Criminal
遠方より砂煙を上げて接近してくる影は、俺の感覚的に、俺達から100m程はなれた場所で急に立ち止まった。

「ん、なんだ?襲ってくるかと思ったが・・・」

しかし警戒するに越した事は無い。
まだ背中が痛むがそんな事は言ってられない、生きてるからこそ感じられる痛みなんだ。

100m先からこちらを見つめてくる追っ手。
俺は取り立て目がいいわけではないのでハッキリと確認はできないが、恐らくアリシアの家で襲ってきたETIのうちの、誰かだと思う。

ここまで追いかけてくるなんて・・・

「アリシア、俺の後ろに立ってた方が良い」

「え?」

先程のザコばかりのETI共に、一人突出して強い奴がいた事を思い出した。
そいつは周りのETIを指揮していたようにも見えた。

自分は遠方からナイフを投げ、残りの仲間に近接戦闘をさせる。
俺が近づこうとしても他の奴等に邪魔をされ、結果的に俺が逃げるハメになった原因。

「質問なんだが、ETI達を束ねる指揮官・・・みたいな奴はいるのか?」

「あ、え、その・・・聞いたことは無いです・・・」

聞いたことは無い、というかそもそも戦闘した事すら無いんだろうな。
アリシアの能力がこれだけだとしたら、戦闘向きではないし・・・

まぁ、確認は取れなかったけど多分間違いない。
あいつは指揮官だ。

他のETIが追ってこれないのにアイツだけが追ってくる事が出来たのがいい証拠だろう。

・・・集団の頭を潰せばしばらくは安心できる、かな?
どの道追いつかれた時点で戦う事は避けられなかったが、考えようによってはチャンスなのかもしれない。

最大時間制限は、他のETIが追ってこない事を前提に考えて約20分程度。
つまり俺の集中力でイメージを持続させられる限界まで。

相手の力量を把握せずに時間制限付きで戦うのは危険なのだが、この際ワガママは言ってられない。
とりあえずここで倒す。


―まだ太陽が登りきらない早い時刻
なのにもう本日4度目になる、俺はイメージを作り出した―


そのイメージ、再び双剣が完成するのとナイフが飛んできたのはほぼ同時だった。

「いいな、絶対に俺の後ろからはみ出るなよ・・・!」

アリシアの返事は、止むことなく飛んでくるナイフを叩き落す音にかき消されよく聞こえなかった。






―飛んでくる

落とす―

―飛んできては

落とす―

ー飛んでくるから

切り払う―


何処にこんな大量のナイフを仕込んでるんだ、というぐらい、本当に止むことなく俺に向かい飛んでくる。

まだ一分も経っていないというのに凄まじい体力の消耗。
こんだけ激しく動いてナイフ落としてりゃ・・・まぁ疲れて当然だわな。

疲れてくると呼吸が荒くなるから嫌だ。
疲れるのが嫌いってわけじゃなくて、「疲れた」事に意識が行きイメージの集中力がぼやけてくるのだ。

だから20分という時間は俺が疲れないで、完全に集中しきれたらの話で・・・
実際10分持つか持たないかなのだ。

その内の一分近くをただ防戦一方で過ごしてしまうのは非常に歯痒い。
近寄って攻撃したい所だが、俺がアリシアとラインを逸らせば逸らすほどアリシアに対する危険が大きくなる。

100m走りきってアイツに近寄るまでアイツの攻撃が止む、または遠距離攻撃が出来れば話は別なのだが、俺が弓を作って攻撃をするわけにもいかない。
俺が攻撃したら誰がナイフを落とすんだ、と。

「あー、くそっ・・・参ったな・・・」

息切れしてきた。
予想以上にマズい。

「アリシア、本当にもしもの時は先に逃げろよ、俺の事は絶対に気にするな」

アリシアは返事こそしているものの、やはり金属音がうるさくてよく聞き取れない。
アリシアの言葉に集中するより戦闘に集中しなきゃいけないし、あぁもう、これだから仲間ってのは邪魔だ。

