黒紅ノ眼〜第1章・2節〜 |
新しい環境と言うのは当然のことながらいつも新鮮だ。 今年からフィルオール軍に入軍する新人もそう思っているだろう。 いや、もしかしたらあまりに当然の事すぎてそんなのを考えるのも忘れているかもしれない。 しかし、新しい環境に抱くのは期待ばかりではない……不安も期待に負けないほどに抱かれる。 ギルバートは今からその不安を増幅させるようなことをするのだから多少良心が痛む。 (まあ、毎年恒例だからな……) そう割り切ってギルバートは自分に割り当てられた新人30人の前に出た。 新人たちの戦闘力を診断するために……。 「よく来たな。これからお前たちの戦闘能力を見る。それぞれ3人でチームを組んで俺と戦え。ルールは簡単だ。3人全員が俺に捕まったら負けで、俺の陣地の旗を取るまたは破壊したら勝ちだ」 要するに侵攻側を新人……防衛側をギルバートが行なう模擬戦だ。 戦闘訓練用のグラウンドの使用許可をヴァルゼンに無理を言って取ってもらっただけあって、今回は本格的なテストが出来そうだ、とギルバートは期待を膨らませていた。 「15分時間をやる。その間にチームを決めて作戦を立てろ」 グラウンドには堀とギルバート側のフラッグ、多少高低がある台地にそれを囲む木々等があり、出来る限り実戦に近い訓練が出来るようにと配慮されている。 広さも申し分なく、此処で一試合4人で行なうのはまさに贅沢だった。 「君も人が悪いね……」 グラウンドの隅に休憩用に置かれたベンチで座っていると後ろから声がした。 振り向くまでも無い、ヴァルゼンだ。 「どういうつもりだ? こんなところにお前が来るなんて」 「なぁに……使えそうな新人がいたら僕の部隊へ引き抜こうと思ってね」 ヴァルゼンの言葉にギルバートは鼻で笑った。 「使える新人を引き抜こうとしているのはお前だけじゃ無い」 「そうだね、君も小隊長だもんね」 ギルバートは無言で頷くだけだ。 そんな様子を見てヴァルゼンが言葉を続けた。 「君の部隊は優秀だよ……アタッカーとしてこれほどまでに攻撃力が秀でた部隊はうちには他に無い」 見え透いたお世辞を平気な顔で言うヴァルゼンを見てギルバートは笑う。 それに対して何か言ってやろうとギルバートは口を開きかけたが、ヴァルゼンの 「あ、ほら時間だよ」 という一言でとめられてしまった。 (野郎……) ギルバートは口には出さずに心の中でつぶやいた。 「じゃあ、一組目準備しろ」 ギルバートの言葉で動いたのは男子3人……フィルオール軍の入軍は15歳から可能だ。 給料がいいため、その歳になるとすぐに入軍する者が多い。 「さて……どう出る?」 ギルバートの武器は練習用の巨大な木剣の柄に鎖がつけてある特殊なものだ。 鎖を腕に巻きつけながらギルバートはつぶやいた。 バァン! と試合開始の合図である銃声が鳴る。 その銃声を合図に前衛と思われる一人が突っ込んできた。 「はあ!」 短く息を吐くとアタッカーの少年は手にした木剣を振り下ろす。 ギルバートはすかさず腕に巻きつけた鎖で一撃を弾くと体制を直そうとする少年の肩に右腕を、腹部に鎖を巻きつけた左腕を当て、そのまま流れるようなどうさで足を払う。 少年はギルバートの左腕を軸に一回転し、そのまま地面へ落ちた。 「うっ……」 地面に落ちた少年のみぞおちを軽く突き、立ち上がれなくする。 「まず一人」 ギルバートが後ろを見ると二人の少年がフラッグに向かっている。 「囮かぁ……」 その様子を見ていたヴァルゼンが楽しそうにつぶやく。 「まあ、目の付け所はよかったんだけどね……」 ギルバートは少年の肩から手を離し、後ろを振り向く。 その刹那、ギルバートの左腕から何かが飛んだ。 鎖だ。剣を錘にして、振り向く時の遠心力を乗せた鎖は吸い寄せられる様に少年に近づき…… 「うわ!」 「なんだ、これ」 二人の少年を捕らえた。 「試合終了。俺の勝ちだ」 この後も延々と試合は続き、全てギルバートが勝利した。 そして……最後の一組が現れた。 「ん?あの子……」 そんな試合をあきもせずに延々と見ていたヴァルゼンが不思議そうな目で一人の少年を見た。 「……楽しくなりそうだね」 ヴァルゼンが呟くのと試合開始の銃声が響くのは同時だった。 「……まず、アタッカーが2人……狙撃が1人か……」 試合開始直後の陣形を見てギルバートは呟く。 「……いくか」 アタッカーをになっているのは二人の少年で、狙撃をになうのは二人と大して歳の変わらない少女だ。 今回はギルバートが仕掛けた。 剣を鎖ごと飛ばし、地面に刺さったそれを引くようにして移動する。 腕力の優れた者なら、普通に移動するより数倍は速く移動出来る技術だ。 (鎖剣技・飛鎖……) ギルバートは口には出さずに呟く。 すぐにチームのアタッカーの一人が現れた。黒髪の少年だ。顔立ちは若く、目には落ち着きがある。 