黒紅ノ眼〜第1章・4節〜 |
フィルオール軍会議室。 此処は、軍事作戦の会議や他の軍からの使いとの交渉を行なう場所だ。 会議室の中にいるのは8人この内5人はフィルオール軍の関係者。 「さて、君たちの用件を聞こうか?」 5人の中でも一番若い青年が口を開いた。にこやかな笑顔で質問をする青年はフィルオール軍将軍ヴァルゼン・ガイトだ。 ここにいるフィルオールの人間の中でもっとも身分の高い彼の顔は笑みを浮かべているが、目だけは相手の虚を確実に見抜くかのごとく光を発している。 「はい、我々……レイジ国は現在敵国からの侵攻を受けています……」 5人と向かい合うように座っている3人の内の1人が口を開いた。 まぶしいほどの金髪を持つ男だ。顔には出ていないが、翡翠色の目は恐怖に近い不思議な感情を見せている。 「なので、貴国の力を借りたく……」 「駄目」 ヴァルゼンが笑顔のまま切り捨てる。 その瞬間、金髪の男の目に写っていた恐怖が顔にまで表れた。 「な、なぜですか……」 恐怖におののく金髪の男がかろうじて言葉を紡ぎ出す。 「だってー……君、まだ全部喋ってくれてないじゃん」 それを聞いた瞬間男は恐怖の表情に困惑を混ぜて口を開いた。 「も、申し訳ありません……」 「うん、いいよ別に。今から情報をくれれば」 ヴァルゼンは目の光を鋭くして男の言葉を待つ。 「はい、私たちを攻撃しているのはセルベイドの国です」 セルベイド……ヴァルゼンにはその国に聞き覚えがあった。 (セルベイドか……確か強力な遊撃隊を持っている国だったね……) 「兵力はほぼ互角ですが、遊撃部隊に加えて、試験投入された兵器で我々は壊滅状態です」 「それで力を貸せっていうんだね?」 金髪の男が頷く。それを最後にしばらく沈黙が場を支配した。 実際にはそんなに長い時間ではなかっただろう。しかし、戦争が関わる場では常に時間の感覚が狂う。 「いいよ。ちなみに僕の予想が正しければ君は次にこう言うよ?」 ヴァルゼンが一拍開けて3人に言い放った。 「可能な限り強力な兵士をよこせ……てね」 驚きの表情を浮かべた。ただ、それは3人だけではない。その場にいたヴァルゼン以外の全ての人間がだ。 「違うかい?」 ヴァルゼンのその一言で、金髪の男は表情を引き締めて口を開く。 「はい……その通りです。無理は承知ですが……」 「いいよ、僕が行くよ」 それを聞いた瞬間のフィルオールの人間の顔は驚きというよりあきれたといった方が正しかった。 そんなフィルオールの人間の1人が口を開いた。 「将軍! いけません。貴方が居なくなってはこの国の防御が……!?」 話をしていた男が言葉を止めた。ヴァルゼンが笑顔を消して睨みつけたからである。 男が力なくその場に座り込み、激しく肩で息をしているのを見てヴァルゼンが声をかけた。 「いくら僕が居なくなっても、そこらの国には此処はやられないよ。それに、すぐに向こうを片付けて戻ってくれば良いだけだしね」 再び笑顔の仮面をつけたヴァルゼンが理由を述べると金髪の男のほうを向いて言い放った。 「じゃあ、準備をするからちょっと待っててね」 レイジの国の使いに別れを告げ、ヴァルゼンは会議室を後にした。 軍にもらった部屋でビュードは目を覚ました。 「一週間……そろそろ武器が出来るか」 ビュードたちが武器の注文をしてから1週間がたつ。 風が強い朝だ。ビュードの故郷も風が強かった。しかし、今はその故郷はない。 とある国の中にあったその町は侵攻を受けた際の戦火に焼かれてしまったのだ。 「親父……あんたに負けはしないからな」 戦火に焼かれた故郷を想像したビュードは父親を頭に浮かべていた。 ビュードの父親はとある軍の将軍だった。敵からの侵攻を防ぐために拠点へ出向いた際に見方兵士の裏切りによって土へと帰ったのだ。 「いいねえ! こういう風の強い日は体が軽い!」 ビュードはベットから飛び起き、部屋を出る。面倒だからという理由で軍服を着たまま寝る彼は着替えることもせず、風に身を任せてイードの元へ向かった。 「ギルトさん、いますか?」 ビュードが目を覚ましたのとほぼ同時刻。 1人の女性がギルバートの部屋を訪れた。 「誰だ……?」 いつものように不機嫌そうなギルバートの声に女性はムッとすると返事をした。 「私ですよ! カエラですよ」 その言葉のすぐ後にギルバートの部屋の扉が開いた。 入れといわれたわけでもないが、扉が開けられたのを見ると入っていいってことだ。 と勝手に解釈し、カエラは部屋に入った。 「用件は?」 部屋に入るとギルバートの声はさらに不機嫌さを増したように聞こえる。 だが、そんな事を口に出せば、本気で機嫌を悪くしてしまう。 そう思い、口には出さなかった。 (そういうところって子供っぽいんだよね) そんな事を考えていると、ギルバートが再び口を開いた。 「用件は……と聞いている」 それでカエラは用事を思い出し、質問に答えを返す。 「あ、そうだった。将軍が、しばらくチェスは出来ないって」 「ヴァルゼンがか?」 「うん、なんかねー? 会議で出張が決まったんだって」 一般人であるカエラが、軍の、しかもヴァルゼンの事情を知っていることには驚かない。 カエラはギルバートとヴァルゼンの共通の友人で、ギルバートだけに用事を伝える時によく彼女を通す。 カエラ自身もそれになれてしまったらしく、今では内容の詮索もしなくなった。 「そうか、だったらしばらくはおとなしく自主トレに打ち込める」 「それとね、今日この後買い物に行こうと思っているんだけどー……」 ギルバートの顔が引きつる。 その先の言葉をとめさせ、ギルバートは嘆息した。 「分った。付き合う」 「それじゃあ、後で広場の噴水の前に来てね」 カエラは用件だけいうと、ギルバートの反論を許さない速度で部屋を後にした。 |
ZERO
2008年05月25日(日) 23時00分48秒 公開 ■この作品の著作権はZEROさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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むむ、国の関係は難しいなぁ。ヴァルゼンはどれくらい強いのかな? 戦争もの、なんでしょうか? 多人数の描写にわくわくです。 ギルバートは買い物嫌いなのか、カエラが苦手なのか。 |
30点 | 風斬疾風 | ■2008-05-27 23:23 | ID : FZ8c8JjDD8U | |
合計 | 30点 |