫ってきている。

俺は手を引いたままアリシアの部屋に入り込み、扉を閉じる。
閉じた瞬間扉にナイフの刺さる音が聞こえた、割と間一髪だったかもしれない。

そして程なく扉に体当たりしてくる二人分の体重。
内側からノブを押さえながら必死に押し返す。

「ア、アリシア・・・今のうちに逃げる準備を・・・」

後ろを振り返らずに言う。
早くしてくれ、イメージ無しじゃカップラーメンが出来る時間すら保たない・・・

「あのっ、私何がなんだか・・・」

「お前の言ってた嫌な予感がこれだ、早くしろ!」

今は話してる場合じゃない。
今までの戦闘の中で11人同時に襲われた事なんてこれが初めてだ。
あくまで俺の予想に過ぎないのだが、多分外にもETIとやらがいるだろう。

予想外の事だ、何が起きても不思議じゃない。
今考える事は生き延びること、今までも、今も、これからも。

腑に落ちない表情をしながら、適当なサイズのバックに荷物を詰めていくアリシア。
後ろを振り向く余裕が無いから「あれを持て」だの指示は出来ないが、ここはアリシアを信じる事にする。

「くっ・・・!」

扉にかかる二人分の体重と音が一際激しくなる。
これ以上は、俺が抑えていても扉が破壊されてしまう・・・

「まだか、アリシア・・・」

「?もう準備できてますよ?」

「・・・・・・出来てたなら言えよ」

もしかしてアリシアって空気読めない子?
俺にはそんなつもりはないが、下手したら余裕で死ねる状況だって事をわかって欲しい。

「あの、ゼルさん、一つ聞きたいんですけど」

「時間ないから手短にな」

「・・・お母さんを知りませんか?」


知らない、といえば嘘になるんだろうな。
でも真実は時として過酷な現実なんだ。
今はそれを伝えるべきではないし伝える状況ではないだろう。

「―――くそ、扉が持たない。アリシア、窓を開けて窓の傍に立ってくれ」

「・・・・・・はい」

空気は読めないけど人の心は読んでくれるようだ。
後で適当にごまかしとかないと、な・・・

後ろから窓を開ける音と、アリシアが「はっ」と息を呑む音が聞こてきた。

「ゼルさん、外に人がたくさんいます・・・皆こっち見てます・・・」

そして付け加えるように「無表情で」と呟いた。

やっぱ予想通りか。

扉の向こうからドタドタと階段を上る音が聞こえてくる、仲間が来てしまった様だ。
これ以上増える前に・・・

「・・・アリシア、喋るんじゃないぞ、舌噛むからな」

「え?」

逃げる。

扉から手を離し、窓に向かって走る。
アリシアを右腕で抱き寄せるのと同時に、背後から扉が破壊される音が聞こえた。

「うおおおおお!!」

自分を勇気づける雄叫びと共に、開け放たれた窓から勢いよく飛び降りる。

――背中に刺すような痛みを感じた。

「ちぃッ!」

空中でアリシアを抱きかかえ、そのまま着地。
足に二人分の体重と落下の衝撃がかかる、が、怯んでいる場合ではない。

敵が迫る――

「駆け抜けるぞ!」

約5分の休憩を挟み、再びイメージを発動する。

今必要なのは武器ではなく、体の丈夫さと体力と足の速さ。それも常人をはるかに超える人体の限界レベルの物。

後は俺の根性の問題だ、頑張るしかない。

自分でも驚く程の速さで、「自分の」イメージを完了する。
体が圧倒的に軽くなった、抱きかかえているアリシアなんて気にならない程だ。

「邪魔だ、てめえらどきやがれえええ!!」

後は、イメージが保つ限り・・・走って走って走って逃げて逃げて逃げて、この町から遠ざかるだけだ。

押し寄せる敵をスピードで突き放し、町の出口を目指して駆け抜けた。








「はぁっ・・・はぁっ・・・!」

「だ、大丈夫ですか?ゼルさん?」


正直に言うと死にそうです。
どれくらい走ったんだろうか?町を出てからは一切振り向かずに、俺の集中力が切れるまでとにかく走った。

そしてどのくらいの速度で走ったのかは俺もわからんのだけど、見渡す限り砂だった風景もいつの間にか草原のような場所になっている。

大体15分くらい走ったと思う・・・それから風景がガラっと変わる場所まで来たって事は、それはそれは恐ろしいスピードで走ってたんだろうな。

「はぁっ・・・はぁっ・・・っ、ま、巻けた?」

息切れしながらアリシアに尋ねる。

「え、えと、はい。走ってきた方角に人影はありません」

「ふぅ・・・は・・あ・・・良かった・・・全力出した甲斐があったよ・・・」

そのまま青い草の上に、仰向けで走りこむ。

――背中が痛んだような気がする

フルマラソンを走り終えた選手の気持ちってこんな感じなんだろうなーと思ったりしてみて。

「凄いスピードでしたね、正面向くと呼吸できなくなるぐらいのスピードでした」

呼吸できなくなるスピードって、ジェットコースターとか?
