サモナーズストーリー 7章
裏のことなら裏の奴に聞けばいい、その言葉だけでセントとロイは確かにその場所に来ていた。暗く、見える火は恐らくタバコのものと思われる。そこには目付きの悪い男が集団でたむろっており、所々には遊び友達なのだろうか、女の姿もあった。
そこにセント達はズカズカと入り込む。相手から見れば自分達の家に土足でいきなり上がりこまれたようなもの、その相手に向かって様々な視線や暴言のようなものが飛びかってきた。

「・・・」

入った途端黙り込んだのは何の理由があったか付いて来てしまっていたギィだ、リムスは特に反応を見せてなかったが表情が微妙に強張っている。だがセントとロイは怖がる様子は微塵も見せず、何食わぬ顔で溜まり場を歩き出し、ギィとリムスも無理しなくてもいいのにその後に続く。

「なあオメェら、遊ぶ場所を間違えてねえかい?」

「あ・・・いえ・・・」

不良に声を不意にかけられ、ギィは怖がってますと言ってるような怯えた口調で返し、それを聞いた途端周りが笑い出す。セントはつい癖で舌打ちをしかけたが何とか抑える。

「(こっちから手を出すわけにはいかないしな・・・)」

セントの考えはこうだ。なるべくなら穏便に済ませるにこしたことはないが万一の際を考えてなるべく自分に注意を向けさせ、気にいらないと言って殴りつけられた後正当防衛と称して殴る。そのために喧嘩を売ってるような目付きを見せている。

「テメェらみてぇな屑が来たらシラけるじゃねぇか、帰れよチビ」

その言葉にまたギィはひっと小さく唸る、精霊を召喚してた時はあんなに元気だったのに今はこうか、セントはやれやれと心の中で苦笑していた。
正直に言って彼には誤算があった。まずロイは裏と言う単語が出てくる時点でこういうのに慣れている、これは予想通り、彼も自分に注意を向けるべく喧嘩売りの目付きをしている。だが誤算は二つ、ギィの予想以上に怯えともう一つ

「屑って言うほうが屑なのよ、分かってんの?それにあんたより年下の子をこんなに怯えさせるなんて」

リムスの意外な勝気な性格だ、まあ好戦的に近い性格だとは思っていたがこういう場所に来たらそれも表に出ないだろうと予想していたのに、彼の予想は見事に外れる。
また次の言葉とその反応もセントの予想をはるかに超えていた。

「最低よ、あんた達」

「へぇ、言うじゃんあんた、おチビさんも大変だねぇ、こんなにアクレッシブな子と一緒だとさぁ!」

「うあっ!痛てぇ・・・」

セントの予想を外し殴られたのはギィ、腹を殴られ、その痛みでその場に崩れ落ち、リムスはギィに声をかける。が二人は何も変わらずその場を動かなかった、違ったことといえばその目に明らかに怒りの表情が含まれたことぐらいだ

「あん?テメェらも生意気そうだな」

セントとロイを囲むように男達が群がるが、二人は何も変わらずに立っていた。

「文句アンのか?あの嬢ちゃんを置いて逃げれば許してやってもいい・・・」

その男が最後まで言葉を紡ぐことは叶わなかった。男はいきなり宙を舞った。
その後ザワザワと場が動揺し始める、がセントは何も無かったようにさっき男の顎を砕く勢いで振りぬいた拳を戻す。

