サモナーズストーリー 9章
「セント、いる?」

 寮生の一人であるリムスはノックをしてから返事を待たずにドアを開ける、とセントは聞いておらず誰かと電話で話していた。

「だから、ダイジョブっすよ院長。特に問題は……あ、少し前にチンピラ相手に大立ち回り……あぁすいません!これからはなるべく気ぃつけますって!!……ええ、んじゃ」

 セントはそう言うと電話を切って入り口の方を見る、とそこで初めてリムスがいることに気づいたらしく言う

「リムス、何か用か?」

「あ、いや、それって携帯だよね?持ってたの?」

リムスの言葉にセントはあぁ、と呟きながら言う。

「こんな高ェモン俺はいらねぇっつったのによ、院長が連絡に便利だからって編入前にくれたんだ」

「院長?」

セントの言葉にリムスが不思議そうに返すとセントはああ、と呟いて言う

「そういや話してなかったな。俺ぁ一応施設の出なんだ」

「え!?」

リムスはその言葉に驚いて下がるがセントは反応の中身を予想して返す。

「言っとくが少年院じゃねえぞ、孤児院みてえなとこだ!」

特に後半を強調して言うとリムスは苦笑しながら言う。

「ご、ごめん……なんかね、セントの普段の性格が荒れてるっぽいし……」

リムスがそう言うとセントはまあなと言うように頷いてから言う

「これでも努力はしてんだけどなぁ。細かい歳は忘れたが小学の頃、俺の両親が事故で死んで、親戚をたらい回しにされた挙句施設送り、そのせいでかちょっと荒れてた時期があるんだ……丁度中学の二年辺りまでだったか……」



「へっ!おととい来やがれっ!!」

 セントは相手を傷だらけにしながら冷酷な笑みを浮かべて相手に言い、その相手は「覚えてろ!」と言いながら逃げていく。それからセントはけっと呟いて家に戻っていった。

「セント、また喧嘩をしたのですか?」

どこか心配したような口調で女の人が尋ねるとセントはぼそっと呟く

「別に、むかついたから喧嘩した、それだけっすよ」

 セントは幼くして両親を亡くし、この施設に預けられることになった。別にここの生活が気に入らないわけではない。充分ではないにしろ最低限の生活は送れている。が心身ともに幼かったセントはそれを受け入れることが出来なかった。
 まるで腫れ物を扱うかのような視線、セントにそう言うものが迫っており、セントはそれを嫌悪していた。その結果施設の奴ら以外とは関わらないようになり、中学に上がると問題児というレッテルまで貼られてしまう。セントはそれを承知していた。補導されるヘマは犯していないものの喧嘩は日常茶飯事、が中学二年になったころ、彼に変化が起きた。
 自分と同年代の奴らはこの施設から巣立っていく、ここの人達に置いては親に違いない院長に感謝の言葉を述べて、涙ながらに去っていくことを目の当たりにし、同時に自分に苛立ちが走った。

「俺ぁ、何してんだ……」

 俺はただ逃げてただけだ。他人からの視線やそういうものから逃げていただけ、そしてこれは、己の命を、今まで育ててくれた院長への冒涜となる。それをセントは自覚すると己の生き方を変えると決心した。
 学校はなるべくサボらないように、喧嘩も自分から売ることもしなくなった。元々頭は悪くない方のためちゃんと授業を受けると彼の成績はグングン上昇して行き、僅か半年ちょっとで一気に上位組みの仲間入りを果たしたのだ。がセントは進学は少しも考えていなかった。早く就職して院長へ恩返しをしたい。その思いを胸に毎日のように教師に相談していた。だが結局、中卒学歴と今までの生活態度から就職は決まらずに卒業となり、院長の勧めで高等部の通信教育を受け、アルバイトもしながらの生活でもう一年が過ぎようとしていた時、院長から渡されたものがあった。

「編入届け……っすか。しかも魔法学園……」

 レイツェンは召喚を主とする魔法を学ぶ魔法学園、セントはその名を少しは知っていた。高校に上がった歳、つまり今年の誕生日に偶然にか父親の形見である召喚腕輪を届き、独学で召喚術をもマスターしたから。がレイツェンと言うとここから遠い、セントはそれを考えるとふとため息をつく。と院長が穏やかに言う