いや、あれはあれで呼吸できてるからもっと速かったのか。

俺、人体の限界ってレベルじゃねーぞ。

「双剣を作り出したり、自分の体を強化したり・・・これが貴方のイメージなんですね」

「ふぅ・・・あんま長持ちしないけどな」

呼吸は段々落ち着いてきた。
でも何だか、背中が暖かいな、火照ってるにしては一部だけやたら熱い。

「ちょいアリシア、俺の背中見てくれ」

草から起き上がりアリシアに背を向ける。
だがアリシアは俺の背を見ていなかった。

「ゼ、ゼルさん!草が真っ赤ですよ!」

「ああ?そんな日もあるんじゃね?」

「いや、ああもう、そんなんじゃなくって・・・って背中どうしたんですか!?」

気づくのおせーよ・・・
俺が仰向けになった場所が真っ赤なんだからまず俺の背中を疑おうよ。

「やっぱ怪我してる?俺」

「血がダラダラです、どうして早くいってくれなかったんですかっ」

そう言って、俺の背中に手を当てる。

「深くナイフが刺さってます、抜きますから痛いの我慢してくださいね」

アリシアが俺の背中をなでる感触がある。
そしてその手が俺の背中に刺さっているナイフを掴み、一気に抜いた。

「・・・ッ!!」

本当に痛いと声に出ないっていうけど、よくわかった気がする。
痛みも嫌だけど、このなんともいえない異物感が嫌だ。

今の今まで気づけなかった俺はどんだけ鈍いんだ・・・

「今直しますね」

ポワーっとアリシアの手が光る。
これがアリシアのイメージか・・・暖かくて何だかすごい良い感じ。

キ モ チ イ イ

血の跡までは消せないみたいだけど、傷はふさがったようだ。

「えっと、一応私の力で直せるところまで直しましたけど・・・まだあんまり動かないでくださいね、本当ならまだお腹の傷もあるんだからベットで寝てなきゃ駄目なのに、ほんとETIと間近で戦闘したのは初めてだったりするですけど
遠慮が無いってのはほんとなんですね、ビックリです、ああいう毎日を過ごしてきたゼルさんは本当に凄いと思います」

「・・・喋りすぎだろ、落ち着け」

いや、落ち着いたからこそこんなに喋るんだろうな。
しかしマジで止め処ない、お前はダムか。

まぁ、腕は立つみたいだから良いけど・・・

「あ、ところでゼルさん」

「ん」

「あれ、なんですか?」

アリシアが、今俺達が走ってきた方角を指差す。
ジーっと眼を凝らしてみると、なるほど、確かに何かがぼんやりと見える。
土煙を上げてこっちに向かって、何かが接近してる。

「なんだろ?」

「なんでしょう?」

段々と近づいてくるにつれ、シルエットがハッキリしてくる。
・・・見えた。

「男、だな。俺の知らない奴だけど・・・状況から考えると・・・」

「ETI、ですね」

その通り、よく出来ました。
動かないで、と言われたけれど、俺が動かないとやばそうだな。

休むのはアイツを倒してからだ。
深呼吸して腰を上げる。

「戦うんですか?動かない方が・・・」

「激痛と心臓が止まるの、どっちがいい?」

アリシアは黙ってしまった。
つまりそういう事、死より恐ろしい物はないってわけだ。

mlk
2008年05月09日(金) 21時36分34秒 公開
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■作者からのメッセージ
ヤバス、眠くて文がヤバス

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やばくない、大丈夫だ
双剣・・自分強化・・・長持ちしない
某狩りゲーのあれを連想するがまぁ気にしない
30 ZTH ■2008-05-10 17:05 ID : d8l1MhGI.wI
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土煙を上げてってことは、多少なり速度はあるのかな?

キ モ チ イ イ  →  ワロタwwwwww
40 ケルベロス ■2008-05-10 15:44 ID : If3qiekeSNg
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これでETIじゃなかったら一安心+面白い状況、なんだけどな……。
ところで、ETIって何て読むんですか? 片仮名で訳、お願いします。
やっぱ面白いなぁ。しかし……人数多いな。一度に数人にして欲しいよね。
やはり焼かれてたのは………、しかし何故? 敵も色々変わってきてるみたいです。
40  風斬疾風 ■2008-05-09 22:07 ID : FZ8c8JjDD8U
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