「ちっ・・・」
「・・・フゥー」

そしてセントが舌打ちすると共にロイも拳を鳴らして息を吐き、素早く詠唱してワルフとティーグルを呼び出し、指示をする

「ワルフ、ギィとリムスを連れて下がれ」
「ティーグルもだ。この程度、お前の手を借りるまでも無い」

『分かったよ、ただ、手加減しとけよ。』
『了解、お二人は命に変えても守りますよ』

ワルフとティーグルは囲んでいた不良を飛び越えると二人を抱きかかえて溜まり場から抜け出す。それからセントもポキポキと拳を鳴らしてからロイに言う

「ロイ、ナイフを使うなとまでは言わないけど、殺すなよ」
「当然だ、だがな、ギィの痛みは味わってもらわないとな」

それもそうだ、セントがそう言うように笑うと不良の一人が拳を振りかぶって向かってくる

「テメェ!上等だがっ!?」

だが拳がセントに当たることはなく、その前に男の顔にセントの拳が刺さっていた。

「屑が・・・貰ったのは俺じゃねえが、先に手ェ出したのはそっちだ」
「ああ、こいつは正当防衛ってことだよな?」

二人はそう呟くとそれを引き金に男達が向かってくる。が二人は背中を互いに任せると目の前にいる奴らを徹底的に叩きのめす、その目は既にキレていた。最初は自分達が貰った分の返しをする予定だったため手加減はある程度するつもりだった。がやられたのは二人ではなくそもそも二人の予定上ここにいなかったはずの後輩ギィ、それが二人のリミッターを外させたのだ。

「可愛い後輩を殴ったんだ、痛みはお返しするぜ」
「まあ心配すんなよ、医者の世話になる程度に留めてやる」

ロイの言葉は正論だ、二人はキレていたがそれでも加減をするほどの理性は残していた。彼らが本気を出せばセントの拳は、今は骨を数本折る程度だが確実に骨を砕いてるだろうし、ロイだったら一発で気絶させるだけでなくさらに連続して拳と蹴りを入れててもおかしくは無い。
たった数分、数十人いたはずなのに残ったのはたったの二人、女はすでにその場から逃げ出しており、人質を取ろうとした少ない奴らはワルフとティーグルが勿論手加減して気絶していた。

「クソッ!」

その二人はそう呟くと精霊を召喚する、あいつらの中に召喚腕輪を持ってた奴はいない。だからとはいえあいつらの中に精霊使いがいないという理由にはならなかった。
男の精霊は黒い狼と紫色の蛇、その精霊は男の号令と共に襲い掛かるがセントは拳にナックルをはめ、ロイはナイフを抜いて立ち向かう。

「はっ!らぁっ!」

セントを襲った狼は牙を剥くことも爪をたてることも叶わずにセントのナックルが入り、直後背負い投げの要領で投げ飛ばされその姿を消し、ロイを襲った蛇も牙を剥く前にロイが首を斬り、さらに頭にナイフを突き立てられてそのままナイフが身体を両断するように走り、身体が半分になった蛇も倒れる。