一人で戦ってれば楽なのに。
一人なら誰も気にしなくて良いし、今の状況だってもっと良かったと思う。

それ以前にアリシアが絡んでこなけりゃこんな事には・・・


―――くそ、なんて事を考えてるんだ俺は
今は今だ、今できる事を考えろ・・・


「ゼルさん!一人で戦わないでください!!」

アリシアが大声を出してくれたので、意識を集中しなくてもハッキリ聞き取ることが出来た。

あぁ、そんな事はわかってんだよ、わかったんだよ。

「そういうならお前も戦え!!」

ナイフを弾きながら同じく大声で返す。
二人で戦おうにもお前が戦えないから俺が一人で戦うしかないんだろうが。

「なにをすればいいでしょうか!!」

「俺があいつに近づくのを援護する、それか遠距離攻撃が出来るならやってくれ!!」

こんなに近い距離、1mも離れていないのにこんな大声で会話。
なんだかちょっと笑えて来た。

「では遠距離攻撃します!」

「はぁ!?」

遠距離攻撃します!って、お前できるのか?
てかね、出来るなら先に言えよこの天然ボケが・・・


Eine Flammenfee・・・


「んぁ?何か言ったか!?」

アリシアの声量が急に落ちた。
俺の悪口でも呟いてるのか?だとしたら許さない。


Ich Ein Aufruf・・・


「呼んだ?」

俺の名前が呼ばれたような気がする。


Antworten Sie bitte・・・


「さっきからなんなんだよ!集中できねえよ!!」

なるべくアリシアを気にしないよう、飛んでくるナイフに集中して叩き落す。
が、後ろから怪しい呪文がブツブツ聞こえてきて集中できない。

「嫌がらせかよ!」


「Ich Macht・・・form verandere・・・!」


言っている意味は理解できないが、言葉はハッキリ聞こえてきた。
徐々に、思いを込めるように声量が大きくなっていく。

「アリシア?」

「schiebe・・・!!ゼルさん、避けてください!!」

「よ、避けたらナイフが」

当たるぞ、と言い切る前にアリシアが俺を横に押しのけ前に出た。
危なすぎる、何がしたいんだ。

「Ein・・・ Flamme Ball!」

今になってやっと理解できた気がする。
これは多分何かの暗号みたいな物だったんだ。

俺がいる空間目掛けて飛んできたナイフは、俺がいた空間に向かって飛んでくる。
そこにいるのはアリシア、今俺がいる空間にいるのはアリシア。

アリシアを目掛けることになって飛んでくるナイフ。

それが今まさにアリシアに命中しようとした瞬間、そのナイフはアリシアが翳した手から噴出した炎の塊によって溶かされ消え去ってしまった。

「うぉ・・・」

そのまま炎の塊は勢いよく追っ手目掛けて飛んでいく。
俺目掛けて正確に投げられたライン上のナイフは勿論全て溶かされる。

「ゼルさん、今なら近づけます」

「・・・あ、そ、そうだな!」

双剣を握ったまま先程と同じように足が速くなるイメージを作る。
その間0・1秒もかからない。

一瞬でイメージを作り上げ、それほど早くないスピードで飛んでいく炎の塊を追いかけるように追っ手に接近する。

追っ手のETIはその場でナイフを投げる事を止め、炎をかわすべく右に飛んだ。

炎はコイツを追尾しなかったが、俺ならできるわけだ。

「さっきはよくもやってくれたな、こんちきしょう!!」

右に飛んだ追っ手目掛けて右手の双剣を投げつける。

―双剣とナイフでは圧倒的に質量が違う、空中でナイフを当てて止めようにも止まるはずが無い―

俺の予想通り相手はナイフを投げて双剣を落とそうとはせず、ナイフで叩き落とそうと右腕を大きく振りかぶった。

その切り払いが双剣に命中する直前に双剣のイメージを消す。
敵の姿勢が腕を大きく振っただらしない姿勢になった隙を、俺は見逃さない。

「隙ありだ!」

一連のアクションの中でも接近しつづけ、間合いはロングレンジではなくクロスレンジ。
相手が得意な間合いは、もう無い。

消した双剣をもう一度作りだし、ガードに入った相手の左手のナイフを思いきり叩き落す。

そして右腕が戻ってくる前に―――

「・・・取った」

こちらの左手の双剣を、心臓に突き刺してやった。


mlk
2008年05月27日(火) 21時24分35秒 公開
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■作者からのメッセージ
最近は東方やってたせいで小説書いてなかったmlkです
アレっすね、話を縮めようとすると文が滅茶苦茶になりますね・・・

この作品の感想をお寄せください。
アリシア何気に強い……ってか本当にナイフ何本持っているんですかね(笑)
炎を連射出来れば即戦力に……いえ、なんでもありません。
鉄の融点は確か800度だったと思いますが、記憶が朧で……てそんな高温の炎だったら手から出した瞬間に大やけどしそうですね
40 ZERO ■2008-05-30 22:33 ID : H4RG9Ef2clI
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前にも言ったが、Fateを思い出してしまう。最近はまっているからだろうか・・。

呪文(だと思う、暗号って書いてある)だけど、どこの言葉?
40 ケルベロス ■2008-05-30 15:40 ID : 8u0JUU1wUZY
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 『俺の悪口でも呟いてるのか?だとしたら許さない。』笑ってしまった……。マイナス思考? 
 詠唱は長いけど強いなぁ。ナイフを溶かすって……ナイフ(鉄)の融点って何度だっけ? とりあえず1000度くらいありそう。……違う?
 なんか終わり方がかっこいいです。『突き刺した』でなく『突き刺してやった』ってのが良いです!

40  風斬疾風 ■2008-05-29 23:05 ID : FZ8c8JjDD8U
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戦闘の時の表現が凄く良いです。
ナイフを投げてくるってメンドクサイ相手ですね。
炎の塊はなんだか強そうです。
っていうか戦えたんですね。
それと、これの題名って何て読むんですか?
40 フルフル男 ■2008-05-29 19:37 ID : Q6ofTGvdMeQ
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