黒紅ノ眼〜第1章・終節〜 |
運命の歯車というのはいつも気まぐれに動き出す。 動き出した歯車はまた別の歯車を動かし、広がっていく。 ヴァルゼンが昔、ふと思ったことだ。 (僕は何を考えていたんだろう……) 揺れる車の中でヴァルゼンは思う。しかし、答えはすでに出していた。 だが、出した答えは言葉にすることができない。この世には理論で説明できないものが多すぎる。 (まあ、いまさら昔のことを考えても無駄だね) 車の窓から見えたレイジ国の要塞が近づくのが分かり、ヴァルゼンは考えるのを止めた。 「ヴァルゼンさん。本当にありがとうございます」 ふと声をかけたのは会議に来ていた金髪の男だ。年の頃はヴァルゼンより幾らか上に見える。 「ん?気にすることはないよ。困った時はお互い様だよ」 ヴァルゼンが顔だけの笑みを浮かべて言う。 この笑顔は仮面でしかない。しかし、それを知るはギルバートとカエラ……そしてヴァルゼン本人しかいない。 「さあ、着きましたよ」 金髪の男は申し訳なさそうな顔をして降りるように促す。 「うん、降りるよ君たち」 ヴァルゼンに続いて二人の男が車から降りた。一人は細剣を持った赤髪の男で、もう1人は緑色の長髪を持ったヴァルゼンに近い年齢の青年だ。 「はい、行きましょう」 緑色の髪の青年がヴァルゼンに続く。さらにその後に赤髪の男と言う順番で要塞へと入って行った。 ドサ…… 何かが地面に落ちる音がした。 ドサ…… もう一度音がした。 どんどん近づいてくる音にヴァルゼンは振り向く。笑顔の仮面をつけたまま、ヴァルゼンは強い衝撃を受けて地面に倒れた。 「う……ん、どういう……事かな……」 意識が飛ぶ。そう感じる直前にヴァルゼンは気を失った。 倒れたヴァルゼンを見下ろす者が1人。金髪の男だ。 「すみませんね。まあ、困った時はお互い様でしたよね」 ヴァルゼンが地に伏せた頃、イードの研究所に訪問者が3人訪れた。 「お邪魔しまーす!」 口を開いたのはイリアだ。 発注した武器を受け取りに来たイードに本人曰くばったり出くわしてここに居る。 「はーい……あ、君たちか武器は出来ているよ」 「ありがとうございますイードさん」 黒髪の少年がイードに礼を言う。 イードの研究所を訪れたのは3人だ。そう、ディオンも来ていたのだ。 本人曰く、ぶらぶらと散歩をしていたらいつの間にか2人に出くわして成り行きで此処に来た。そうだ。 「さあ、入ってよ。特に、ビュード君は楽しみにしておいてよ」 促されるままに研究所に入ると、そこはやはり火薬と薬品と金属の臭いが混じったような臭いがする。 正直、長く居たくなるような臭いではないが、絶対に耐えられないというわけではない。 「じゃあ、邪魔するぜ?」 ビュードが研究所に入り、その後に続いてイリアとディオン。そして最後尾にイードが付き、扉を閉めて中に入った。 「他の人たちはもう送ったんだけどね。君たちは少し遅く来たから皆と一緒に送ることが出来なかったんだ」 休憩室らしきところで出された飲み物を飲んでいる3人の前に、イードが巨大な箱を持って現れた。 箱の鍵を外して、中身を取り出すイードをイリアが興味深そうに見る。 「まずは君だ。はい、振ってみて」 最初に武器を渡されたのはディオンだ。磨き上げられた刀身に、綺麗に装飾された柄が付いている刀。 ディオンが軽く剣を振ると、フォン……と空を切る音がして、剣から振動が手に伝わるのが分かる。 鞘に刀をしまうとディオンは軽く息を吐き、腰を低く落とす。 次の瞬間。鞘の束縛から開放された刀が綺麗な軌道を描き空を切った。 「……うん、しっくり来ますね」 「そうかい?まだ微調整が必要なら言ってよ」 「はい」 ディオンの一連の動きを唖然としながら見ていたイリアと、飲み終わった後に残った氷をガリガリと音を立てて噛み砕きながら見ていたビュードはこっちを振り向いたイードに次はどっちだというどうでもいい疑問を込めた視線を投げかけた。 「次は、えーっとなんていったっけ」 「イリアです」 「そうそう、イリア君だ」 イードは調子よく笑うと、箱から狙撃銃を取り出し、イリアに渡した。 イリアは引き金の調子や、スコープの性能を確かめると、銃をおろした。 「最後だけど……確かイード君だったね。君のは骨が折れたよ」 イードは非常に楽しそうに箱を開け始めた。 中から出てきたのは長身のビュードの身長を裕に越す巨大な剣だ。 「おー! 注文どおりじゃねえか!」 剣の側面には幾つもの溝が刻まれている。 「うん、溝の形の計算されているからね。振ってごらん」 イードに促されるままにビュードが剣を振る。 ぐをぉぉぉん! ディオンのときとは違い、気流のつながりをそのまま断絶するような音がして、新たな気流が生まれた。 