「「う・・・く・・・くっそぉっ!」」

二人は格の違いを感じたか息を飲み、怯えを振り払うように首を振った後二人に向かってくる

「待て、その辺にしとけ」

不意に聞こえてきた声の方を向くと、そこには茶髪を目がかかるギリギリの位置まで伸ばしている男の姿があり、それを見た不良の一人が慌てたように言う

「ソウシさん!ですがこのまま舐められてちゃあ」

「てめえらじゃ勝てねえよ、黒髪の方は知らねえが、緑の髪のほうはロイ・スウェンだ」

ロイ・スウェン、その名前を聞いた途端二人はさらに怯えが出たような表情で言う

「ロイってまさかあの伝説の、幻影の狂戦士、ロイ・スウェンですか!?」

男が言うとソウシと呼ばれた男は頷いて返す

「そうだ、とっとと逃げな。こいつに会ってほとんど無傷なテメェらは幸せだぜ」

「「は、はいっ!」」

二人はそう言うと逃げるように立ち去り、ソウシはそれを見た後ロイに話しかける

「ロイよぉ、また派手にやらかしたなぁ。そっちは舎弟か何かか?」

「仲間ですよ、あんたを探してたんですが絡まれちまって。正当防衛ですよ」

「アレじゃ過剰防衛だっつの、ま、手加減できただけよしとしよう」

ロイの言葉にソウシが呆れたように言うとロイはどうもと言うように笑い、その後真剣な顔つきになって聞く

「質問ですが、この女の子を見ませんでしたか?」

その言葉と共にロイが寮の顔写真からパチって来たセリアの写真を見せるとソウシは少し考え込むような仕草をしてから言う

「・・・そういや俺がここに来るちょっと前、そんな女があの廃工場に連れ込まれてるのを見たな」

ソウシが溜まり場から僅かに見える煙突を指差して言うとロイは写真をポケットに戻した後「どうも」と言って寮に戻ろうとする、とソウシがいきなりロイを呼び止めて聞く

「お前、使ってる武器があれじゃねえってことは、あの事をまだ気にしてんのか?」

その言葉にロイは一瞬固まると静かに顔を逸らして頷き、それを見たソウシが言う

「あれから三年だ、忘れろとは言えねえが、いつまでも過去に縛られんなよ」

「・・・あれの封印は俺自身への戒めです、そして俺は、あいつを守る義務があります。」

ロイはソウシの言葉にそうとだけ答え、その言葉にソウシはやれやれと言うように息をはくとロイの肩を叩いて言う

「ま、今の俺には関係ないことだ・・・だが、無理をしすぎて底なし沼に入っちまわないよう気をつけるこって」

「御忠告、どうもあんがとございます」

ロイはそう返すと待たせている仲間の方に走り出し、ソウシはそれを見ながらタバコを取り出し、火をつけながら呟く

「・・・ふぅ、相変わらずだな・・・守る、か・・・それだけじゃねえだろうが、ロイよぉ」

ソウシは昔の戦友とそいつのある幼馴染を考えながらタバコをふかしていた。


「ロイ」

「ん?」

手に入れた情報を持って寮に帰っている途中、セントがロイに声をかけ、ロイがそれに返すとセントが言う

「幻影の狂戦士ねぇ、昔は中々ヤンチャやってたようだな」

「否定はしないな、お前こそ、裏と言う単語の連想力にあの実力、中々だな」

その言葉にセントはつまり、苦笑しながら返す

「まあ、昔は俺もヤンチャ坊主だったわけですよ、今は言うなれば人生のやり直し中です」

その言葉にロイは苦笑し、リムスの声が聞こえると二人ともスピードを上げて寮へと向かった。
カイナ
2008年06月11日(水) 18時23分27秒 公開
■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
不良の溜まり場での大喧嘩、そして手に入れた情報。次回はある奴の大暴れの予定です。お楽しみ・・・に・・・と言えるかな・・・

風斬疾風さん
ハルバードは、まあケルベロスさんが言ってるようなもので、確かパニッシュメントだったかその強化前だったか、まあそれだと思ってくれれば結構です。
月を見てたのは、まあぶっちゃけ、何も考えてませんでした。

ZEROさん
これの言葉の理由は簡単です、これしか思い浮かばなかったので。
今回は一応路地裏ってことにしてます。それ以外思いつかなかったので。
面白いと言っていただきありがとうございます、では

ケルベロスさん
ハルバードの説明、ありがとうございます。
静かだったら話し声くらい聞こえるんじゃないですか?自信はありませんが。

この作品の感想をお寄せください。
 『あれ』が気になるな……、武器か何かかな? 
 過剰防衛www 確かに骨を折るとは……。骨折は痛いんですよね、したこと無いけど。
 さて、廃工場ですか。何があるかな♪ 
30  風斬疾風 ■2008-06-15 19:55 ID : FZ8c8JjDD8U
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やんちゃだけじゃすまないような気がしますねw
封印・・ですか。 アレ・・気になる。 何があったのかは追々明かされるのを首を長くして待っています^^;

まぁ、静かなら何かしてることぐらいは気付く・・のかな?
30 ケルベロス ■2008-06-12 20:08 ID : If3qiekeSNg
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