振り下ろされた木剣をかわし、最初の少年の時のように立ち回る。 (一人目……) 口に出しかけて、止めた。 狙撃役の少女に気付き、急いで距離を取ったからだ。 数歩距離を置くと、いつの間に回りこんだのか、背後から別の少年の襲撃を受けた。 「くっ……」 すぐに鎖を引き戻し、少年の一撃を止める。 「惜しい!」 ギルバートに攻撃を止められた赤髪の少年が言う。先ほどの少年とは違い、まだ無邪気さを残した幼い顔立ちをしている。 まんまと策にはまった……ギルバートはすぐに気付いた。 今までの戦いは全てフラッグを目指したものだったが、この組は違う。どうやら、先にギルバートを片付ける気らしい。 「おー……この子達はすごいね」 そんなヴァルゼンの言葉は無視し、ギルバートは戦況を見た。 (囮のアタッカーを俺に向かわせ、反撃しようとしたところを狙撃……出来なければさっきの赤髪が攻撃か……) 正直感心する。今までのチームの戦い方をギルバートに記憶させ、それとは全く違う戦い方をする。 いわば、奇襲作戦に近い戦い方をしてくる。 「まず、倒すべきは……」 ギルバートは言葉を切り、狙撃を担う少女へ向かった。遠くからでは容姿の特徴はつかめなかったが、近づくにつれてその顔立ちがはっきりする。 目の奥に冷たいものを宿したような落ち着きがあり、目鼻立ちはいい。髪は長い金髪で、ギルバートの接近した時の風圧でゆれている。 「――!」 チームの仲間が少女を呼ぶ声が聞こえたがなんと言ったかはギルバートには分らない。 知る必要すらない。少女が慌てて銃を構えるが狙撃用の模擬銃だから、此処まで接近されては手が出せない。 ギルバートはがむしゃらに銃身を振り回す少女の後ろに回り込むと首を打ち、その場に倒した。 崩れかけた連携を崩すのはもう簡単なことだ。 ギルバートは最初に突っ込んできた黒髪の少年のが再び木剣を構えてつっこんでくる。 その攻撃を受けるのではなく軽く流すと、少年の体制は崩れた。 鎖の先端に付いた剣で黒髪の少年のみぞを打つ。すぐに意識が飛び、少年はその場に倒れた。 「最後だな……」 ギルバートは赤髪の少年へ視線を向ける。 少年は恐れるわけでもなく、ギルバートを睨み返す。 しばらくの沈黙が流れた。不意に少年が剣の構えを変える。 今までは剣を相手の首の位置に来るように構える中段の構えだったのが、今は剣を完全に下ろし、動く気配すらない。 不意に少年が剣を地面に引きずりながらギルバートへ向かってきた。 「はああああぁぁぁぁ!」 走る足を急に止めての振り上げ、意表を突かれたギルバートは一瞬防御の動きが後れた。 その隙に少年の回し蹴りがギルバートの無防備な腹部に放たれる。 「ぐっ!」 蹴りを入れられたギルバートは短い呻きと共に動きを止めた。 少年はここぞとばかりにギルバートへの攻撃を激化させる。 剣撃かと思わせての打撃やどちらもやらないフェイント……また、攻撃の隙があるにも関わらず後ろに引き、体制を立て直すなど、全く動きがつかめない。 「喰らえ!」 動きを読もうとするギルバートの思考を阻害するかのように、鋭い攻撃が放たれる。 「ギルト君! この子強いよー!」 ヴァルゼンがすでに分りきったことを言ってくる。 しかし、それはただの嫌がらせではなく 「少し本気をだせ」 といっているのだとギルバートはすぐに理解した。 ギルバートは軽く頷くと鎖を引き戻す。剣と鎖を同じ手に持ち、ギルバートは構えを変えた。 「これで終らせる……」 ギルバートは攻撃の合間を縫って、大きく深呼吸すると鎖を放った。 「鎖剣技・縛鎖!」 放たれた鎖は、赤髪の少年ではなく、彼が持つ剣を捕らえた。 そしてそのまま、ギルバートはその剣を操るようにして、少年への攻撃を繰り出す。 不意を付くような攻撃に対処しきれず、避ける動作にわずかな遅滞が生じた。 ギルバートは見逃さない。 すぐに距離を詰め、黒髪の少年と同じようにみぞを突き、気絶させ、試合が終った。 |
ZERO
2008年05月21日(水) 13時44分45秒 公開 ■この作品の著作権はZEROさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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うわぁ、容赦なし・・・。たぶんクリア出来る組は今までにも無かったんじゃないかな? 鎖は上手く扱えば便利ですよね。なんか技名がかっこいい。 まだ話の内容が分からないな・・・。今後どうなっていくのか期待です! |
30点 | 風斬疾風 | ■2008-05-25 10:17 | ID : FZ8c8JjDD8U | |
試験方法がナルトっぽいですなw | 30点 | mlk | ■2008-05-21 15:39 | ID : N1WgfPsmh/w | |
合計 | 60点 |