「厄介払いをしたなんて思わないで下さい。貴方には学ぶことがある。」

「召喚術のことっすか?こいつはただの暇潰しみてぇなもんです。別に気にしなくても」

その言葉に院長はふふっと笑うとセントに返した。

「それならむしろ行くべきです。あなたの召喚の才能は相当なもの、無駄にしては勿体無いです」

「……」

院長の言葉にセントは黙ってしまい、院長が続ける。

「あなたは変わりました、一生懸命に生きようとしている。ですがまだ学ぶことはあります。あなたは集団生活には慣れていないでしょう?」

「そりゃぁ……まあ……」

 院長に指摘されてセントの表情がきつくなる。確かにそうだ、修学旅行だって行ってないしそれ以外にも集団行動になるものはほとんど参加してないし参加してても勝手な行動をしていた。

「気付くのが遅かったと言うわけではありません、むしろ早いくらいです。だからこそきちんとした通学のもと、高校生活で多くの事を学んで欲しい。きっと良い経験になると思うのですが」

 ここまで言われると断れる雰囲気ではないしここまでこんな馬鹿を心配し、手助けしてくれてる院長に申し訳が立たなくなってつい視線が下の紙に逸れる。学生寮か、それを見た後セントはふと気づいて院長に問う。

「試験は?受けた覚えないんすけど……」

「えぇ」

院長は穏やかに微笑みながら紙面を指差す、奨学生とそこには書かれてある。

「いや、分かんねえんすけど。試験くらいは受けるんじゃ・・・」

「勿論成績の審査はありました。ですが先方の方々によると貴方の卒業時の成績なら入試も免除でいいだろうだそうです」

 だからと言って、入学した途端成績が落ちないよう気をつけてくださいね。と院長が続けて言う間、セントは考え続けていた。大丈夫なのだろうか?とだが院長は自分がもっとも信頼している人間、彼女を信じるしかない。そして編入当日

「そんじゃま、行ってくる」

「いってらっしゃい」
「がんばってね」

 施設の子供にセントは笑いながら挨拶し、子供達も次々に言う、と院長が家の中から現れてセントに何かを手渡した。

「こいつぁ携帯じゃないっすか……どうしたんすかこれ?」

「今年の誕生日プレゼント、渡してないでしょ?」

「こんな高ぇもん、いいんすか?」

セントは申し訳ないように言うが院長はふふっと笑いながら言う。

「嫌なら卒業した後働いて返してちょうだい」

 つまり卒業してちゃんとした仕事に就けと遠まわしに言ってるようなものだ。セントはそう笑いながら考えると携帯をポケットに突っ込んで言う。

「ええ、それでは。行ってまいります。院長」

「行ってらっしゃい、セント」

セントは院長に挨拶し、院長が返すのを聞きながら孤児院を出て、歩き出した。



「まあ、俺がここに編入する経路ってのはざっとこんなもんだ」

セントがそう言うとリムスは考え込みながら返す。

「ってことは、プレアスって言うのは」

「孤児院の名前だ、俺のとこじゃ入った奴らは皆プレアスの性をもらう。皆家族って意味の表れらしい」

「……いい人なんでしょうね」

「ああ、こんな馬鹿を思ってくれて、わざわざここに連れて来てくれた、良い人だ」

 リムスが院長の人柄を考えながら言うとセントも笑いながら言う。それから二人は顔を見合わせて笑っていた。セントのその瞳に、あの頃の凶暴さは少しも残っていなかった。
カイナ
2008年07月10日(木) 23時47分20秒 公開
■この作品の著作権はカイナさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
今回はちょっとした外伝、セントの過去ってとこっすね。セントの若干荒れてた時期、それを変えたこの編入、と。

ケルベロスさん
まあセントの過去話は今回出しましたがね、残りはまたお楽しみに。
はい、ちなみにガーディは光属、サラマンドラが炎属、ワルフは無属に位置します。

風斬疾風さん
そうですか、気をつけてみます。
敵の精霊の容姿・・・実は僕自身黒くて触手が生えてるしか考えてないんですよね。丁度イソギンチャクっぽいの。
まだまだ増やす予定っすよセントの精霊は。
セリアは人気者、というかまあギィはそうでしょうけどセントとロイは純粋に後輩として、仲間として思ってるわけですよ。

それでは、ぶっちゃけネタ無いのでこっちの更新は遅れるでしょうがそれでは

この作品の感想をお寄せください。
えぇ、残りはまた・・。
詳しい説明ありがとうございます。

院長じつはかなり重要な役だったりして?w
30 ケルベロス ■2008-07-25 20:46 ID : 8u0JUU1wUZY
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 召還腕輪を届き→腕輪が。では? 
 ちょっとした外伝、腕輪は父の物だったのですか。何か特別なものかな。
 少年院www 下がる=引く。退かれたらイヤだなwww
30  風斬疾風 ■2008-07-11 17:58 ID : FZ8c8JjDD8U
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