「しっかり気流が出来ているね。この気流の流れをうまく使えば、風によって移動速度、攻撃力、防御力、全てが尋常じゃないくらい増すんだ」 「だけど、そんな武器じゃ難しすぎて使えないんじゃないですか?」 ディオンがイードに質問する。イードが苦笑いを浮かべて返事をする。 「そうなんだよね……少なくとも今年の新人では彼以外に使える人はいないと思うよ」 「と、いうとビュードは使えると?」 「まだ、わかんないけどね。実戦で試してないし」 ビュードが剣を振るのを止めて、肩にかけて3人に歩み寄ってきた。 「イード、最高だぜこいつ」 「気に入ってくれたかい?」 満面の笑みを浮かべるビュードに向かってイードは言った。 「本当に悪いんだけど、これ以上いられると研究の邪魔になっちゃうんだ」 「じゃあ、僕達は帰るよ」 口を開いたのはまたもイリアだった。 その言葉に、ディオンとビュードは黙って頷くと研究所から出た。 「さて、これからどうする?」 言ったのはディオンだ。ビュードは剣を保護用の鞘に入れながら二人を見る。 「ねえ、ちょっといいかな?」 二人が振り向く。他に誰がいるわけでもなく、そこにはイリアが手を上げて立っていた。 「これから買い物に行きたいんだけど、付き合ってくれる?」 「まあ、時間も空いてるから俺はいいぞ?」 ビュードがそれを嫌がるでもなく言うと、ディオンも黙って頷く。 「ありがとう。それじゃあ、後でショッピングモールに集合してよ」 ショッピングモール前の噴水広場。 軍を中心にした都市であるが、この噴水広場は毎日にぎわっている。 この噴水広場は軍の関係者も来ることが多いショッピングモールの待ち合わせの場所として使われる。 「フェンリル。今日はおとなしくしていろよ」 ギルバートがフェンリルに言い聞かせる。歩きでこの噴水広場まで来ようとしていたギルバートだが、フェンリルが乗れと言ってきた――正しくは後ろから付いてきた――ので、仕方なくつれてきたのだ。 「ギルトさんお待たせしました」 噴水の前で座っていたギルバートの元にカエラがやってきた。 さっきの服装とは違う余所行きの格好をしている。しかし、それはギルバートも同じで、肩の部分の無いランニングに、これまた肩の部分の無い革の上着を着ている。 「遅いぞ」 ここで、今来た所だ、と言ってもいいものだが、生憎とギルバートはそんな柄じゃない。 「すみません。洋服を決めていていたら遅くなってしまいまして」 「まあいい、どうせ今日は軍も休暇で何も無くて暇だったからな」 ギルバートが真面目な表情で言うとカエラはクスクスと笑い、手を出した。 「何だ?これは」 出された手を怪訝そうに見てギルバートが呟く。 カエラはあきれたような顔をして嘆息すると、ギルバートの方を見て言った。 「もう! 女の子と出かける時はしっかりエスコートするのが普通でしょう」 頬を赤らめながら言うカエラにギルバートはあきれたと表情で言い、ポケットから手を出した。 す……とギルバートの堅い手にカエラのやわらかい手が絡みつく。 「じゃあ、行きましょうか」 カエラに促されてギルバートはショッピングモールに入った。 不適な黒い笑みを浮かべている怪しい男が一人。 視線の先にはショッピングモールがある。 「作戦を開始します……」 帽子をかぶった男の鈍重な声は噴水広場の騒ぎ声に掻き消された。 「全ては――国のために」 暇さえあれば神にささげるかのごとく祈る彼は何回目かもわからない回数目の祈りをささげた。 |
ZERO
2008年05月28日(水) 21時25分50秒 公開 ■この作品の著作権はZEROさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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『ビュードは調子よく笑うと、箱から狙撃銃を取り出し、イリアに渡した』とか、色々あるんだけど……、ビュードとイードが混ぜこぜになっていると思うのですが。どうでしょう? 多分、途中入れ替わったりしてます。 さて、事件の予感。国の為に、ですか………。なかなか大きな事が起きそうで楽しみです。 |
30点 | 風斬疾風 | ■2008-05-28 20:16 | ID : FZ8c8JjDD8U | |
ギルバート、フェンリル・・・ FFネタでしょうか? 喋るってのはキノの旅を思い出しますがw |
30点 | mlk | ■2008-05-27 21:25 | ID : N1WgfPsmh/w | |
合計 | 60点 |